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第221話 武神誕生

「あ、いえ、身体強化の力を借りてですよ。」

「そういう問題ではないだろう。本当にあの剣聖様とか?うーん……。」

 そのままリーディエは考え込んでしまった。

「あのへっぴり腰でどうやって……。」と呟いているが、へっぴり腰なことは全く否めません。

 しばらく考え込んでいたが、やがてため息交じりに首を振ると、考えることを止めていた。そして見栄えのためのロングソードの選定を手伝ってくれた。

「見た目だけだからね。階段を上る時に引きずらないギリギリの長さの物にするんだよ。」

 そう言いながら箱を持ってきてくれて、そこに上ったときにぶつからないギリギリの長さの剣を選んでくれた。そして柄や刃は体のサイズにあった細めのものにした。

「いいじゃないか。よく似合ってるよ。」

「そうね、良いんじゃない?」

「うん、カッコいいよ。」

 自分でもロングソードの方がぶら下げていると格好良い気がする。細身とはいえ、重たくて体が傾くのが難点だけど。

 この選んだショートソードとロングソードを彫金師に加工を依頼することになる。まず1本だけ特急で見た目を装っていくそうだ。でも俺はサラリーマン家庭の子供で、名実ともに平民なんだから気にしなくて良いのに。


 剣を選び終わるのをソワソワしながら待っていたバルナバスが「なぁ広場に行かないか?俺も剣聖様の剣技を見たいんだ。」と誘っているようでいて、答えも聞かずに急いで広場に向っていった。

「やれやれ、立場が変わっても冒険者の血は騒ぐんだな。」と言いながらリーディエはショートソードとロングソードを持って奥の部屋へと戻っていった。

「私たちも行こうっ!」

 シュリに手を引っ張られて広場に向かった。俺はまた稽古に付き合わされるんじゃないかと気が重かったけど。

 広場に入ると視界には既に打ちのめされた冒険者たちと、上半身裸で湯気を立ち上らせているオルデンブルクの姿があった。

「もう終わってしまったのですか?」

 バルナバスが残念そうに言った。

「まだじゃ。お主がおろう?木刀を持て。」

 オルデンブルクは鋭い眼光と木刀の切っ先をバルナバスに向けた。

「いや、私はもう冒険者を引退しておりまして。」

「剣技の道に終わりは無い。ごちゃごちゃ言わんとかかって来い。」

「えっ?あっ、いや……。」

 及び腰のバルナバスの姿に打ちのめされた冒険者たちが顔を上げて「何だよいつも偉そうなクセに。」「ダセェ。」と悪態をついた。

「ぐっ……お前ら。……分かりました。」

 そこまで言われるとギルドマスターの沽券(こけん)に関わると判断したのか、バルナバスは足元に落ちている木刀を拾い上げると大きく息を吐き出した。そしてオルデンブルクの前までうつむき加減に足を引きずるように歩いていった。そしてゆっくりと顔を上げてオルデンブルクと対峙した。そこにはいつもの顔とは、いや顔だけでなく雰囲気も全く違うバルナバスの姿があった。

「……参ります。」

「いつでも来い。」


 目にも止まらない疾さでオルデンブルクの懐に飛び込むと、木刀が交わる甲高い音と共に、いきなり木刀同士の力比べが始まった。

 しかしすぐにバルナバスはその剣を滑らせるようにオルデンブルクを斬りつけた。しかし、それを体をずらして避けるとすかさず木刀を突き出した。バルナバスもそれを紙一重で(かわ)して、カウンターで木刀を横に振り抜いた。

 オルデンブルクが体の横で受け止めた。そしてまた力比べが始まったが、体勢が有利なバルナバスの木刀がオルデンブルクの体に届きそうになった。するとそれを嫌ったオルデンブルクは後ろに飛び跳ねながら木刀を流した。

