表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/41

迷宮最終決戦 ~VS暴風竜 ~

(シアンside)


 迷宮攻略もずいぶん進んできたわ。

 迷宮の中じゃ昼も夜もわからないから、もうどのくらいの時間潜ってるのかもわからない。

 入る前に比べてあたし達は相当強くなったはず。

 力も魔力もかなり上がったし、スキルの力まで強力になった。



 〈強化再生〉の回復速度が明らかに上がっているし、〈魔素吸収〉は相手の魔法攻撃まで直接吸収できるようになった。


 今のあたし達なら魔王リムルにも勝てるかしら?

 いや、油断してはいけないわ。

 まだまだ、もっともっと強くならないと······!



 迷宮も90階層を越えた。

 区切りもいいし100階層で終わるのかしら?

 あの性格の悪い罠や迷宮の構造を考えるともっと下まである可能性も······

 まあいいわ。どこまでも行ってやるわ。



―――――――――96階層


 そこは広大な空間だった。

 入った瞬間、体が重くなって動きづらくなった。

 そして巨大な竜が一体いた。

 階層守護者(ガーディアン)にしては中途半端な階層にいるわね。

 もう迷宮も大詰めってことかしら。


 体が重く、たびたび大きな地震が起きるため動きが制限される。

 そんな中であの竜を倒さなければいけない。

 やってやるわ······!

 今のあたし達をたかが竜一体で止められると思わないことね。



 動きが制限されていることを除けばこの竜はたいしたことなかった。

 いや、違うわね。

 強さ的には今までの階層守護者(ガーディアン)と同等だったはず。

 でももうあたし達の敵じゃないわ。

 竜を倒したあたし達は次の階層へと下りる。



――――――――――97階層


 さっきと同じくらいの広大な空間。

 体の重さは無くなったけど、その代わりに凄い音をたてて雷が次々と落ちてくる。

 懐かしいわね······

 昔、雷が怖くてよくお父さんに慰めてもらってたっけ。今のあたしにそんな恐怖はもうない。


 雷が落ちる中、一体の巨大な竜がいた。

 さっきのが地竜ならコイツは雷竜ってとこかしら?

