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第253話 海賊……?

「聖女様、ありがとうございました!」

 治療を終えた女性はしっかりと立つと、深々と頭を下げた。一方でシュリは椅子に座ったままぐったりとして、疲れた笑みを女性に向けていた。

「暗いですし、送ります。」と言うと「私も。」とシュリも立ち上がった。

 既に陽は落ちて、屋敷の中も魔石ランプが灯されている。

「そんな!これ以上ご迷惑をおかけすることはできません。」

 言葉もすっかり治った女性が恐縮した様子で頭を何度も下げた。そして上着を着こむと玄関を急いで出ていこうとした。しかし俺たちは半ば強引に女性について、来た道を戻っていった。

 そして歩く道すがらに女性の仕事が流れ着いた海藻の処分と聞いて驚いた。しかし毎日凄い量が流れ着くので給料は安いけど仕事に困ることは無いそうだ。

 あんなに美味しい海藻を……。廃棄処分とは勿体ない。後でオルデンブルクにも詳しく聞いてみようと思った。

「ここで大丈夫です。」

 元の土産物屋の通りの入り口で女性が頭を下げると、通りを歩いていった。

「あれ!?アンタ!何で普通に歩けてるのさ?」

 声と体の大きな女性が声を張り上げた。女性は俺たちを指差すと何やら説明をしていた。そして「聖女様!ありがとうございました!」と大きく手を振った。

 シュリは声の大きさと、周囲からの視線に狼狽えながらも遠慮がちに手を振った。しかしベルが寄り添っているから興味本位でも近付いてくるような人はいない。

「帰ろう。」

 何となく居心地の悪さを感じて足早に屋敷に戻った。


―――


「この街はどうじゃ?」

 食堂で食事の到着を待っているとオルデンブルクに話しかけられた。

「美味しい海産物が最高です。」

「お主は本当に食べることばかりじゃな。」と呆れられた。

「海が綺麗に見える景色も良かったよね?コーヅくん。」とシュリにフォローされた。

「うむ。天気が良いと海が真っ青に輝くのじゃ。」と満足気に頷いた。

 そしてそこへ食事が運ばれてきた。どの皿にも魚や貝がふんだんに使われていて、食欲を刺激してくる。

「さぁ遠慮せず食べてくれ。」

 オルデンブルクの合図で夕食が始まった。俺はニンニクバターの香りに我慢ができず、貝のソテーをたっぷり盛り付けて貰った。

「もらい!」

 ホビーが隣からニンニクバターソテーのホタテをスプーンとフォークで持っていった。やることは変わらずクソガキだけど、動作は洗練されていて、そのギャップに吹き出してしまった。

「なに?」

「いや。好きなだけ食べな。」と俺は皿をホビーの方へ向けると、遠慮なく半分くらい持っていった。

 そしてメインディッシュはステーキだった。やはり魚介だけでは何か物足りないので、胡椒がふんだんにかけられた少々辛いステーキに舌鼓をうった。このステーキには毎度お米が欲しいと思う。港街なんだし、どこからか輸入してくれたら良いのに。

 そして今夜出された料理の中に海藻類が全く使われていなかったことに気付いた。

「あの……ここでは海藻は食べないのですか?」

「海藻とな?お主はあんな海のゴミを食べるのか?」

「美味しいと思うんですけど。」

「折角ですから、そのお話を詳しく教えていただけますか?」

 オルデンブルクに代わってマルケスが言葉を促してくれた。

「まさか儂らもゴミを食べる日が来るとは……。」とため息をついた。

 あんなに美味しいのに酷い言われようだ。

 俺は海藻の名誉を回復させるために、精一杯美味しい食べ方を説明した。サラダやスープ、パスタなんかへのアレンジ料理を提案した。本当はわかめごはんや味噌汁がオススメなんだけど、ご飯も味噌も無いもんな。


 食事を終えて部屋を出ようとするとオルデンブルクに呼び止められた。

「料理長とも話をしてくれんか?」

 用件は何となく想像がつく。海藻……いやオークカツサンドのことだろう。俺は頷いてそこで料理長を待った。

 すると片目に眼帯、そして片足が義足、それに豊かな髭というお手本のような海賊姿の厳つい男性が入ってきた。

 俺はまさかと思いながら会釈をすると、その海賊のような料理長が深々とお辞儀をしてきた。

「カツサンドは大変美味しゅうございました。オークカツの作り方を教えていただけますでしょうか?」

 見た目で判断する訳ではないが、ギャップを受け入れられないままに料理長に連れられて調理場に向かった。そこにはあらゆる材料が使いやすいように用意されていた。そして料理人たちもズラリと揃っていたが、揃いも揃って人相が悪く海賊団のように見える。そしてみんな分かりやすく怪我をして指や腕、足など欠損している人たちばかりだった。

 そういう人たちが気になりながらも、その材料の中から必要な幾つかのものを選んで、オークカツの揚げ方を教えた。そして試作と称してその場にいた他の料理人たちと沢山揚げていった。

 ザクッ

 歯ごたえが良く香ばしい衣に包まれたオークカツだ。これに塩から始まり、魚醤やソースで味を比べた。

「魚醤も美味しいですけど、ソースの方が合いますね。」

 でもあの女将のソースの方が深みがあってまろやかで美味しかった。

「しかし御館様のお持ちくださったソースの方が美味しいです。」

 料理長はどこか悔しそうだった。

「もっとオークカツに合うソースの研究をしなくてはなりません。」

「でも香辛料が高いんじゃないですか?」

「アズライトは内陸だから輸送費で高くなるのですが、ここは港街なので比較的手に入れやすいんですよ。それに私のツテもありますしね。」と言って不敵に笑った。

 ……やっぱり元は海賊なんじゃないか?

