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第13話 新しい警護者たち

 朝日に照らされて俺は目を覚ました。ここの世界に来てから朝の目覚めがとても良い。良くも悪くもテレビやスマホ、妻との会話といった夜更かしをしてしまう要素が無いからだ。

 いつもの様に顔を洗い、着替えてから、ここに来てからの日課になっているストレッチをして体も起こしていく。

 

 最近は毎日ハードに体も動かしているけどヒールのお陰で筋肉痛も無いし、とても体を軽く感じるようになってきた。体が重たく感じるのは年齢のせいと思っていたけど、単純に運動不足だったせいだったんだな。日本に戻ったら時間を作ってジムに通おうと思った。

 

 そこへジュラルが入ってきた。

「おはようさん。食事と着替えを持ってきたぜ。」

 昨日、お別れの挨拶したのになぜ?という疑問をそのままジュラルにぶつけた。

「それが色々あってな。隊長が次の奴らを連れてくるまで俺が警護する事になったんだ。まぁ、急な話でもあったから俺は隊長から小遣いが貰えたし、今日の訓練も免除だし、むしろラッキーだったよ。」

 ジュラルはニヤッと笑いながらも作業の手は止めず朝食と着替えを置き、夕食と洗濯物を持って「じゃあな」と言い残し出ていった。

 俺はジュラルが届けてくれた食事をリビングに持っていって食べた。もうこの変わり映えしない朝食に特にコメントは無い。

 でも近々ティアと街に出かけられるんだ。きっと美味しい食事が食べられるはずだ。フィーロのパン食堂って言ったっけ。フワフワのパンが食べられるといいなぁ、と思いながら固いパンを力を込めて千切った。

 それからスリッパだ。でもスリッパくらいで職人さんにオーダーメードというのも大袈裟な話だけど、欲しいものを手に入れられる喜びがある。スリッパは布生地で軽いものでシンプルな形にしよう。それをサンプルで作ってもらって、納得いったら20足くらい作って貰おうかな。タイガーやティア、トーマス夫妻とジュラルにもプレゼントしたいし、領主への献上も忘れちゃいけないよね、と夢が膨らんでいく。

 この夢を破裂させるようにティアが勢い良く部屋に入ってきた。

「おはよう!今日は待ちに待ったコーヅのお給料日ね。ね、早速明日街に出る?美味しいご飯も食べたいし、スリッパっていうのも欲しいんでしょ?」とティアのテンションが異様に高い。よっぽど外食が楽しみなんだろうな。もちろん楽しみなのは俺も一緒だけど。

「行けるものなら今日だって良いくらいだよ。美味しいものを食べられるって幸せな事だよね!」

「うふふ。そうよね〜。」

 なんだか今日のティアは不思議なテンションでこっちの調子も狂ってしまいそうだ。

「あ、そうだ。ティア。魔石ってもう無い?全部使って無くなっちゃったんだけど。」

「え?もう使っちゃったの!?ちょっと、クズ魔石でもお金かかるのよ。もぅ……。」

 コロッといつものティアに戻ったが、俺はこの方が落ち着く。

「ごめん。明日は魔石も買いに行ける?ティアに貰った分も返すよ。」

「魔石屋?いいわよ、私もその方が助かるし。」

「あとさ魔道回路だっけ?作り方教えて欲しいんだ。昨日は明かりを消して歩くのが大変でさ。」

「教えるのはいいんだけど材料が必要になるわね。タイガー隊長が帰った後で取りに行ってくるわ。」

「ありがとう。助かるよ。」

 

 コンコンコン

 

「はいるぞー!」

 タイガーの声がしたと思うとドアが開いた。

「よう、おはようさん。新しい警護メンバーを連れて……」

 そこまで言ったタイガーは言葉を失い、口を開けたまましばらくその場で立ち尽くしていた。

 

 やがて「……おい、コーヅ。流石にこれはやり過ぎじゃないか?」と視点が定まらない様子で言葉を絞り出した。

 

 げ?まじか。もう少しセキュリティとかを考慮して加減が必要だったか。やっぱり手直しかぁ、折角ここまで作ったんだけど……。

 

「こんなに白くて綺麗な大理石の部屋なんて初めて見たぞ。王都でもこんな建物があるかどうか……。」

 ここで新しい警護メンバーと思われる女性が一歩前に出てタイガーに声をかけた。

「タイガー隊長、わたくしの知る限りですと王都にある大聖堂の奥の間はこの様な真っ白な部屋でした。それにしてもこの部屋は素晴らしいですわ。わたくしも感動いたしました。」

