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第261話 引き立て役

 この街の大聖堂は地形を利用していて傾斜に埋まっているように見える。アズライトの聖く落ち着いた外観の大聖堂とは違い、創造伸の強さや偉大さを荒々しく表現しているような、この大聖堂はとても迫力があって恰好良いと思う。次に来る時には絶対にスマホを持ってきて写真に収めておきたい。

 そんな大聖堂には続々と咳をした人たちが集まってきていた。それも無駄に豪快な咳の人が多くてとても賑やかだ。

「ちょっとコーヅさん、あの人たちを黙らせてきて。」

 イザベラには耳障りなようで、不快な表情を浮かべていた。

「やるけどさ、大聖堂の中でやって寄付金を頂くのが良いんじゃないの?」

「おっ?何だか珍しくまともなことを言ってるね。その通りだよ、コーヅさん。さ、早くお金を巻き上げに……おっと、治療しに行きましょ。」

 ジョーは苦笑しているが、俺はもう何とも感じない。


 治療を求める人たちに混じり階段を上っていく、とはいかずベルの周囲には大きな空間ができていた。でもお陰で悠々と大聖堂の階段を上っていき、建物に入るとそこには祭司が3人待っていた。前に立っているのは体は大きいが杖をついている、とても柔和な好々爺で、そして片目に眼帯がされていた。それを後ろから2人の祭司がサポートしているような感じだった。

「ようこそおいでくださいました。」と言って皺くちゃな顔をほころばせた。俺たちは形式的な挨拶を交わすと、ゆっくりと歩く祭司の後ろをついて治療室へ向かった。ここはアズライトとは違ってとても賑やか……を超えて正直少しうるさいと思うくらいだ。ただでさえ響きやすい石の建物の中で遠慮なく大きな声で話をしては笑っている。患者に対する配慮など全く無さそうだ。


「こちらになります。」

 案内された部屋はアズライトと同じようなだだっ広い空間だった。しかし壁にはむき出しの岩がそのまま使われていて、この大聖堂の特徴が表れている。そして治療をする祭司や修道女、そして治療のボランティアのような人が壁際にいて、その前に患者が並んでいる。システムはアズライトと同じようだ。

「こちらでお願いします。」

 案内されたのは部屋の真ん中の席でやたらと立派な椅子だった。

「うおっ!?聖女様がいるぞ!」

 聖女?シュリ?と辺りを見回していると、俺は駆け寄ってくる患者たちに押しのけられ、イザベラの周りに患者たちが集まってきた。

「皆さん、危ないですよ。今日は私ではなく、この者に治療させます。腕は私が保証しますのでご安心ください。」

 今度は一斉に俺に視線が集まった。

「ではコーヅさん、お願いしますわね。ほはほ。」

 何がほほほだよ。まったく、とんだペテン師だ。

「お願いできますか?」と目の前にいた男性が一歩踏み込んできた。

「分かりました。」

 俺は男性の肩に手を置くと治療してから、体の状態を確認した。

 うん、問題ない。

「治りました。次……」

「はい!私で。」「俺だ!」

 後ろからどんどんと押されてきた。俺と言うよりも患者たちが潰されそうになっている。

「ちょ、ちょっと危ないです!押さないでください!」

「皆さん、落ち着いて!」

 しかし俺やジョー、祭司たちが張り上げた声は治療を求める人たちの声にかき消されてしまった。

 俺自身は身体強化すれば何の危険もないので良い。でも、それができない患者たちから苦しそうな声が漏れてきている。近くに見える年寄りは命の危険がありそうな程に苦しそうな顔をしている。そのまま今にも押しつぶされてしまいそうだった。

 本当にヤバい!

 老人を守るようにその後ろの患者を抑えるように手を伸ばした。しかし今度はその人から苦しそうなうめき声が漏れてきた。

 こんな状態でどうすれば良いんだ!?

