表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
239/281

第239話 エルフの痕跡

「すまんな。ちょっと邪魔をさせてもらうよ。」

 オルデンブルクが声の主に返事をした。川原に俺よりも少し年上に見える女性が、細長い木の棒を持っていぶかしげに俺たちを見ている。

「あんたたちも魚を獲りに来たの?」

「いや、エルフを見かけた場所に案内しただけじゃよ。」

「あーエルフね。」

 途端に興を失ったような返事をしたと思ったら、川の方へ視線を向けて木の棒を鋭く突き立てた。そして突き刺さった棒を抜くために川の中に足を踏み入れた。

 凍るほどに冷たい川だと思うが、身体強化を使っているんだろう。女性は気にした様子も無く川の中を歩いていって棒を引き抜いた。そこには小ぶりの魚が差さっていた。

「会ったことあるんですか?」

 女性は川から上がると編み込みの籠に獲った魚を入れた。

「うーん、まぁね?すっごくたまに魚と薬を交換してもらうくらいかな。」

 一連の作業を終えた女性が俺たちの方へ顔を向けた。

 今、たまに会えるって言ったよね!?

 俺はその女性の方ににじみ寄りながら「本当ですか!?ここにいれば会えますか?前回はいつ会えました?俺も会えますか?」と興奮気味に聞いた。

「お、おい、こいつは一体何なんだい?」

 女性は俺の後ろにいるオルデンブルクに助けを求めた。そして興奮気味の俺に代わってエルフへの想いを説明してもらった。

「……そうかい。それじゃ、エルフに会いたいだろうね。」

 女性が持っていた木の棒を足元に置いた。

「そうなんです。どうしたら会えますか?」

「本当にたまにだよ。私は2回かな。そうだねぇ……。10年もここに通えば会えるんじゃない?」

「10年……。」

 目の前が真っ暗になった。10年も待たせたら俺は日本では死亡扱いになってしまうだろう。とてもじゃないけど待てない。

「彼らがどうやってあちこちに姿を見せるか知っておるか?」

「んー、エルフの村と世界のあちこちを繋げてるってのは聞いたけど詳しくは知らないよ。」

「ではやはり空間魔術を使っていることは間違いないじゃろうな。」

「そうだろうね。興味ないから知らないけどさ。」

「コーヅ殿、この情報だけでもまた一歩前進じゃな。」

「そうですね……。」

 返事はすれども何を言われているのか全く頭に入ってなかった。ただ10年という途方もない年数だけが頭の中をこだましていた。

 そんな俺の様子に気付いたオルデンブルクが肩に手を置いてきた。

「前を向け。待ってて会えないなら会いに行くしかなかろう?」

 オルデンブルクの言葉にハッとした。その通りだった。それに空間魔術で移動しているという証言を得られた。これは大きい。これまでの仮説が裏付けられた訳だ。こんなことができるのは世界広しと言えどもエルフだけなんだと思う。だったら異世界と繋げるなんてエルフしかできっこない。

「そうですよね。うん、そうだ。うん。」と自分に言い聞かせるように返事をした。

「ところで魚は獲れておるか?」

「冬は難しいね。でもね、こんな集落にいると冬は特にやることが無いから暇つぶしだよ。……大してつぶれてないけどね。」と言って笑った。

「私はそろそろ戻るけど、この辺りは荒らさないでよ。魚がいなくなるからね。エルフはもう少し先から来るらしいよ。」

 そう言うと木の棒を森の中へ投げ込み、籠を肩にかけて集落に戻っていった。

「行ってみるか?」

「はい。」

 図書室のような空間魔術の残骸を見つけたい。いや、見つけるんだ。そこからエルフの村に入れるかもしれないし。

 身体強化で川を飛び越えると魔獣探知をしながら深い森へ足を踏み入れた。

 図書室のときは本当にその空間に触れなければ反応しなかった。俺は手を広げてその空間を引っけるように、手付かずの森を奥へと歩いた。

 あの時は場所が分かっていたから分かったけど、この広い森の中でほんの小さな空間を見つけることは至難の業だ。でもやるしかない。

 闇雲に奥へ奥へと進んでいった。

「そんな奥になるかの?儂ならせいぜいこの辺りまでに作ると思うが。」

 確かにそうだ。後ろを振り返ると鬱蒼とした森の木々しか見えない。これで集落の人と交流しようと思っても方向すら分からない。しかしこの範囲の何処かに入り口があると思っても全く分からない。

