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第263話 従魔とは

 ニ聖女にこれ以上絡んでも仕方ないので、黙ってベルの横腹を撫でていた。

 オルデンブルクの屋敷へ帰る道中も街の人たちは少し離れたところからついてきて、すごい行列になっていた。そしてイザベラに向けて熱い視線や声を飛ばし続けていた。

 しかし段々とイザベラはそれらに飽きてきているように感じられた。いや、このだるそうな表情は絶対に飽きている。

「代わってよ。」

「無理だよ。」

 イザベラは面倒くさそうにだったが、オルデンブルクの屋敷近くの、人がついてこなくなるまで聖女を演じきっていた。

「はぁ……。面倒臭かった。」

「なら、やらなきゃいいのに。」

「私だってたまにはチヤホヤされたいのよ。でももう今日はいいや。今日は聖女禁止で。」

 イザベラは疲れ切った声と顔を向けてきた。今日だけというのが我儘であり、図々しいところだと思う。


 屋敷に着くとすぐに食堂に連れて行かれた。

「ハッハッハ!」

 大聖堂での顛末を話すとオルデンブルクが屋敷中に響き渡るほど豪快な声で笑った。

「私はその気持ちが分かるな。」

「マルケス様が?」

 イザベラが不思議そうに見た。

「こんな親父だろ?みんな親父に話しかけるし、私なんて誰にも相手にされなくてね。今だってそうだよ。」

「へぇ……。悩みなんて無さそうに見えても、みんなあるものなのですね。」

「こらこら、言い方。」と俺はすぐに咎めた。

「ははは。良いんですよ。」

 マルケスの浮かべる笑みはある意味達観しているようにも見える。でもあの圧倒的な存在感の前には普通の人なんて無に等しい存在に思えてしまうと思うので、そうやって自分の心を守らないと壊れてしまうのかもしれない。

 そんな会話をしながら食事に手を付けた。昆布だしの奥ゆかしい風味を感じられる。

「むぅ、やはり旨くなったと思う。どうじゃ、マルケス?」

「俺もそう思うよ。やはりコーヅ殿の知恵と言うものは尊いですね。」と俺の方を見た。

「いえ、どれも中途半端な知識なので……。」

 専門知識が総務に偏っている俺の知識なんて大したことはない。

「そう言えば今日はホビーが考えた料理が出ると言うのは知っておるか?」

「ホビーの?」

 ホビーが料理?それには全く心当たりがないが、きっと俺から流れ出た知識で何かをするのだろう。ふとリーサと目が合うと微笑んで頷いた。どうやらリーサはそのことを知っているようだ。本当に誰の従魔なのか分からなくなってきている。

 知識を手に入れたにせよ、ホビーに料理の才能があったとは。どんな料理が出てくるのか楽しみだ。


 いよいよメインディッシュというところでホビーが椅子から下りた。そして得意気に料理長のクラウスの方へ歩いていった。

「これから、みなさんにたこやきを、おめしあがりいただきます。」

「たこ焼き!?」

 俺は思わず声を上げた。何でホビーが……?教えたっけ?いや、教えてなんていない。そもそも俺が作り方なんて知らないし。あ、いや、ただタコを焼いただけかもしれない。俺の頭の中は色々なものが渦巻いた。

 やがて料理人たちが入ってくると、あの懐かしい香ばしいソースの香りが届いてきた。これは間違いなく俺が知っているたこ焼きの匂いだ。しかしボール状になるようなたこ焼き器なんてものは無いから、平べったく作られている。

「ホビー、これって……。」

「コーヅのきおくだよ。ぼくもなにかつくりたいな、っておもってたら、コーヅからながれてきたの。」

「そうなのか。知識が流れるってのは知ってるけど、最近全然そういうの無かったじゃん。」

「あるよ。いってないだけで。だって、まんしょんとか、かいしゃとか、なんのことかわからないしさ。」

「マンション!会社!」

 ホビーから思ってもみない言葉が出てきて驚いた。

「だから繋がってるんだってば。それにあんたたちは2人とも心属性がBランクだから繋がりが強いんだって。」

「知ってるけど、俺はあんまり感じることが多くなかったから。」

「そりゃ、ホビーからなんて元々得られることは少ないし、感じようともしてないんじゃない?」

「……そうかもしれない。」

 確かにホビーに寄り添ってホビーと繋がるということはあまり考えたことはなかったかもしれない。それにしてもホビーの実現力には驚いた。でもこれって俺が作らなくてもホビーが記憶から再現できるってことだもんな。そういうものが増えてくれば、俺がいなくなってもホビーの地位が守られることに繋がるのかもしれない。

