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第十七回 トップを狙え

用語解説

『約束の丘』PVPコンテンツの一つ。本来はPVPコンテンツは死亡なしでプレーヤー同士が競い合える。勝っても負けても褒章はもらえる。

『約束の丘』は背の高い樹が生えており、途中の視界を遮っている。頂には目印になるように大きな桜に似た樹が生えている。時刻は夕暮れでまだ明るい。だが、コンテンツ開始と同時に暗くなっていく。


 スタート地点は直径十mの半透明ドームで隔離されている。コンテンツが開始するまでは『約束の丘』への移動できない。


「ルールが変わってないか確認しておくか」

 スタート地点にある看板を確認する。


1・各プレーヤーはスコアを上げ100点を目指してください。スコアはポールに旗を上げる、頂上のスポットを占拠する、他のプレーヤーを戦闘不能にすることで加算されます。対戦者全員を戦闘不能にした場合は最後に残ったプレーヤーには100点が自動加算されます。


2・誰かが100点を達成するか、制限時間三十分が経過した時点で終了します。終了時のスコアが高いプレーヤーから順位が付けられ後で褒賞が送られます。


3・『約束の丘』ではプレーヤーは死亡しません。また、装備も奪われません。


4・コンテンツ終了前にリタイアないしは、ログアウトしたプレーヤーにも順位が付けられますが、褒賞は得られません。


5・取得した順位によりランキングポイントが加算され、ランキングに結果が反映されます。


「ランキングは停止されているから、ランキングポイントがどうのは気にしなくていいか」


 プレーヤーに提示されるルールは変わっていなかった。だが、既にルール3が機能していない可能性があるので、他のルールも怪しい。


「あとは参加人数が来るか、だな」


『約束の丘』は五人対戦のコンテンツだった。あと四人参加者がいないと始まらない。

「ここで二時間待って何もなく、ログアウトなら完全に間抜けだな」


 ポン、と音がして男の声がした。

「参加者が揃いました。六十秒後に開始します」


 レアアイテムを狙う人間はあと四人いた。他の参加者の関係がわからない。『約束の丘』では会話は意味不明な言葉に置き換えられる。チャット、メール、通信機能が使えない。


 解析系の魔法は制限され、プレーヤーに使用すると効果が出ない。名前や職業等は全くわからない。だが、アバターや装備の外観は反映される。


 コンテンツ利用者が多かった時なら、同じ格好や、同じアバターを着ている人間は結構いた。実質、姿だけでは誰かわからなかった。


「今回は違うんだよな」


『約束の丘』に行ける情報を知っている人間は限られている。もしかしたら、他の四人を派遣した人物は同一で、四人に仲間を判別させるために目印を付けているかもしれない。そうなると、四対一だ。


 仮に時任が一番強くても、四人が相手なら勝ち目はゼロである。しかし、他の四人のプレーヤーを派遣している人間が全くバラバラなら充分に勝ち目がある。


「死なないように気を付けながらやるか」


 頂上の樹の上空に、大きなスコアボードが出現した。スコアボードは麓や中腹からよく見える。

「スコアボードの位置は変わらずだな。暗くなれば頂上からだと見えないのも以前と同じままだ」


 スコアボードには時任以外はアルファベットで表示されていた。これは他のプレーヤーも同じ。他のプレーヤーも自分の名前以外はアルファベット表記になる。他のプレーヤーに時任の名前が知られてはいない。


 ドームが消えたので時任は走り出した。通路の左右には木々がびっしり立っている。途中で隠れることもできる。だが、奥に進み過ぎると迷う。


 十字路に出ると、時任は右に曲がった。丘の麓には旗が掲揚できるエリアが四か所ある。開始時すぐの左右の通路どちらにも旗が掲揚できるエリアがあった。旗の掲揚を目指すプレーヤーがいれば遭遇する。


『約束の丘』でスコアをもっとも稼げるのは頂上の占拠だった。四人が徒党を組んでいるなら、四人全員で頂上を目指すのが最適戦術となる。


 頂上到達後は勝たせたいプレーヤーにのみ頂上を占拠させて、他の三人でがっちり守る。そうすれば、最速かつ確実に勝たせたい人間にトップを獲らせられる。


「他のプレーヤーが徒党を組んでいるなら、俺に各個撃破されるのが最悪のパターンだ。だから、旗の掲揚スポットには誰もいない」


 時任が走って行くと旗の掲揚スポットがある広場が見えた。広場は直径十五mほどの更地。中央のむき出しの地面には旗を掲揚できるポールがある。一番乗りかと思うと、旗が上がっていく。


