第65話 仕上げ担当はイメールを指名
ご訪問ありがとうございます。
ちょっとあらすじを手直ししました。
毎日文章を書いていると少しずつ成長するものですね。少しマシになった気がします。
これから村の東側に外壁を作っていくが、ここも森との境界ギリギリの場所となる。太陽はこの世界でも西の方に落ちていくので、森の外には日陰ができないし、森の中にも光が注ぎ込まれるかたちとなり深い森から受ける恐怖心も心持ち和らぐ。
外壁作りの進め方はこれまでと同じだ。今回はイメールに手伝ってもらって北から南に向けて線を引いていく。
「線を引くだけでも大変なのに、ここにあれだけの壁を作るって本当に凄いですね。」
「自分でも体のどこにそんなものを作り出す力があるんだろう、っていつも不思議に思ってるよ。イメールはこういう石は作れるの?」
「こんな大きなものは作れないですけど、まぁ……。」
歯切れ悪くイメールが答える。大きさというか作り出す量には自信が無さそうだ。
「例えば北の外壁に穴を開けて門を作ることはできる?」
今は街道から人が来ない想定で二面を水晶で覆ってしまっている。でもこのまま四方を囲ってしまう訳にはいかない。だから人が出入りするための門をイメールに作って貰いたい。
「それならできると思います。」
「本当に?それならお願いしていい?」
任せられるところは任せて自分自身の負担を減らしたい。イメールができるならお願いしたい。
「僕がですか?」
「うん。」
「でも……。」
イメールは乗り気ではなさそうに俯き加減に答えた。
「ごめん。嫌なら無理にとは言わないから。」
「いえ、嫌ではないんですが。」
顔を上げて答えるイメールからは焦れったさを感じてしまう。それはティアも同じだったようだ。
「もう、じれったいわね。」
森の方からティアが会話に入ってきた。そしてイメールの方に歩み寄ってきた。
「イメール。あなたのそういう所は直した方が良いわ。あなたはやるの。やり切るの。分かったわね?」と有無を言わせぬ迫力で迫った。その勢いにイメールは一歩下がると「は、はい!やります、やり切ります。」と答えた。
「そう。それでいいの。」と満足げにティアは頷くと、また森の伐採の作業に戻っていった。ティアもシュリも伐採の作業をしつつも、こちらの細かいことまで気にかけてくれていたようだ。
そしてこの頃には休憩を終えた人たちも戻ってきて俺の周辺で伐採をしながら守ってくれていた。
地中に基礎を作っていく作業は1人で実施する。手を地面につけて魔力を流す。移動して流す、という事を繰り返して基礎を作り上げた。
「お疲れ様でした。何してたんですか?」
作業が途切れたときにイメールが近寄ってきて質問をしてきた。
「これは壁が倒れないように地中にも壁を作ってたんだ。深くまで作った場所と浅く作った場所があるよ。深い方が安定するけど、魔力消費大きくて大変だからね。」
「へぇ、そうなんですね。勉強になります。」
そんなキラキラした目で見られると、本当は疲れて休みたいんだけど、ちょっとだけ格好をつけたくなって頑張ってしまう。疲れてない顔をして魔力回復薬を飲んだ。
「よし、ここから壁を作っていくよ。もうだいぶ陽も傾いてきたからね。急ぐよ。」
俺は自分に言い聞かせるようにして言った。
北側の壁に繋げるようにして1段目を作り始めた。
魔力も回復したし、作業ペースを上げる為に放出する魔力量を増やした。
太陽が森に掛かりそうな位置にあって綺麗な夕焼けを見せてくれている頃に1段目を作り終えた。
さすがに疲れた……。もう気力と集中力の限界です。
俺は1段目の壁に寄り掛かるように座り込んだ。紅く染まりかけた空を鳥が通過していく。巣にでも帰っていくんだろうか?
