魔王リムル
(リムルside)
(あははははっ!!!)
シアンとルミネ、二人がヴェルドラの一部を食べた瞬間、力がはね上がった。
迷宮内が大きく揺れ、ここまでその衝撃が来た。
「ちょ······ちょっとヤバイわよコレ! 迷宮が崩れちゃうのよさ!」
ラミリスが慌てて言う。
二人は更に周囲の魔素を吸収し、魔力を解放した。
(む、まずいぞリムルよ!! これ以上は迷宮が持たんぞ)
ヴェルドラの声が届く。
確かにマズイ。
二人の力が想像以上に上がっている。
「今二人に強制転移をかける······! ラミリス、地上の闘技場に二人を! ベニマル、闘技場の周囲の人は!?」
「ええ、もう避難は完了していますよっ」
最悪の事態を想定していて正解だった。
二人に強制転移をかけて地上へ送る。
二人は突然地上に戻されたことで状況確認を優先している。
とりあえずの危機は脱したか。
それにしても二人の力の上がり具合がヤバイ。
あれは確実に覚醒魔王級の強さだ。
さすがにヴェルドラを上回ってはいないだろうが、それでも覚醒したクレイマン以上の力を感じた。
他の八星魔王のルミナスやレオンに匹敵するかもしれない。
それが二人。明らかにヤバイ状況だ。
「とりあえず二人の所へ行ってくる。皆は待っててくれ」
「待ってくださいリムル様、俺も一緒に······」
付いてこようとするベニマルを止める。
「今はなるべく二人を刺激したくない。俺一人でまずは話してくる。フラメアとエレンも悪いが待っててくれ」
二人も付いてきたそうな顔をしていたが釘を刺す。
「大丈夫なの、リムル? 闘技場の地上部分はまだ復活の腕輪の範囲外なのよ」
「ああ、大丈夫だ。それくらいわかってる」
ラミリスが心配そうに言うが、俺は笑って返す。
そして転移を使ってシアンとルミネのいる地上へと跳んだ。
闘技場に跳んだ俺に、二人はすぐに気付いた。
さて······どう声をかけたものか。
「よう······お前達がこの町に来て以来だな。シアン、そしてルミネ······だったな」
「ええ、久しぶり······ですね。リムルさん、それともリムル陛下とお呼びした方が?」
「好きに呼んでくれて構わない」
シアンがぎこちなく言ってきたのをそう返す。
「魔王であるリムルさんが直々に何故? もしかして迷宮クリアの祝福をしてくれるのかしら······? まだ暴風竜は倒してなかったのだけど」
「そうだな、正直二人であそこまで行けるとは思わなかったよ。何か欲しいものがあるなら俺が用意できる範囲でなら聞いてもいいぞ」
「ふふ············そうね······」
俺の言葉にシアンの雰囲気が変わる。
ルミネも杖を構えた。
「あたし達が欲しいのは······あなたの〝命〟よっ!!」
シアンが魔力を解放した。
完全に殺る気のようだ。
やはり目的は復讐か······。しかし少々解せん。
「理由を聞いてもいいか? ······何故俺の命を」
「あたし達のこと調べてたんでしょ? なら理由くらいもう察してるんじゃないのかしら」
「まあ、大体はな······だがお前達の口から理由を聞きたい」
二人の事情を思えば俺を憎む理由はわかる。
だが二人はヴェルドラに対してはあまり憎しみを抱いてないように見えた。
それは何故だ?
「以前······ファルムス国時代にこの町に騎士が攻めてきたことがあったわよね? その時に皆殺しにされた騎士の中にあたしのお父さんとハルトさん······ルミネの恋人がいたのよ。早い話が仇討ちね」
やはり予想通りか。
しかし少しおかしい······
「それは気の毒だと思うが············あれはヴェルドラが復活した余波に呑まれて―――――――」
―――――――――――ゾワワッ!!!!!
俺がそう言った瞬間、二人から凄まじい殺気が放たれた。
間違いない、2ヶ月前······あの時感じた殺気だ。
「そう······そうだったわね。あなたにとってお父さん達の命なんてゴミ同然······殺した事実を背負う価値もないんだったわね······!!」
凄い殺気だ。
二人の怒りが伝わってくる。
しかし今の言葉でどうして············
「〝神之怒〟とか言う光魔法は使わないの? あれであたし達なんて殺せばいいじゃない。お父さん達をゴミを掃除するように殺したように」
な、なに!?
何故〝神之怒〟のことを知っている!?
