謎の悪魔との出会い
少し長くなっています。
二話に分けるつもりでしたがうまく分けられなかったので一話に詰め込みました。
回想メインの話で原作コミック14~15巻読めばより分かりやすいと思います。
(シアンside)
ここ、魔国連邦に来て2ヶ月が過ぎた。
正直、魔物が暮らす町ということで最初はあまり良いイメージはなかった。
けど、ここは人間も魔物も獣人も、何者も関係無く平等に暮らしている平和な国だった。
「いらっしゃい、シアンちゃん。今日は負けとくぜ!」
「ふふっ、ありがと。おじさん」
買い物をして店主と笑顔で交わす。
ずいぶんこの町に馴染んでしまったものね。
ある程度買い物を終えると、いつもの宿に戻った。
「······おかえりシアン」
「ただいま、ルミネ」
ルミネも出掛けていたはずだけど、もう帰ってたのね。あたしは返事を返す。
「······それでシアン、準備は?」
「ええ、明日最後の仕上げをするわよ。ルミネこそ準備は?」
「······バッチリ」
――――――――ズズズッ······
ルミネと話してる途中で周囲の景色が変わる。
宿にいたハズなのに、いつの間にか何もない真っ暗な空間に立っていた。
『よおーーっ、久しぶりだなお前ら』
「······悪魔」
ルミネの言う通り、現れたのはあの日、あたし達に力をくれた悪魔だった。
『安心しな、この空間はお前らに害はねえよ。監視してる奴に話を聞かせないためだけのものだ。話が終われば元の場所に戻れるぜ』
監視······やっぱり魔王リムルは、あたし達を監視していたのね。
『オレ様の与えた力、ずいぶん使いこなしてるじゃねえか。正直驚いてるぜ、初めは魔物喰うたびに吐いてた奴らが、今じゃすっかり慣れちまったものな』
「······慣れてない、ガマン出来るようになっただけ」
ルミネの言う通り、今でも魔物を食べるのは気持ち悪い。
食用の魔物もいるけど、ほとんどは見た目も味も最悪なもの。
『ずいぶんとこの町にも馴染んだものだな。もう復讐のことなんて、すっかり忘れてるのかと思ったぜ』
「白々しいわね、あたし達が復讐を忘れてないなんて、あなたが一番わかってるんじゃないの?」
『まあな、この町に来てからもお前らの〝憎悪〟の感情が途切れることはなかったからな。そういや先日の暴走馬車の件はヒヤッとしたぜ、オレ様の与えた力は強力だが万能じゃねえ。即死レベルのダメージを負えば普通に死んじまうんだぜ?』
「わかってるわ······。あれは体が無意識に動いたのよ」
あたしもあの日は死ぬかと思ったわ。
けど、目の前で人が死ぬかもしれないと思うと、ね······。
『復讐する前に事故死なんて興醒めも良いところだからな、無事で何よりだぜ。お前が目を覚ました時、助けた奴泣きながら礼を言ってたよな。おうおう、良いことしたもんだぜ』
この悪魔と話してると調子が狂う。
初めて会った時もそうだった。
――――――――(回想)―――――――――
あの日、戦場に向かうお父さんを止めるべきだったと後悔している。
魔物が国を作り、世界の脅威となる前に倒すべきだと言うファルムス王国国王の言葉で軍が結成された。
お父さんはその一員として魔物の国に向かった。
人間の国ならともかく、相手は魔物。
どんな恐ろしい奴がいるかわかったものじゃない。
あたしは不安だった。
何度も何度もお父さんの無事を祈り、眠れない日々を過ごした。
神様に祈ったって無駄だってわかってたハズなのに。もう何年も前にお母さんが病気で苦しみ、神様に病気が治るように祈った。
その願いが叶うことなくお母さんは······。
わかってたハズなのに今回も祈ってしまった。
そしてあたしの元に届いたのは――――――
魔物の国との戦闘中に暴風竜ヴェルドラが復活。
その荒れ狂う余波に呑まれて、ファルムス軍は一人残らず消滅したという報告だった。
一人残らず消滅······?
じゃあお父さんは······?
信じられない、信じたくない。
あの伝説の暴風竜が復活して、しかもそれに巻き込まれたなんてそんなことありえるの?
そもそも暴風竜は少し前に完全消滅したはずじゃ······。
きっと何かの間違いよ!