 そしてオルデンブルクは踏み込みなおしバルナバスに正面から速くて重たそうな真っ向切りで斬りつけるが、それは鈍い音と共に弾かれた。そこから連続で斬りつけるがバルナバスもバランスを崩しながらも全て受けきった。

「ほぅ……まだまだ腕は衰えておらんではないか。」

「いえいえ、ギリギリですよ……。」

 そう言いながらもバルナバスの顔には笑みが浮かんでいる。やっぱりこういう人種は一律に脳筋なのかもしれない。俺には理解しがたい世界だ。

「参ります!」

 そしてまたバルナバスから踏み込むと足を目掛けて薙ぎ払った。オルデンブルクは安易に飛び上がったりはしない。後ろへステップでかわすと、すかさず踏み込んで逆袈裟斬りでバルナバスの木刀を飛ばそうとした。しかしバルナバスも読んでいたかのように木刀をかわした。しかしオルデンブルクはもう一度深く踏み込むと足を目掛けて連続で突いていった。バルナバスもステップを踏んで全ての突きを丁寧に避けていく。

 しかし一瞬リズムを変えた突きにバルナバスの足が揃ってしまった。その隙を見逃さずにオルデンブルクは下からの逆袈裟斬りでバルナバスの木刀を跳ね飛ばした。

「……参りました。」

 バルナバスは痺れた手を押さえながら頭を下げた。

「いや、やはりお主はこの中で一番強かった。天晴じゃ。」

 オルデンブルクの褒め言葉にいつの間にか起き上がって観戦していた冒険者たちも「おお。」とどよめいた。

「次はコーヅ殿じゃ。木刀を持て。」

「シュリは……?」

「えー、私はいいよ。この中じゃちょっとねぇ。」

「早くせんか!」

「は、はいっ!」

 俺は近くで座り込んでいた冒険者から木刀を借りた。

「コーヅ殿とはただの剣技ではつまらんからの。身体強化を使おうではないか。」

 むしろ身体強化無しでは数秒しか持たない。とは言うものの、身体強化をするには狭い気がする。それも場所が狭い中での練習なのかもしれないけど。意図は掴みきれないが「分かりました。」と答えると、まずは全身に丁寧にヒールを流していった。何度も何度も繰り返して体をひたひたにヒールで満たした。そして身体強化を静かに高めていった。

 こうするとオルデンブルクの息遣い、ほんの少しの体重移動を感じられる。俺はその場で剣を構えるとオルデンブルクの隙を伺った。勿論、隙なんてものがあろうはずはない。ほんの少しのいつもと違う瞬間を狙うのだ。俺はジッとその瞬間を待った。するとオルデンブルクの方からジリッと足を動かしてきた。俺はその瞬間――

 

 ゴキッ

 

 身体強化を纏った木刀同士が鈍い音を立てた。ここから力比べが始まった。俺は魔力を腕に集中させて押していく。オルデンブルクはそれを不利と見たのか、受け流すようにして横に移動すると普段ならここで斬り掛かってくるはずが、連続の突きを出してきた。

 おっと。

 驚いたものの剣先は見えているので、それらを丁寧に避けていく。そしてその中の一突きを最小限の動きでかわすと、木刀が戻りきらないうちに強く踏み込んだ。

 チャンス……!

 俺はカウンター気味にオルデンブルクのみぞおちに向けて深く突いた。オルデンブルクは戻り切らない木刀をそのままに、大きく後ろに飛び退いて避けた。

 今日は今までになく切っ先がよく見える。

 一手目とは違い、飛び退いたばかりのオルデンブルクの重心は崩れている。俺は追撃するように踏み込んで薙ぎ払った。オルデンブルクはそれを見極めたように紙一重で避けると反撃に転じてきた。上に下に俺を振り回すように狙いを散らしてきた。その的確な狙いにあっという間に形勢は逆転してしまった。

