迷宮攻略
レベル上げの基本、迷宮探索です。
(リムルside)
さて、今日の仕事は一段落した。
だからこの後、今まで先延ばしにしていたシアンとルミネ、彼女達と腹を割って話そうと思っている。
彼女達が魔国連邦に来て早2ヶ月。
町の人々の彼女達の評判は良好なものだ。
ケンヤ達以外の子供の面倒も見ているらしく町の子供達の人気者らしい。
そして先日の暴走馬車の件で他の住人にも名は広まっている。
フラメアを通じてシュナ、シオン、そしてベニマルなど幹部勢とも交流していた。
シュナ達の二人に対する評価も良好だった。
魔国連邦の住人に対する悪意などは皆無と言っていいそうだ。
それとシオンは二人に手料理を振る舞ったらしい。
二人はシオンの作った料理の見た目には驚いていたものの、嫌な顔をせず本当に美味しそうに食べたらしい。
シュナとベニマル、そしてフラメアはその様子をドン引きして見てたとか············
おかげでシオンはかなり上機嫌だったようだ。
「なかなかに見所のある人間です!」
二人のことをそんな風に言ってたな。
ベニマルは「俺、人族の女性を本気ですごいと思いました」とか言ってたな······
人族の女性じゃなくて彼女達がすごいんだと思うよ?
ただベニマルはその後、気になることも言った。
「あの二人から昔の俺と同じような気配があるんですよね」
昔のベニマルというのは、かつてオーガの里を滅ぼされて仮面の人物に復讐をたぎらせていた頃のことだ。
当時の俺は同じような仮面を着けていたためベニマル達元オーガ勢が俺を仇だと勘違いして戦いを挑んできたことがあった。
なんとか誤解が解けたからよかったものの、あの時のベニマル達は命を賭けてでも俺を討つというすさまじい気迫があった。
その時のベニマルと同じ気配············
つまり彼女達は俺を強く憎んでいるかもしれないってことだ。
いつまでも悪印象を持たれたままというのは良くない。だから彼女達と面と向かって話したいと思ったのだ。
「リ、リムルの旦那っ!!」
「大変でやんすっ」
「大変なのよぉ、リムルさんっ!」
そう考えていた時に俺の私室に騒がしく入ってくる三人。
重戦士のカバル。
盗賊のギド。
法術士のエレン。
冒険者の三人組だ。
その後ろからフラメアも頭を下げて入ってきた。
俺の私室にこうも遠慮無く入ってくる奴は少ない。
他にこうやって入ってくる奴といえば、ミリムにヴェルドラ、それにラミリス············結構いるな。
まあそれはいい。
それよりも何かあったのか?
「どうしたんだお前ら、そんなに慌てて。ダンジョンで何かあったのか?」
確か今日はラミリスが地下迷宮をサービスデーにするとか言ってて、コイツらは迷宮に潜ってたはずだよな。
「いえ、その、迷宮自体には問題はないんですけど············」
フラメアが言葉を選びながら言う。
「シアちゃんとルミちゃんが大変なのよぉ!」
エレンが言葉を被せる。
シアちゃんとルミちゃんとは間違いなくシアンとルミネのことだろう。
少し前にエレン達が付き添って二人が地下迷宮のチュートリアルを受けたとか言ってたな。
その時仲良くなったらしい。
二人が大変というのはダンジョンに潜ったということか?
地下迷宮は罠や魔物で溢れている危険地帯だ。
そのぶん貴重なお宝とかも出現するため冒険者には夢のような場所でもある。
それに危険と言ってもダンジョン内では死んでも生き返ることができる〝復活の腕輪〟が使える。
特に大きな問題は起きないと思うが。
「その······お二人がですね············」
「復活の腕輪の装備を拒否して潜っちゃったのよぉ!」
···························は?