ただの誤報に違いないわ。あたしは信じなかった。
それから1ヶ月、2ヶ月······時間だけが過ぎていったけど、お父さんはいつまで経っても帰ってくることはなかった。
その間にファルムス王国は大きく変わった。
エドマリス国王が退位して、英雄と呼ばれていたヨウム様が新国王となって、国名もファルメナスに変わった。
ヨウム様はエドマリスと違い、あたし達平民のことも考えてくれていた。
あたしの仕事場である孤児院にも回してもらえる予算が増えて、生活が以前よりずっと楽になった。
皆笑顔で過ごすことが出きるようになり、ヨウム様には感謝してもしきれない。
けど······あたしの心は晴れない。
国も賑わい、皆笑顔。
でも、なんでここにお父さんがいないの?
仕事をしてても、まるで身が入らない。
「············っ」
孤児院の個室から突然、ルミネさんが飛び出してきた。普段、無表情のルミネさんが思い詰めた顔をしている。
「待って、ルミネさん! どこに行くの!?」
あたしは外に出ようとするルミネさんの肩を掴む。
ルミネさんはあたしより一つ年上の、孤児院の年長組の一人だ。
そしてあたしのお父さんと同様に、ルミネさんの幼なじみにして恋人のハルトさんは、魔物の国に向かって帰って来ない。
「······ハルトを捜しに行く」
「捜しに行くって、魔物の国まで一人で行くつもり!? 無茶よ!」
そうは言ったけど、ルミネさんの気持ちはわかる。
あたしだって今すぐにでも飛び出したい。
「······ハルトは生きて、魔物に捕まってひどい目にあってるかもしれない、シアンの父親だってそうかも······」
「そ、それは······」
確かにその可能性はある。
でも、何の力も無いあたし達が行って、何が出来るの?
―――――――ズズズッ
そんな時、突然何もないハズの空間がひび割れた。
『ジャジャーーーン!! オレ様参上!!』
そこから何者かが現れた。
人の様なシルエットだけど、明らかに人じゃないのがわかる。
『なんだよ、うまそーな気配がするから来てみりゃ、辛気臭い顔した女共だなぁ、おい』
「ひっ······」
まさか······悪魔!?
な、なんでこんな所に突然、悪魔が現れるの!?
『おっと誤解させる言い方しちまったか、安心しろよ、別にお前らのこと取って喰う気はねえからよ』
そんなこと言われても信用できるわけない。
けど、どっちにしろあたし達には何も出来ない。
あたしもルミネさんも震えることしかできなかった。
『しっかし、こんな奴らがオレ様の好みの感情、持ってんのかねえ? 悪いが、ちっとばかし記憶を覗かせてもらうぞ』
悪魔があたし達に向けて手をかざす。
一瞬、意識が遠くなった気がしたけど何ともないみたい······。
『へぇ~、お前は父親が、そしてお前さんは恋人が行方不明ってわけか』
!? 悪魔があたし達の状況を当てた。
どういうこと!?
ルミネさんも困惑してるみたい。
『ヒャハハハハッ!! そういうことかよっ、こりゃあいいな、おい』
いきなり悪魔が笑いだす。
一体なにがしたいの、コイツ······。
『知りたいか真実を? お前らの大切な人間は大災害に巻き込まれたんじゃねえ、殺されたんだよ、ある奴にな』
「「!!?」」
今、悪魔はなんて言った?
殺された? お父さんが······?
「······どういうこと?」
ルミネさんが悪魔に聞き返す。
怯えてる場合じゃない。
この悪魔は何を知ってるの?
『今からお前らに真実を見せてやるぜ、ジャジャーーン!!』
悪魔がそう言うと空間が歪み何かが現れる。
あれは······巨大な板?
見た事のないよくわからないものだった。
『こいつは某青猫ロボットの秘密道具、タ○ムテレビの大画面版······って言っても通じねえか。まあ過去の出来事を映し出す魔道具だ』
巨大な板に映像が現れる。
あれはエドマリス国王?
そして並ぶ大勢の騎士達。
(魔物達が国を作り、我々人類の脅威となろうとしている! 我らは正義の名の元にこれを討つのだ!)
演説をしてるのはエドマリス国王。
過去の出来事を映し出す魔道具?
じゃあこれは魔物の国に向かう騎士達!?