 俺は声に反応をして女性の方を見た。女性は言葉遣いに見合うような仕立ての良さそうな服とその上から装飾が施された鎧を着こんでいる。きっとどこかのお嬢様なのだろう。そもそも体つきもあまり衛兵の様には見えない。身長はティアより高いとは思う。そして黒髪だ。黒髪はここの世界に来て初めて見た。年齢はティアとそんなに変わらないと思う。

「サラ様……」

 もう1人の女性が声をかけた。このお嬢様はサラという名前のようだ。サラと呼ばれた女性は一瞬ハッとした表情をしたが、すぐに表情を戻した。そしてゴホンと一つ咳ばらいをして「失礼いたしました」とタイガーの後ろに控えるように下がった。

「コーヅと話をするといつもペースを乱されるな。」と言いながら部屋に入って来た。「では改めて今日から警護する3名を紹介する。……サラ!」

「はっ!」

 先ほどのサラが一歩前に出た。

「リーサ!」

「はっ!」

 もう1名のリーサと呼ばれた女性が前に出た。こちらの女性は衛兵と言われても違和感が無いが、この女性も使い込まれて傷はあるものの装飾が施された鎧を身に纏っている。

 女性なのでやはり線は細いのだが、雰囲気というか纏っている空気が違う。赤髪で身長はサラよりは低い。俺の警護というよりサラの警護なのでは?とも思った。

「この2名が1組で日勤だ。……コーヅ、変なことを考えるなよ?」


 ちょ!


「な、な、何を言ってるんですか!俺には愛する妻と子供が居ます!」

 全く失敬な奴だ。しかも何にも考えてなかったのに気まずくなったじゃないか。タイガーのせいで勝手に気まずくなって、何となく2人の方を見れずに落ち着かない感じでいると、リーサまで釘を刺してきた。

「コーヅ殿。サラ様に失礼な事をすると許しませんよ。」

 おいおい、どっちが失礼なんだよ!?と俺も憤慨した。もちろん社会人として表情には全く出しませんでしたけどね。

「リーサ!おやめなさい。コーヅ様、リーサが大変失礼な事を申しました。わたくし達は全力でコーヅ様を警護致します。どうぞ宜しくお願い致します。」と気品あるお辞儀をした。

 おぉ!サラさんはなんとできた娘なんだ。この場の険悪な空気を浄化してくれた。

「サラさん、こちらこそよろしくお願いします。」

「よし。2人は下がりジュラルと交代し警護に入れ。」

「はっ!」

 2人は敬礼をし部屋を出ていった。動きがとてもキビキビしている。トーマスやジュラルはなんだったんだ?2人を見送ったタイガーは夜勤のイメールを紹介してくれた。俺は昨日既にイメールと微妙な挨拶を交わしている。

「イメール!」

「はっ!」

 イメールも一歩前に出た。動作がぎこちなく緊張している事が伝わってくる。

「こ、今回、志願して警護させていただく事になりました!」と、イメールは相変わらず嚙みそうになりながら挨拶をした。昨日のこともあって少し怖い気もしたが、緊張しているイメールを見ていられず助け舟を出した。

「イメール、志願してくれてありがとう。これから1週間なのかな?よろしくね。」

 俺がイメールに親しげに話しかけている事を不思議に思ったのか「ん?お前ら知り合いか?」と聞いてきた。

「はい。昨日ショーンが仲介してくれて挨拶したんです。」

「そうか。来たばかりの頃は自暴自棄にでもなるんじゃないかとヒヤヒヤしてたもんだけどな。あとはこの国で嫁さんでも見つけてくれると俺としては安心なんだけどな。でもな、サラとリーサの2人はそういう人選じゃないぞ。だからってイメールが可愛いくても手を出すなよ?」とタイガーはからかうような笑みを浮かべた。

「ちょ、た、隊長。僕は女性が好きです。止めてください。」と顔を真っ赤にしながらタイガーに抗議している。そして俺の方を上気した頬でチラッと見た。

 それはイメールの女性好きというものに疑念を抱かせるものだった。そして身の危険を案ずる必要性を感じさせた。警戒はこのまま継続しないといけない。


 このイメール問題とは別に、この世界に定住したらどうだ問題にも向き合わないといけない。

「別に今だって日本に帰る事は諦めてませんよ。今は魔術の力を伸ばすことが日本に帰る道に繋がってると信じて頑張ってるんです。」と心外な事を全力でアピールするために腕を組んで抗議をした。

