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まだ何も書かれていない魔法の書  作者: 油野ゼブラ
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第2話 救世主

「はぁ、はぁ……そろそろまずいかな……」


 皆人は白いもやがかかって落ちそうになっている意識を気合でなんとかつなぎ止め、おぼつかない足取りで必死に助けくれる人を探していた。


 蛇に追いつかれて右脚のふくらはぎを嚙まれてしまったが、頭を踏みつけて何とか殺すことができた。

 他にも追いかけてきた生物はいたが、それらどうしで戦いを始めたため、皆人は逃げ切ることができた。


 しかし、蛇が毒を持っていたようで、先ほどから悪寒や激しい頭痛に襲われており、何度か意識が飛びそうになっている。

 即死性のある毒ではなかったが、徐々に命を蝕んでいっているのが皆人にも感じられた。

 もう脚にもあまり力が入らなくなってきて、先ほどから何度も転びそうになっている。


 それでも助けてくれる人が現れることを信じて、皆人は歩き続けた。


 ◇ ◇ ◇


 それから半日ほどが経った。


 途中で泉を見つけ、水がきれいそうだったため飲んだところ、体の不調は多少改善した。

 そのため皆人はこれまで歩き続けることができたが……


「ここにきて……もう逃げ場はないか……」


 皆人は10匹ほどの猿のような動物に囲まれていた。


 どうやら索敵能力に優れているらしく、かなり慎重に進んでいたのだが見つかってしまった。

 皆人も疲労が蓄積し、毒の影響がまだ多少残っているというのもあるだろう。


 猿たちは木の枝や石などを手に持っている。武器のつもりだろうか。


 彼はこの状況を何とか突破できないかと思考を巡らす。


(猿にしてはなかなか連携が取れているな。ほとんど脱出する隙が無い。でも襲い掛かってくる兆候もない。警戒しているのかな?それともこちらの隙をうかがっている?それだったらむやみに動かない方がいいか……いや、たぶん先に僕の体力が尽きるな。それだったら一か八かだけど今のうちに突破を試みるか。動けなくなってから嬲り殺されるよりはマシだな。幸い相手は体が小さい。飛び越えてみるか)


 皆人はそれを実行に移すことにした。


 前ぶりなく右へ一歩踏み出す。


 猿たちの視線が一斉に皆人の動きを追い、その方向へ殺到しようとする。


 しかし、皆人の二歩目は地につかなかった。


 そのまま足を振り上げ、バク転の要領で反対の左側へ跳ぶ。


 皆人の予期せぬ動きに驚いたのか、猿たちは動きを止めている。


 高さは十分。猿は反応できていない。

 いける、と皆人は思った。


 地面に光り輝く紋様が現れるまでは。


 紋様の光が一層強まった瞬間、皆人は背中に衝撃を感じた。

 地面に背中から落ちたのだと理解するのにそう時間はかからなかった。


(ここにきて、魔法か……)


 ここぞとばかりに猿たちがたかってくる。

 攻撃は棒や石で殴るだけなので即致命傷にはならないが、痛みはある。


 皆人は離脱しようとするが体が地面から離れない。

 よく見ると地面がまだ光っている。


(重力を強くする魔法か?……だめだ、手の一本すら上がらない。ここまでなのか……)


 皆人にはもう、抵抗する余力も、気力も、残っていなかった。


 頭の中に家族や、数少ない「仲間」の顔が浮かぶ。


(みんなは今頃どうしているだろう?僕がいなくなって心配しているだろうか?ああ、まさかこんなことになって、こんな風に死ぬなんて……きっと死体も残らない。せめて死体であっても最後に顔だけは見てもらいたかったけど……無理だろうな)


 痛みはだんだんと強くなっている。


(そういえば死ぬとどうなるのかな。今まで死後の世界とか全く信じていなかったけど……異世界召喚があるならそれもわからないな……ああ、痛い……これなら一撃で殺されるほうがよかったな……)


 すると皆人の思いが通じたかのように、1匹の猿が皆人の頭の方まで来て、手に持っている石を大きく振りかぶった。


 石は磨かれているようで、かなり鋭いように見える。


(ああ、これでいい……一思いにやってくれ)


 自分が意外に安らかな気持ちでいることに少し驚きつつも、皆人は目を閉じた。


 雰囲気で石が振り下ろされたとわかる。


 しかし、それが皆人の頭を直撃することはなかった。


「ヴェンタス!」


 凛とした声とともに、ギャッという猿の悲鳴が森にこだまする。


 皆人は何が起こったかわからず、目を見開いた。


 いつの間にか皆人を拘束していた魔法はなくなっており、皆人は飛び起きることができた。

 あたりを見回してみる。


 まず目についたのは胸から血を流して倒れている1匹の猿。近くに先ほどの磨かれた石が落ちているから、皆人の頭を殴ろうとしていた個体だろう。


 そして他の猿に目を移すと、彼らは皆人の方を全く見ていなかった。

 皆人の背中の後方を、警戒心MAXといった雰囲気で、じっと見ている。


 皆人もその視線を追ってみると、そこにいたのは……


 「やあ、君、大丈夫?」


 栗色の、ふんわりとウェーブのかかった長髪の女性だった。

 どこかおっとりした雰囲気を持ちながらも、きりっとした顔に浮かべている微笑からは、強者の風格が感じられる。


 そんな彼女は、皆人にとって、まさに救世主であった。


コラム(2):真白皆人について②

好きなもの:炭酸水、とんかつ、寿司、空手(空手部所属)

嫌いなもの:酢豚

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