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第十五回 捕獲とか色々(下)

用語解説

『厩舎』懐き度を上げきった動物を厩舎に連れて行くと呼び出し可能なペットにできる場所。

「いける、いける」と時任は応援をした。本心は違う。失敗して戦闘になる。徐晃は緑熊の先制攻撃を受けるが、きちんと頭防具を被っているので当たり所が悪くて一撃で死ぬことはない。


 ニルヴァでは頭と心臓への一撃で戦闘不能になる可能性がある。そのまま、止めの一撃が入れば死ぬ。つまり、味方が戦闘不能になった時に敵を無力化できれば、死なない。


 時任の声援を受けた徐晃はがんばっていた。

「本当にコツを掴んだようだな。中々失敗しない」


 捕獲用の魔法のロープには耐久度がある。そろそろ切れるかな、と時任は戦闘の心構えをしていた。


 緑熊が急に大人しくなった。捕獲用の魔法のロープが光って手綱に変化した。

「成功させた!」と時任は驚いた。すぐに「ナイスです徐晃さん、成功です」と褒めた。


「イエイ」と徐晃は緑熊をなでながら、歯を見せて笑う。


 徐晃はゲームのルールを把握してコツを掴むのが早い人間だ。ちょっと嫉妬するが、どこにでも、何をやらせても上手い奴はいる。妬んでも意味がない。


 だったら、素直に認めて賞賛したほうが気持ちはスッキリする。


 拍手しながら時任は近付く。

「緑熊をしばらく乗りこなしていると懐き度が上がります。懐き度を上げて街の厩舎に連れて行くと対応する笛を貰えます。笛を使えば乗用のペットとして呼び出せますよ」


「緑熊は体が大きいけど戦えるのか?」

 当然の疑問であるので、教えた。


「乗るほかにも戦闘にも参加してくれますよ」


 徐晃が触ると、緑熊はまだ慣れていないせいか嫌がる素振りをする。そんな緑熊に徐晃は顔をこすりつけて、笑う。子供のようだが、楽しんでくれるならOKだ。


 時任は簡単に注意事項を教えた。

「ダメージを受けすぎると死亡するので注意が必要です。ペットは死ぬとロストします」


 徐晃はシステム画面から緑熊の状態を確認する。

「速度は遅いが、こいつは荷物を持たせない場合は二人で乗れるのか。よし、これに二人で乗って水場まで行こう」


「いいですね、乗りこなしながら行きましょう」


 乗ると熊が軽く駆けだした。乗り心地は悪い。歩くよりは速いが、人間なら早歩きで従いていける。専用の鞍や鐙があれば違うが、現状では歩いたほうがよいのだが徐晃が楽しいなら異議は唱えない。


 徐晃はすぐに緑熊を乗りこなせるようになった。途中で虚ろな兵士と出遭った。徐晃が速度を落とさないと、虚ろな兵士は緑熊と衝突する。


 重量の関係から虚ろな兵士が弾き飛ばされた。徐晃はポンポンと虚ろな兵士を跳ねながら進んでいく。


「面白いな、戦闘なしでサクサク進むぞ。車でゾンビを跳ね飛ばすゲームのようだ」


 虚ろな兵士の動きは遅い。緑熊で吹き飛ばされた後に立ち上がっても追いつけない。途中で、プレーヤーの足に絡まって転倒させる植物もあった。


 緑熊の足だとサイズが合わないし、絡まっても緑熊は力が強い。植物を引き千切って進むので障害にならない。しばらくすると、徐晃が話しかけてきた。


「時任、ウチに来ないか?」


 クランでも立ち上げるのかな、と思い丁重にお断りする。

「俺はしがない接待屋です。クランに入って盛り上げるのは不得意です」


「違う。ウチの会社に就職しないか」


 フレンド登録なら頼まれたことがあるが、就職の誘いは初めてだった。新手の詐欺かもしれないので、時任は警戒した。


 とはいえ、本当に気をよくしたお客さんの誘いなら断るのにも手順を踏むのが礼儀だ。

「どうして俺を誘う気になったんですか?」


「気にいったからだよ。君は現状で自分が何をすべきかをきちんと理解している。また、どうすれば人が喜ぶか常に考えて行動している。本心でなくてもね」


 良く言えば徐晃は人をきちんと観察している。悪くいえば人の内心を見透かしている。世の中に自分以外に誰も信用しないと公言する人間がいる。


 徐晃は違う。人物鑑定に自信があるから人を信用するタイプの人間であり、確認のために裏付けを取るのを厭わない。


「買い被りですよ。俺はこうしてゲームで遊ぶしか能がない人間です」


「現実もニルヴァもそう違わない。大事なのは人だ。俺の会社はまだ小さいが、いずれはザ・ゲイブを越える会社にする」


 壮大な野望だと思うが、徐晃は本当にやる気なんだなと薄々感じた。今から徐晃の会社に参加しておけば、将来的には大金が手に入るかもしれない。だが、時任はビリオネアになりたいわけではない。