『察しの通りこれは数ヶ月前の映像だ。その日、お前らの大切な人間に何が起きたのか見れるぜ』
「······っ!!」
ルミネさんが目を見開いている。
信じられないけど、本当みたい······。
『二万もいると面倒だな、お前らの大切な人間ってのはどこかなっと···』
悪魔が板をつついたりするたびに映像が変わる。
(ちょっとやめてくださいよ、これから襲撃って時に恋人の肖像見つめるとか)
(恋人じゃないよ、それに肖像でもない)
「······ハルト!?」 「お父さんっ!?」
ブローチを見つめている男性に、それに話しかける青年の映像。
ブローチを見つめているのはお父さんだ。
間違いない。話しかけている青年はハルトさんだ。
『お、丁度同じ場所にいたのか、なら一気に見れて都合いいな』
悪魔が何か言ってるけどそれ所じゃない。
ルミネさんも身を乗り出して見てる。
(クローバーの押し花ですか?)
(出発前に子供がくれたんだよ、お守りにって······母親の墓の傍に生えていたらしい)
(へぇ······)
お父さん、あたしが渡した押し花、大事に持っててくれたんだ······。
(まあクローバーはともかくこのペンダントは値打ちものですよね、売ったらいい金になるんじゃないですか?)
(売るわけないだろ妻の形見だ)
ハルトさんとお父さんの他愛ない会話が続く。
とても平和的な様子に、少しホッとする。
(けっ、そんなケチな装飾品売らなくても俺らはこれからたんまり稼ぐんだぞ)
ガラの悪い男が口を挟む。
なんなのよこの男······感じ悪い。
(噂じゃテンペストだか言う国はえらい豊かなんだろ?)
(この遠征の功労者にはそこの統治権が与えられるって聞いたぞ)
(え!? 俺らが!?)
(ばーか、そりゃお偉方の話だ。まあ俺たちもそのおこぼれに与るけどな。それに聞いたか? 先遣隊の話じゃ魔物と言っても美女が多いらしいぞ)
(うわ、本当か!? ってことは現地で発散もアリ?)
(お前にはゴブリンがお似合いだよ)
(んだとてめえ)
他の男達も口々に言う。
なんなのこの人達、本当にこれが魔物を討つ正義の騎士の一員なの!?
(ちょっと······いくら何でも民間人に手を出すのは······)
ハルトさんが苦言を漏らす。
ハルトさんはまともだ。
よかった、この人達がおかしいだけだわ。
(〝人〟じゃねえだろ、奴らは〝魔物〟だぞ、西方聖教会のお墨付きがある、魔物には何をしたっていいんだよ)
男達の言葉にハルトさんが絶句している。
「······こいつらクズ、······ハルトが正しい」
ルミネさんもやっぱりそう思ったみたい。
そんな男達を無視して、お父さんはその場から離れようとする。
(あ、先輩!)
(弓の調子が良くない。弦張り直してくる)
そう言うお父さんの後を追うハルトさん。
(どうなんですかねあの人ら······ちょっと感性おかしくありません?)
(襲撃を前に高揚してるんだろ、よくあることだよ)
(よくあることって······)
(お前はこれが初めての遠征だろ、染まる必要はないが慣れた方が楽だぞ)
(そんなもんなんすかねえ······)
『まあそうだな、戦場じゃまともな神経してる方がおかしいくらいだな』
悪魔が口を挟む。
お父さんはまともだ、おかしくない。
不意に、そんな騎士達のいる上空に人影が現れる。
(人···子供?)
お父さんもそれに気付いて上を見る。
コウモリのような翼を広げた、小さな子供だ。
『あれは魔王リムル、まあこの時点じゃまだ魔王じゃねえんだけどな』
あの子供が魔物の主!?
それよりもその魔物の主がなんでここに!?
(死ね! 神の怒りに焼き貫かれて――――――〝神之怒〟!!)
魔物の主が手を掲げると光の雨が降り注いだ。
光は次々と騎士達を貫き殺していく。
地獄のような光景だった。
「······ハルトッ!!?」
光が一瞬でハルトさんの額を貫いた。
ハルトさんはその場に座り込むように倒れた。
それを見たルミネさんが悲痛な叫びをあげる。
『おおー、ありゃ苦しむヒマもなく一瞬だな。ある意味幸せな最期だな』
悪魔はマイペースに言う。
「······ハルト、うそ······ハルトが······!!」
(おい、お前走れるか!? とにかく逃げ―――)
お父さんがハルトさんに駆け寄るけどすでにハルトさんは······。
お父さんもすでにハルトさんが事切れていることに気付き、その場を離れる。
光の雨は次々降り注いでいる。
お願い、逃げて······逃げ切って······!!