「止めろって!」

 言ったところでどうにもならないのだが、叫ばずにはいられなかった。


 すると突然風魔法が俺たち全体を包んだ。皆は声も出すことができなくなり、風から身を守ろうとした。しかし、風が止むことは無く、外側の人たちから吹き飛ばされて剥がれていった。

「皆さん、私にこんなさせないでくださいませ。とても悲しいですわ。慌てなくても皆さんの無くなった指から慢性的な持病まで、悪い顔と頭以外は全て治しますわ。」とイザベラは悲しそうな素振りを見せながら、滅茶苦茶なことを言っていた。

「お、おい!聖女さまを悲しませるな。」

「みんな並べ!」

 あっという間に椅子の前に列ができた。

「ではコーヅさん、あとの事はお願いしますわね。」

 口調までそれっぽく演技している事にイラッとしながらも、イザベラに助けられたことは否定できないので黙って椅子に座った。

「おう、頼むぜ、兄ちゃん。」

「あ、はい。よろしくお願いします。」

 イザベラを見てにやけた顔を見せている男性患者の体の状態を診ると、背中に魔力の引っかかりを感じた。

「あの、背中……。」

「ゴチャゴチャ言わねぇで聖女様に言葉に従って治せよ。」

 雑な対応に苛立ちを覚えるが、それを顔に出していては総務は務まらない。深呼吸をして心を落ち着かせた。……つもりだったが、俺は不快感をヒールにぶつけて強く流していた。

「っつ!下手くそが。」

「治りましたよ。」とにこやかに答えた。そして「次の方、お願いします。」と失礼な男性を追いやった。

 次の患者も「頼むよ。」と視線も合わさずに言うと、イザベラに向かっては頭を下げて「聖女様、ありがとうございます。」と頭を下げた。

 立て続けの失礼な態度に釈然とはしなかったが、感謝されたくて治療しているわけじゃないんだから、と思い直して治療を続けた。


 何故か治療すれども列は全く短くならない。それもそのはずだ。他の治療者の前には人が並んでいない。全ての患者がこの列に並んでいて、もしかすると最初よりも列は延びているかもしれない。奥の壁にぶつかった列はそこから折り返してきている。

「聖女様、よろしくお願いします!」と次の患者が目の前に立った。そしてイザベラはというと穏やかに目を細めて微笑んでいる。

 くっそー、あれは絶対に眠たい顔だ。もしかしたら目は開いてるけど寝てるかもしれない。

「終わりました。」

「聖女様、ありがとうございました。」と頭を下げると寄付をして帰っていった。そしてまた次の人が目の前に立った。すると「お願いします。」と俺にも頭を下げてくれた。たまに礼儀正しい患者に当たるととても嬉しくなる。そういう人は丁寧に治療して送り出した。


 そんなことをひたすらに続けていき、全員の治療を終えられた。その頃にはすっかり大聖堂も光魔石で明るく灯されていた。

「聖女様、ありがとうございました。」と丁寧に頭を下げて帰っていく最後の患者である老女を見送った。もう他の治療者も患者の姿も無くなっていた。

「はぁ……。疲れた。」

「お疲れ様でしたわね。」

「見てないで手伝ってよ。」と文句をつけた。

「だって聖女のイメージが悪くならないようにしないとシュリに悪いじゃん。」と口をすぼめた。

「聖女じゃないんだから、そう言えばいいじゃん。」

「私だってたまにはみんなみたいにチヤホヤされたいのよ。」

「だからって……。」

 イザベラの引き立て役は御免被りたい。

「それに私は聖女なんて名乗ってないからね。」

「それは屁理屈。」

「まあまあ。」とジョーがなだめた。

 そこへ祭司たちが集まってきた。そして眼帯に杖をついている祭司が前に出てきて「本日はありがとうございました。また機会がありましたら、よろしくお願いします。」と頭を下げた。

「祭司様のお体も診ますよ。」

「いえ、私は結構です。これは創造神様に与えられた私への戒めなのです。」

「その体をお与になられたのも創造神様ですが、治す機会をお与えになられたのも創造神様ですわ。」とまだ聖女役を続けているイザベラが微笑んだ。

 祭司は少し驚いたような表情を見せた。そして少し考えたあと口元を緩めた。

「ほほほ。聖女様の仰る通りかもしれませんな。では治療していただくとしましょう。」

 知ってか知らずか、この好々爺祭司もイザベラを聖女扱いしていた。

「失礼します。」

 俺は肩に手を置くと体の状態を確認していった。見た目から悪そうな目と足腰以外は老衰的なものだ。大体把握したので、体に負担をかけないようなヒールを全身に流していった。

「ほう……。心地良いものですな。」

「この後、少し強くしていきます。」

 徐々に魔力を強めながら腰から下へ送り込んだ。歪な魔力の流れに、かなり長いこと足は不自由だったことを伺わせた。無理はせず、少しずつ違和の塊を削り取っていく。やがて魔力の通りが良くなり違和感も無くなっていった。

「足の具合はいかがでしょうか?」

 しかし祭司はジッと杖を見たまま硬直していた。長い間、杖生活だったであろう老人としては杖を手放すことはとても勇気が必要な様子だった。

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