 そしてホビーが作ったという熱々のたこ焼きを口にすると、口の中を火傷しそうになったが、ふわとろで味の濃いソースと合ってとても美味しかった。

「ハフハフ……。ホビー、この食感は蛸かの?」

「はい。」

「これは新年の祝いの場に出さねばな。」とオルデンブルクはマルケスを見た。

「ほうらね。あほてクラウスと相談しておくよ。」とたこ焼きを熱そうに頬張りながら答えた。

「この味わったことのないソースが絶品ですわ。」

「あー、美味しさの秘訣はソースよね。」

 みんなからも一様に好評だった。

 そして一躍今夜の主役となったホビーは食後も意気揚々とクラウス、マルケスと調理場に戻っていった。

「さてと、私も治療に行こうかな。」とシュリはすっかり日課となっている治療のために、ティアと調理場に向かった。

「私もおこぼれに預かろうかな。」とイザベラは用もなく調理場に向かっていった。

「たまにはゆっくりとさせていただこうかしら。」とリーサは部屋に戻っていった。

 いつもなら誰かしらに声をかけられるんだけど、みんなそれぞれやることがあり、気付くと食堂にはオルデンブルクと2人だけになっていた。

「コーヅ殿、久しぶりに儂と稽古せんか。」とオルデンブルクに声をかけられた。

「はい、お願いします。」

 こういう機会に剣技を少しでも上達させないと強い相手には全く敵わないままだ。

 俺たちは玄関前に場所を移すと木刀を構えた。

 

 木刀のぶつかり合う音は夜遅くまで鳴り響いた。執事が終わりにするようにと呼びにきて、終わりとなった。お互いの体からは湯気がオーラのように立ち上り、汗は顎を伝って地面に滴り落ちていた。

「今日は随分と力が入っておったの。これからのお主は魔力任せではなく技術を学ぶ方が良いじゃろうな。明日からは一度基礎に戻るとしよう。」

 やはりこの辺りが魔力押しの限界なのかもしれない。俺は素直に頷いた。

 オルデンブルクは執事に渡されたタオルで顔の汗を拭うと屋敷に戻った。俺も持っていた木刀を戻すと汗を拭いながら部屋に戻った。

「風呂に行くけど?」

『ボク、イク。』

『ソレナラ、ワタシモ、イコウカシラ。』

 俺がスリッパに履き替えて部屋を出ると、その後ろからベルとサブルがついてくる。会話も無いまま廊下を歩いていると、あちこちから賑やかな声や物音が聞こえてきた。そんな賑やかな空間にいることが楽しく、自然と頬が緩んできた。


「ゔああぁぁぁぁぁ!」

 蓄積された疲労が声と共にお湯に流れ出ていくような感覚に陥った。

『ナニソレ!?ガアアアオォォォ。』と真似をしたサブルが可愛い声で吠えた。

『キモチイイワネ。』

「やっぱり森の中とかって風呂は無いよね?」

『アルワヨ。』

「そうなの?」

 俺は池か湖かと思い浮かべた。

『アナタ、ゼンゼンワタシタチヘ、アユミヨッテコナイワヨネ。』

「歩み寄る?」

『ハァ……。』

「どういうこと?」


 それからベルに従魔契約について教えられた。それは昔、聞いたことがあるような気もしたけど、忙しかったし忘れてた。

 心の繋がりからお互いの知識や感情の共有がされるという知っている話を改めて聞いた。

 俺からも薄っすらしか情報が流れてこないし、自分たちを理解されているとは感じないと言われた。

 そしてベルはここの居心地が良いから契約を解除しようとは思っていない事、そしてエルフを探したいなら自分から必要な知識を得ると良いという事を聞いた。でもエルフを探すために一緒に行くか、人間の街に残るかは決めてないとも言われた。

「一緒に行ってくれると心強いんだけど。」

 ベルはそれには答えなかったし、伝わってくることもなかった。俺は「サブルはどうなんだろう?」と浴槽で気持ち良さそうに犬かきで泳いでいるサブルの方を見た。

『……サブル。アナタハ、キョウカラ、リーサノトコロニ、イキナサイ。』

『イヤダヨ。』

『ガルルル……。』

 ベルが突然サブルに向かって牙を剥いた。サブルは驚いた様子で、ベルのご機嫌を取ろうと体に寄り添おうとしたが、ベルは牙を剥いて威嚇し続けた。

 やがてサブルは諦めたように、悲しそうな顔をして体を震わせて水を切った。そして何度もベルを振り返って悲し気な目を向けたが、ベルは視線を合わせようとしなかった。

 浴室を出る前にサブルは恨めしそうな目で俺を見た。

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