第82話 シュリのコンプレックス
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次の話を考えたり、過去の話の表現をいじったりしています。何度見直しても修正点が無くなりません。文章を書くのって難しいですね。
これ以上褒められると走って逃げたくなりそうなので、黙々と街道作りを続けた。
ただそんな俺の気持ちとは裏腹に村人や子供たちは楽しそうに雑談をしながら俺やイメールを取り囲むように見ている。娯楽が少ないにしても、こんなことを見て楽しまなくても良いのに、と思ってしまう。
「こんな立派な街道ができる日が来ると思わなかったな。」
「これは語り草になるから見逃せないよ。」
耳を閉じたくなるような会話が飛び込んでくる。イメールはどう思ってるんだろう?俺にはくすぐったすぎて辛い……。
「変なおじさんも兄ちゃんも凄いね。僕も魔術って使ってみたいな。」
「お前たちにもそんな才能があるといいな。ははは」
俺はそんな周囲の雑音を振り払うように自分の作業に集中し、時折水を飲んだり魔力回復薬を飲むくらいの休憩をしながらひたすらに作業を続けた。
「あれ、コーヅくんだ。黙ってどっかに行ったら駄目でしょ。」
子供を叱るような言葉に顔を上げると、シュリが両手を腰に当てて怒っている。怖くないけど。
「ごめん、イメールと街道を作ってたんだ。」
「で、そのイメールくんは?」
シュリが周囲を見回した。しかし村人たちしか見えない。
「後ろの方で路面を綺麗にしてくれてるよ。」
「へぇ、後で見てみよっと。でも今はコーヅくんと一緒に居るよ。また勝手にどこか行かれても困るし。」
俺は苦笑混じりに頷いて、また街道作りの作業に戻った。地面に手を当てて魔力を流すと土だった街道が石造りの街道になる。そんな様子をシュリは「こういう工法ってなんて表現したら良いのかよく分からないな。」と腕を組んで悩んでいた。
「いいよ、別に何の表現もしなくて。」と答えた。これ以上変なあだ名を付けられたくないし。
そして何度も魔力を流して石に変えるという作業を繰り返し、街道は村の端まで届いた。
「ねぇねぇ、どこまで作るの?」
「振り返っても村が見えないくらいの所まで、かな?」
「ふーん。」
村の外に出ても俺は黙々と街道作りの作業を続けていく。村人たちも村からは出て来ず、俺を見送るとイメールの方に向かって戻っていった。
俺は慣れてきたのもあって、北側の時よりも村から遠く離れたところまで作っていった。こうやって続けてれば、いつかアズライトまで簡単に行くことができるようになるかもしれない。
「ねぇ、そろそろ終わりにしようよ。村から離れすぎるのは良くないよ。」
シュリからストップがかかった。ずっと地面を見ながら作業していたから気付かなかったけど、視線を上げると周囲は薄暗く、森はかなり深かった。
「確かにちょっと調子に乗り過ぎたかも。ごめん、戻ろう。」
「うん、ここまで作れば充分だよ。」
俺たちが戻ろうとしたときに、ガサガサと森の中から音がした。シュリが一瞬で剣を抜き俺の前に立った。俺も訓練で教わった通りにシュリと背中合わせるようにして立って剣を構えた。
これまでに無い、他に誰も守ってくれず最前線に自分が居るという状況に剣を持つ手が震えてしまい、剣がカチャカチャと鳴った。
「ここに居て。」
そう言い残すとシュリは森の中に足を踏み入れた。取り残された俺は街道の見通しが良いところで、へっぴり腰で剣を構えたまま周囲に視線を向けていた。シュリは草を掻き分けながら森の奥へと進んでいった。
突然シュリの「えい!」「やぁ!」という甲高い声と、激しい草木の擦れる音が聞こえてきた。時折りシュリの姿が見えるが、こんな時に何もできない上に体が震えて足が動かない自分が情けないと思う。いつも周囲を強い人たちに囲まれていたせいで剣を抜く必要も無く、戦いを舐めていた事を改めて思い知らされた。
