第233話 テイム
「食べ終わるまで待ちますか?」
息を潜めてオルデンブルクに話しかけた。
「いや、早く片付けんとまずい。この集団に分散した石を撃ち込めるか?」
オルデンブルクの囁くも小さくない声にピクッと角ウサギたちの耳が反応した。そして後ろを振り返ったが何も見つけ出せず、また食事に戻った。
「分かりました。」
手のひらを魔獣たちに向けて集中力を高めていった。散弾銃のように石を飛ばして、ここにいる魔獣へ漏れなく撃ち込みたい。
石が広がるように……をイメージして。
「いけ!」
手のひらから無数の石が広く発射され続ける。そして魔獣や獣、ここにいる生き物を無差別に貫いていく。
叫び声が上がるがすぐに次の石に体を貫かれ絶命する。バタバタとその場に魔獣や獣たちが倒れていく。
「良かろう。」
オルデンブルクの言葉に俺は魔力を止めた。そこには10,20という数の魔獣や獣が血を流して倒れていた。
俺たちは警戒しながらゆっくりと近付いた。血の匂いがツンと鼻につく。俺は投げ捨ててあったショートソードを拾い上げると鞘に納めた。そして角ウサギの耳を掴むと、その場から離すように広場の中央まで引きずった。
腰ベルトからナイフ抜いて角ウサギの体を裂くと溢れてくる血を水魔術で洗い流して、体の中にある魔石を探った。魔石を取り出すと、最後に炎で焼き尽くしていった。
魔石を一つ取り出すだけで心が折れそうになる。
一方でオルデンブルクは切り込みを少し入れて手を突っ込み魔石を取り出している。そして手と魔石を洗い流して魔獣を重ねている。
魔力探知をしているとまだ続々と魔獣たちが集まってくる様子がが感じられる。俺は後から近付いてきた小さな魔力に向けて警告の石を発射した。
カン!
木にぶつかり甲高い音を立てるとその魔力は離れていった。
「魔獣の集まる速度が早いのう。残念じゃが魔石は諦めよう。」
そう言うと魔獣や獣、蛇を焼いていった。不謹慎かもしれないがとても香ばしい匂いが広場に充満している。
弱い魔獣は遠巻きに見ているのが分かる。そこへまた2つの小さな魔獣が近付いてきた。
俺は手のひらをそちらに向けて追い払うように石を放った。カンという甲高い音がして周りの魔獣は逃げたがその魔獣だけはゆっくりと向かってくる。
何度脅しても全く臆すること無くゆっくりと向かってくる。一体どんな魔獣なのかと逆に興味が湧いてきた。
その魔獣は変わらぬ歩調でゆっくりと歩み寄ってくる。そしてその魔獣が広場に顔を出した。
「サーベルタイガーじゃな。」
オルデンブルクは炎を止めると剣を抜いた。しかし親子のようなサーベルタイガーの体は痩せ細っていて、親の方は毛繕いもできてないボロボロな姿だ。目も虚ろでこちらを認識できているのかも怪しい。そこに寄り添う子供は親に遅れまいと走るが、力が出ないようで歩いているような速度だ。
「儂の美学では無いがここで力をつけられては領民に影響が出るからの。」
ゆっくりとサーベルタイガーに近付いた。サーベルタイガーにはオルデンブルクの姿が映っていないようでゆっくりと死んだ魔獣の方へ歩いていく。そして近くに倒れていた角ウサギの肉を食べ始めた。それも力が出ずに小さく千切って食べているが、それも吐き出してしまった。
「儂が手を下すまでもないのう。」
さすがのオルデンブルクもこのような状態の魔獣には手を下したくはないようだった。
そこへまだ牙も生えていない子供のサーベルタイガーが一生懸命小さく噛み切った肉編を親のサーベルタイガーの前に置くがそれを見つめたまま、やがてそこに座り込んで静かに目を閉じた。
「ニャーニャー。」
弱々しい声で子どもが親に声をかけ、肉片を親の口に運んだ。
「魔獣であっても親子の絆というものは美しいな。」
ふと、この親子が日本で待つ妻と息子の姿に重なって見えた。そして一生懸命に介護する子供の姿に胸を打たれた。
「あの……このサーベルタイガーってテイムして連れて行っても良いですか?」
「できるものならな。しかし誇り高い魔獣じゃ。」
許可は貰えたがテイムの方法なんて正直分からない。ホビーの時だって、いつどうやってテイムしたのか今も分かってないし……。とは言えやるしかない。
「なあ……。」
サーベルタイガーに近付くと目の前にしゃがんで声をかけてみた。俺の声に親のサーベルタイガーは耳をピクリと動かした。
「俺と一緒に行くか?体だって治すし。」
サーベルタイガーは薄っすらと目を開けると俺を力なく睨み、大きな牙が生えている口を開けようとした。しかしすぐに諦めると子供の方に目を向けた。そして目も閉じた。
これは子供を連れていけと?意図が分からず、しばらく親のサーベルタイガーを見ていたが、生きているのか死んでしまったのか分からない程に微動だにしない。
「君は俺と一緒に行く?」
親に寄り添う子供のサーベルタイガーの頭を撫でながら声をかけた。すると俺の手をすり抜けて親の顔をペロリの舐めると顔を上げた。