「そうか、茶化して悪かったな。よし、雑談はここまでだ。イメール、下がっていい。今夜に備えてしっかり寝ておけ。」

「はっ!」

 イメールは下がって部屋を出た。部屋を出る瞬間に上目遣いの目と合ったので、ドキッとしたが努めて平静に軽く会釈をした。

 イメールが部屋から出ていき、離れていく足音を聞きながら心の中でため息をついていると、タイガ―がドカッと椅子に座った。

「ずいぶんと立派な部屋に仕上げたな。これは本当に驚いた。これなら建築関係の仕事で十分にやっていけるだろうな。説明をしてくれるか?」

 俺はタイガーとティアにリフォームのこだわりポイントを説明して歩いた。

 まずは玄関やシューズクロークだ。日本では玄関で靴を脱ぐ習慣があり、家の中ではスリッパなどの軽い履き物で過ごすことを説明した。シューズクロークは元々少し暗いので光魔石で明るくし、間接照明の事も説明した。

 

「ほぉ……ここだけでも色々な事が詰まってるんだな。今度、建築ギルドの連中にも見せてやるか。」

 続いて風呂だ。お湯を張り湯船にゆっくりと浸れば一日の疲れが抜けていくという事を説明した。

 この世界にも風呂はあるが、贅沢品という扱いになるそうだ。だから家に風呂があるのは貴族か金持ち商人くらいだそうだ。

 こういう状況なら先に銭湯のような公衆浴場を作って、この街の人たちにお風呂に入る素晴らしさを広く知って欲しいと思う。

 

「それにしてもお前さんは魔術が使えるようになってから1週間で良くもここまでやったもんだよ。」

「ふふん♪先生が良いからね。」

「ティアはシンの先生でもあるだろ?」

「あれは例外でしょ。素質もやる気もなかったんだから。」

「そこを情熱で何とかするのが教師だろ。」

「そういう暑苦しいの、私は嫌い。」とプイとそっぽを向いた。

「やれやれ、とんだ名教師だな。」と頭を掻いた。

「ふん。でもね、私はコーヅにお風呂を作って貰うのよ。」と、自慢気に言うと「なに!?ちょっとそれはずるくないか?俺だってコーヅのために奔走してるぞ?」と、タイガーもそれに食い付いてきた。

「ティア先生へのお礼よ。」と胸を張った。

「お風呂くらいなら簡単に作れますよ。タイガー隊長のお宅にもいかがです?」

「ホントか!?……でもな、うちはあまり広くないんだ。一度嫁さんに相談してみるよ。」


 最後に俺はこの先のリフォーム計画……っぽいものを説明した。大きく言えば魔道回路とドアの設置だ。

 魔道回路はまとめて光魔石を点けたり消したりできるもので、一般家庭にもあるものだ。これはティアと作ろうと思っている。

 ドアはタイガーから部屋に合うものを建築ギルドに作らせるように言われた。そして窓もそれに合わせて新しくするようにと言われた。そして建築ギルドの人たちは1週間後を目安で呼んでくれるそうだ。

 

「この部屋が仕上がるとどんな感じになるか見てみたいな。領主様にも当然見てもらう。そのつもりでしっかり頼むな。」

 

 そしてタイガーは革袋を出し給料だと俺に渡してくれた。だが何故かティアが革袋を受け取り、早速開けて見ている。俺も覗き込むように見ると中にコインが入っているのが見えた。

 ティアは「ホントに金貨1枚分あるわ。」と呟いている。拗ねられても困るので明日はしっかりとおごりたいと思います。

 

「それから市民証だ。これがあればジルコニア王国のどこの街にも入ることができる。」

 俺は市民証とやらを受け取った。市民証は金属のような素材で手では簡単に曲げられないようにできている。

「コーヅの魔力を登録する必要がある。ティア、あとは頼んだぞ。

 ティアが革袋から顔を上げて頷くと、タイガーは「あとはよろしく。」と言って部屋を出ていった。

「……本当に金貨1枚分も貰うのね。」

「俺にはその価値がよく分からないけどね。」

「私の5倍って言ったらコーヅくんにも分かるかな?」とちょっとイラッとした感じで言われた。

「アハハハ……」と俺は笑って誤魔化し「さ、市民証に魔力登録しちゃおうよ。」と話題を変えた。

「そうね。コーヅ、市民証を持って魔力を軽く流して。強く流すと壊れるからね。」

 俺は言われた通りに手のひらの市民証に魔力を少しずつ流し込んでいった。すると数秒で市民証がキラッと光った。

「はい、それでいいわよ。」

 俺はティアの声で魔力を止めた。

「これでこの市民証はコーヅのもの。本人以外の人がこの市民証を持って魔力を流すと赤く光るのよ。」

 へぇ……と俺は答えて市民証をマジマジと眺めた。生体認証の機能を備えてるわけか。良くできているな。市民証を表から裏からと見ていると、ティアが立ち上がった。

「私は一度研究室に戻って魔道回路の材料を持ってくるわ。」

 ティアは部屋から出ていき、俺は目の前に置かれた給料袋と共に部屋に残された。

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