 属性が違うだけで強さはさっきのとたいして変わらなかった。



――――――――――98階層


 今度は冷気で覆われた広場。

 寒いなんてものじゃない。

 何もかもが凍り付いているわ。

 まあそんなことじゃもうあたし達は止められないけど。


 予想通り今度は氷竜がいた。

 似たような竜ばかりで芸がないわね。



――――――――――99階層


 今度は灼熱地獄。そして待ち受ける炎竜。

 ············いい加減にして欲しいわね。

 あたし達は炎竜を倒して先へと進んだ。

 重力も、雷も、冷気も、炎も、もうあたし達には効かない。




 そして遂に100階層。

 いかにも最後だと言わんばかりの巨大な扉があった。


「ルミネ······」

「······すごい力を感じる。今までの階層守護者(ガーディアン)とは比べ物にならない······」


 この扉の先にとんでもないのがいるわね。

 おそらく············最後の守護者。


「覚悟はいい? ルミネ」

「······ん、とっくにできてる」


 ルミネと頷き合い、扉を開ける。

 巨大な割に扉はすんなり開いた。

 扉の先は広大な特に何もない空間。

 今までの冷気やら灼熱の空間に比べたらひどく殺風景に思えた。


「クアーッハッハッハッ!! よくぞここまで来たな挑戦者よ。歓迎するぞ!」


 そこにいたのは一体の巨大な竜。

 でもコイツ············

 今までの竜とは比べ物にならない存在感······

 おそらくコイツが······


「······暴風竜」


 ルミネがつぶやく。

 間違いない。コイツが魔王リムルが復活させた暴風竜ヴェルドラ。

 おとぎ話で何度も聞かされた存在。

 そんな伝説の竜が目の前にいる。


「ほう、我の正体を見抜くとはさすがだな。お前達が倒してきたトカゲ共と同一視されるかと思ったぞ」


 確かにコイツに比べたらさっきまでの竜なんてただのでかいトカゲね。


「ここが迷宮の最奥でいいのかしら?」


 さすがにこれ以上先はないと思いたいけど。


「クアーッハッハッハッ!! その通り、我こそが最大にして最後の守護者だ! 我を倒せば迷宮は完全制覇となる」


 やっぱりこれで最後なのね。

 少し安心したわ。


「なら············やることは同じね」

「······倒す」


 あたしとルミネが構える。


「クアーッハッハッハッ!! その意気や良し! だがその前にこれを着けるがいい」


 暴風竜がそう言うとあたし達の前に腕輪が現れる。

 復活の腕輪だ。


「安心するがいい、罠などない! この暴風竜の名において誓おう。戦うからには全力を尽くす、その腕輪は純粋にお前達の身を案じてのものだ」


 つまり手加減するつもりはない。

 死にたくなければこれを着けろってことね。


「いらないわ。その腕輪に頼るつもりなんて一切ない」

「······わたしも同じ」


 あたしもルミネも腕輪を拒否する。


「勘違いしないでね。これは罠を警戒してる訳でも、あなたを舐めてる訳でもないわ」

「······魔王の恩恵は、受けない」

「そう······これはあたし達のただの意地よ」


 本当にただそれだけのこと。

 くだらない意地と言われればそれまでね。


「魔王とはリムルのことであろう? 何故あやつをそこまで嫌う? たいして面識などないはずであろう」


 そうね············面識なんてこの町に来たときに会った一度きり。

 でも頭の中では何度も現れる。

 殺しても殺し足りない憎い仇。

 ここにはあいつを殺すためにやってきた。

 それが、それだけが、あたし達の唯一の目的。


「それはあなたには関係無いことよ。それよりも······早く始めましょう」


 本来、お父さん達はコイツに消滅させられたことになっているけど事実は違う。

 だからコイツにはなんの恨みもない。


「まあよかろう、やるからには手加減はせぬ! 後悔せぬことだな」


 暴風竜が力を解放する。すごい魔素量ね。

 普通の人間ならただ立ってることすらできないくらいだわ。

 あたしも普通の人間だったはず······

 そんなあたしが伝説の暴風竜と戦うことになるなんて夢にも思わなかったわ。



「······ダークソード!」


 ルミネが闇の剣を無数に作り出し、暴風竜に向けて放つ。

 でも剣は暴風竜の体にすら届かずに弾かれる。

 暴風竜の周囲に真空の壁みたいのがあるわね。


「クアーッハッハッハッ!!」


 暴風竜が笑い声をあげながらブレスを放った。

 おそらくコイツにとってはただ息を吐いただけ。

 それがとんでもない暴風となってあたし達を襲う。


「がっ······は······」

「······うっ······く······」


 あたしとルミネが壁に叩きつけられる。

 ············なんて威力なの。

 あたし達の身体はここまででかなり強化されてるはずなのにそれでもダメージが大きい。


「ダークネス·ギガフレア!!」

「······ダークフリーズフォース!!」


 あたしが炎、ルミネが氷の魔法を放つ。

 全力で撃ったのに暴風竜の体を僅かに弾いただけだった。


「なんとっ!? 我の耐性をすべて無視してダメージを与えるとは······!」


 それでも暴風竜は驚いているようだ。

 まともにやっても勝ち目はない。()()ね。

 なら出来るだけ時間を稼ぐ。


 あたしは魔法で刃を作り出し、()()()()を切った。

 傷口から血が流れ落ちる。


「ブラッド·サーヴァント!!」


 あたしの血が無数のスライムのような生物となって暴風竜に向かう。

 血を操る闇魔法の一種よ。


