噴水の教え
N氏はごく平凡なサラリーマンだった。ある日、N氏は街の古い噴水に関する不思議な噂を耳にした。噴水はどんな願いでも叶えてくれるそうだ。ただしその願いは、それまでの人生で最も深く、切実なものでなければならない。
N氏は半信半疑で噴水の前に立ち、自分の給料が増えるよう願ってみた。
驚くべきことに、その願いは本当に叶い、彼の人生は好転した。それからN氏の会社は大きく成長し、それに伴ってN氏も昇進した。生活が豊かになりN氏は、結婚し、幸せな家庭を築いた。
数年後、N氏は重い病に倒れた。治療は困難で、N氏は深い絶望に陥った。
そんなある日、N氏はかつて自分の人生の転機となった噴水の事を思い出す。そして噴水の前に立ち、もう一度願った。しかし、噴水が再びN氏の願いを叶える事はなかった。
願いもむなしく病が進行した頃、N氏はまた噴水に入り水面に向かって話しかける。
「給料より、健康の方がずっと切実な願いに決まってるじゃないか。なのにどうして…」
そしてそのまま、N氏は噴水の中で死んでしまった。
街の古い噴水にはもう一つ噂があった。
子供の膝丈ほどしかない噴水の中で、不思議なことに、溺死する人が後を絶たないのだという。