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まだ何も書かれていない魔法の書  作者: 油野ゼブラ
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第7話 食料調達

 まばゆい朝の陽光も届かないほど生い茂った森の中を、2人の人物が歩いていた。

 1人は栗色の髪の美女、もう一人はこの世界には珍しい顔立ちの少年だ。


 レインと皆人である。


 2人は朝早くに出発し、レインの進む方向に従って皆人がついていっていた。

 荷物はレインが持っているが、話し合って一日おきに交代で持つことにした。


 また、皆人は魔導書が動くときに邪魔になるのではないかと心配したが、レインが皆人の手の甲に魔法陣を見つけ、魔力を流してそれを起動すると魔導書が消えた。

 そして再び魔法陣を起動すると魔導書が現れた。

 つまり使いたいときだけ出現させ、それ以外の時は邪魔にならないようになっているというわけである。


 皆人はこれを使うために再び出す日は来るのだろうかと思いつつ、魔導書をしまっておくことにした。


 そういうわけで皆人は今、身軽な状態である。


「結構朝早く出るんですね?」


「うん、この時間帯が一番魔獣の活動が落ち着いてるんだ。だからなるべく朝のうちに距離を稼ぎたいんだよ」


 レインが小刀で行く手を塞ぐツタを斬りながら答えた。


 ごつごつした岩や木の根でかなり歩きにくいにも関わらず、レインが歩くスピードはかなり速い。

 皆人はレインにもらったけがの治療薬のおかげで、昨日けがしたばかりではあるが何とかついていくことができていた。


「でも油断はしないでね。そろそろ香水の効果も切れてくるから」


 レインが早朝に出発したもう一つの理由は、昨晩つけた魔獣除けの香水の効果が朝までわずかに残っているからである。

 レインは自分が弱いとは思っていないが、リスクはできるだけ回避していこうと思っていた。


 結局、昼になるまで2人が魔獣に遭遇することはなかった。


 ◇ ◇ ◇


 歩き始めて6時間ほどが経った。

 そろそろおなかがすいてくる頃だ。


「よし、そろそろ魔獣たちも活動を始めただろうし、昼食を調達しようか」


 レインは荷物を下ろし、たき火の準備をしながらそう話した。


「また昨日のように魔獣を捕まえるんですか?」


「そう。捕まえられなかったら昼ごはんは葉っぱと木の実だけになるから頑張ってね!」


「僕まだ動いてる魔獣とは戦ったことないんですが……」


 皆人は自分の実力に不安を感じそう話したが、


「大丈夫、サポートするから。それに戦い方は実戦しないと身につかないからね。とりあえず、その状況で最善だと思う行動をとってみて。考えて、動いて、失敗して、そこから学ぶ。その繰り返しで強くなれるもんだよ」


とレインは答える。


 心に深く浸透するように説得力にあふれた話し方、言葉だった。

 きっとレイン自身がそのような経験を経て強くなってきたのだろうと皆人は感じ取った。


「分かりました。やれるだけやってみます」


 皆人は深く頷いた。


 ◇ ◇ ◇

 

 魔獣を探し始めてからわずか5分で、昨日皆人を追いかけていたのと同じ種類の蛇が見つかった。


「あれは……」


「ラピカスサーペントか。昨日見たのかい?」


「はい、追いかけられて最終的に噛みつかれました」


「そっか、それじゃリベンジだね」


 皆人は特にその蛇に対して恨みなどは持っておらず復讐するつもりはないが、レインの言葉に頷いた。


 レインがラピカスサーペントと言ったその蛇も2人に気が付き、口を大きく開いて威嚇の姿勢を取った。


「肩の力を抜いて、落ち着いてやれば大丈夫。君には才能があるから」


 レインが優しく皆人を鼓舞する。


 それに応えるように皆人が戦闘態勢をとる。


 まだ出会って二日目であるが、レインの目は皆人が「戦える」人間であると見抜いていた。

 現に、昨日自分を襲った相手を前にしても全く恐れを抱いていない。

 また、昨日の時点で初級魔法は問題なく使えていることも確認している。


 実際には、皆人はレインにもらった魔法の解説書を自分で読み進めて、既に30以上の魔法を習得していた。


 皆人とラピカスサーペントがにらみ合う。


 先に動いたのは蛇の方だった。

 昨日も見た、魔法の岩弾が発射される。


 しかし今回は皆人は避けるそぶりを見せない。


「スクータム」


 皆人が呪文を唱えると、皆人の正面に青白い、大きな魔法陣が出現した。


 岩弾が魔法陣に接触する。


 すると、岩弾は砕けて地面に落下した。


 皆人が使ったのは盾魔法「スクータム」。

 魔力を実体化・硬質化させて相手の攻撃を防ぐ非属性魔法である。


 皆人は「盾」を展開したまま蛇に向かって突進した。


 蛇は皆人から見て左に向かって跳ぼうとした。


 しかし、皆人も黙ってそれを許す気はない。


「アクセラレティオ」


 加速魔法を発動させて瞬時に追いつき、尻尾を踏みつけた。


 魔獣が「シャーッ!」と悲鳴を上げた。


 盾魔法を解除し、攻撃魔法――初級土魔法を発動させる。


「テーラ」


 魔法陣から一発の岩弾が放たれる。

 その先端はドリルのように尖っており、より貫通力を増した形状になっている。


 魔法に適性があればこのような小さな加工は容易だ。


 岩弾は大きく口を開けていた魔獣の頭に命中し、一発でつぶした。

 はじけた頭から赤黒い血が飛び散る。


 皆人はズボンにかかった血を気にすることなくふっと息を吐いた。


「おみごと。まさか初めてでここまで戦えるとは……私が追い抜かされるのもそう遠くはないかも」


 レインが本心から皆人を称賛する。

 皆人に魔法の才能があることは感じ取っていたが、いきなり2つの魔法を同時に使用できるほどだとは思っていなかった。


「そうですか?ありがとうございます。……でもこの蛇食べられるんですか?」


 皆人は蛇を使った料理があることは知っていたが、なんとなく食べることに抵抗を感じ、レインに聞いてみた。


「食べられるよ。塩焼きとかにしたらおいしいかな」


 レインは蛇を食べることに抵抗はないようだった。

 この世界は食文化も地球とは結構違うのかもしれないと皆人は思う。


「さてと、食材も調達できたことだし、昼食にしようか」


 その後、2人は蛇を焼いて食べ、再び樹海を奥に向かって進み始めたのだった。



コラム(7):初級魔法について

ここまで出てきた火・水・風・土の4属性の初級魔法をまとめておきます。

・イグニス:初級火魔法。炎の弾という形で使われることが多いです。

・アクアム:初級水魔法。攻撃力はほぼないので、もっぱら消火、水分補給用です。

・ヴェンタス:初級風魔法。風の刃を発射するものが多いです。

・テーラ:初級土魔法。岩弾を発射するものが多いです。

術者の調整によって、例えばヴェンタスをただの送風に使うなどといったこともできます。

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