 俺はローラー作戦とばかりにひたすらに歩いた。木々の隙間をくまなく歩いた。そして気になる場所は手を動かして空間魔術の痕跡を探した。


―――


「侯爵様。そろそろ……。」

 集落の方から警護の人が森の中を歩いてきて、オルデンブルクの前に立った。

「そうじゃな。コーヅ殿、そろそろ行こう。エルフはあちこちに現れる。他でもまた話を聞く機会はあるじゃろう。」

 もう少しだけ!あと少しだけ探したい。

 俺は聞こえないふりをして手を動かしながら空間魔術の反応を探した。しかしオルデンブルクが歩み寄ってくると俺の肩にポンと手を置いた。その手には明確な意思が込められていた。そしてその意思に逆らえる程に確信的な感覚も気力も無かった。

「はい……。」

 俺は広げていた腕を力無く下ろした。

 しかしこの集落では形跡すら見つけることが難しいことは分かっている。おそらく他の場所でも同じだろう。仮に見つかったとして、それが何かに繋がるかも分からない。

 そんな後ろ向きな考えを振り払うように頭を振った。

 それでも前を向くしか無いんだ。


 そして森の隙間から集落が見えてくると、リーサにどんな顔をして会ったら良いのか分からず歩みが遅くなってしまう。しかしオルデンブルクはズンズンと進んで行ってしまうので、心の準備は整っていないけど仕方なく集落へ戻った。

 するとシュリとホビーが「遅いよ!」「はやく!」と駆け寄ってきた。そしてリーサが少し照れた笑みを浮かべながら「おかえりなさい。」と歩み寄ってきた。

 あんなに冷たく突き放したのに……。

 あの時の自分の行動が急に恥ずかしくなってきた。

「あ、うん……。ごめん。ただいま。」

 それを微笑みで答えて受け入れてくれた。

 そして何ごともなかったかのように準備を済ませると慌ただしく馬車が出発した。そして俺はまだ頭が混乱したままだったが、朝と同じように走った。走ると心を無にできる。それは魔力操作に集中しないといけないし、周囲にも気を配らないといけない。そして今も魔獣探知のトレーニングを行っている。

「……痕跡は見つかったの?」

 隣に近寄ってきたリーサが走りながらボソッと聞いてきた。俺は魔獣探知の魔力を解いた。

「いや、何にも見つからなかったよ。それに10年に1回くらいしか見かけないんだって。」

「ああ、エルフって私たちの10倍くらい長生きするから時間の感覚がおかしいのよね。」と笑ってまたホビーの隣に戻っていった。

 時間の感覚がおかしい……か。10年に1回と言うのは彼らの感覚では毎年来ているのと同じなのかもしれないな。

 そう思うと苦笑が漏れた。

 俺はまた魔獣探知のトレーニングに戻った。ほんの少し先までなら魔力探知できるようになってきているが実用レベルにはほど遠い。出発時には体の外へ放出できなかったことを考えるとかなりの進歩だと思うけど。

 