『オカアサントナラ……。』
弱々しいつぶらな瞳で訴えてきた。言葉が伝わってきたということはテイムできたということなはずだ。
「だって、お母さん。一緒に行こう。子供とまだ別れたくないだろ?」
俺は見た目よりも軽い子供を抱き上げるとヒールを体に流した。しかし悪いところは特になさそうだった。きっと栄養失調だったのだと思う。
しかし母親は違うと思う。明らかに体に不調があるように見える。
『……。』
母親は俺の言葉が聞こえているのか聞こえていないのか微動だにしない。ここで安易に治療はできない。オルデンブルクが一目置くだけの魔獣だ。残念ながら選択肢は仲間になるか、死んでもらうかの二者択一しかないと思ってる。
俺はじっと答えを待った。
『……ソウ……ネ。』
弱々しい声が届いた。
「決まりね。今日からよろしく。」
俺は母サーベルタイガーの頭をポンポンと叩いた。そして子供を降ろすとすぐに体に触れてヒールを流した。まずは延命のために全身にヒールを巡らせていった。
止まりかけている心臓を強めて血流を戻し、傷ついた臓器を修復していく。そんなイメージで魔力を送っていく。
ある程度回復させたところで一度手を離した。
「少し良くなった?」
『……アリガトウ。』
『オカアサン!』
子供のサーベルタイガーが母親の背中に駆け上った。
『アシガ、イタイノヨ。』
「足?待ってね。」
俺は差し出された前足に手を触れてヒールをかけた。バラバラに砕けた骨が変なくっつき方をしている。骨が真っ直ぐになるようにと、しばらく魔力を送り続けた。
「どう?」
母親は恐る恐る立ち上がった。
『イタクナイ!?』
驚いた顔を向けてきた。
「食事する?それとも治療を続ける?」
『サキニ、タベタイワ。』
「食欲が出て良かったよ。」
散らばっている魔獣の肉をがっつくように食べ始めた。やはり強い魔獣なんだろう。喰らうときの迫力が違う。
痩せ細った体の胃の部分だけがみるみるうちに膨らんでくるのが見ていて分かる。
『ダッコ。』
「はいはい。」
子供のサーベルタイガーを抱き上げた。
「本当にテイムしてしまうとはのう。お主はテイマーとしてもでもこの国随一じゃの。」
「いや、死にそうだったからという特殊状況だったからなので……。」
「これも創造神様の思し召しなのかのう……?」
母親の食事が終わった時にはでっぷりとお腹周りが膨れ上がっていた。よっぽどお腹が空いていたんだろうな。
「ここに座って。治療を続けよう。」
「儂は残りを処分しておく。」
オルデンブルクは腰からナイフを抜き取るとまた魔獣から魔石を抜き取り始めた。そして母親はゆっくりと俺の前に歩み寄るとそこに丸くなり目を閉じた。子供が俺の胸元から飛び降りると、母親に包まれるように一緒に丸くなった。
治療の前に周囲の魔獣を確認してみたが、このサーベルタイガーのお陰なのか近くに魔獣の存在を感じなくなった。俺は安心して母親の体に触れて治療を再開した。
何だろう?全身が何かに蝕まれているように感じる。でもどんな病気かは分からなくても治療していくだけだ。
俺は体の隅々までじっくりと魔力を流し続けた。
やがて治療が終わり顔を上げるとオルデンブルクは既に広場の片づけを終えていて魔獣や獣の骨だけが積み上げられていた。
そしてサーベルタイガーの親子はいつの間にか寝息を立てて眠っていた。
「こうしていると獰猛なサーベルタイガーとは言え可愛いもんじゃのう。」
「そうですね。」
この鋭い牙だって可愛いものだ。でもいつまでもここにいるわけにはいかない。
「起きて。移動するよ。」
母親の頭をポンポンと叩くと、のっそりと起き上がって子供の首根っこを咥えると自分の背中に放り投げた。慣れているのか子供は目を閉じたまま体を広げて母親の背中にしがみついていた。
俺たちは森の中を歩いて野営地に向かった。
「ねぇ、名前ってあるの?」
『ナイワ。』
「だよね。また考えないといけないなぁ。」
ホビーのときも散々な言われようだったから、しっかり考えて名前を贈りたいと思う。タマとかミケとかじゃ駄目だから。うーん……。
やがて広場が近付いてきた。すると遠くからでも分かるような随分と大きなキャンプファイヤーが見えた。今夜は暖かく過ごせそうだ。
そして森から抜けると……。
「来るぞ!下がれ!」
「私から絶対に離れないで!」
「怖いよ!お姉ちゃん!怖い!」
商人たちが恐怖に震えながらギュッと集まっている。
ティアの炎の壁に片翼を護らせる布陣で全員の剣、そして魔術が俺たちに向いていた。
最後までお読みくださりありがとうございました。
次回は大晦日の12/31(火)に投稿します。
クリスマスですね。家族がインフルエンザにかかってしまい、次々と倒れていますが、私はまだ大丈夫です。
皆さまもお気をつけください。




