ショートストーリー② ハルトとルミネの日常
(ハルトside)
ハクロウさん指導の訓練が終わり一息つく。
この国に住むようになってから、おれはルミネと一緒に魔国連邦の軍の訓練を受けている。
ファルムス······じゃなかったファルメナス国にいた頃に受けていた傭兵団の訓練が生温く感じるくらいキツイものだった。
けど、それでもおれやルミネが付いてこれるくらいやさしくしてくれているらしい。
一緒に受けているゴブタさんとかはおれ達の何倍もキツイ内容だったからな······
あれ、ただの拷問じゃないかな······?
今日の訓練は午前中に終わる内容だったので午後はルミネと町を回る約束をしている。
まだこの国を全部回ったわけじゃないからな。
「······久しぶりのハルトとデート」
ルミネが嬉しそうに腕を組んできた。
おれもこうしてルミネと二人でいるのは久しぶりだし、嬉しい。
ファルメナス国の孤児院にいた頃はそんな余裕はなかったからな······
ちょうど昼を回ったあたりだったので、おれ達は昼食を摂ることにした。
あの悪魔にスキルを貰ってから何日もなにも食べなくても平気な体にはなったけど普通にお腹は空くからな。
昼飯時だけあって食事所はどこも人でいっぱいだった。
食べなくても平気だけど魔国連邦の食べ物は美味しいものばかりだから、出来れば食べたかったんだけどな。
『よう、お二人さん。相席で良ければここが空いてるぜ』
そう言って声をかけてきたのは例の悪魔だった。
四人用くらいの席で一人で食事をしていたようだ。
見た目は結構怖いけど、そんなに悪い人(?)でもないし、お言葉に甘えることにした。
「······あなた、食事するの? 確か感情を食べてるんじゃなかった?」
ルミネが疑問を口にする。
悪魔の席には様々な料理が並んでいた。
量も多いが種類もバラバラだ。
肉や野菜、魚料理、デザート類など統一性がない。
『ここの魔王様と同じだ。オレ様にとって食事は生きるためじゃなく、ただの娯楽だよ。この町の料理はうめえからな。なかなか楽しめてるぜ』
悪魔は心底美味しそうに料理を食べている。
ただ、食べる組み合わせくらい統一してほしい気はするが······
おれとルミネもそれぞれ料理を頼み食事を楽しむ。
やっぱりこの国の料理は最高に美味しい。
リムルさんが食にはかなりこだわっているらしいからな。
本当に凄い人だ。
『ところでよ、お前らもう付き合って長いんだろ? もうヤることヤってんのか?』
悪魔のそんな言葉に食べていた物を吹き出しそうになった。
「······ヤること?」
ルミネは意味がわかってなさそうだ。
『なんだよ、初々しい関係だなオイ。男と女でと言ったらアレしかねえだろ?』
悪魔はルミネの耳元で何かを囁く。
悪魔の言葉を聞くたびにルミネの顔がだんだん赤く染まっていった。
「······ハルトとの子供······欲しい······けど、今のわたし達には早い······」
『別にガキ作るのなんざ、いつでもいいんじゃねえか? それよりもまだヤってなかったのかよ。男は溜めすぎると爆発しちまうぜ? そんな時にどっかの女に誘われたら、つい手を出しちまうかもしれねえぜ。いいのかよ、大切な男が見知らぬ女に取られても』
「············っ」
ルミネが悪魔の言葉に真剣に悩んでいる。
悪魔の声は小さすぎてよく聞こえない。
けど、これ以上聞かせちゃいけない気がする······
「ちょっとそれくらいに······」
『おっと悪い悪い、それじゃあオレ様は失礼するぜ。あばよ』
そう言って悪魔は去っていった。
ルミネは顔を赤くして、なにかモジモジしている。
「大丈夫? ルミネ······」
「······ん、大丈夫······勉強になった」
一体何を言われたんだ······
ルミネの様子を見てると聞きづらいな。
微妙な気分で食事を終え、町を回ることにする。
魔国連邦はファルメナス国にはなかったものがたくさんあるので、ただ見て回るだけでも楽しい。
色々と町を歩いた所で、冒険者組合が目に入った。
そういえばファルメナスでも冒険者として登録していたけど、この国の冒険者組合には来たことなかったな。
「ルミネ、少しいいか?」
「······ん、わたしもここに報告がある」
おれ達は冒険者組合に入った。
ファルメナス国にある建物より立派な造りな気がする。中は結構な人数の冒険者で賑わっていた。
入ってきたおれ達を見て、何人かがこっちに来た。
「ルミネさん、先日はお世話になりました!」
「おかげでオレ達のランクが上がりました」
「また指導をお願いします!」