 そして何ごともなく夕方頃には次の野営地へ到着した。

「このサーベルタイガーがおると魔獣も近付いて来んの。儂としては少し物足りんがな。」と言ってベルの体を撫でた。

「ここには近くに川があります。冬なので魚は見つけ辛いですが、もし獲れたら焼いて食べても美味しいですよ。」

 警護者のジョーが教えてくれた。

「川魚かぁ。焼いて食べたいなぁ。」

 昼間の女性のように器用に獲れるか分からないけど、とても興味はある。

『ワタシガトルワヨ。』

「ホントに?ベルが獲ってくれるって。行ってくるよ。」

「待って。私も行くわ。」

 リーサも一緒に行くことになった。すると必然的にホビーもサブルも一緒になる。しかしこのやんちゃ坊主共がいるとなると、面倒を見られる大人があと何人かいないと厳しい。

「他に……」「大丈夫よ。」

 俺が手伝って貰う人を募集しようとしたがリーサに遮られてしまった。俺がリーサを見ると「大丈夫よ。」と頷いた。

 リーサなりに思うところがあるんだろうと思う。その真意は読めなかったけど、このメンバーはコルベール家に関係する人と従魔だけだ。

「しかし心許ないの。」 

「お爺様、大丈夫ですわ。」

「いや、獲った魚をどうやって持ってくるのじゃ?せめて空間収納袋を持っていけ。」と言ってリーサに空間収納袋を手渡した。

 そして広場から森の中へ足を踏み入れた。身体強化を強めて魔獣探知を行う。しかし近くに魔力は一切感じない。ベルと旅をするようになってその辺りは本当に楽だ。あまり頼り過ぎるのは良くないと思うので自分でも魔獣探知はするものの、小さな魔力はベルから逃げるように離れていく様子が感じられる。

 枯れ葉を踏みしめながら奥へ奥へと歩いていくとサーっという川の流れる音が聞こえてきた。そしてその音を辿って歩き続けると開けた川原に出た。

「じゃあ、ベル、狩りを頼んでいい?」

『イイワヨ。オイシクタベサセテクレレバ。』

 そう言ったと思うと音もなく飛び上がって川の中に入った。そしてシャッと前足を振ったと思うと魚が飛んできた。そして川原の石の上でピチピチと跳ねている。

「わっ!すごーい!」

 その魚にホビーとサブルが駆け寄ってしゃがんだ。そしてピチピチと跳ねている背中が黒く腹にかけて銀色に光る魚を興味深そうに見つめていた。

「ホビー、捕まえてここに持ってきて。」

 俺は魚の下処理をしやすそうな広い石をコンコンと叩いた。

「はーい。」

 ホビーは返事をすると元気に跳ねている魚を掴んだ。ツルッとその手から魚は抜け出して石の上に落ちた。

「うえぇぇ。ヌルヌルするぅ。」

 ホビーは両手を見ながら不快そうな表情を浮かべた。

『ボクガハコブヨ。」

 サブルが魚を加えると俺の元まで運んできた。その間にもベルが川の中からどんどんと魚を飛ばしてくる。凄い狩人だ。

 そして川原一面にピチピチと川魚が飛び跳ねている。

 そしてサブルも一生懸命往復をして魚を集めてくれている。俺はホビーには携帯水道を渡して水を出してもらう役目を担ってもらうことにした。そして久しぶりのヌメリを感じながら魚を抑えると、腹を割いて内臓を取り出すと綺麗に洗い流した。

「コーヅ殿はそういうこともできるのか。」

 リーサは感心しながら覗き込んでいた。

「誰にだって得意なことはあるんだよ。」

 そういうと下処理が終わった川魚を空間収納袋に放り込んだ。

 リーサはここで手伝えることはないからと魚の回収の方を手伝いにいった。ベルがあちこちに魚を飛ばすのでサブルだけでは回収が大変だからだ。

「やー、無理だって。」

 リーサが珍しく泣き言を上げている声が聞こえてきた。掴むたびに手からツルっと抜け出してしまっていて上手く掴めないようだった。その様子にホビーが「リーサもぼくといっしょ。」と笑っていた。

最後までお読みくださりありがとうございました。

次回は2/11(火)に投稿します。

予定は特に無いのですが、2/10も休みにして4連休予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