迷宮無双
(リムルside)
シアンとルミネがゴズールとメズールを倒した。
本来、50階層は日によってゴズールとメズールが交代で守護者となる。
いくらサービスデーでも二体同時はやりすぎだと思ったんだが。
それにしてもシアンとルミネ、二人は強いというよりおかしい。
倒した魔物を食べているのにも驚いたし、使っている魔法も普通ではない。
〈個体名シアン、および個体名ルミネ、両名は
〈捕食者〉と同系統のスキルを有していると推測します。使用している魔法も通常の〈元素魔法〉とは明らかに異なります〉
〈智慧之王〉さんが答える。
〈捕食者〉と同系統のスキルか······
だから魔物を喰ってその力を取り込んでいるということか。
けどそんなスキルを人間が手に入れられるものなのか?
「人族がそんなスキル持つとか聞いたことないのよさっ!」
というラミリスの言葉だが······当てにならん。
だがカバル達やフラメアに聞いても同じだった。
そしてルミネはゴズールに右腕を斬り落とされていたが再生していた。
シアンもどうみても致命傷を受けていたのに回復している。
メズールの槍に貫かれた時はエレンとフラメアが悲鳴をあげていたが。
そのことから〈再生〉スキルも持っているのだろう。どっちにしろ、本来人間が持つスキルではない。
なら何故彼女達はそんなスキルを?
それに二人が使ってる魔法もだ。
通常の魔法とは異なり〈智慧之王〉さんでも詳細はまだわからないらしい。
ゴズールとメズールは反則的な〈超速再生〉スキルを持っているが、そのスキルがほぼ生かされることなく倒されてしまった。
何もかもがおかしい。
シアンとルミネの迷宮攻略が続く。
二人は休憩部屋などは一切使うことなく攻略を続けている。
まるで俺のように眠る必要がないみたいだ。
二人が魔物を食べる姿を見て絶句していたフラメア達も今は魅入るように様子を見ている。
最悪二人が死んでしまってもラミリスの力があれば復活の腕輪無しでも生き返らせることは不可能ではない。
それを聞いてエレンとフラメアは安堵していた。
51階層からは主に死霊系の魔物が現れる。
スケルトン系、ゴースト系、そしてグール系などだ。二人は今まで通り倒してはそれらを食べる。
だがスケルトン系は骨だからなんとか食べれていたが、実体の無いゴースト系は食べられないようだ。
〈捕食者〉ならゴーストでも喰うことができたが、やはりなにか違うらしい。
そしてグール系。グール系はいわゆるゾンビだ。
当然その肉体は腐ったものだったりする。
シアンは倒したグールの肉を表情を歪めて見ていたが、意を決したようにそれを口にした。
だが口にはしたがやはり吐いた。
(う······えっ······ゲェーーッ······ううっ)
かなり苦しそうに吐いている。
あの様子を見る限り、味覚を遮断するとかは出来ないようだ。
だがルミネの方は表情を歪めながらも吐かずに食べていた。
(うえ······ル、ルミネ······あなたこれ平気なの······?)
(······平気じゃない······でも吐いたら力を取り込めない)
二人の会話が聞こえてくる。
(······この階層の魔物はわたしが食べる。シアンは後でわたしの身体を食べて力を得ればいい)
(············)
ルミネの言葉を聞いて死霊は再びグールの肉を見る。そしてもう一度その肉を口にした。
涙目になり懸命に吐くのをガマンしながらもシアンはグールの肉を飲み込んだ。
(は、はぁ······は······あ、甘く見ないでよルミネ······あなただけに負担をかけさせるような真似はしないわ)
シアンから強い覚悟を感じる。
生半可な覚悟じゃないぞ······これは。
「シアンさん······ルミネさん、やっぱり好きで魔物を食べてる訳じゃないんですね······何故お二人はあそこまでして力を求めるんでしょうか?」
フラメアが複雑な表情で言う。
「さっき復讐するとか言ってたでやすが······」
「あの二人が一体誰に復讐するってんだよ······」
ギドとカバルが言う。復讐······か。
今までの情報から考えて俺か、暴風竜か······
······甘く見てたな。
二人の恨みは思ってた以上に深いものかもしれない。
二人はどんどん先に進んでいく。
信じられない程のハイペースだ。
特にこの階層の魔物はできるだけ食べたくないようで進むスピードが今まで以上だ。
俺でもグール系の魔物はあまり喰いたくはない。
あの二人なら尚更だろう。
そして60階層に到達した。
ここの階層守護者は不死王アダルマン、側近の死霊聖騎士アルベルト、そして死霊竜だ。
それぞれがゴズール達に匹敵するか、それ以上の強敵だ。
いくらなんでも二人で三体を相手にするのは厳しいだろう。
まずはアルベルトが前に出る。
アダルマンと死霊竜は様子見のようだ。
シアンとルミネが杖を手に構えた。
アルベルトも剣を構える。