そんな願いもむなしく光がお父さんを貫いた。
(うぐっ······)
急所は外れたようで、まだお父さんは生きている。
目の前に持っていたブローチが転がり、苦し気にそれを拾おうと手を伸ばす。
しかし、その目の前に魔物の主が降り立った。
(······はぁ······はっ)
お父さんが血を吐きながら息をする。
魔物の主はまだ動こうとしない。
(お······願い······です、殺さないでください······っ家族は殺さないでください)
な、何を言ってるのお父さん···?
(お······私はこの侵攻がどんなものか知った上で参加しま······したっ······罪は私にあります······子供たちは何も知らないのです······!)
『おおー、命乞いじゃねえ、命要らぬ乞いってやつか。自分はどうなってもいいから子供たちは助けてくれ~ってことだな』
うるさい悪魔······!! 黙ってて!
魔物の主はブローチを拾い、お父さんに近づいていく。
(もう喋るな)
魔物の主はそう言うと、お父さんの手にブローチを置く。
「やめてっ、お願い······! お父さんを殺さないで!!」
『おいおい無駄だぜ、どんなに叫んだってこれはすでに起きた過去の出来事だ』
悪魔の言葉なんて耳に入らない。
魔物の主はお父さんの耳元でボソボソ何か言う。
声が小さくて聞こえない。
魔物の主が立ち上がりお父さんに背を向けた瞬間――――――
―――――――――――ジッ
光がお父さんの頭を貫いた。
そのまま倒れるお父さん······。
うそ······? お父さんが死······。
『おおー、容赦ねえな、さっきの声も小さすぎて聞こえなかったが〝もう喋るな、お前らクズ共の声を聞くだけで虫酸が走る〟って所か?』
その後も映像が続く。
光の雨がやんだ後、エドマリスと魔物の主の交渉とも呼べない交渉が決裂して、エドマリスと西方聖教会大司教以外が皆殺しにされた。
『殺した騎士共の魂は魔物の主が喰い、残った肉体は悪魔召喚の生け贄にしたか。無駄のねえことだな』
そこで映像が途切れた。
···············································
あたしは言葉か出ない。
ルミネさんは「·······ハルト、······ハルト······」と、うわ言のように繰り返している。
『見ての通りだ、お前らの大切に想ってた人間は魔王リムルに殺された。これは紛れもない事実だ』
悪魔の言葉が胸に刺さる。
お父さんは殺されていた。
·······信じたくない······でも······。
「······なんで」
『ん?』
「······話と違う、ファルムス軍は暴風竜の復活に巻き込まれたと言ってた······」
ルミネさんが絞り出すように言う。
確かにそうだわ。
聞かされてた話と違い過ぎる。
『リムルはな、騎士共の魂を喰ったことで魔王へと覚醒したんだ。そしてその力で暴風竜を復活させた。それ幸いにと、自分が殺した事実を暴風竜にすべて擦り付けたんだよ』
「なんでそんなことを······」
『だってよ、魔王リムルは人間と手を取り合って平和に暮らしたいと本気で言ってるんだぜ? そんな奴が二万もの人間皆殺しにしたって聞いたらイメージ最悪だろ? なかったことにするのが一番なんだよ、一方的に攻めてきたクズ共のために、自分の目的が果たせないなんて馬鹿らしいだろ』
クズ······あたしのお父さんもクズだって言うの······。
「······ハルトはクズじゃない、······クズのような騎士もいた······でもハルトは違う······!」
『同じことだ、魔王リムルからすりゃクズそのものの騎士も、お前らの大切な人間も等しく同類だ。生かす価値もない、背負う価値もないクズだ』
······許せない············。
自分で殺しておいてそれをなかったことにして、人の命をなんだと思ってるの······?
そんな奴が人間と手を取り合って平和に暮らしたい?
