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航空機動歩兵は戦場の空を征く(仮題)  作者: エディ
第1章 グランツ家の坊ちゃん
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5 ウィルくん高校を卒業する

 ウィル・グランツ、7歳。

 この度、めでたく高校を卒業しました。


 もう一度言う。

 高校を卒業した。



 キース・グラン連邦は日本の教育現場と違って、飛び級が存在する。


 転生者である俺は現代日本の知識があったが、地球以上に科学技術が進んだこの世界では、チートをできる余地など皆無だった。

 この世界に比べれば、地球の科学力なんて100年以上前の代物。

 そんなものを持っていても、何の役にもたたない。


 これはヤバいと、3歳の頃から必死になって勉強した。


 その結果、去年入学した小学校をあれよあれよという間に飛び級で卒業し、中学校も飛び級し、高校まで卒業してしまった。


 おかげで学校生活では、友達と呼べる人間が、最後までできずに終わってしまった。


 俺の学校生活が、あまりにも無色すぎる。

 バラ色はおろか、灰色になることすらできず、無色で終わってしまった。


 前世は独身主義を貫いた俺だけど、流石にこれでいいのかと、首を傾げたくなってしまう。

 学校生活なんて、もう2度と送ることができないんだぞ。



 ……ま、いいか。

 前世の学校生活も、面倒臭いと思うことが多かったし。



「坊ちゃん、ご卒業おめでとうございます」


「「「ご卒業おめでとうございます」」」


 なお、高校の卒業式では、またしてもうちの組の衆が……元軍人の筋肉モリモリマッチョマンの強面集団が祝ってくれた。


「ヒヤーッ」

「グ、グランツファミリーのマフィアたちだ」

「ち、近づくな。近づいたら殺されるぞ」


 ヤクザやマフィアよりヤバい見た目をした連中が大声を出すものだから、周囲にいる卒業生や保護者さんたちが、皆ガクガクブルブルして逃げ出していく。


「……」


 学校の教師すら、我が身が危ないと足音を立てずに逃げていった。



 うちのファミリーって、この街で腫れもの扱いされている気がする。



 もっとも逃げ出していくのは一般人だけで、その後は市や州議会議員、市長、州知事などがやってきて、揉み手をしながら俺の事を祝ってくれる。


「さすがはグランツ家の若様ですな。1年で高校まで卒業してしまうとは、まさに神童。将来が楽しみですな」

「グランツ様、この度はご卒業おめでとうございます。ところで私の娘なのですが……」

「若様、我が家とは今後とも御贔屓に……」


 媚びを売ったり、露骨に俺に近づいて来ようとしたり。


 よく分かるな。

 政治家ってのは碌な人間の集まりじゃない。


 一般人が逃げていくマフィアみたいな集団に積極的に近づいてくるとか、絶対にまともな人間じゃねぇ。



 なお、我が家は軍隊相手に武器弾薬を売りさばいている、現代の死の商人。

 まったくもってまともな家でない。


 生まれた家が家なので、今の時点で俺はまっとうな人生を歩めている気がしない。




 ところで1年で卒業した俺の事を、家族は次のように見ている。


「ウィルはおじい様にいて、とても頭がいいのね」

「……ああ、そうだね。おじい様にとてもそっくりだよ」


 母さんは純粋に嬉しそうだが、父さんは苦虫をかみつぶしたような表情をしている。

 子供の卒業を祝う雰囲気が全くない。


 ただ、その表情に俺は気が付かないふりをしておく。

 俺は親の暗い面に気づかない、ただの純真無垢な子供だからな~。



 かわりに気になったのは、爺さんの事だ。


「おじい様に似ているってことは、おじい様も学校の卒業が早かったの?」


 7歳の子供らしく、あどけないショタを装い母さんに尋ねる。


「ええ、ウィルと同じで、たった1年で高校まで卒業したそうよ」

「そ、そうなんだ」


 俺の場合は前世があるから、3歳から大慌てで勉強した。

 結果、小学校入学時点で、高校レベルの知識量を得ていた。


 でも、爺さんチートすぎだろ。

 俺と違って前世ないはずなのに、なんで1年で飛び級して、高校を卒業できるんだよ!


 天才ってレベルを超えて、化け物か何かか?



 そんな爺さんだが。


「ウィル、お前はただの早熟に過ぎん。

 今のお前程度では、本物の天才集団の中に入れば、凡人以下じゃ。

 研究者の末端にも入れぬレベルじゃから、ワシがもっと教えてやろう」


 なんて言われた。



 本物の天才から見れば、俺はその程度なんだよ。

 俺も、そのことをちゃんと知っている。


 地下にある秘密研究所だが、あそこには所長である爺さん以外にも、研究者が何人もいる。

 おこなわれている研究は、青の超大国アルカディアの国家機密クラスの内容で、関わっている研究者たちは、本物の天才ばかり。


 爺さんの孫ということで助手をしているものの、あの集団の中だと、俺なんて出来の悪い使い走り程度の価値しかない。


 やっている研究の内容を理解しようと必死になっているが、俺の頭では研究者たちが話す内容を、10分の1も理解できればいい方だ。




 なお、なんで国家機密――それも他国の国家機密――の研究を、うちの秘密研究所で行っているかだが、政治的な理由で青の超大国アルカディア本国で研究できない内容を、他国にあるうちの研究所でしているとのことだ。


 そんな事実、知りたくもないのに知ってしまった。


 この研究所の事を外で話すと命の危険があるので、俺は研究所のことを他言することができない。

 したいとも思わない。




 ただ、俺は本物の天才ではないが、たった1年で学校生活を終えてしまった。

 爺さんも、同じだ。


 そんな俺と爺さんの間に挟まれている父さんは、俺たちを複雑な目で見る。



 後日知ったが、父さんは6年かけて、小学校から高校までを飛び級で卒業したそうだ。


 いや、あんた普通に凄いから。

 もっと自信もてよ。


 そう言ってやりたいが、俺から言うとただの嫌味にしかならない。

 この件で、俺が父さんに何か言うことはできない。




 そんな事もあり、その日の父さんは俺の卒業を素直に祝うことができず、落ち込んでいた。

 そのせいか、その日の夜の夫婦の寝室からは、やけに激しい音と、ハッスルしまくりの母さんの歓声が聞こえてきた。


 お馬さんごっこだな。

 母さんの叫び声を聞くと、お馬さんになっているのは父さんの方で間違いない。


 父さん、母さんの尻に敷かれているな。

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