森の中の戦いはそんなに長い時間では無かったと思うが、俺にはとても長い時間に感じられた。体は強張り、何もしていないのに汗が滴り落ちていた。
シュリは両手に5羽の角ウサギの耳を掴んで戻って来た。
「はぁ……助かったよ。ありがとう。」
俺は力なく剣を鞘に戻して汗を拭った。
「角ウサギだからね。」
シュリは角ウサギを少し持ち上げると苦笑した。
「でも本当にシュリってすごいね。カッコいいです。いやカッコいいのも早くて見えなかったです。」と手放しで褒め称えたが、シュリは首を振った。
「私さ……、本当にコンプレックスの塊なんだよ。」
「シュリが?」
俺は驚いた。いつも凄い能力を見せられるし、気配りも良くできるからシュリからコンプレックスなんて言葉が出てくるとは思わなかった。
「そうだよ。私はCランクしかないの。Cランクが4つ。衛兵としては最低水準なのよ。」と寂しそうに笑った。俺はシュリにかける言葉が見つからず黙っていた。「だからCランクの中では良い力が出せるように頑張ってきたよ。でも角ウサギやゴブリンみたいな弱い魔獣にしか通用しないの。オーガやロックバードには何も通用しなかったし。」そしてハァとため息をついた。
「ねぇ、コーヅくん。もし王都に行く事になったら私を護衛に選んでもらえないかな?私じゃ戦力にはならないけど他の事で役に立てるように頑張るから。お願い!私は戦い以外で役に立てる衛兵になりたいの。」
何時にないシュリの真剣な眼差しに戸惑いを覚えたが、その気持ちには答えないといけないと思った。
「もし……王都に行く事になったらシュリと一緒じゃないと絶対に行かないって言うよ。」
「あはははは!何か変な勘違いを生みそうだけど。でもよろしくね、ありがとう。」と笑いながら目尻を指で拭っていた。
角ウサギの解体は村に戻ってからやるので、シュリから角ウサギを受け取ったが、中型犬くらいの大きさなので5羽もいると重たかった。そして血が滴る角ウサギの死骸を持って新しい街道の上を歩くのは嫌なので街道から外れた土の部分を歩いた。
「折角作った街道を歩けばいいのに。歩きやすいよ。」
「嫌だよ。折角綺麗なのに血で汚したくないし。」
そして村に戻るとショーンやティアが門の辺りで待ち構えていた。
「コーヅ、僕たちが居ないのに村の外に行ったら駄目じゃないか。」
「シュリに守ってもらってたから大丈夫。」
「そうだよ。守ってあげたついでに夜のご飯も手に入れてきたよ。」
ショーンはやれやれと言った顔をして「僕が解体してくるよ。」と俺から角ウサギを受け取り村の外に出ていった。
「全く呆れる程の魔術ね。」
ティアが街道を指して言った。俺は『爆炎のティアさんには敵いませんよ。』という言葉が喉から出かけたが、それは身の安全のために飲み込んだ。
俺たちはイメールの様子を見るために村に入っていった。イメールは村の真ん中辺りまで来ていたが、その後ろには綺麗な幾何学模様の街道が続いていた。
「何これ!?」と驚いたティアが目を見開いた。そして俺の方を向いて「ドンマイ。」と憐れむような表情で肩に手を置いた。
「なんだよ、それ。」と返したが、俺もその精巧なデザインに驚いた。後ろに続くただ真っ白い石の街道とは大違いだ。
「これはコーヅの街道ってよりイメールの街道って言われちゃうかもね。」
「むしろイメールの名前で残った方が良いよ。俺はずっとこの世界に居たいわけじゃないんだし。」
「そっか、それもそうね。」とあっさりと納得してくれた。
「で、今日のコーヅくんの仕事は終わり?」
陽も傾いてきていて、森の中からは涼し気な虫の声も聞こえ始めている。でもまだ明るいから、もう少し作業はできそうだと思った。
「えっと、できたら集会所の場所を確認しておきたいな。」
「まだ働くの?」とティアに呆れられた。でも領主が来るのが明々後日なんだから少しでも仕事を進めておかないと気になっちゃうし。
俺たちが村長を探していると、村人たちと一緒にイメールの傍で覗き込むようにして作業を見ていた。
「村長、集会所はどの辺りに作ったらいいか教えて貰えますか?」
