表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/281

第232話 まる飲み

 食事が終わるとオルデンブルクがまだ休憩中の商隊に順番に声をかけて歩いていた。でもその野太い声はここまで聞こえるから、ここからまとめて声掛けをしてしまうこともできそうだ。

 今夜は次の休憩所で宿泊となるらしい。そして次の村には明日の昼頃に到着するそうだ。

 そしてオルデンブルクが戻ってきたときには出発の準備は整っていた。馬車にはティアだけが乗り込んでいる。

「ティアも走ったら?」

「この格好で?それは無いわ。」

 確かにヒラヒラのローブでは走りにくいかもしれない。でもたなびくチャコールグレーのローブと金色に輝く髪の毛はとても格好いい気がするので見てみたい気がする。しかし当の本人は馬車の中で膝に置いた本を開くと早速読書を始めた。

「さぁ、行くとしよう!」

 オルデンブルクの声に呼応して馬車がゆっくりと動き始めた。商隊の人々は俺たちが広場から出ていくまで頭を下げて見送っていた。


 ティアを除く全員が馬車の周囲を囲むようにして走っている。事情を知らない人が見たら何とも不思議な光景に映ることだろう。

 しばらく走っているとホビーがふらふらとし始めてきた。玉のような汗をかき、長い舌がだらしなく垂れている。もう魔力と体力の限界が近いのだろう。するとすかさずリーサが抱き上げて、走ったまま馬車に乗り込んだ。距離としては結構走ったんじゃないだろうか。あの小さなホビーの成長した様子に目を細めた。

 次は俺の番だ。魔獣探知の訓練をしないといけない。すぐに上手くいかなくても少しずつ上達すれば良い。旅は始まったばかりなんだから。

 

 やがて太陽に赤みが差してきた頃、今日の野営地という広場に到着した。残念ながら魔獣探知はあまり上達はしなかった。魔力の揺れに少し慣れてきた感じだ。

 広場ではすでに2組の商隊が野営の準備を進めていた。それぞれが程よい距離感に馬車を止めて、火起こしをしている。そして警護の冒険者たちは森の中で薪を集めている。

 3組目の俺たちは広場の奥の方になった。やはり視界の良い広場の中央、そして街道近くが人気だ。でも戦力を考えれば俺たちが一番危険な場所で良いと思う。それに今の俺は木が近くにある方が何だか安心できる。暗く不気味にも見える深い森にも全く怖さはない。

 ホビーは我先にと馬車から飛び降りるとリーサがそれを止めようとした。

「待ちなさい!危ないわよ。」

「ここはだいじょうぶ。」と言って一目散に森の中に走っていった。

「ちょっとコーヅ殿、見てないでホビーを連れ戻して。」

 もうすっかり母親なリーサに追い立てられて森の中に入った。

「寒いからすぐに戻って来ると思うよ。」と言いながらも森の中に入ることはやぶさかではない。ホビーの後を追って森の中に足を踏み入れた。パリッパリッという誰にも踏まれていない枯れ葉の感触や音が心地良い。

 ホビーの場所は魔力探知で分かっている。木に登ったり、葉っぱの布団に飛び込んだりと遊び回っているように感じる。今日は移動だけでほとんど馬車の中だったのでフラストレーションが溜まってたんだと思う。よくここまで我慢したよ。

 俺はホビーを視認できる場所から魔力探知のエリアを広げていった。小さな魔獣がポツポツといるが、動きは無くじっとしている。特に警戒する必要はなさそうだ。とは言え警戒を緩めることとは違うし、もっと広く詳細に掴みたい。

「そもそも小さな魔獣ってなんだよ。」と自嘲気味に呟いた。

 角ウサギなのか魔ネズミなのか、それともこの辺りに生息するという森キツネなのかはさっぱり分からないのだ。でも魔力の大きさや雰囲気の違いは分かる。だから確認しながら覚えるしかないのだと思う。

 俺は少し離れたところにある小さな魔力の方へ歩いていった。あの木の根元だ。

 近寄って覗いてみると、そこには小さく震えている角ウサギが怯えた目で俺を見上げていた。

「これが角ウサギか。」

 やはり角ウサギを前にしてももう怖さは無い。きっと魔力にしても剣技にしても上達した結果だと思う。

 でも怖がらせるつもりはなかったので、早々にホビーのところに戻った。

「コーヅ、おいかけっこしよう!つかまえて!」

 俺を見つけたホビーはそう言って更に森の奥へ走っていった。

「あまり遠くへ行くなよ!」

 俺は急いでホビーを追いかけた。しかし木が邪魔をしてすばしっこいホビーとの距離をなかなか詰められない。さらに俺はたまに立ち止まり魔獣探知をしないといけない。今のところは危険と感じる魔獣の存在は見当たらないから良いけど。

「おい、ホビー!」

 俺の困ったような声にむしろ喜んでいる様子で「こっちだよ!」と言いながらアカンベェと長い舌を見せた。一体どこでそんな技を覚えるんだろう?