(シアンside)
準備を整えてあたしとルミネは魔国連邦の闘技場。
その地下にある迷宮の入口に来ていた。
以前フラメアさんに案内されて初心者が必ず受けるチュートリアルってので潜ったけどこの迷宮、内部の魔素濃度がかなり高い。
魔物も出現するけどそのぶん貴重な宝もあるらしく冒険者の間では人気の高い場所だ。
チュートリアルの時に先輩冒険者のカバルさん達と一緒に少しだけ潜ってわかったけど下に行く程魔物も魔素濃度も高くなるみたい。
何階層まであるかはわからず、完全攻略した人はいないみたいだけどここならあたし達が強くなるのにうってつけだ。
この迷宮は魔王リムルではなく、もう一人の魔王ラミリスの支配下らしい。
フラメアさんの紹介で一度話したことがあるけど············小さな妖精の姿でとても魔王には見えなかった。
「ふぃ~、油断しちまったな」
「死ぬかと思ったでやすね」
「ていうか一度死んだけどねぇ」
あたし達の後ろからそんな声が聞こえた。
先輩冒険者のカバルさん、ギドさん、そしてエレンさんだった。
その後ろからフラメアさんも姿を見せる。
「あ、シアンさん、ルミネさん、お二人も迷宮に入るんですか?」
フラメアさんがあたし達に気付き声を掛けてきた。
「ええ、そのつもりよフラメアさん。カバルさん、ギドさん、エレンさん、この前はどうも」
「エレンでいいわよぉ、シアちゃん、ルミちゃん」
エレンさ······エレンとはとても話しやすく、町であたしとルミネと三人で店を回って楽しんだことがある。
エレンにとってもあたし達のように年の近い(実際エレンの年は知らないけど)女性冒険者は珍しいようでなにかと力になってくれていた。
「······エレン達も迷宮に潜ってた?」
ルミネが問う。
「ああ、今日はなんでもサービスデーってやつらしくてな、迷宮内の構造が狭くなって罠も少なく、そしてお宝が出やすくなってるんだよ」
「それでいい気になって油断してみんなして死んだんでやすけどね」
カバルさんとギドさんが答える。
なんでもないように言ってるけど、この迷宮内では復活の腕輪を着けていれば死んでも迷宮の入口で生き返れるらしい。
前回潜った時、あたし達は死ななかったからその効果を実感してないけど他の冒険者が魔物に殺される所は見た。
そして後でその冒険者が入口で仲間と笑いあってた所も。
「気を付けた方がいいですよ。サービスデーと言っても油断してたら凶悪な魔物や罠が出てきますから······」
「ええ、ありがとうフラメアさん、じゃあ行くわよルミネ」
「······今日は本気で攻略する」
そう言ってあたし達は迷宮の入口に向かう。
しかしフラメアさんが慌てたようにあたし達を呼び止める。
「ちょっと待って下さい、お二人とも復活の腕輪はどうしたんですか? 身に付けてないですよね」
フラメアさんは気がついてしまったようだ。
そう、あたし達は復活の腕輪を持っていない。
前回支給された物は宿に置いてきている。
だって必要ないから、あんなモノ。
「······わたし達には必要ない、だから置いてきた」
「いやいやルミちゃん、復活の腕輪無しでこの迷宮は危険過ぎるわよぉ!?」
「そうでやすよ、あっし達だって今死んできたばかりでやすから」
エレンとギドさんが心配するように言ってくれる。
二人が心配してくれるのは嬉しいけど、あたし達はあの腕輪を使いたくない。
「ありがとう、心配してくれて···でも腕輪無しでも潜るのは問題無いわよね? あれはあくまでも安全のためであって着けなきゃいけない義務はなかったハズだし」
「いや······確かにそうだけどよ」
カバルさんはそう呟いたけどエレンとフラメアさんはあたし達を止めようとする。
でもなんと言われようと着ける気はない。
死んでも生き返るなんて············あの魔王リムルに命を握られているみたいでゾッとする。
それにお父さんたちは死んでしまってもうそれっきり······
なのにあたし達は死んでも生き返れるなんて、そんなの許したくない。
「······わたし達が死んでも······忠告を聞かないバカな冒険者が死んだ······ただそれだけ。······皆が気にすることじゃない」
「ええ、ルミネの言う通りよ······それじゃあ行きましょう」
呼び止める声を無視する形であたし達は迷宮へと入った。
······さて、気持ちを切り替えて行かないと。
復活の腕輪は拒否したけど別に死ぬつもりなんてない。サービスデーのためか前回より早く1階層を抜けられた。
ここからが本番ね。
「······来る!」
2階層に降りていきなり魔物の大群が襲ってきた。
吸血蝙蝠、迷宮蝙蝠·········蝙蝠型の魔物が多数。
はっきり言ってザコね。
一分とかからず全滅させた。
「······マズイ」
ルミネと一緒に倒した魔物を一匹一匹食べる。
美味しくないし力も魔力もほとんど上がらない。
この程度の魔物では駄目ね。
そういえばシオンさんの手料理、見た目には少し引いたけど味は絶品だった。
しかも力と魔力が大きく上がった。
あの料理は魔物の一種だったのかしら······?