「あたし達が何も知らないと思ったの? あなたが騎士を皆殺しにして魔王に覚醒して······暴風竜を復活させて、そしてすべてを擦り付けたこと······全部知ってるのよ」
理由はわからないが二人はすべてを知っているらしい。
しかし何故?
俺が旧ファルムス軍を全滅させた事実はあの時、知れ渡らないように色々根回しをしたはずだ。
そもそも〝神之怒〟のことを知っていることがおかしい。
「〝神之怒〟······神の怒り······ね。シャレた名前よね。どんなに祈っても何もしてくれないくせに怒りだけはしっかり落とすなんてね」
シアンが乾いた笑みをうかべる。
「······ファルムス軍先遣隊が魔物の国の住人を殺した罪はハルト達本隊ともどもその命で償った······今度はお前の番······ハルト達を殺した罪、その命で償え······!!」
ルミネからも魔力が溢れる。
これは本格的にまずいな。
「どこからだ·········どこで知った? お前達の知ってる情報は一般には知られていないことばかりだぞ」
話の出所がわからない。
何故二人はそこまで知っている?
「答える義理はない······と言いたい所だけどいいわ、教えてあげる。とある悪魔が教えてくれたのよ、
すべてを。そしてあたし達に復讐できる力までくれた」
「悪魔? ······一体何者だ、その悪魔ってのは」
「さあ? あたしも詳しくは知らないわ。どうでもいいし······自分のことを名も無い下級悪魔とか言ってたけど」
悪魔だと?
ディアブロの知り合いか何かか?
「あたしからも質問いいかしら? エドマリス元国王······何故生かしているの? 新国王ヨウム様の相談役、正体隠しているけど、アレ、エドマリスよね? あなたにとって一番生かしちゃいけない元凶じゃないの?」
そこまで知っているのか······
「············奴には王としての責任を取らせるため生かしておいた」
「でもアイツはとっくに王の座を下りてる。もうやることはやらせたんでしょ? なら用済みじゃない」
「ヨウムの相談役として有能なんでな。それにエドマリスはすでに死んだ方がマシなくらいの恐怖を味わっている。······だから生きて償わせることにした」
俺の国の住人が死んだままだったなら、奴にも命で償わせたかもしれない。
だが住人を復活させたことで俺の怒りは収まっていた。
「ふ~ん······そう、なんだ············」
シアンが笑みをうかべる。
しかし目が完全に据わっている。
「お父さんは······生きて償うチャンスすら与えてもらえなかったのに······よりにもよって元凶は今も能々と生きているのね······ふ、ふふっ······ふふふっ············
あははははははっ!!!!!」
シアンが凄まじい魔力を解き放った。
闘技場全体が激しく揺れる。
「ならいいわっ! あなたを殺した後、エドマリスもあたしが殺してやるわっ!! その次は西方聖教会ねっ······お父さんが死ぬきっかけを作った奴らはみんな······みんな、殺してやるわ!! あはっ······あははっ、あははははははっ!!!!!」
シアンが狂ったように笑い声をあげる。
その目は狂気に満ちている。
正気を失っているとしか思えない。
「······シアン!!」
「大丈夫よルミネ、あたしは正気よ······多分ね」
ルミネの言葉で気休め程度だが落ち着きを取り戻す。シアンはもう色々とヤバイ。
ルミネの方はどうなんだ······?
「······なら急ぐ、わたしもいつまで正気でいられるかわからない」
二人が杖を構えた。
「そうね······早く終わらせましょう」
「······魔王リムル、わたし達からのお前に対する要求はただ一つ······」
「「死ね」」
まずい、何か来る!?
「「ダークデスフレア!!」」
俺に向けて二人が同時に魔法を放った。
炎の魔法か? 反射的にそれを避ける。
あつっ······僅かにかすったか······
ん? 熱い······? 俺が······?