この剣は怨嗟の剣という特質級の武器だ。
対するシアンとルミネはどうみてもただの安物の杖だった。
武器の質からして違いすぎる。
その上アルベルトは剣技も超一流だ。
アルベルトの一撃でシアンが大きく斬り裂かれる。
追い打ちをかけようとするアルベルトをルミネが魔法で阻止する。
しかしアルベルトの反撃でルミネも斬られた。
普通ならこれで終わりだがシアンのダメージはすでに回復していた。
シアンが魔法を放ち、アルベルトが距離をとる。
その間にルミネも回復していた。
二人の回復速度がどんどん上がってる気がする。
アルベルトが剣技で何度も二人を斬るが、二人は何度でも立ち上がる。
どっちがアンデッドかわからなくなる光景だ。
しかも斬られるたびにダメージが少なくなってるようだ。
そしてとうとうアルベルトが普通に斬っただけでは二人は傷すらつかなくなった。
〈再生するたびに肉体が強化されていると推測します〉
〈智慧之王〉さんもそう思ったか。
一方的だと思われたアルベルトが逆に追い詰められているようだ。
追い詰められたアルベルトは一気に秘奥義で決めようとする。
しかしシアンとルミネの魔法によって阻まれ、遂にアルベルトが倒された。
様子見に徹していたアダルマンと死霊竜が動く。
だが一瞬にして死霊竜が倒された。
死霊竜は決して弱くはない。
だがシアンとルミネの魔法を抵抗すら出来ず倒されてしまった。
二人の魔法が明らかに強くなっている。
残るはアダルマンだけ。
形勢逆転してしまったようだ。
だがアダルマンは慌てた素振りを見せず二人を称賛した。
······強がりじゃないよな?
そこからはシアンとルミネVSアダルマンの魔法合戦となった。
見たところ魔力はアダルマンの方が上回っているようだが形勢は押されていた。
アダルマンの魔法が二人にまったく効いていない。
というより吸収されているといった感じだ。
〈告。両名の魔素量が増大しています〉
〈智慧之王〉さんの言う通り、二人に魔法は逆効果のようだ。
アダルマンがどんな魔法を撃ってもすべて吸収されている。
〈捕食者〉のスキルだけじゃなく、魔法を吸収するようなスキルも持っているのか?
最終的には二人の極大魔法でアダルマンは倒された。
······この二人、マジで強いぞ。
いや違う、どんどん強くなっている。
このままだと本当に迷宮制覇されるかもしれない。
「クアーッハッハッハッ!! アダルマン達を倒すとはあやつらなかなかだな! これは我の出番があるやもしれぬな」
いつの間にかヴェルドラが隣で観戦していた。
ベニマルとディアブロまで来ていた。
「シュナとシオンがリムル様が戻ってこないと心配していましたよ」
そういえばかなりの時間が経ってるな。
二人の迷宮攻略をかなり魅入っていたらしい。
「クフフフッ、なかなかに面白い人間が現れたようですね」
ディアブロが二人に興味を持ったようだ。
コイツが誰かに興味を持つなんて珍しいな。
シュナ達には悪いがまだ戻るわけにはいかない。
大人数での観戦モードとなった。
61階層からはゴーレム系の魔物が現れる。
生物ではないためかゴーレムは食べられないようだ。だがすでに強い二人は次々とゴーレムを蹴散らして進んでいく。
――――――――――70階層
階層守護者は聖霊の守護巨像。
以前俺が破壊したものよりもはるかにパワーアップしたものだ。
······そのはずだ。
シアンとルミネの魔法で一瞬で破壊されてしまった。二人の前に金色の宝箱と下へ続く階段が現れる。
(え、あれ? 今ので終わりなの)
(······あっけない)
二人が拍子抜けしたように言う。
「あ、ああ······アタシのエレコロちゃんが······」
ラミリスがガックリと落ち込んでしまった。
まあ俺も今のは呆気なさすぎると思ったが。
シアンとルミネ、二人が強すぎるのだ。
二人は金色の宝箱を無視して下へと向かった。
ここまで二人は一度として宝箱を開けていない。
金、銀、銅問わずに。
完全に宝に興味はないようだ。
「シアンさん、ルミネさん、お二人とも宝箱に見向きもしませんね」
フラメアも気になったようだ。
「宝に一切興味無いって感じだな」
「もったいないでやす······」
カバルとギドも口々に言う。
······確かに完全に無視というのは用意した側からしたら悲しいな。
二人が71階層へと下りる。
ここからは主に蟲型の魔物が現れる。
蟲型と言っても出てくるのは強力なやつばかりだ。
小型のもいれば大型のもいる。
シアンとルミネは現れる蟲を次々と倒していく。
(······マズイ······変な汁が出てきた······)
ルミネが蟲型魔獣をバリバリ食べながら苦々しく言う。
(気持ち悪い······でもゾンビよりはマシね······)
シアンも嫌な顔をしながら食べている。
その後も二人の快進撃は続いていく。
――――――――――80階層