「おお、コーヅさん。既に村の端まで街道を作っていただいたと聞きましたが、早速集会所も作ってくださるのですか。」と言うと、こちらですと北側に向けて街道を歩いた。
「本当に歩きやすいですし、綺麗です。我々には勿体ないものです。領主様もさぞかし驚かれるでしょう。」
でもここまで歩きやすくしたのはイメールなんだよな。足元は踏みしめるのが申し訳なくなるような綺麗な模様が滑り止めの役割をはたしている。
村長に連れてこられた場所は北側の内壁と外壁の間だった。大きく開けた場所を指して「この辺りでお願いします。」と言われた。
俺はその広場を見て構想を練りはじめた。こんなに広い場所に屋外集会所を作る……。
領主が登壇すると目の前には村中の人や衛兵が客席で待ち構えている、そんな光景をイメージをした。
そしたら屋外ステージの様にして客席を扇形で階段状にするといいよな。
やり過ぎかな?……いや、驚かせるなら徹底的にだよな。俺はやると決めた。
全体の大きさを決めるためにまず床部分を作り始めた。「ステージはこのくらいで……」などとブツブツ言いながら基礎から床を作り続けた。
そして全体の床を作り終えた頃には陽も落ちていて周囲が見え辛くなっていたので「ここまでかな。」と呟いて、村長やシュリを探そうと辺りを見回すと、見知った顔と一緒に地べたに座って待っていた。
「やっと終わった。」とティアが欠伸混じりに立ち上がった。
「コーヅくんの仕事好きも飽きれるね。」とシュリが両手を前に伸ばしてから、立ち上がった。
「僕もこの真面目さは見習わないといけないなと思うよ。」とショーンが立ち上がった。
「僕はまだ残ってますけどギブアップして戻ってきましたよ。」とイメールはため息混じりに立ち上がった。
「まだ信じられませんよ、一日で街道がここまでできるなんて。それにこれなら明日には集会所までできてしまいそうだ。」とロビンが首を振りながら立ち上がった。
「コーヅさん、イメールさん、本当にありがとうございました。こんな立派な街道ができて我々は感謝の念に堪えません。」と村長も立ち上がろうとしたが、よろけてしまいロビンとイメールに立たせてもらっていた。
「やめてください。俺は言われたからやっただけで、そんな立派な志でやってないですから。」
「それでも俺たちはコーヅさんやイメールさんには感謝しかないですよ。」とロビンは笑うが、俺は言葉通りに受け取れず苦笑いで返した。
俺たちは村長やロビンと別れると食事に向かった。
「お腹空いたー。」
「僕もお腹がずっと鳴ってます。」
そんな話をしながら、すっかり暗くなった街道を歩いて野営地に戻ると、そのまま配膳場に向かった。既に待機列が無いどころか配膳の人たちも食事を終えて暇そうにしていた。
「おい、コーヅ。」
タイガーの声に振り向いた。
「なんでしょう?」
「街道は終わりか?」
「イメールが仕上げてるとこです。ね、イメール?」
「はい、明日には終わらせます。」
タイガーは頭をガシガシと掻いて「いや、とても喜ばしいことなんだけど、……お前ら凄えな。明日も引き続き頼む。」そう言い残すと去っていった。
それから食事、風呂を済ませると、いつものように大浴場の入口で別れて一人になった。
そしていつもの草の上に寝転がった。見慣れてきたが空には満天の星空が広がっている。しばらく眺めていると星が流れていった。
「王都か……。」
シュリの言葉を思い出してポツリとこぼした。いつかは行かないといけないし、行く事になる気はするけど。俺は首を振った。まだそんな先の事を考えても仕方ない。今はまだやれる事をやって、実績を積み上げていく事が大切だ。
俺は目を閉じると、「おやすみ。」と妻と息子に呟いて眠りについた。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございます。
次回も1週間後で2/15(火)の投稿を予定しています。
またお時間がある時に読みに来ていただけると嬉しいです。