俺は腰から携帯水道を取り外すと口を付けて水を飲んだ。冷えた水が疲れて火照った体を内側から冷やしてくれる。
「凄いですね。こんな速度でこんなに厚い石を作っていけるなんて。」
イメールが隣に来て座った。
「こればっかりやってるから慣れてきたからかな。でも今日は疲れたよ。」
「だって食事してからほとんど休んでないじゃないですか。」
イメールと休憩がてらの雑談をしていると、辺りはあっという間に濃藍色へと姿を変えてくる。
あと少ししか作業時間は取れないな。
俺は最後のひと踏ん張りして外壁の2段目に着手するために「よっこらしょ」と立ち上がった。
「もう暗くなっちゃうからね。最後もう少しだけ頑張るよ。」
そう言い残すと俺は1段目を駆け上って2段目を作り始めた。勢い良く魔力を放出して石を重ねていく。途中で魔力不足からかフラッとしたが、それでもこの世界に来たばかりの頃のように瞬間的に魔力が切れるようなことにはならない。
やがて空に星が広がってきて手元が見えにくくなると、作業を切り上げて外壁から飛び降りた。
「お疲れ、コーヅ。俺らも疲れたよ。お前は毎日こんな働き方してるのか?」
先に伐採を切り上げた衛兵たちに声をかけられた。
「今だけですよ。今朝も死にそうになりましたし。でも村の3面を囲う事ができれば結構安心できるじゃないですか。」
「確かにそうだな。壁の完成まではあと2日くらいか。頑張れよ、明日も手伝うからさ。」
「ありがとうございます!」
「いいって事よ。俺たちも今だけだよ。」と言って笑うと衛兵たちは南門の野営地に向かって戻っていった。
俺は作業を止めてからは続けて伐採している人たちの様子を眺めていた。黙々と木を切り倒していく。よっぽど俺より働いてると思うけど。
やがて本当に暗くなってから作業の手を止めて戻ってきた。
野営地に戻ると、北方に向かっていたヴェイたちが戻ってきていて焚火の近くでタイガーと話をしている。
何の話をしているかは分からないけど、淡い火に照らされたタイガーの表情は険しい。あまり良くない報告だったのかもしれない。でも俺は俺の仕事をやるだけだ。明日も頑張るけど、今日のところはもうやる気スイッチは切った。
「おい、コーヅ。」
話をしているタイガーの横を通り過ぎようとしたときに呼び止められたが、その意味を理解して立ち止まるまでに2歩分かかった。
「……はい?」
少し腑抜けた声を出してしまった。
「ちょっとこっちに来い。みんな来い。」
俺たちはタイガーの方に向かって歩いた。
「どうしました?」
「オーガの住処が見つかった。山肌の洞窟だ。お前さんだったらその洞窟の入り口を塞いでしまえるんじゃないかと思ってな。」
「近くまで行ければ塞げると思いますけど……。」
ただあんな恐ろしい魔獣の住処に行くとか、そっちが無理だって。そんな心の声をささやかに表情に出してみる。
「なんだよ、心配すんなって。」
「俺たちが守ってやるさ。」
フェルディナントやトーマスに心の声は届いたようだけど、分かってはくれなかった。そうやって守ってくれるはずが、突破してきたんじゃん。こん棒を振りかぶったオーガの姿が脳裏に浮かび背筋がゾワッとする。
「それとも俺たちが信用できないか?」
「いえ、そんなことは無いです。」
その言い方はずるい。周囲にばれないような小さなため息をついて、俺はささやかな抵抗を諦めた。
「それでいつ行くんですか?」
「明日だ。明日の早朝出発だ。」
まじか!?人使いが荒いなと思ったが、これ以上考えることは止めて「分かりました。」とだけ答えた。
「タイガー隊長。行くのはコーヅだけですか?」
ショーンは前のめり気味に暗に連れていけと要求している。ティア以外はそんな雰囲気を醸し出してタイガーを見ている。
何でそんなにやる気なんだろう?俺には理解しがたい感覚だ。
「いや、お前ら全員だ。お前らにはコーヅについていてくれ。……あ、いやイメール、お前は明日帰る予定だったな。どうする?」
「僕も行かせてください。」
「分かった。他の者たちもいいな?」
「はい!」
ティア以外がやる気に満ちた返事をした。ティアは一人で渋い顔をしている。
「よし、行っていいぞ。」
俺たちは拳を胸に当てて一礼してその場を離れた。そして少し離れた所で立ち止まった。
「びっくりした。私、選抜隊に選ばれる事が無いからちょっと嬉しいな。今度は絶対にコーヅくんを守るよ。」
「僕も初めてなので精一杯コーヅさんをお守りします。」