 しかし森の中に突然現れた広場に出ると俺はチャンスとばかりにホビーと一気に距離を詰めた。そして岩場を背にした場所に追い詰めた。

「やっと捕まえたぞ、わんぱく坊主め。」

「ねぇねぇ、つぎはコーヅがにげ……。」

 突然岩場に隠れていた大蛇が素早い動きで飛び出してきて一瞬でホビーを丸呑みした。 

「ホビー!!」

 ドクンと心臓が跳ね上がった。

 蛇の口は閉じられ喉にホビーの形が見えて蠢いている。そしてその大蛇は今度は俺を獲物と認識して、ニヤリと歪ませた口から舌をチロチロと出している。

 俺の怒りが沸騰して身が打ち震えた。瞬間的に身体強化を最大限に高めると、ショートソードを乱暴に引き抜いた。そして大蛇が飛び掛かってくる前に懐に飛び込むと胴体に目掛けて全力で剣を振った。

 大蛇は気にした素振りもなく嫌らしい目を俺に向けると、大人の身長ほどの大きな口を開けた。そこには大きく鋭い凶悪な牙が2本見える。そして俺に対峙するために大きな体を捻ろうとした瞬間――。ずるりと体が滑り真っ二つに分かれてその場に崩れ落ちた。大蛇の目は何が起きたか理解できていないように見えた。そんな大蛇の頭に剣を突き立てて絶命させた。

「ホビー!!」

 2つに分かれた胴体にショートソードを差し込むとホビーの膨らみに向かって体を切り裂いた。

 急げ。早くしろ。

 自分に言い聞かせながら、ホビーの膨らみを目指して大蛇の肉厚な体を裂いていく。そして膨らみが近くなってくると剣を地面に捨てて切り口から腕を突っ込んだ。

「ホビー!待ってろ!」

 俺は腕を奥の方まで突っ込み、ホビーを探り当てると掴んだ足を引っ張った。

「ホビー!」

「……。」

 ホビーからは返事は無くぐったりとしていて、その体は体液塗れでぐっしょりとしていた。俺はとにかく安全な場所へ移動しようとホビーを抱きかかえると、風を切るように森の中を駆け抜けて野営地に戻った。

「ごめん。」

 俺は火を起こしているリーサの前にホビーを寝かせた。そしてぐったりとしたまま反応のないホビーにすぐにヒールをかけた。

 するとホビーは大きな目を見開いて飛び起きた。

「びっくりした。」

「ホビー!」

 リーサが大蛇の体液でべっとりとしたホビーを抱きしめた。

「ごめんね。へびにたべられちゃった。」

「だから森に入ったら駄目だって言ったでしょ?」と言うと更に強く抱きしめた。

「いたたた。いたいよ。」

 俺も安心してその場に座り込んだ。そしてしばらくリーサとホビーが本当の親子のように抱き合っている様子をホッとして見つめていた。

「間に合って良かったのう。一体何があったんじゃ?」

 オルデンブルクが俺の横にドカリと胡座をかいて座った。俺は先ほどまでの事を説明した。

「大蛇か……まずいのう。」

 唐揚げは美味しかったけどな。そうじゃないと思いながら、プルスレ村で散々食べたビッグバイパーのことを思い出した。

「そうですか?」

「そうじゃ。冬は食べ物が少ないから動物や魔獣か集まってくる。そしてそいつらを狙って更に強力な魔獣が集まってくる。」

「やばっ!すぐに処理してきます。」

「儂も行こう。もう集まってきとるはずじゃ。」

 この世界の冬の生き物はとてもアグレッシブなようだ。冬眠の準備を終えて眠ってくれていれば良いのに。俺たちは立ち上がった。

「お主らはここを護れ。民も護るんじゃぞ。」

「はっ!」

 警護の人はここに残るらしい。本当に2人だけで行くようだ。

 俺は立ち上がると、もう一度ヒールと身体強化をして戦闘準備を整えた。

「あっ!」

「今度は何じゃ?」

「剣を置いてきてしまいました。」

「私の剣を。」

 リーサが立ちあがると腰から剣を外した。そして「両手を挙げてて。」と言うと俺の前に跪いて腰に巻き付けてくれた。それがとてもくすぐったくて両手を中途半端に上げたまま下を見れずに硬直していた。

「ぐへっ!」

 突然腰を強く締め付けられた。

「さっ、いってらっしゃい。」と言うとリーサは立ち上がった。

「うん、ありがとう。」


 俺は準備が整うと魔力探知を始めた。そして探知エリアを広げていった。確かにあちこちから魔力が1点に向かって移動している。

「確かにそんな状況になってます。」

「そうじゃろう。」

 オルデンブルクは一度脱いだずっしりと重たそうな鎧を着込みながら答えた。

 オルデンブルクを待ちながら魔力探知のエリアを更に広げていく。小さな反応の中に少し大きな反応も混じり始めた。その魔力を追っていると小さな魔力が消えていっていた。

 そして小さな魔力が散り始めて少し大きな魔力が集まり始めていた。そうするとまたそれよりも大きな魔力が混じるようになってきた。

 森の中というのはやはり魔獣が多いんだな。

 俺はこの野営地を中心に探知エリアをエリアを広げていった。

「どうじゃ?」

 鎧を装着し終えたオルデンブルクが大剣を2本差した。

「段々と魔力が大きな魔獣が集まるようになってきました。」

「ちと手遅れかのう。飢えた魔獣は力は落ちるが凶暴じゃ。気を抜かんようにな。」

「はい。」

「創造神様の加護を。」

 小さく祈ると森の中に足を踏み入れた。数百メートル先に魔獣が集まっては散り、集まっては散りということを繰り返している。これは何を意味しているんだろうか?

 オルデンブルクは速度は上げずに慎重に森の中を進む。周囲への注意の方へ最大限の注意を払い、時おり視認できる小さな魔獣には脅しのために石や小枝を投げて追い返している。

 やがて魔獣たちが蠢いている広場が見えてきた。体が分かれた大蛇を離れた場所に引っ張っていき魔獣や獣たちが食い荒らしている。


お読みいただきありがとうございました。

次回はクリスマスイブの12/24(火)に投稿します。そしてその次は大晦日予定ですね。

1/2で小説を書こうと年始の誓いを立ててから4年になります。来年は執筆速度の向上を目指して投稿頻度があげられるように頑張っていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