「誰かが先に旗を揚げた」


 これで他のプレーヤー四人が徒党を組んでいる可能性は薄れた。頂上を見るとAに五点が加点されている。


「このまま行けばAと戦闘になる」


 旗を時任が掲揚し直せば、時任のスコアが加算される。旗を降ろされたAに減点はないが、旗を掲揚し続ければ時間経過でスコア加算がある。


「隠れてやり過ごして、旗を揚げ直す策はなしだな。今回はトップを獲らないとダメだ」


 広場に入ろうとしたところで、危険を感じた。迷わず木陰に隠れた。激しい銃撃音がして、樹が削れる。


「避けなかったら、出会い頭にハチの巣だった」


 銃撃が止んだのでAの姿を確認すると。Aは攻撃したために姿が露わになっていた。立っていたAはシャオリーそっくりだった。話をしたいが『約束の丘』では無理だ。


 どうにか、手はないか考えたがすぐに意思疎通は諦めた。


「仮にAがシャオリー本人で意思疎通手段があったとする。でも、シャオリーは俺に対して敵意がないとはいえないんだよな」


 シャオリーの中では時任は秘宝を横取りした盗人として認識している可能性は充分にある。実際は秘宝を盗んでいないし、金塊ももらってはいない。


「秘宝の箱は空でした」を現状で理解してもらうのは無理だ。また、劉と入れ違いになったため「劉は金塊を受け取ったが、時任にまだ送っていなかった」は起きていても不思議ではない。


 でも、それは時任の見解。シャオリーがどう受け取っているかわからない。


「シャオリー本人でも俺に殺意があってもおかしくないんだよな。むしろここで会ったが幸いと嬉々として殺しにくるかもしれん」


 弁解は無駄と判断した。シャオリーが時任より速いなら逃げても背後から襲われる。つまり、戦う以外に道はない。もし、モルルンがシャオリーの参加を知っていたら、恨むところだ。


「死んだら誤解も解けない。やるしかない」


 シャオリーの乱射が止む。弾切れではない。ガトリングガンパーツは強力ではあるが、熱が発生する。熱の蓄積は弾の暴発を招く。シャオリーは戦闘の展開を先読みしながらセーブして戦っている。


 時任はオーブを左手に持ち替えた。次いで『分身』の魔法を使って分身五体を引き連れて突撃した。シャオリーの射撃が再開する。分身が次々と破壊されていく。


 時任は光線でガトリングガンパーツを狙い撃った。熱で強度が下がったパーツが弾けた。


 暴発によりシャオリーに隙ができた。狙い通りでとばかりに距離をそのまま詰める。時任は『魔法剣』を右手に召喚した。


 魔法剣は主に魔法剣士が使う威力が高い武器である。


 古代魔術師も使えるが職による補正がないため、攻撃力は魔法剣士よりは落ちる。シャオリーの本体は体の中に潜んでいると時任は予測していた。


 シャオリーが左腕を突きだす。腕を引かず、腰も入っていない。

「突きならば威力がない。打撃ではない」


 シャオリーの左手には手袋がしてあった。見覚えはあった爆破攻撃ができる腕パーツだ。魔法剣で突きだされたシャオリーの左手を突いた。


 シャオリーの左手が爆発する。時任にもシャオリーにもダメージが入る。魔法剣の長さだけ時任は爆発から離れている。爆発に近いシャオリーのほうがダメージは大きい。


 今度は時任が左手のオーブから『邪眼の瞳』を使用した。オーブに現れた瞳がシャオリーを捉える。シャオリーが硬直したので大きく魔法剣を振り上げた。


 同時にスキルの『唐竹割』を使用した。大振り技の『唐竹割』は避け易く、反撃も貰いやすい。動きが停まっている相手になら防ぐも避けるも不可能な上に、ダメージにも補正が付く。


 時任の唐竹割が決まった。シャオリーが爆発した。シャオリーは他にも爆発物を隠し持っていて、時任の魔法剣により暴発したと推測できた。


 シャオリーが石膏像のように真っ白になって固まった。シャオリーの頭上に『戦闘不能』の表示が出て、シャオリーがスーッと消えていく。


 死亡痕跡が出ず、『戦闘不能』の表示が出て消えるのは『約束の丘』においての通常動作だった。おそらく、シャオリーは死んではいない。死亡にならなかったのでホッとした。


「俺はシャオリーの戦い方を知っていた。シャオリーは俺の手の内を知らなかった。それが勝敗を分けたな」


 敵は残り三人。できれば、潰し合ってもらいたい。

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