「私はあんまりこういう時って良い思い出が無いから行きたくない。」
前向きなシュリとイメールとは真逆な反応のティアだ。
「洞窟の入り口を塞いでしまうという作戦はコーヅが居ないと成り立たないけど面白いね。でもどれだけのオーガが住処に残っているかな。外に出ているオーガも居るだろうし。」
ショーンの頭はすでに多く明日の作戦に向いているようだ。そしてその考えにみんなが頷いている。
「続きはご飯食べながらにしない?」
俺は疲れたし、今日は早く寝たいから、みんなを促して食事を取りに向かった。
配膳場所でまとめて皿に盛り付けてもらうと、それを持ってテーブル席を見回すが、どこも一杯だった。どこのテーブル席も賑やかに食事を囲む衛兵たちで溢れている。食事半分、会話半分でしっかりと根を生やしている。席は簡単には空かないように見えた。
また空いている場所にテーブルセットを作ろうかと考えていると、ティアに「床に座って食べたっていいじゃない。コーヅは少し休む事も考えなさい。」と先回りして止められた。
「あ、うん。分かった。ありがとう。」
俺たちは床にぐるっと丸くなって座って食べ始めた。
「ねぇ、何で明日出発なの?もう1日あれば村の3面を囲うことができて、もっとこの村を安全にできるのに。」
俺の素朴な疑問をぶつけてみた。
「相手の体勢が整ってないから攻めるなら今って判断だと思うよ。」というのがショーンの考えだ。
「そうね。もう2面は守れてるんだから。これで村に被害を出すようじゃ衛兵失格よね。」とティアはなかなか厳しい事を言う。
「そうなのか。まだその辺りの感覚はよく分からないな。」
分かる様になりたいとも思わないけどね、とは言わなかった。
「それにしてもコーヅはもう選抜隊に選ばれるなんて凄いよね。僕は3年かかったよ。」としみじみとショーンが言った。
「本当に。魔術が使えるようになって1か月も経ってないのにね。」
ティアはそんなに興味無さそうに唐揚げを頬張りながら言った。
「これだけすごいともう嫉妬する気にもなれないよ。」とシュリが首を振る。
「俺は自分の身も守れなくて、みんなも一緒じゃないといけない訳だし半人前以下だよ。」
「僕も今回が初めてでしたが、居ても居なくても良さそうなおまけ扱いでした……。」というイメールの悲壮感が込められた呟きには誰も触れることができずにスルーしていた。
「ねぇ、他にどんな人が参加するの?」と俺は話題を変えた。
「えっと、作戦内容によって変わるけど。そうね、多いのはフェルディナントさん、ヴェイさん、アレッシオさん、フィリッポさん、ブルーノさん、エトヴィンさん、コンラートくんとかかな。」とシュリが教えてくれた。
ヴェイは警護してくれているのでわかる。フェルディナントさんは話したこと無いけど緑分隊長だから分かる。他の人たちは分からないな。
その後も雑談をしながらゆっくりとした食事の時間を過ごした。その時間の後半には欠伸が出るようになっていた。
「よし、明日は早いし、そろそろお風呂に入って寝ようか。」
「うん。そうだね。」
俺たちは立ち上がって食器を片付けに行った。食器を水ですすぎ空間収納袋にしまっていく。
「よし、お風呂に行こうか。」
片付けを終えると、ショーン、イメールと男湯に入っていった。今日もそれなりの人数がいるようで話し声が更衣室まで届いてくる。俺たちも鎧を脱ぎ捨てると浴室へ入っていった。
「よう、コーヅ。」
浴槽に浸かっているジュラルに声をかけられた。その隣にはトーマスも居る。トーマスは青分隊長でジュラルとペアで転移してきたばかりの俺を警護していてくれていた人だ。
「こんばんは。」
「選抜隊に選ばれたんだってな。おめでとう。でも浮つくなよ。生きて帰る事が一番大事だからな。」
「生きて帰ってこれればそれだけで丸儲けだ。無理はするな。」
ここの人たちは本当に優しい。そんな人たちの為に命を懸ける……まではいかないけど、できる範囲で頑張ろうとは思う。
「分かりました。肝に銘じます。」
「それにお前が居ないとアズライトに大浴場が作れないからな。もう俺は風呂無しでは生きていけないよ。」
ジュラルは俺が転移したばっかりの時には風呂は要らない派だったから、上手く取り込み工作に成功した形になる。腑抜けたジュラルの顔を見ながら俺は内心でほくそ笑んだ。
「コーヅ、俺は忘れてないぞ。」
トーマスが思わせぶりな事を言ったが、はて?記憶に無い。俺がトーマスと何かの約束をしたということか?