「お誘いは嬉しいです。今までにウチに来いと言ってくれた人はいません。だからこそ、慎重になります。なので、この場ではお返事ができません」


 本心だった。ここで断ればもう徐晃は時任のことを忘れるかもしれない。忘れるのならそれでいい。そん時はそれまでの縁だったまで。


 気を悪くするかと、少し心配だったが徐晃の声に暗さはない。


「良い人材とは簡単には得られない者だ。また、声をかけさせてもらう。もちろん、何度でも断ってくれていい。俺が君を必要とするなら、百回でも声をかけるよ」


 中々に気持ちの良い人だと時任は感じた。水場に到着する。透明度が高い湖が広がり、水辺に貴重な植物が生えている。カラフルな鳥たちが休んでいた。


 時任は辺りを確認するが、危険な肉食獣はどこかに移動していた。


 徐晃が緑熊を降りて感嘆する。

「中々に綺麗な場所じゃないか、天気もいいし釣り道具でも持ってくればよかった」


 そう来るとは思った。ここに連れてきた初めてのお客の多くは釣りがしたいと言い出す。ただ、他の釣り人がいないのでわかるがレアな魚は釣れない。


「ありますよ。釣り道具」と水を向ける、余計な情報は言わない。

「本当か、用意がいいな。是非やろう」と徐晃は前向きだった。


 時任がバックパックから携帯釣竿を出して徐晃に渡した。

「どうぞサービスです。追加料金は不要です」


 オークションでは数と量ともに予約注文ができる。時任は纏め買いで釣竿を購入していた。普段なら成立しない価格でも製作スキルを上げたい人がいると、市場に大量に商品が供給される。それがねらい目だ。


 徐晃が気分よく釣り始めようとするので待ったをかける。

「釣りをする時のコツは穴場がわかるかどうかです。穴場だと釣れ方が違いますよ」


 徐晃はキョロキョロと辺りを見回して、大きな栗の木を指さす。

「あの栗の木の下がよさそうだ。木陰にもなっているので日光を防いでくれる」


 正解である。釣りの穴場にはそれとなく目印になる物がある。大きな岩や木の手前が穴場だ。海釣りの場合は海鳥や大型幻獣の骨の付近が目印になっている。


「では向こうで釣りましょう」と時任は移動する。正解かどうかはあえて教えない。

 徐晃なら既にわかっているかもしれないが、気遣いは必要である。


 釣りを開始すると、すぐに徐晃にヒットがありフナが釣れた。

「ギンブナか、ニルヴァでは寄生虫の扱いはどうなっているんだ?」


 徐晃はシステムから図鑑を開いていないのにフナの種類を当てた。寄生虫を気にしたので現実世界でも釣りをする人間だと悟った。


「ニルヴァは変なとこで凝っているので、寄生虫の環境判定があります。ここの湖には寄生虫がいないことにはなっています」


「なるほどね」と徐晃は納得すると、緑熊の前にギンブナを投げる。緑熊はギンブナをパクリと食べた。ギンブナは食べられるが、価格は低い。


 数を釣ってもいくらにもならないので、ペットの餌にする判断は合理的だ。


「乗りこなせる状態になったペットは餌をあげても懐き度は上がります。緑熊の食性は雑食なのでギンブナを食べます。ただ、懐き度を上げるための量は多いです」


「とりあえず今日は熊五郎の腹を満腹にしてやろう」


 徐晃は緑熊に名前を付けたのでペットにしたいとみえる。フナによる懐き度上げは時間がかかるが、二人なら三時間もかからない。


 効率でいえば高額な素材を落とす魔物を狩る。次いで売上金で街の肉屋で鶏肉を買い与えたほうが早く懐き度は上がるが、接待で効率を重視する必要はない。


「熊五郎くんのために頑張りましょう」


 戦闘だけがニルヴァの楽しみではない。こうした横道に逸れた楽しみ方もまた一つだ。時任としては徐晃に楽しんでもらえばよいので、フナを釣り続けた。

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