······ばかにしてるとしか思えない。
『言っとくが悪いのは旧ファルムス側だぜ? 奴らの先遣隊が魔物の住人を虐殺したのが始まりだ。魔王リムルはその報復、攻めてきたクズを返り討ちにしただけだ』
そう言われたところで納得できるハズない。
怒りで心が埋め尽くされていく。
『おおー、良い感じの〝憎悪〟の感情だ。いいねえ、やっぱりオレ様の目に狂いはなかったな。だが怒りを覚えたところでどうする? お前らに何が出来る? 二万以上の精鋭騎士、皆殺しにした魔王相手に、小娘二人が?』
······痛いところを、この悪魔は············。
悔しい······力が欲しい、あの魔王を殺せるだけの力が。
そのためだったら、あたしはなんだってする!
そんなあたし達を見て悪魔はニッと笑う。
『欲しいか、復讐できるだけの力が? 欲しいならくれてやるぜ』
まさに悪魔の言葉だった。
「本当に······!!?」
この状況でそんなこと言われて、乗らないハズがない。
『ああ、お前らがその力をうまく使えれば、魔王リムルを殺せるかもしれないぜ』
「······欲しい······ハルトの仇······必ず討つ······!!」
『当然だがタダじゃねえぜ、代償はもらう』
悪魔との契約には代償が必要。
そんなことわかってる。
今のあたしは命を差し出したっていい。
『なあに安心しな、たいした代償じゃねえ、お前らにしてみればあってないような代償だ』
「何を払えばいいの······? 魂でも寄越せって言うの?」
『魂なんて要らねーよ、オレ様が欲しいのは······お前らの〝感情〟だ』
――――――――(回想終了)―――――――――
こうしてあたしとルミネは悪魔に力をもらった。
悪魔があたし達にくれたのは4つのスキル。
〈暴食〉
生物を体内に取り入れることでその力を自分の物にする。
喰らった生物が自身より上位な存在ほど上昇する力は大きくなる。毒物などは時間と共に浄化される。
すべて自身の純粋なエネルギーとなるため排泄の必要はない。
仕留めてから二十四時間以上経った生物は効果がない。
〈魔素吸収〉
大気中の魔素を吸収し、自身の魔力に変える。
吸収した余剰分が一定値を超えると自身の魔力の最大値が上昇する。
〈強化再生〉
ダメージを負っても時間と共に再生される。
部位欠損ダメージも同様。
再生された肉体は再生前より強化される。
〈黒の魔導書〉
闇系統の魔法をすべて使用可能になる。
通常の魔法より威力は高いが、消費魔力も大きい。
どれも強力なスキルだった。
悪魔が言うにはこの世界の理から外れたスキルということだったけど、よくわからない。
使えるんだったらなんだっていい。
〈暴食〉のスキルは生物ならなんでもいいみたいだけど、食用の家畜とかではほとんど力は増えない。
だから吐き気をガマンして魔物を食べ続けた。
〈強化再生〉は大抵の傷は回復してくれる。
でも大きすぎるダメージは回復が遅い。
〈魔素吸収〉と〈黒の魔導書〉はとても相性がいい。
どんなに魔法を撃ってもすぐに魔力が回復する。
それに魔国連邦は魔素濃度が他の所より高いからこの2ヶ月、ただ生活してるだけで魔力が格段に上がった。
『けどよ~、復讐を諦めるってのも一つの手だと思うぜ?』
不意に悪魔がそんなことを言い出した。
「どういうことよ······?」
『お前らもわかってんだろ? この国、良い国じゃねえか。種族なんか関係ねえ、誰もが楽しそうに暮らしてるぜ』
そんなこと、この2ヶ月暮らしてきてわかってる。
『魔王リムルはまさに理想の王だな。自分の欲望を叶えつつ、民のこともしっかり考えてる。旧ファルムス王国のエドなんとかみたいに、自分のことしか考えてない奴とは大違いだ。それと逆の自分を犠牲にして民に尽くすってのもダメだな。それはいつか必ずどこかで破綻する。その点、この国は完璧だ』
「······何が言いたいの?」
ルミネが悪魔に問う。
『お前らの復讐は、せっかく上手くいってるこれらをメチャクチャにする行為だぜ? 魔王リムルを殺せたとしても大混乱は間違いなしだ。リムルの配下はお前らを許さねえだろうし、お前らに懐いてるあのガキ共も、大好きな先生を殺されたってことでお前らを恨むだろうよ。その上、復讐を果たせても、別にお前らの大切な人間は生き返るわけでもねえ』
「「······」」