階層守護者はアピト。
ゼギオンは未だ進化の最中でありお休みだった。
アピトは蟲女王の称号を持ち、ゼギオンを除けば蟲型魔獣最強である。
目にも止まらぬ圧倒的なスピードを誇り、その上軍団蜂という眷属を大量に召喚することができる。
軍団蜂は一匹一匹が特A級の強さを誇り、それが数十匹以上一気に襲いかかってくる反則級の相手だ。
だがシアンとルミネの方が圧倒的だった。
軍団蜂をただの雑魚同様に次々と倒していく。
倒した蜂はスキを見てバリバリ食べている。
そしてアピトのスピードは圧倒的なのだが二人にダメージを与えられない。
アピトの攻撃力は決して低くはない。
二人の防御力が高過ぎるようだ。
ついに二人の反撃でアピトが倒された。
もうアピトでも相手にならないくらい二人が強くなっている。
次の90階層の階層守護者はクマラだ。
九本の尾を持つ九頭獣という魔獣で九本の尾の内八本はそれぞれ意思を持つ尾獣へと変化させることができる。
それらは八部衆と呼ばれ、82~89階層はそれぞれ一体ずつ守護者として現れる。
そして90階層で本体のクマラと八部衆が集結する極悪なステージとなる。
しかし、シアンとルミネならクマラ達にも勝てそうだ。
「クアーッハッハッハッ!! これは本格的に我の出番が来そうだな! 我は迷宮の最奥で待つとしよう!」
ヴェルドラが立ち上がる。
迷宮の最奥にして最後の守護者こそ暴風竜ヴェルドラだ。
確かに本当に出番が来そうだ。
「気をつけろよヴェルドラ······。彼女達の目的はお前かもしれないんだからな」
迷宮の最奥にいるのがヴェルドラだというのは一般には知られていないはずだがどこかで情報が洩れている可能性はある。
「ん? どういうことだ、リムルよ」
ヴェルドラが言う。
「シアンさんとルミネさんの事情、何か知ってるんですかリムル様?」
フラメア達も聞いてきた。
······二人のこと、皆にも話しておいた方がいいか。
「二人の出身地は知っているか?」
「はい、ファルメナスから来たと以前聞きましたけど······」
なら話が早いな。
「以前、国名がまだファルムスだった時に軍を率いて魔国連邦に攻めてきたことがある」
「話には聞いています。確か争いのなかでヴェルドラ様が目覚められて両軍に大きな被害が出てしまったため、最終的に和解したと······」
フラメアが言うように一般的にはそういう認識だ。
だが事実は違う。
この場にいるフラメア以外は本当の事実を知っている。
「本当の事実はな······」
フラメアにも知ってもらった方がいいだろう。
俺はあの時、住人が殺されたこと、ファルムス軍を皆殺しにしたこと、そして魔王に覚醒して皆を生き返らせたことを話した。
「そ、そんなことがあったんですか······」
「あの時は本当に大変だったのよぉ······フラメアちゃん」
驚くフラメアにエレンが言う。
あの時はエレンの情報のおかげで救われたんだったな。
「旦那······今その話をするってことはもしかして······」
カバルが察したようだ。
「俺が殺したファルムス軍の中にシアンの父親、そしてルミネの恋人がいたらしい······」
「「「「!!?」」」」
カバル、ギド、エレン、そしてフラメアが驚愕の表情をする。
ベニマルは納得のいった表情だ。
他はそれぞれ思案顔をしている。
「それじゃあ······シアンさん達が復讐する相手って······」
「軍を消滅させたことになっているヴェルドラか、原因となった魔物の主である俺か······この魔国連邦そのものか······」
「そ、そんなっ······お二人がそんなことするなんて思えません!」
フラメアの言いたいこともわかる。
俺もあの二人が悪意ある人物だとは思ってない。
だが、どんなに優しい人でも自分の大切に想ってた人を殺した奴を許すとは思えない。
「クフフフッ、ならばいっそこの迷宮内であの二人を始末してしまう方がいいですね」
「だ、駄目っ、駄目よぉ、そんなこと」
ディアブロの言葉を慌てて止めようとするエレン。
「まだ推測の話だ。二人の真意はまだわからない。俺としてはあの二人と仲良くやりたいと思ってる」
穏便に済ませられるならそれが一番だ。
しかし今はまだどうなるかわからない。
······失敗だったな。
先伸ばしにせず、もっと早くあの二人と対話すべきだったかもしれない。
「クアーッハッハッハッ!! ならば我がその真意を見極めてやろう!」
ヴェルドラが堂々と言う。
このまま行けば二人はヴェルドラと戦うことになるだろう。
ヴェルドラが負けるとは思えない。
だが彼女達は戦いの中でどんどん強くなっていく。
もし······ヴェルドラをも上回る力を身につけたら······
嫌な予感が高まっている。
そう考えていた時、スクリーンにクマラを倒す二人が映し出されていた。
迷宮内の設定は原作通りに書いたつもりです。
それでも違和感があったらスミマセン。