冒険者達がルミネに頭を下げた。
新人っぽい人から、明らかに年上っぽい人までルミネに一目置いていた。
「······ん、これからも精進するように」
ルミネが冒険者達の言葉に答える。
かなり敬われてるなルミネ······
一体何をしたのやら。
「······新人の面倒を少し見ただけ。あっちの人達は一度絡んできたのをシアンと一緒に叩きのめした」
······何をしたのか大体想像ついたよ。
でも絡んできたという人達もルミネに悪感情は持ってないように見える。
······むしろ好意みたいなのを感じるな。
「それでルミネさん、その隣の人は?」
「新人ですか?」
冒険者達がおれを見てルミネに問う。
「······わたしの婚約者。大切な人」
ルミネの言葉に一瞬場が凍り付いた感じになる。
「こ、こんやくしゃ······?」
「ル、ルミネさんの男······なんですか!?」
周囲の人達がザワザワ騒ぎ出す。
ルミネは気にした様子も見せずに······
「······違う、逆。わたしがハルトの女。わたしはハルトのモノ······身も心も捧げた。······身体はまだだけど、いつか捧げる······今日でもいい」
おれの腕をとりながらルミネはそう宣言した。
ルミネの言葉の意味を理解したら、さっきよりも騒ぎが大きくなった。
なんだか周りの人達のおれに対する視線に殺気が混じってる気がする。
何人かが、おれに何か言おうと前に出るがルミネが間に入る。
「······ハルトに手を出すのは許さない」
「けど、ルミネちゃんにそんな男がふさわしいとは······」
確かにルミネは可愛らしく、おれなんかとは釣り合わないように見えるかもしれない。
でも、そんなおれをルミネは選んでくれているんだ。ここは強気に出て、舐められないように宣言しないとな。
ルミネの恋人として。
「ルミネ······ちょっといいか?」
「······ん、なにハル――――――――」
おれはルミネの顔を寄せて、ちょっと強引にキスをした。
周囲の男の冒険者はそんなおれ達を見て固まり、女性の冒険者や職員は黄色い声をあげた。
「ルミネはおれの恋人だ。手出しは許さないぞ」
周囲の人達はおれのいきなりの行動に固まっていた。
ルミネは頬を赤らめて「······ハルト、もう一回、もう一回」と言っている。
悪いが今は勘弁してくれ。
だが言いたいことは言った。
おれとルミネは固まった人達を無視するように、冒険者組合を出た。
おれ達が出た後、凄い怒号が聞こえた気がしたが、気のせいと思っておこう。
「あ、ルミネ悪い······冒険者組合になにか報告があったんだっけ?」
「······ん、大丈夫···もう報告した。······ハルトがわたしの婚約者だと言うつもりだっただけ」
ああ、報告ってそういうことか。
「······色々としつこい人がいたから、これでおとなしくなると思う」
さっき見た感じ、ルミネはずいぶんと慕われていたからな。
寄ってくる男も多かったんだろうな。
ちなみにその後、そういった男達がおれの所に何度も絡んで来ることになる。
まあ、ルミネのためならそんな男達の嫉妬などは甘んじて受けよう。
日も暮れてきたので、おれ達は自宅に戻ることにした。まだまだ町は回りきってないけど時間ならあるんだ。
また今度ゆっくり回ろう。
今日はルミネと色んな所を見て回れて楽しかった。
ルミネも楽しんでくれたかな?
おれ達の住んでいる所は、一般区画にある一軒家だ。この町にいる間の仮住まいとしてリムルさんに提供された。
貴族の屋敷程広くはないけど、家の中には生活に必要なものがほぼ揃っていた。
キッチン、トイレに加え、なんとお風呂まである。贅沢だと思ったけど、これがこの国の標準らしい。
リムルさんには本当に感謝仕切れないな······
「それじゃあルミネ、今日は晩御飯はおれが作るよ」
「······ん、ハルトの手料理······楽しみ」
おれ達は日によって交代で料理を作っている。
ルミネ程の料理の腕はないけど、おれだって人並みには作れる。
放っておいたらルミネは家事をすべて一人でやってしまう。
ルミネは嬉しそうにやっていたけど、ハクロウさんの訓練に加えて家事まで任せたらさすがに負担が大きいだろうと思ったからだ。
こうして平和で楽しい一日が終わる。
明日の訓練も頑張ろう。
ルミネと一緒なら、どんなことでも出来る気がする。
余談だが、食事を終えた後に風呂に入っていた時にルミネが乱入してきたことには驚いた。
例の悪魔に吹き込まれたことを実践するとか言って······
ルミネの一生懸命なご奉仕はとても気持ちが良かったとだけ言っておく。




