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第240話 焼き魚

「よーし。」

 ムキになったリーサが落とした魚を掴むと、俺たちのところまで急いで走って戻ってこようとした。しかし川魚はツルリと手から抜けてポトッと落ちた。そして石の上でピチピチと体を跳ねていた。

「む~!」 

 珍しくムキになったリーサがもう一度川魚を両手でしっかりと掴むとひょこひょこと歩いてきて俺の足元に置いていった。そして「どんどんいくからね!」と次の魚を掴みにいった。しかしやはり魚はツルリとリーサの手から抜け出してしまった。

「き~!」

「頭を覆うようにして掴むと良いよ。」

 もう一度俺は見本を見せるように魚を掴み上げると、その魚が強く体を動かしてツルリと手から抜け出してしまった。ポトッと落ちてピチピチしている魚を見て「ぷっ。」とリーサが吹きだした。

「今のはたまたまだよ。」

 そう言うと俺は慎重に掴むと今度は落とさないように掴み上げた。

「でもそう言われても、難しいのよね。」と言いながら魚を捕まえるがやはりヌルッと抜け出してしまう。

「もう一回やってみて。」

 俺はジッとリーサの手の動きを観察した。すると手を重ねるようにして掴んでいた。元々小さな手だから、それでは逃げられやすくなる。

「もう一回やってみて。」

 リーサが魚を掴むと俺はその手の上から「こういう感じ。」といって包み込むように掴んだ。そして一緒にホビーの待つ場所へ持っていった。

「分かった?」

「う……うん……。」

 リーサは俯いたまま答えると、振り返って遠くの魚のところまで走っていった。

「きらわれるようなことをしたらだめだよ。」とホビーが心配そうに見上げてきた。

「してないよ。」

 その後はリーサもコツを掴んできて独力で川魚を持ってきてくれるようになった。

「もう良いかな。」

 俺はベルに終わりにするように伝えた。そして俺は積みあがってピチピチしている川魚を一匹ずつ捌いてから空間収納袋に納めた。

『スコシタベタイワ。』と言うとベルはその場で足を払うと跳ねた魚を口でキャッチしてそのまま飲み込んだ。

『ボクモ。』とサブルが言うとベルがサブルに向けて魚を飛ばした。するとサブルは前足で魚を抑えるとむしゃむしゃと食べ始めた。

「ぼくはいいや。」

 雑食のホブゴブリンのくせにすっかりグルメになってしまったホビーは食べることはせず、川で手を払い始めた。

「うわっ、冷たい。」と言いながらバシャバシャと洗ってから手を臭って「くさい……。」と顔をしかめた。そしてもう一度洗って臭いを嗅いで眉間に皺を寄せると、また川の中に手を突っ込んで洗うということを何度か繰り返したが途中で諦めていた。

 リーサは魚が捌けないので全て俺がやっている。リーサもホビーの隣で一緒に手を洗った後、適度な大きさの石に腰かけて俺の作業をジッと見ていた。その間、退屈そうなベルたちは大きな欠伸をするとその場に丸くなって眠り始めた。


―――


「終わったー!あー、疲れた。」

 俺は首を揉みたかったけど手が魚臭いのでやめておいた。そして川の水でしっかりと手を洗った。それでも魚の臭いは取れないけど。でも懐かしい臭いで何か安心するものがあったので、何度も嗅いでいた。しかしそんな様子に「コーヅってへんなの。」とホビーに白い目を向けられた。

 そして辺り一帯に広がる魚の生臭さを消すためにリーサが火魔術で燃やした。焼くと香ばしくなるけど、内臓は苦くて嫌いだ。ベルやサブルはジッと見ていたのでもしかしたら食べたかったのかもしれない。


 後始末を終えると、どれだけ入れても全く膨れない空間収納袋を担いで来た道を辿って野営地に向かった。

「それにしても大量だね。さすがベル。」と隣を歩くベルの背中を撫でた。

『ワタシガイチバンタベルシ。』

 あっ、自覚はあるんだ。それなら今後もこうやって狩りを手伝って貰おう。

「どうじゃった?」

 野営地に戻るとオルデンブルクは待ち侘びていたように木刀の素振りを止めて歩み寄ってきた。

「沢山獲れましたわよ。」

「そうか、では早速焼くかの。」とオルデンブルクはニッと笑みを浮かべると集めておいた棒を持ち上げて見せた。

 

 パチパチ……。

 焚き火を取り囲むように突き刺してある魚がこんがりと焼けていく様子をみんながジーッと見つめていた。ほのぼのした温かな空気が辺りを包んでいて、とても心が安らぐ時間だった。

「そろそろ良かろう。」

 オルデンブルクが焦げ目のついた魚を取り上げると、いつものように創造神に感謝を捧げてから口に運んだ。

「あふっ、あふっ。これは……旨いのぅ……はふっ。」

 それを合図にそれぞれが自分の前にある魚を取って食べ始めた。

「熱いから気を付けて。」

 俺はそう言いながらベルとサブルに棒を抜いたホクホクの魚を目の前に置いた。

『ハフッハフッ……。アツイケドオイシイジャナイ。』

『ホントダネ。』

 あれ?猫舌じゃないのか。熱々の焼き魚を食べている2匹を見て内心驚いていた。

 そんなサーベルタイガーの親子のことは良いとして、俺も美味そうに焼けた魚にかぶりついた。それはただ塩を振っただけの川魚だけど、これは本当に美味しい。蛋白な味わいにシンプルな塩味がとても合う。普段肉料理が多いから余計に魚の美味しさが身に染みる。俺は沢山獲れたからとどんどん焼いていった。

