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まだ何も書かれていない魔法の書  作者: 油野ゼブラ
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第5話 レインのパーフェクト魔法教室 座学編

「ではレイン先生、今日からよろしくお願いします」


「ええ……意外とあっさり……」


 レインは、皆人が早くこの森から出たいと言うと思っていたので、彼がすんなり自分の提案を受け入れたことに拍子抜けしたようだ。


 皆人的にはレインは命の恩人であり、さらに魔法まで教えてくれるというのだから、彼女に何かお願いをされてもそれは対価と考えて、拒否するつもりは全くなかった。

 皆人にとって、レインは「他人」ではなかった。


「それでレイン先生の旅とは?目的地はどこですか?」


「さっそく先生呼びか……まあ悪くないね。よし、じゃあ私たちの旅について教えておくね。さっきも言った通りここはアープル樹海っていうところ。強力な魔獣がわんさかいるかなり危険な場所だよ」


「先生、質問いいですか」


「何だい?」


「魔獣というのはどのような存在なのですか?普通の生物とは違うのですか?」


「ああそうか、君がいた世界には魔獣もいなかったのか。魔獣っていうのはね、普通の生物が魔力によって変質したものだよ。魔法を使うやつもいるから普通の生物よりも危険だね」


 レインによると魔獣も同種ならば生殖行動によって子孫を残すことができるという。

 また、なぜかは分からないが普通の生物よりも人間に懐きにくく、飼育は難しいという。


「じゃあ話を戻すね。私がそんな危ないところに何で来たかって言うと……この樹海の最深部に到達するため」


「最深部、ですか?」


「うん。これまでに樹海の最深部に到達して戻ってきた人は1人もいないといわれている。つまりもし到達できれば私たちは史上初の偉業を達成することになる」


「最深部には何かあるんですか?」


「さあ?財宝があるとか絶滅したはずの鬼族が住んでいるとか言われているけどさっきも言った通り実際に確かめた人はいない。でも最深部に近づくほど生息する魔獣は強くなることが経験則で何となくわかっている。もしかしたら最深部にはこの樹海のボスともいえる超強力な魔獣がいるかもね」


「レイン先生はそれと戦うつもりなのですか?」


「いや、まだボス的な魔獣がいると決まったわけじゃない。でも……私はそれを倒せるくらい強くならなきゃならない」


 後半は独り言のように聞こえたが、妙に決意に満ちているように皆人には感じられた。


「レイン先生?」


「ああなんでもない。とにかく、君も一緒に最深部までついてきてもらうからね。大丈夫、魔法とか戦い方は私がきっちり教えていくし、君は絶対に死なせない」


 レインの力強い言葉に、皆人は安心感を覚えた。


「ありがとうございます。僕もなるべく早く習得できるように頑張ります」


「うんうん、いい心意気だよ。じゃあさっそく始めようか、私の魔法教室!」


 ◇ ◇ ◇


 レインが魔法で作ったたき火を囲みながら、レインの指導が始まった。


「まずは何を使えるようになりたい?水魔法?土魔法?それとも風魔法?私のおすすめは火魔法だよー」


 レインが水の弾や岩、小さなつむじ風、炎を出現させながら皆人に尋ねた。


「いえ、まずは理論からお願いします」


「え、そう……普通の人なら早く魔法を使ってみたくてたまらないって感じなんだけど……」


 レインが少し引きつった笑みを見せる。

 彼女は実技ならともかく、理論はあまりうまく教えられる自信がなかった。


「何をするにしても、まずはその事柄についてよく理解していないと完璧に習得することはできませんから」


 皆人が当然だという顔で答えた。

 彼は心配性というわけではないが、何事にも準備は万端にして取り組む人物だった。

 テストの点数が特別いいわけではないのは、彼がテストを真剣に受ける気がなく、わざと点数を低くしているからにすぎない。


「まあいいか……じゃあ最初はそもそも魔法とはどういうものか説明するね」


 レインが『新・魔法学のすすめ』という本を開いた。


「魔法とは、特殊な言葉や紋様を介して自然法則に干渉し、それを改変する技術とされている。特殊な言葉や紋様っていうのは呪文や魔法陣のことだね。現在は呪文と魔法陣を組み合わせた方式が広く利用されている。まあ具体的な方法はあとで詳しく説明するよ」


「そして魔法を使うためのエネルギーとなるのが魔力。魔力は人間も含めてすべての生物が保有していると考えられている。魔法を使うと使用者の魔力が消費されて、魔力が尽きればもちろん魔法は使えなくなる。ここまで大丈夫かい?」


「質問ですが、僕は魔力を持っているんでしょうか?」


「持ってるよ。……結構多いね。いや、これは……」


 レインには皆人の魔力量が規格外といえるほど多いことが感じ取れた。

 レインもかなり魔力量が多い方であるが、それよりも多いことに驚き、絶句してしまう。


「どうかしましたか?いや、それよりも先生は魔力の存在を感じ取ることができるのですか?」


 皆人に声をかけられて我に返るレイン。


「え?ああうん。【魔力感知】っていうスキルを持ってるんだ」


 【魔力感知】はその名の通り魔力の存在を感じ取ることができる技能スキルである。

 皆人もそれはなんとなく分かったから、それについては詳しく聞かなかった。


 一拍置いて、レインが話を続ける。


「ミナト君、君は既にとてつもない量の魔力を持っている。女神様がサービスしてくださったのかもしれない。これから魔法の訓練をしていくとさらに増えるだろうね」


 自分では感じることができないエネルギーの量が多いと言われても実感がわかず、皆人は反応に困った。

 皆人はとりあえずどれくらい多いのか聞いてみることにした。


「そんなに多いのですか?」


「うん、少なくとも私よりは多い。そして魔力が多いということは魔法が使えれば戦いにおいてかなり有利にはたらく。君はもしかしたら世界有数の実力を持つ魔法使いになるかもね。……これはなかなか鍛える価値がありそう」


 最後の方は心の中で思ったことが思わず口から出てしまったようなものだったが、皆人には聞こえていないようだった。

 レインも少し心の声が漏れ出てしまったことに気づいていない。


「よし!私が君を世界最強の魔法使いに育ててみせる!」


 レインが拳を握りしめて力強い宣誓をした。


 皆人が、


「いやそこまで強くなりたいわけではないんですが……」


と言ったがレインの耳には入らなかった。


 レインはやる気に満ちた様子で、


「よし、次は魔法の属性について教えよう!」


と授業を再開した。


「魔法の属性というと火とか水とかですか?」


「そう。魔法には火・水・土・風・神聖の5つの属性があって、これらの属性をもつ魔法を属性魔法という。逆にこれらの属性に当てはまらない魔法は非属性魔法という。まあそのままの名前だね」


 火魔法、水魔法、土魔法、風魔法は文字通り火、水、土、風に関する魔法、神聖魔法は光や回復、能力向上に関する魔法、それ以外の移動魔法や冷却魔法などを非属性魔法というのだとレインは説明した。


「まあとりあえず理論はこんな感じかな」


「もう終わりですか?」


「あとは実際にやりながらの方が理解しやすいからね。じゃあさっそく魔法の使い方を教えてあげるよ!」


コラム(5):『新・魔法学のすすめ』

著者:ラルグ・クロムアム

魔法の教科書としてベストセラーになった一冊。入門から応用まで幅広い魔法に関する理論を掲載しています。巻末には300種類の魔法の使い方が収録されています。

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