熱には耐性があるはずなのに。
〈告! 耐性スキルの効果がありません。魔法攻撃の無効化は不可能······〉
〈智慧之王〉さんが焦ったような声を出す。
二人の魔法は普通じゃないとは思っていたがこれはヤバイな。
「······ダークフリーズランス!!」
ルミネが黒い氷の槍を作り出し、無数に撃ってきた。俺は〈暴食之王〉を使ってすべて喰った。
どうやら喰うことは出来るみたいだ。
「〝神之怒〟が神の怒りなら······あなたには破滅の光をあげるわっ!! ダークシャイニング!!」
シアンが黒い光線を次々と撃つ。
光が黒ずんでいる以外は〝神之怒〟とほぼ同じだ。
だが、それなら防ぐのは簡単だ。
〝神之怒〟は強力だが初見殺しであり、光を遮る方法があれば容易に防げてしまう欠点がある。
「······ダークメテオ!!」
そんな俺の動きを予測していたようにルミネが追い打ちをかけてくる。
ルミネの頭上に大小様々な黒い塊が現れ、俺に向かって降りそそぐ。
それを紙一重でかわしていく。
当たれば俺でも無事に済む保証はない。
しかも二人は魔力が切れる様子がまるでない。
このまま防戦一方はまずい、か······
「リムル様っ!!」
「っ!?」
ベニマルが割って入ってきた。
刀を振るい、シアンが後ろに跳んでかわす。
「クフフフッ、リムル様を殺そうなどとは身の程知らずも甚だしいですね」
ディアブロも姿を現す。
「身の程ならわきまえているつもりよ······あたし達はゴミ同然のクズ············でもそんなゴミのような命にも意地があるのよ」
「······同感」
シアンとルミネが闘技場のリングの中央に立つ。
「お前達の復讐の動機は理解した。だが攻めてきたのは旧ファルムス側だ、俺達はそれを返り討ちにしたに過ぎん! 恨まれる謂れはない」
ベニマルが、油断なく構えながら言う。
「リムル様はお守りするのが我らの役目」
黒嵐星狼のランガも現れる。
「降伏するがいい、今ならリムル様も命まで取りはしないだろう」
「あなた達のことは認めていましたがリムル様に害をなすなら容赦しませんよ」
ソウエイとシオンも現れ、二人を囲む。
シアンは未だ乾いた笑みをうかべている。
「降伏······ね。何故あたし達にそれを言うのかしら? あたし達はかつてのファルムス軍と同類よ。降伏の資格はない······話を聞く価値もない······死んで当然のクズでしょ? お父さん達はそうやって殺された······だったらあたし達も同じじゃない······問答無用で殺しに来なさいよ! 殺せるものならねっ! あははははははっ!!!!!」
駄目だ、シアンは完全に話を聞く気はなさそうだ。
「······容赦はしないはこっちも同じ······わたし達が欲しいのは魔王リムルの命だけ············でも邪魔をするなら容赦はしない」
ルミネも同じか······
二人の恨みが思っていた以上に深すぎる。
ベニマル達も話し合いは不可能と判断したようだ。
「待て······ベニマル」
「リムル様······こいつらは危険です。手加減している余裕はありません」
確かにベニマルの言う通りだが······
だが······二人を殺したくないと思うのは俺が甘いからなのか?
「「はぁっ!!」」
周囲の魔素が一瞬にして消えた!?
いや、シアンとルミネがすべて吸収した。
〈解。密閉された空間ではないため一時的なものです。徐々に魔素量は回復します〉
そうだとしてもまずい。
この闘技場内の魔素を一瞬で吸収するなんて。
聖浄化結界と違い、純粋に魔素を失くしただけだ。
魔素量がゼロになったことでベニマル達に異変が起きる。
とはいえ軽い体調不良になった程度だ。
だがその僅かな隙がまずい。
「······ダークブレード!!」
ルミネが2本の闇の剣を作り出した。
それをベニマル達ではなく自分達に向けて放った。
「がっ······ふ」
「······ぐ······シアン、今!!」
2本の剣がそれぞれ二人を貫く。
大量の血が流れ出る。
これは······まずい!
「ブラッディ·ジャッジメント!!」
二人から流れ出た血が、まさに血の雨となって降りそそぐ。
血は俺以外の全員を縛り付けるように拘束した。
「くっ······」
魔素が失くなり僅かに弱体化していたベニマル達は身動きがとれない。
「ふふっ······魔素が回復するまでしばらくは動けないハズよ······これで邪魔はいなくなったわね」
シアンとルミネが俺の方に目を向ける。
「「「リムル様!」」」
ベニマル達は拘束を解こうとするが、もがけばもがくほど拘束がキツくなるらしい。
幹部勢達を一瞬で······
この二人、強すぎだろ······
だが今のでわかったこともある。
二人の目的はあくまでも俺の命だけ。
他の者を殺す気はないようだ。
この状況、追い打ちをかければベニマル達を殺すことも可能なはず。
やはり町の評判通り、根はやさしい人物のようだ。
それをここまで狂わせてしまったのは······俺の責任か。
「時間もないし一気にいくわよ······」
周囲の血が二人の杖に纏わり付きその形を変えていく。
ただの安物の杖が真紅に染まった神秘的な形状へと変化していく。
俺の目から見ても少なくとも特質級クラスの力を秘めているぞ。
シアンが一瞬で俺との間合いを詰めてきた。
魔法攻撃ばかりで油断していたが、この二人身体能力も相当高い。
「ブラッド·チェーン!!」
紅く染まった鎖が迫ってくる。
避けようと動くとシアンが捨て身で俺を拘束した。
そしてシアンは自分ごと俺を鎖で縛り付けた。
まずい······!