「······ダークギガントジャベリン!!」


 あたしの血の生物が、暴風竜の動きを封じてる内にルミネが追い打ちをかける。

 巨大な漆黒の槍が暴風竜目掛けて落ちる。


 しかし次の瞬間、暴風竜が体内の魔素を解放した。

 ただそれだけであたしの血の生物と巨大な槍はかき消された。


「クアーッハッハッハッ!! 面白いぞ、ならばこの〝黒き稲妻〟を耐えられるか!?」


 今度は暴風竜の攻撃が来る。

 あたしとルミネは考えるより前に反射的にそれを避ける。

 ほんの少しかすっただけで全身に信じられないくらいの激痛が走った。


「くっ······ううっ」

「······強い······っ」


 痛みに耐えながらもあたし達は立ち上がる。

 まるで相手にならない······

 伝説の暴風竜を甘く見すぎてたかも。



 けどそれは向こうも同じ。

 手加減はしてなくても、こちらの動きを観察しながら戦ってるって感じね。

 初めから全力で殺しに来てれば瞬殺されてたはず。

 そこが甘いのよ······

 そろそろ良い感じに()()()()きてるわ。


「ルミネ!」

「······ん!」


 あたし達は魔力を両手に集中させる。

 暴風竜からはとんでもない量の魔素が常に洩れている。そしてそれはこの空間に充満している。

 あたし達は戦いながらも、その魔素を吸収し続けていた。

 今のあたし達の魔力は戦いが始まる前よりも大きく上がっている。



「「ダークネスフレアバースト!!!」」


「ぬおおーーーーっ!!?」


 あたしとルミネが同時に魔法を放った。

 闇の炎のエネルギーが暴風竜の身体で大爆発を起こした。

 ·········これはさすがに効いた······よね?


「クアーッハッハッハッ!! 今のは少し効いたぞ! よもやここまでやるとは」


 爆煙の中から笑い声をあげて出てくる。

 何て奴なの······

 今のを受けてもほとんど効いてない。


 でも、まったく効いていないわけじゃない。

 あたしの足下に暴風竜の身体の破片、鱗? がいくつか転がる。

 すかさずあたしはそれを拾って食べた。

 かなりの硬さだったけど、無理矢理噛み砕いた。


「む、我の一部を喰らうか!? 人間の顎で噛み砕ける程脆くはないはずだが」


 暴風竜が驚きの声をあげる。

 ルミネもあたしと同じように鱗を拾って食べた。



「「!!?」」


 な······なにこれ······身体が熱い······

 身体の奥底から力が溢れてくるみたい。

 伝説の暴風竜の一部を食べたから?

 あんな一欠片でこんなに力が溢れてくるの······?


「ふ、······ふふ······」


 すごいこの全能感············

 興奮で笑いが込み上がってくる。


「あはははははっ!!!」


 あたしは本能のままに大声で笑った。

 そして溢れる魔力を解き放った。



――――――――――!!!!!!


 ルミネもあたしと同じように(笑ってはいないけど)魔力を解放した。

 迷宮が大きく揺れる。


「し、信じられぬ、こやつら〝竜種〟の力を自分のモノにしたのか!?」


 暴風竜が慌てたように言う。

 信じられないくらいの力が溢れてくる。


 もっとコイツを喰えば······モット喰イタイ······



――――――ガンッ!!!


 頭に強い衝撃を受けて我に返る。

 ルミネが杖で思い切り殴ったみたい。


「······シアン、自分を失っては駄目······わたし達の目的を忘れては駄目」


 そう······だったわね。

 危なく我を忘れるところだったわ。


 ルミネもあたしと同じように力が溢れてきてるはずなのに自分を失ってないのね。

 ルミネがいなかったらヤバかったわね。


「ありがとう······もう大丈夫よ」

「······ん、それならいい」


 あたしとルミネは暴風竜に目を向ける。

 今のあたし達なら暴風竜ともまともに戦える。


「「はっ」」


 あたしとルミネは周囲の魔素をすべて吸収した。

 そして一気に解放する。



―――――――――!!!!!

―――――――――ビシッ······ビシ······


 迷宮が再び大きく揺れる。壁にひび割れまで入った。


「む、まずいぞリムルよ!! これ以上は迷宮が持たんぞ!」

(今二人に強制転移を······)


 何か聞こえた気がしたけど、構わず魔法を撃とうとした瞬間



―――――――――――――――――――――――――――――!!?


 周囲の景色が変わった。

 ここは······闘技場のリングの中央?


 どうやらあたし達は地上に戻されたみたい。

 いつもは多くの観客で賑わっている闘技場だけど、今は人の気配はない。


「······強制的に転移させられた」


 ルミネの言う通りみたいね。

 あのままだったら迷宮が崩れてたかもしれないし、なにか安全装置みたいのが動いたのかも。



 暴風竜の姿もない。

 ここにはあたしとルミネしかいない。

 どうしようかと悩んでいた時、()()()現れた。



「よう······お前達がこの町に来て以来だな。シアン、そしてルミネ······だったな」


 苦笑いを浮かべるように言って現れたのは魔王リムルだった。



 ああ······そうか······

 これで最後······なんだ······

 やっと······やっと終わる······


 待っててね······お父さん、お母さん······

 もうすぐあたしもそっちに行くから。



 ············魔王リムルの首を持って。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