 みんなのお腹が満たされてくると、明日がオークのテリトリーになるので注意が必要という話になった。知能が低くて強い魔獣にも腕力と数で立ち向かう、とても厄介な存在だそうだ。その上、これまでさほど気にならない登り坂だったが、急勾配な山道になるらしい。先の方に見えているあの山を越えるということだろう。

 そんなオーク対策の話をしているうちに夜が更けていった。


 既にサーベルタイガーの親子は焚き火の近くで眠っている。そしてホビーもサブルと一緒にベルに包まって眠っている。ベルがホビーにも母親のようにふるまってくれていることがありがたい。

「あいつらは本当にキモイから絶対にテイムしないでよ。」

 ティアが他の人にも聞こえるように言った。

「え、あ、うん。気を付けるよ。」

 突然のことだったけど、質問を頭で反芻(はんすう)してから答えた。

「気を付けるだけじゃ駄目。絶対よ、絶対。」

「分かったよ。」

 そこまで言わなくても……と思うが、ティアは再度念を押してから横になった。


 今日は俺が最初に火の番をする。まさかオークが今夜襲ってくることはないよな?俺は魔獣探知のエリアを広げて確認をした。しかしベルのお陰もあり、いつもと同じくとても静かな夜だった。

 俺は火を見つめながら日課にしている魔力増幅トレーニングを行った。ペアのイザベラは横になって雑に薪を焚火に放り投げている。だから時折り大きく火の粉が飛び散っていた。

 そして次のシュリとジョーに火の番を引き継いでから眠りについた。


 翌朝、日課である創造神への祈りの後で出発となったが、どことなくピリピリとした緊張感に包まれている。……1人を除いて。

「オークの肉って甘くて美味しいのよね。脂が乗ったデブがいると良いな。」

 イザベラは新鮮なオーク肉を食べる姿を想像しているようだった。

 しかし午前中は何の魔獣とも遭遇しなかった。ベルやオルデンブルクは1度ずつ道を離れていったけど。

 休憩所となる広場には先客の冒険者たちがいて治療をしていた。それはひと目で激しい戦いがあったことが分かる程に傷ついていた。

「お主ら大丈夫か?」とオルデンブルクが駆け寄った。俺たちも急いでそれに続いた。

「見りゃ分かるだろ!?全然駄目なんだよぉ。」

「助けてくれよ!」

 絶望に包まれた冒険者たちが半泣きですがるように助力を願ってきた。しかしそんな冒険者自身も腕や体から血を流している。しかし冒険者たちが助けを求めているのは、横たわっている女性のことだ。顔からは血の気が引き、肩口が粗々しく引き裂かれて血が止めどもなく流れていて苦しそうに小さな呼吸を繰り返している。

「すぐに治療します。」

 俺がその女性に触れようとすると「私にやらせて。」と聖女シュリが願い出た。

 そしてシュリがその怪我をしている女性冒険者に触れてヒールを始めた。

「な、治せるのか?」

「大丈夫です。」

 集中しているシュリに代わって俺が答えた。無理そうであれば俺が手伝えば良いし。

「キャシーが死んじまったら……、俺は……。」と言葉に詰まると、その冒険者はボロボロと涙を溢した。

 シュリの治療の成果でまず血が止まってきた。しかし顔色は真っ白いままだ。既にかなりの血が失われてしまったようだ。

 シュリも焦っているようで魔力が強いのかキャシーの顔が歪んだ。でも歪むということは生きている証でもある。自分がやっていると患者の状態が分かるけど、人がやっているとそれが分からなくて、とてももどかしい。

 俺は落ち着きなくシュリの周辺をウロウロしていた。シュリが手伝ってと言えばすぐに治療に加わるんだけど。

 バシッ

「イテッ。」

 不意に誰かに背中を叩かれた。

「あんたねぇ。治療ができないなら何をすべきか考えなさいよ。」

「え……?」

「これから私たちがそのオークと戦うのよ。必要な準備は?」

「え、あ、えっと……。情報収集とか作戦かなぁ?」

「分かってるならあんたも話を聞きなさい。」

 周囲を見渡すとポツポツと冒険者たちが俯いて座り込んでいる。そしてリーサやオルデンブルク、警護の人たちが聞き取りをしていた。

 俺は少し離れたところで項垂れて座っていた冒険者たちの元に近付いた。

「すみません。何があったか教えていただけますか?」

「あ?ありゃヤバいぜ……。」と力なく答えた。

「すげぇ数だったし、何だか体もデカかった気がする。」

「聞いてねぇよって話だぜ。」

 口々にオークとの激戦を語る冒険者たちも、あちこちオークの引っ搔き傷のような怪我をしている。しかしこのくらいでは怪我のうちに入らないのか、ショックが大きすぎるのか気にした様子もなかった。


お読みくださりありがとうございました。

次回は2/18(火)に投稿します。

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