考えても思い出せないので、トーマスの次の言葉を待った。
「コーヅは俺の家に風呂を作ってくれるって言ったよな?」
「はあぁぁぁ!?」
その場に居合わせたみんなから一斉にツッコミの声が上がった。その声は浴室に反響し女湯へも響き渡ったようで「なに?」「どうしたの?」という女性の声が聞こえてくる。
「おい、コーヅ。どういう事だ?何でトーマスなんだ?」
「別に作るのはそんなに大変じゃないので。」
「おい、なら俺の家にも頼む。」
「まずはウチだろ、な?な?コーヅ。」
「いや、お前じゃないだろ。」
「おいおい、何の話してるんだ。うるせぇな。」
タイガーが前も隠さず威風堂々と風呂に入って来た。ナイスなタイミングだ。
「コーヅがトーマスの家に風呂を作るって話しててよ。ウチにも作ってくれって話をしてたところだよ。」
「なんだそんな事か。コーヅはまず俺の家に風呂を作る。その後がトーマスか?それだけの話じゃないか。」
「ちょっと待ってくれよ、隊長。」
「そんなの無理に決まってるだろ。お前ら衛兵が一体何人いると思ってるんだ?」
タイガーはバサッと切って捨てようとする。
「作るのは大丈夫ですよ。1日に何か所も行けないので少しずつになりますが。」
「分かった分かった。そしたら抽選会だな。アズライトに戻ったら抽選会だ。いいな?お前らもコーヅも。」
「おう!」
「絶対当ててやる。」
「マジで欲しいわ。」
俺はもうこの件はタイガーに任せた。俺はタイガーに流されるままになろう。
話がまとまると先に入っていた人たちがゾロゾロと風呂から上がっていった。そしてシャワーを浴びたタイガーが浴槽に浸かった。
「ゔおぉぉぁぁああ!」
タイガーの魂の叫びは変わらずで、女湯からは「ひぃ」「ひゃあ」という声が聞こえてくる。
「コーヅ。」
ほとんどの兵兵が出てしまい静まり返った浴室にタイガーの声が通る。
「はい?」
「怖かったか?」
タイガーは俺の方は見ずに聞いてきた。
「一瞬の事だったので、よく覚えてません。」
「そうか。あれがこの世界だ。慣れてくれ。」
「はい。」
「街を出てどこかに行こうと思えば、あの状況がいつも身近にある。」
「そうですよね。」
それは理解はできる。いつどこから魔獣に襲われないとも限らない世界ということだ。今の俺では森の中に1人で1歩踏み込むことすら危険が伴う。そしてその状況に1人で対処できるレベルには無い。
「今は俺が守ってやる事ができるが、アズライトを出ていく時には、お前さんも自分の身は自分で守れないといけないからな。」
「はい。」
「まずは明日だ。明日、一番大事な事は生きて帰る事だ。明日の作戦は失敗したって命があればもう一度挑戦できる。」
「肝に銘じます。」
タイガーは俺の答えに満足したのか薄っすらと笑みを浮かべて頷いた。
「ショーン!」
タイガーはショーンを呼んだ。少し離れて浸かっていたショーンが近付いてきながら「はい!」と返事した。
「お前も何のための近衛兵か。護るべき者を護れず近衛兵になれると思うな。明日は一瞬たりとも気を抜くな。」
「はい!」
タイガーは俺とは明らかに違うトーンでショーンには厳命した。そしてショーンの返事を聞くと、お湯を両手で掬うと顔の汗を洗い流した。
「ま、明日は頼むな。奴らに撤退は無い。俺たちを待ち伏せて襲ってくる可能性は充分にある。」
続いてタイガーは「イメール!」と声を上げた。
「は、はい!」
イメールはどもりながら返事をするとジャバジャバと浴槽を歩いてタイガーに近づく。そして立ったまま話を聞こうとした。
「おい、粗末なものを俺に向けるな。風呂に浸かってろ。」
「は、はい!すみません。」
慌ててザブンと風呂に浸かった。その勢いで浴槽からお湯が溢れ出た。
「お前はまず自信を持つことだ。お前が何で前衛班に居られて、何で明日呼ばれたのか。それは俺はお前を評価しているからだ。」
「ありがとうございます。」
「明日は自信を持って、細心の注意を払ってコーヅを守れ。」
「はい!」
イメールの返事が浴室に響いた後、、少し静寂な時間が流れた。隣の女湯からは楽しそうな話し声や笑い声が聞こえてくる。
「俺はしゃべり過ぎた。先に上がるぞ。明日は早い。早く寝とけよ。」
「はい!」
俺たちも充分に温まったので、タイガーと一緒に風呂から上がった。
そして風呂の入り口で別れてそれぞれの寝床に向かった。床で寝ている人も居るし、木材を背もたれにして寝ている人も居るし、好みは様々だ。俺は柔らかい草の上が指定席だ。
草の上に寝転がると草や土の香りが鼻をくすぐってくる。そして星で埋め尽くされた空が目の前に広がっている。
本当に綺麗な星空だ。……でも明日はオーガの住処に挑むのか。あの恐ろしいオーガが何体もいる住処。いくら護ってくれると言われても、考えるだけで身震いしてくる。
ふと怖くなって体を起こした。辺りを見回すと焚火の辺りでは談笑している衛兵、そして壁の上から森を警戒している衛兵、そして歩哨に立つ衛兵たちが村の周囲を警戒している姿が見える。
しばらく彼らの姿を見ていると護られている安心感が湧いてきて眠気が襲ってきた。改めて寝転がると重たい瞼が垂れ下がってきて、そのまま寝ついた。
最後まで読んてくださり、ありがとうございました。
次回は11月25日(木)の予定です。
また時間ある時に覗きに来てください。お待ちしてます!