 反撃しないと……

 俺は反転する隙を探るが、そんな暇は与えられずひたすら激しい連続攻撃に防戦一方となった。俺は圧力に耐えられず一度後ろに飛び退いた。しかしそんな消極的な選択をオルデンブルクが見逃すはずはなかった。更に踏み込んでくると攻撃速度を更に上げてきた。

 ヤバいヤバい

 俺はこの状態を打破するために身体強化を極限まで高めた。ここまで強めると魔力の消耗が激しいので短時間しか耐えられないが、オルデンブルクの木刀の動きが見切れるようになった。俺は薙ぎ払ってきた木刀を上から叩き落とそうと振り下ろした。するとまた鈍い音を立ててオルデンブルクと力比べになった。でも今度は逃す訳にいかない。それは残された時間がないからだ。俺は勝負するために一歩にじり寄ると、両手に力と魔力を込めていった。するとまた木刀を逸らせて流そうとするオルデンブルクに追従するように俺も木刀を滑らせた。

「むぅ!」

 オルデンブルクが唸り声を上げた。そして腕の筋肉が一段と盛り上がると木刀を押し返してきた。

 その時――

 バンッ!とそれぞれの木刀が弾けるように砕け散った。

「うおおぉぉぉ!木刀が()ぜたぞ!」

「すげぇ!」

「コーヅってめっちゃ強いじゃん。」

「もうコーヅも剣聖でいいんじゃね?」

 おいおい待て待て。変なことを言うな!

 気力、体力、魔力が尽きていて、声が上手く出せず心の中で突っ込んだ。

「せっかくストーンメイデンって付けてやったのに。」

「何だよそれ?」


 その冒険者は外壁工事の時に現れたホーンバイソンのことを話し始めた。

 確かに突っ込んできたホーンバイソンの群れを下から横から水晶の槍で串刺しにしたかもしれないけど……。あれもオーガの時と一緒で狙ってないから。すべて偶然の産物です。


「おいおい、もうコーヅのことを何て呼んだらいいか分かんねぇじゃねぇか。」

 いや、普通にコーヅとお呼びくださいな。

「千本槍……槍聖?」

 ポロッと変なことを言うな。

「いや、今使ってたの木刀だろ?」

「あ、あの皆さん、呼び方はこれまで通りコーヅでお願いします。」と残り少ない気力を振り絞って声を上げた。

「……。」

「そもそも千本槍もストーンメイデンも魔術だろ?」

「だったら刀聖か?」

「いや、今回は身体強化の力だっただろう?だから槍聖でも良いんじゃないか?」

 全く人の話を聞いてくれない。

 俺はオルデンブルクにこの場を収めてもらおうと視線を送った。オルデンブルクは何かをジッと考えていたが、俺の視線に気付いてかは分からないが顔を上げた。

「武神。」

 はっ?

「コーヅ殿は剣を握って、たったの3ヶ月で儂と互角になったのじゃ。皆、良いな?コーヅ殿は武神じゃ。武神コーヅじゃ!」

「おおおおお!」

 広場全体にどよめきが起きた。そして「武神!武神!武神!」と武神コールが起きた。

 お、おい!?どういうことだ?ここで冒険者を煽ってどうする?

「ち、ちょっと止めてください!」

 俺はこの状況についていけず絶望的な気持ちで全方位からの煽りを体全体で受けていた。

「よっ、武神コーヅくん。」

 シュリまで一緒になって煽っている。酷いよ……。

「よう、武神。」と肩を叩かれた。

「今度稽古をつけてくれよ、武神様。」と頭を小突かれた。「俺にも頼むぜ。」と腹パンを貰った。

 やめてー。もはやチンピラに絡まれてるのと変わらない……。

「無理無理無理だって!」

 俺は耐えきれずにおぼつかない足で広場を飛び出してギルドの中に駆け戻った。

 後ろから笑い声が聞こえてくるが、そんなのどうでも良い。俺はこれ以上あの空間に居続けられるようなメンタルは持ち合わせていない。

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