番外ストーリー ~その3~
(シアンside)
あたしとルミネはランガさんと共に獣王国ユーラザニアに向かうことになった。
あの悪魔が別世界を滅ぼしたという邪神の眷属をこの世界に連れてきてしまったらしい。
「シアンさん、ルミネさん、気を付けていって下さいね。ランガ様、お二人のことよろしくお願いします」
フラメアさんが見送りに来てくれている。
本当なら午後は魔国連邦でショッピングを楽しむ予定だったんだけど、突然のことみたいだったし仕方ないわよね。
基本あたし達がやるべきことは獣王国に今回の事態を説明するだけ。
獣王国には最強の魔王とも言われるミリムさんがいるし特に心配はいらないだろうとのこと。
「今回はよろしくお願いね。ランガさん」
「娘達よ、言っておくが我はまだ貴様らがリムル様を害そうとしたこと、許してはおらぬからな」
ウウウ······と唸りをあげながらランガさんが言う。
あたし達はあれだけのことをしたんだし、こういうふうに思われても仕方ないわよね。
ルミネが前に出てランガさんに向けて右手を差し出した。
握手でもするつもり?
「······お手」
違った。何考えてるのよルミネ······
「愚弄するか小娘······! 我は犬ではない!」
「······アリスやケンヤ達はランガはものすごく強い犬だって言ってたけど······?」
「ぬぐっ······」
······そういえばそんなこと言ってたような。
けどランガさんがただの犬じゃないなんて、きっとあの子達もわかってるわよ。
というか、ルミネだってわかってるでしょうに······
「そんなこと言ってないで早く獣王国に向かいましょう。ルミネも変なこと言わない! ······ランガさん、ごめんなさいね」
「ぬう······まあよい、早く乗れ。リムル様のお言葉がなければ本来貴様らを乗せることなどありえぬのだからな!」
毒気を抜かれたのかランガさんが渋々そう言った。
あたしとルミネはランガさんに跨がった。
「急ぎの用件ゆえに全速で行くぞ。振り落とされたりしたとしても我は関知せぬ。本来伝言など我だけで充分、貴様らなど必要はないのだからな」
ランガさんが地を蹴り走り出した。
すごいスピード······これなら獣王国まで1日もかからないわね。
あたし達が周りの景色を楽しむ余裕があるのを見て、ランガさんは少し不満気な様子だった。
(リムルside)
獣王国はシアン達に任せて俺はブルムンド方面にある邪神の眷属の反応の場所まで来ていた。
暇そうにしていたヴェルドラも連れてきている。
こいつがいるなら大抵の相手なら心配いらないだろう。
永い時を生きるヴェルドラも邪神とやらのことは知らなかった。
まったく情報のない相手だからな。
用心するに越したことはない。
「リムル様! いらしたのですか」
突然訪問した俺とヴェルドラをゲルドが迎え入れてくれた。
タイミングが良いのか悪いのか、ゲルド達オーク勢にこの辺りの整備を頼んでいたんだよな。
「ゲルド、この周囲で何か変わったことはなかったか?」
この辺りのことはゲルドなら熟知しているだろう。
「実は······昨日妙な物が現れまして······。対処に困っていたところです」
反応はすぐ近くだからな。
やはりゲルドも気付いていたのか。
ゲルドに案内を頼み、その場所まで行く。
街道から少し外れた場所にそれはあった。
見上げる程に巨大な繭のような物だった。
これが邪神の眷属とやらか?
中から確かに心臓の鼓動のような音が聞こえる。
「ほう、これが邪神の眷属か。なるほど、確かに禍々しい気配を感じるな」
ヴェルドラが繭を見上げながら言う。
「邪神······?」
事情を知らないゲルドが首を傾げている。
ゲルドには後で説明するとして、こいつをどうしようか······
ヴェルドラの言うように禍々しい気配だ。
放っておくわけにはいかないが問答無用で消してもいいのだろうか?
あの悪魔の話では話し合いは期待できないとのことだが、本当かどうかはわからない。
もしかしたら案外話のわかる良い奴の可能性も············
この禍々しい気配からしてありえないか。
――――――ピシッ
繭にひび割れのような亀裂が走った。
まずい、目覚めたのか?
「ヴェルドラ、先制攻撃だ。出てくる前に仕止めるぞ!」
「クアーーッハッハッハッ! リムルよ、それは失敗するフラグではないか?」
やかましいわ。
こうしている間にも亀裂はどんどん広がっていく。
禍々しい気配が一層濃くなってきた。
「いくぞ、ヴェルドラ!」
「うむ、ならば一撃で吹き飛ばしてくれよう!」
俺とヴェルドラで繭を吹き飛ばすべく、渾身の一撃を放った。
だが、俺達の一撃は繭に命中する前に霧散した。
何が起きた?
「――――――――!!!」
繭が割れて耳を突くような声をあげながら、邪神の眷属が姿を現した。
全身黒で染まった巨人像のような見た目だ。
魔神型の眷属ってやつか······?
悪魔の情報通りならコイツの名はアヴァリス。
能力は分解だったな。
もしかして今の俺達の攻撃も〝分解〟したのか?
「おい、言葉は通じるか? 俺は――――」
「―――――――――!」
邪神の眷属が目を光らせると一瞬で大地が分解された。
あぶねえ、喰らう所だった。
コイツ、問答無用かよ。
話し合いどころか、言葉が通じてるのかも怪しいな。
そしてこれがコイツの能力〝分解〟か。
何でもバラバラにする能力とか簡単に言ってたが、分子レベルで分解されてるじゃねえか。
まともに喰らえば俺でも無事に済む保証はなさそうだ。
「ゲルド、仲間達を連れてここから離れろ。巻き込まない保証ができない。周囲に一般人がいたら一緒に避難させてくれ」
「わかりました······!」
ゲルドに他のオーク勢や一般人の安全は任せて俺とヴェルドラは邪神の眷属と対峙する。
「クアーーッハッハッハッ! これはなかなかに楽しめそうだな」
ヴェルドラが楽しそうに笑う。
やれやれ······戦いは避けられそうにないか。