「今よ、ルミネェーーーッ!!! あたしごと消しなさいっ!!」
「······良い覚悟······シアン、わたしもすぐに後を追う······」
ルミネの杖に尋常じゃない魔力が集まっている。
本気だ···! 本気でシアンごと俺を消す気だ。
〈告! 回避を進言します!直撃は避け······〉
〈智慧之王〉さんの声を聞くまでもなくヤバイのはわかる。
なんとか拘束を抜け出······
「······ダークネスデスイレイザ······っ」
ルミネの魔法が放たれる寸前で止まった。
今撃たれていたらやられていたかもしれない。
しかし、何故止めた?
俺が前を見ると複数の人影があった。
「やめろよ、ルミ姉っ、こんなこと!」
「なんで先生とお姉さん達が争ってるのよっ」
ケンヤ、そしてアリスの声だった。
ゲイル、リョウタ、クロエの姿もある。
なんでこいつらがここに!?
いや、よく闘技場で訓練してたからおかしくはないのか。
「どきなさい! ケンヤ、アリス、クロエ、ゲイル、リョウタ! あなた達を巻き込みたくないわっ」
シアンが叫ぶように言う。
しかし子供達は引く気はない。
ルミネも魔力を集中させたまま困惑している。
「シアンさんっ、ルミネさんっ、もうやめてください!」
「そうよぉっ、シアちゃん、ルミちゃんっ!」
フラメアとエレンも姿を見せた。
カバルとギドもいる。
「フラメアさん······エレン······」
俺は鎖から抜け出した。
シアンも俺から距離を取り、困惑顔でフラメア達を見る。
子供達は俺をかばうように間に入る。
「リムルさん······それは人質のつもりかしら? だとしたら効果的ね······あたしもその子達を巻き込みたくないわ」
シアンが皮肉っぽく言う。
その横に魔法を消したルミネが立つ。
ベニマル達も拘束から抜け出し、俺を守る位置に立った。
「······シアン、ここは分が悪い······状況も」
「そうね······悔しいけど、引くしかないわね······」
二人がうなずき合う。
「ここは引くことにするわリムルさん······でもあたし達は3日······いえ、7日後に再びあなたを殺しに来るわ。その時はこの国そのものを滅ぼすつもりでやる······邪魔する奴は誰であってももう本当に容赦はしない······たとえその子達であっても」
「······わたし達が欲しいのはお前の命だけ······
死にたくない者、死なせたくない者は避難させるべき······」
「待ってくださいっ! シアンさん、ルミネさん!」
フラメアが二人を止めようとする。
しかし二人はそれに答えない。
「さようなら············ごめんなさいフラメアさん······」
後半は誰にも聞こえないような小さな声で言い、二人の姿が消えた。
······引いてくれたのか。
「先生っ、何があったんだよっ······」
「なんでお姉さん達があんなことっ」
ケンヤ達が今にも泣きそうな顔で言う。
そうだったな······あの二人はずっとお前達の面倒を見てたんだったな。
この2ヶ月、ずいぶん懐いていたんだったな。
それがこんなことになるなんて······
駆けつけてきたシュナ達に子供達の面倒を頼む。
後で説明すると約束して子供達は帰した。
「リムル様······」
「リムルさん······」
フラメアとエレンが悲しそうに言う。
子供達同様二人もシアンとルミネと仲良くやってたからな······
······俺はどうするべきだ?
シアンとルミネはもう明確な敵だ。
あの様子では説得も不可能に近い。
敵は殺す。あの時甘えは捨てたはずだ。
けど、本当にあの二人を殺すべきなのか?
答えが出ない······
〈告。闘技場内に空間の歪みがあります。場所は―――――〉
〈智慧之王〉さんが警告してきた。
空間の歪み? なんだ、一体············
示された場所には確かに何か気配がある。
試しにそこを攻撃してみた。
『うおっ、マジか!? 次元をずらして見てたのにオレ様の存在に気づいたのかよ!』
慌てたような声で空間が割れて何者かが現れる。
あれは······まさか悪魔か?
シアンが書いてる内に暴走しすぎました。
あそこまでおかしくなるはずじゃなかったんですが。