 それにしてもカツに伸びてくる手に指が無いものが多くて、気になって仕方ない。

「あの……怪我を治せるか試して良いですか?」

「怪我?誰か怪我したのか?」

 料理人たちは首を振るが、全員だろうと心の中で突っ込んだ。

 そして「ここに座ってもらって良いですか?」と半ば強引に料理長を椅子に座らせた。肩に手を置くと分厚い筋肉と力強い魔力の流れを感じた。絶対にただの料理人じゃないと確信した。

 そして魔力を流していくが、目や足は引っかかりどころか魔力が通らない。でもそれはそうだろう、無いんだから。

 Aランクは欠損した体も治せると聞いている。後は自分自身の技量の問題だ。

 まずは目の方にヒールを集中させた。

「熱い魔力を感じますね。」

 これは少々魔力が強くとも耐えられるってことだよな。見えないだけなのか眼球まで無いのかは分からないけど、ヒールを目に集中させて強く流していった。

「ぐっ……。」

 上手い人なら負荷は無いらしいのだが、俺の技量ではこうなってしまう。

 やがて魔力が目の周りも通るようになり、引っかかりも無くなった。

「眼帯を外してもらっても良いですか?」

 周囲はザワつくが、料理長は黙って眼帯を外した。

「おお……見えるぞ……!」

「はぁ……上手くいって良かったです。」とヒールが通用したことに安堵した。

「何とお礼を申し上げたら良いか。」

「まだ続きますよ。義足を外してください。」

「足まで……。」

 料理長が義足を外し欠損した左足があらわになった。

 俺は同じように右足にヒールを集中させていく。

「くっ……。」

 苦しそうな声が料理長から漏れてくる。しかし出力を落とすと治療に時間がかかるので、止められるまでらこのままの強さでいく。

 すると足が少しずつ再生し始めた。

「おお……。」

 周囲からどよめきが起きる。そして囲んでいる輪がどんどん小さくなっていく。その圧と体温を背中に受けながら治療を続けた。

 それにしてもAランクの生物属性魔力というものは本当に凄い。これって日本にも持って帰れる能力なんだろうか?

「これって聖人様じゃないのか?」

「いや十分に聖人様だろ!」

 料理人たちの余計な言葉が耳に届く。俺はパタリと耳を閉じて治療を続けた。骨、欠陥、神経、筋肉……色々な細胞を戻しながら伸ばしていくのは、魔力のゴリ押しをしても、とても時間がかかる。

 途中で何度も小休憩を繰り返しながらじっくりと治療を続けた。そして足先まで戻ったところで全身を確認した。どこか分からないけど内臓にも弱っているところがあったので治しておいた。

「終わりました……。」と俺は大きく息をついた。

 すると料理長はスッと立ち上がると「ありがとうございました。」と頭を下げた。そして顔を上げると「てめぇら!聖人コーヅ殿に教わったカツを街の名物にするぞ。今夜はしっかり揚げて明日は街中に配って歩くぞ。」

「おう!」

「分かったら、ボケっとすんな。とっとと揚げてけ!」と近くにいた料理人を蹴飛ばした。

「おう!!」

 料理人たちが一斉に散っていった。そしてここは海賊船の中か、という汚い指示の声が飛び交う。

 料理長の人柄が変わった。いや、隠さなくなっただけかもしれないけど。それは治療したら駄目な人だったのかと心配になる程だった。


 そして一斉に料理に取り掛かり放置された俺はしばらくそこで調理の様子を見ていたが、欠損した指が気になって仕方ないのでシュリを呼びにいった。ここの人たちは漁で怪我をして困っているところを雇ってもらったんだろうと信じて。

 コンコンコン……

 ここの屋敷では移動が自由なため一人でシュリとティアの部屋に向かった。そして事情を説明すると2人とも来るということになった。

「ティアまで来ると思わなかったよ。」

「あんたの魔術論を書物にして残さないといけないからね。勉強よ。」

 調理場に戻ると騒々しい声と揚げ物の香ばしい香りが漂っていた。

「すみません、治療したいので手が空いた人は順番に来ていただけますか?」

 しかし忙しなく働く料理人たちからは全く手が上がらなかった。もしかすると料理長の睨みがあるからなんだろうか?仕方ないので怖いオーラを出している料理長に話しかけた。

「彼女はオルデンブルク様から聖女という二つ名を貰ったシュリです。彼女が指の欠損の治療ができるか試させて欲しいのですが。」

「分かりました。」と言うと「おう、ケン。お前からだ。来い!」

「へい!」

 ケンがキビキビと走ってきた。そして「俺はサメに親指を食われちまって。」と右手を差し出した。

「ウツボだろ?」「蟹に切られたって聞いたぞ?ギャハハ。」と周囲の料理人が茶化した。

「てめぇらは黙って揚げてろ!」

 料理長の雷が落ちると一瞬静まり返り、すぐに仕事の会話に戻っていった。

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