などと考えながら浅い階層は楽に進めていく。
途中、いくつか宝箱を見つけたけどすべて無視した。罠が仕掛けられている可能性があるし、そもそも宝になんて興味はない。
――――――――カチッ
「······うぐっ」
「大丈夫、ルミネ?」
「······問題······無い」
床のスイッチみたいなのを踏んだら壁から矢が飛んできてルミネの腕に刺さった。
ルミネが矢を抜くとしばらく流れていた血も止まり、傷も再生された。
さすがは〈強化再生〉ね。
傷つくたびに身体が強化されるから罠を恐れることもない。
毒ガスが充満した部屋もあったけど、苦しかったのは最初の数分間だけ。
その後は毒を吸っても平気になった。
······どんどん人間離れしていってる気がするわ。
順調に進んでいき、10階層までたどり着いた。
ここは他の階層と違って広大な部屋が一つあるだけ。階層守護者と呼ばれる強力な魔物が現れる。
ブラックスパイダーという巨大な蜘蛛型の魔物だった。確かランクはBだったはず。
以前に子供達を助けた時に倒したグランスパイダーよりも格下だ。
あたしとルミネなら難なく倒せた。
しかしちょっと予想外なことが起きた。
倒したブラックスパイダーの死骸が光になって消えてしまった。
あの消えかたは復活の腕輪の効果と同じだったはず。
どうやら階層守護者クラスの魔物は復活の腕輪を着けているみたいね。
まああれも魔王リムルかラミリスの配下だろうし当然かも。
食べる前に消えちゃったから力を取り込めなかった。
階層守護者は戦闘中に食べるしかないわね······
ブラックスパイダーが消えると金色の宝箱と下へ続く階段が現れた。
あたし達は宝箱を無視して下へと向かった。
(フラメアside)
シアンさん、ルミネさん······
お二人は何故あんな無謀なことを。
魔国連邦の迷宮が安全と言われているのは復活の腕輪が使えるからであってそれが無ければどこよりも危険な場所です。
私達はリムル様に報告した後、迷宮内の研究施設に来ています。
ここは迷宮内の最深部に位置する所で迷宮内部の様子が見られます。
カバルさん、ギドさん、エレンさんももちろん付いて来ています。
「ラミリス、彼女達の様子を見させてくれ」
リムル様がラミリス様に言います。
「アタシも気になって見てたのよさっ、すごいことになってるわよ!」
どうやらラミリス様もシアンさん達のことを気にしていたようです。
スクリーンと呼ばれる壁に映像が流れます。
シアンさんとルミネさんが迷宮を探索している画面です。
よかった······まだ無事だったみたいです。
「今、何階層にいる?」
「ついさっき40階層の階層守護者を倒したとこよ」
「············いくらなんでも早すぎないか? 潜ってまだ半日も経ってないだろ、いくらサービスデーだからってそんなに簡単にしたのか?」
「んなわけないじゃないのよさっ、簡単なのは20階層まで!! そこから先はむしろ難しくしてるわよ」
リムル様とラミリス様が言います。
「ねぇリムルさんっ、そんなこといいからシアちゃん達を強制的に戻すこととかできないのぉ!? 死んじゃったら手遅れになっちゃうわよぉ」
エレンさんが慌てたように言います。
「できなくはないが少し時間が······」
「ねえリムル············一つ聞いてもいい?」
「なんだ、ラミリス?」
「············あの子達、本当に人族?」
ラミリス様の言葉で全員がスクリーンを見ます。
たった今、シアンさん達が襲ってきた魔物を倒した所です。
Aランクの魔物でも倒せるお二人なら並みの魔物なら大丈夫でしょう。
「確かに強いな、だが別に人間離れしてるってわけでも······」
「違うのよさっ、この後! ほらっ」
ラミリス様が画面を指差します。
そこにはシアンさんとルミネさんが倒した魔物を食べている所が映されていました。
食用の魔物はいますけど今のは明らかに食用じゃありません。
しかも生でそのまま食べるなんて······
「「「「「······っ」」」」」
リムル様も、カバルさん達も、そして私も絶句します。
「倒した魔物を食べるわ、毒を吸っても平気だわ、傷を負っても回復するわでとても人族とは思えないんだわさ!!」