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第十一回 モルルン霊廟の悪魔

用語説明

『武器破壊』ニルヴァの武器には耐久値が設定されている。耐久値が減少してゼロになった場合は破壊される


 悪魔の従者を倒して先に進んだ。一方通行の通路を二回右に曲がると、泉のある小部屋に出た。部屋の北側には悪魔の顔のピクトグラムが彫られた扉がある。


「プレートにあった通りに前室があったな。リリサを待つか」


 シャオリーが座ると、バックパックから全長五十㎝の人形がでてきた。人形がシャオリーのパーツ交換をサポートする。シャオリーはガトリングガンの右腕パーツ交換をしながら軽口を叩く。


「馬鹿は来ないね。でも、準備は大事。時任も悪魔との戦いに備えるね」


 シャオリーが爆発物を仕込んでいた左腕を操作しているが、動作がぎこちない。左腕も交換になると思うので少し時間がかかりそうだった。両腕のパーツ交換を終わる頃には、時任のマナも全快している。


 危なっかしい場面もあったが、ここまでは問題なく来れた。シャオリーは怪我をしているといっても、パーツ交換で完全状態になる。


 時任も万全の状態で戦える。準備してきた戦闘用の消耗品も未使用だ。

「負けたらいい訳できない状態だな」


 シャオリーに全く気負いはない。

「心配ないね。お前が死んでも、私が秘宝をもらう。金塊も払うね」


 自信過剰にも思えるが、武者も悪魔の従者もシャオリーがメインアタッカーとして優秀だから倒せた。気になったので、確認しておく。


「シャオリーの残機はいくつ?」

 残機はニルヴァの隠語で死ねる回数だ。次に死ねば人格消去なら残機0と表現する。


 シャオリーは淡々と語る。

「私の心配は無用ね。私の代わりならいくらでもいる。私が消えても他の兄弟や姉妹が目的を達成するよ」


 捨て石のように自分を表現する言葉は時任には受け入れがたいが、そこは個人の信条なので否定はしない。シャオリーの残機は0、死ねば後がない状態だと薄々感じた。


 シャオリーが換装した両腕の動作を確認しながら質問した。

「そういうお前はどうなのよ? 残機はあるのか」


「ないよ」と正直に答えた。シャオリーがふんと笑う。


「ニルヴァに魅入られた、ゲーム馬鹿ね。いっとくけど、お前の救出は第一には考えないよ。私の目標は秘宝ね」


 だろうな、とは思った。別に手を焼いてほしいわけではない。死んだら憐れんでほしいわけでもない。自分で決めた道を自分で行くだけの話だ。


 時任が来た方向と反対側の壁が開いた。中からリリサが現れる。時任は用心しながらリリサの姿を観察した。異変は見られないが、魔物が化けているのならパッと見てわかる変身はしない。


 また、微妙な違いがわかるほど、リリサと付き合いは長くない。

「本当にリリサだよな?」


 リリサは時任の問いを馬鹿にした。

「時任の聞き方だと、本物でも偽物でも、はい、と答えるわよ」


 シャオリーもリリサに同調した。

「私も時任の質問の趣旨がわからないね。時任は頭の可哀想な子か? そうでなければ大天才ね」


 言いたい放題だが怒りはしない。下手に無口なほうが怪しい。


 時任は確認する。

「休憩は必要か? 生命力とマナは万全な状態で臨んだほうがいい」


 余裕たっぷりの顔でリリサはシャオリーを煽った。

「御心配は無用です。私は無傷です。どこかの誰かさんと違って戦闘が取柄ですから」

「戦闘が、ではなく、戦闘のみの、言い間違いと違うか?」


 掛け合いからすれば、別れる前と変わらない。今の時点では本物と見ていいだろうか? ただ、モルルン霊廟の地下三階に挑んだ他のパーティーもここまでは問題なかった気がする。


 シャオリーの準備が終わって立ち上がった。シャオリーの両手は完全な機械義手になっていた。近接ダメージも高そうだし頑丈だ。何か仕掛けもありそうだ。


 リリサが時任に頼んだ。

「槍と盾に強化魔法をかけて。身体強化系の魔法はいらないわ。能力やスキルの邪魔になるからね」


 魔法で身体強化までしたほうが良いと思うが、戦闘の上級者となると制御できない強化系魔法を嫌い者もいるので、リリサの頼みはおかしくはない。


 槍や盾に強化系の魔法をかけるのなら、別れる前にも依頼してきそうなものだ。


 時任の疑念を察知したのか、リリサが説明する。

「ここに来る前の悪魔の従者との戦いで武器を壊されそうになったから念のためよ」


 余裕がなくなったからの依頼なら理解できる。だが、本当だろうか? 時任は疑いを抱きつつも槍と盾に『耐久上昇』を掛けた。悪魔はおそらく手を抜ける相手ではない。


 三人の準備ができたので扉の前に立つ。悪魔のピクトグラムの目が光り、扉が開いた。


 扉の先は円柱状の空間になっていた。広さは直径で三十mはある。天井までも二十mあり、かなり広い。足元は石畳ではなく、砂地だった。砂は普通の砂に見える。石畳と違い砂では足場が悪い。


「地面に穴が空く流砂系のトラップが設置されている可能性があるな」


 時任の言葉にリリサが反応する。

「別に私は避けながら戦えるわよ。鈍間なシャオリーは嵌るかもしれないけど」


 天井を見ると長さ六十㎝ほどの鍾乳石状の物体が生えている。びっしり生えているわけではないが、いかにも戦闘中に落下してきそうだ。


 時任は注意を促す。

「頭に直撃すれば、死ぬかもしれんな」


 今度はシャオリーがリリサを皮肉る。

「頭が空っぽなリリサなら、風通しが良くなるだけで問題ないね」


「あん?」とリリサとシャオリーがイラっとした顔で視線をバチバチさせる。


 現状ではリリサが偽物でも結果はかわらないのでは? と呆れた。


 部屋の中央に青い炎が出現して中から、子供が現れる。服装は布の服とブーツで、街人NPCとして街にいても違和感がない。一応、腰には剣を提げている。子供は笑顔で話し掛ける。


「口上があるのでそれまで攻撃は待ってほしい、練習したんだよ」


 ボスの出現と同時に先手必勝とばかりに攻撃するプレーヤーはいる。今回の場合は止めたほうがよさそうだった。口上の中には有益な情報があるかもしれない。


「さっさとするね、こちらのバフ切れを狙う時間稼ぎはみっともないよ」


 リリサも攻撃しないので子供は咳払いして、大袈裟に語りだす。

「よくここまで来たな愚か者ども、残念ながらお前たちの中には裏切り者がいるぞ。裏切り者は誰かわかったかな」


 当然わからん。もしかしたら、地上での合流前にシャオリーやリリサには何かのイベントで悪魔と会っていたら、時任には知りようがない。


 それなりに用心しながら時任は戦うつもりだった。

「時任よ」「時任ね」とリリサとシャオリーは即答した。


「エッ」と時任は思うと悪魔が笑って答える。

「正解かどうかは後のお楽しみだ」と悪魔は笑って答えた。時任は一瞬頭がクラっとする。


 異常な感覚は覚えがある。強い精神系のデバフが付いた時だ。頭に声が響く。

『悪魔の加護を受けました。悪魔を助けましょう。さすれば、貴方だけは救われます』


 意味深なメッセージだがこれはヒントだ。

 子供の頭から二本の角が生え悪魔となり、剣を抜いた。シャオリーとリリサが悪魔に向かって走り出した。

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