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アルバロに捧ぐ
これは私の古い友人、アルバロの話だ。
曰く、ある遠い国に「真実の書」と呼ばれる書物が存在するらしい。それには、世界のあらゆる真実が記述されているのだという。ブエノスアイレスの古い喫茶店でそんな話をして、明日から「真実の書」を探しに出るのだというアルバロを、私は見送った。
それから長い年月が過ぎた頃、アルバロが亡くなったという知らせを受けた。
死後、彼の書斎から奇妙な日記が発見された。日記には、彼が「真実の書」を読んだという記録が詳細に書かれていた。
ツングースカ大爆発の真相、ヴォイニッチ手稿の解読、この宇宙の始まりなどといった実に幻想的なものから、アルバロ自身の別の人生、真の才能といった、内面的なものに至る様々な内容が記されていた。
私には、その全てが荒唐無稽なものに感じられた。
私は思う。
「真実の書」とは、読む者の心に隠された欲望や願望を映し出す本なのではないか、と。
しかし、虚実が綴られたその本は、やはり「真実の書」と言えるだろう。
私は、かつてアルバロと話した沢山の夢想を思い出しながら、そう考えることにした。