『お前らの復讐はこの国にとっても、お前ら自身にもまさに百害あって一利なし、だ。お前らが復讐なんざスッパリ諦めて泣き寝入りしてりゃ、それで万事解決、丸く収まるぜ』
「だったら、だったらなんで、あなたはあたし達に力をくれたのよ······!」
『オレ様はお前らに選択肢を与えただけだ。〝できない〟のと〝やらない〟じゃ結果は同じでも意味合いは大きく変わる。オレ様は復讐できる力は与えた、だがやるやらないはお前らの自由だ。オレ様は復讐を強制するつもりはねえ、止めるつもりもねえけどな。まあ、一般論ってやつだ』
「あなたはそれでいいの······? あたし達に真実を教えて、力まで与えて、それなのにあたし達が復讐を諦めても」
『おう、構わねえよ。すでに代償はもらってるしな、その力はもうお前らのモノだ、何に使おうと自由だ。オレ様にとってお前らの復讐なんざ成功しようと失敗しようと、諦めようとどうだっていい』
自由······確かにこの力を復讐以外に使えば色々できると思う。
このまま冒険者として生きていくのもいいし、お金を稼ぐのはそんなに難しくない。
復讐なんて忘れれば、幸せに生きていけるかもしれない。
······でも、そんなこと出来ない。
あたしの中の魔王リムルに対する〝憎悪〟の感情は消えてくれない。
「······ありえない、わたしは復讐を諦めない······ハルトの仇は必ず討つ」
ルミネもあたしと同じ気持ちみたいね······。
「そうね、あたしも同じよ······お父さんの無念は必ず晴らす」
『そのためにすべてを失うことになってもか? 勝っても負けても、お前らに待ってるのは破滅だぜ?』
「覚悟の上よ······」 「······覚悟の上」
こんなこと、お父さん達も望んでないかもしれないけど。
お父さん達をクズやゴミ扱いした挙げ句殺した奴を放っとくことなんて出来ない。
ましてや許すなんて······絶対に。
『オーケー、わかった、悪かった。くだらねーこと言っちまったな』
「ねえ今更なんだけど一つ聞いてもいいかしら?」
『なんだ?』
「あなた······本当に悪魔なの?」
あたしの言葉に一瞬キョトンとした顔をする悪魔。
しかしすぐに笑い出した。
『ああ、オレ様は悪魔だぜ。しがない名も無い下級悪魔だよ、ヒャハハハハ』
まあ、コイツの正体がなんだってどうでもいいこと。
どんなに祈っても何もしてくれない神に比べたらコイツの方がよっぽど神っぽく見えただけ······。
『まあそれならそれでいいさ。これはサービス、忠告だが、オレ様の見立てじゃ、今のお前らじゃ魔王リムルに勝つのは難しいと思うぜ』
「わかってるわ、そんなこと」
『お前らなんでこの町で装備を整えねえんだ? お前らの装備、この町に来た時のまんまだろ。RPGで言うなら最初の町で揃う初期装備だぜ? この町にはラストダンジョン級、いや裏ダンジョン級の装備が売ってんのによ、金ならそこそこ持ってんだろ』
「そのあーるぴーじーってのが何か知らないけど、この町の装備に手を出す気はないわよ」
『ほう、なんでだ?』
「魔王リムルの手のかかった装備だからよ」
魔王が作った、もしくは作らせた装備で魔王を倒せるとは思えない。
「······おそらく町で売ってるのは、魔王にとって二級品か三級品······。本当の一級品は売らずに自軍に支給するはず」
ルミネの言う通りね、きっと。
『へぇ、鋭いじゃねえか。少し前まで戦いとは無縁だった奴らとは思えねえな。けど、ならどうするんだ? 言っとくがオレ様はこれ以上力を与える気はないぜ』
「わかってるわ、さすがにこれ以上くれるなんて思ってないわよ」
くれるなら欲しいけど。
けど力を手に入れるアテはある。
あそこならあたし達の力を大幅に上げることが可能なハズ······。
『まあいいや。お前らがどうするか、オレ様は楽しく見させてもらうとするわ。一応これも言っとくが、オレ様はお前らに力を与えたが、これ以上手助けするつもりはねえ。お前らが返り討ちにあって魔王リムルに殺されそうになっても、オレ様は助けねえ、どんなに助けを求めてもな。むしろ、そんな状況になったら指差して笑ってやるぜ』
悪魔が心底楽しそうに言う。
やっぱりコイツは悪魔ね。
次回から二人が本格的に動き始めます。
悪魔の与えたスキルはオリジナルのものです。
原作にはありません。