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シアンとルミネ

――――――――(side off)―――――――――


「ほら姉ちゃん、こっちこっちっ」


 翌日、約束通りシアンとルミネはケンヤ達に連れられて町を回っていた。


「昨日あんなことがあったのに元気ね」

「······子供は元気が一番」


 二人は苦笑いしつつも微笑ましく言う。

 魔国連邦(テンペスト)は広く、案内する所はたくさんある。

 雑貨屋、武器防具屋を初め、数え出したらキリがない。すべてを回っていたら1日、2日ではとても足りない。





 昼を過ぎたあたりで適当な定食屋に入った。

 食には特にこだわるリムルのおかげで様々な料理が楽しめるようになっている。

 子供達はそれぞれ自分の好きな物を注文する。



「あの~、お二人は何にしますか?」


 メニュー表を見ているシアンとルミネにフラメアが声をかける。


「見たことない料理ばかりで迷うわね······」

「······目移りする」


 しばらく悩んだ二人だったが、注文を決める。

 どれを選んでも好みの問題はあるだろうが基本的にハズレはない。


「何これ、すごくおいしい······」

「······至福」


 二人は料理の美味しさに感動しているようだ。

 ルミネは誰にも聴こえない声で「······これに慣れたら魔物なんて食べられなくなる」と言った。



 料理を楽しみながら他愛ない世間話をし、シアンとルミネの出身地の話になった。


「あたし達はファルムス王国············じゃなかった、ファルメナス王国から来たのよ。といっても首都じゃなくて辺境の村出身だけど」


 ファルメナス王国とはジュラの大森林北西側に隣接する大国のことだ。

 以前はファルムスという名だったが、ヨウムという英雄が新国王となったことで名称が変わったのだ。

 一攫千金を求めてこの魔国連邦(テンペスト)に来る者は多い。

 二人もそういう目的だと言う。


「でもお二人なら普通に稼げるんじゃないですか? あれだけの実力なら指名依頼とかも多そうですし」

「······わたし達は達冒険者になったばかり。······名前は売れてない、というよりまだ駆け出し·········」

「ええっ!? そうなんですかっ」


 ルミネの言葉を聞いて驚きの声をあげるフラメア。

 Aランクの魔物をあっさり倒した二人がまだ無名の新人だったのだから無理もない。


「冒険者になる前は村の孤児院にいる子供達の世話とかしてたのよ。丁度この子達くらいのコが多かったわね」

「······わたしも孤児院出身」

「ああ、だから子供達の世話に慣れていたんですね」


 シアンとルミネは戦いとは無縁の生活をしていたらしい。

 実力がある者でも冒険者になるとは限らない。

 もしくはある日突然魔法の才能に目覚めることもある。そういうことかとフラメアは納得した。


「今度はあなた達のことを聞きたいわね。その年でかなり強いんでしょ?」

「ああっ!! 毎日訓練してるからな」


 ケンヤ達が自分達のことを話す。

 どうやら特殊な事情があったようだが、リムルに助けられて今こうしていられるらしい。



「先生ってやさしいんだけど厳しいんだよね」

「あと子供っぽい所もあるわね」

「まあそこが先生の良い所でもあるんだけどね」


子供達が口々に言う。


「あなた達······リムル······さんのこと好きなのね」

「うん······大好き」


 シアンの言葉にクロエが恥ずかしそうな笑顔で言う。他の4人も元気よく頷いた。



 そんなふうに他愛ない話で盛り上がっていく。

 シアンとルミネはほんの一瞬複雑そうな表情をしたがすぐに元の表情に戻した。






 食事を終えた後は再び子供達に連れられて町を回る。そして訓練用の広場に着いた。

 子供達が自分達の力を見せるというのでシアンとルミネはそれに付き合うことにした。

 シアンとルミネ、そして子供達による2対5の模擬戦を行う。

 フラメアは見学だ。

 ちなみにここは一般訓練用のため、危険な魔法や武器は禁止されている。


 結果はシアンとルミネの圧勝だった。


「姉ちゃん達、強ええよ······」

「先生みたいでまるで歯が立たないわ······」


 ケンヤとアリスが疲れた声で言う。


「確かにあなた達は強いわね。でも攻撃が素直すぎるし、無駄な動きも多いわ」

「······でももっと協力しあえば、化ける」


 シアンが皆の悪い所を指摘し、ルミネは良い所を言う。リムル並みの強さを見せた(リムルは子供達に本気を見せたことはないが)二人に子供達はますます懐いたようだ。



 そんなことがあって二人は今後も子供達の面倒を見るようになった。

 子供達の世話をするならそれなりの給料を払うということだったので二人はその話に乗った。


 基本やさしい二人だが子供達が無茶をしようとすると厳しく止めるためフラメアよりもそのあたりは信頼されていた。



 そしてシアンとルミネが魔国連邦(テンペスト)に来て2ヶ月が過ぎた。











◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「以上が二人に関する報告です」


 リムルは私室でシアンとルミネの報告書を読んでいた。秘書である桃色髪の鬼人シュナの用意したお茶を飲みながら考える仕草をする。


「二人ともファルメナス王国出身か、いやルミネの方は小さい頃に別の国から流れて来たのか」


 ソウエイからの報告書には二人に不審な点は見当たらないということだ。

 ファルメナスにいた頃にも特に問題は起こしていない。むしろ働き者で良い評判ばかりだった。


 共に両親を亡くしている。

 シアンには弟が一人いるようだ。

 ルミネは一人っ子らしい。

 犯罪組織や為政者との接点も無く、どこかの国のスパイという可能性もほぼない。


「フラメアからもソーカ達の報告でも町で不審な動きはなし、か······心配のしすぎだったかな?」


 リムルが一息つく。


「はい、私も何度か話しましたけど悪意などは感じませんでした」


 シュナが付け加えるように言う。

 悪意どころか、身を挺して一般人を守ることもあった。








――――――――(回想)――――――――



 それはある日、子供達とは別行動をとっていた時のこと。

 シアンとルミネ、そしてフラメアの三人で日用品の買い物に出ていた日。

 道を行く馬車が暴走している所に出くわしてしまった。なんらかの理由で馬が興奮状態になってしまったようだ。


「た、大変ですっ」

「ルミネっ!!」

「······ん、行く」


 フラメアが慌てた声をあげ、シアンとルミネがすぐに駆け出す。


「······ダークプリズム!!」


 ルミネが魔法を唱え、馬の動きを封じる。

 馬を傷つけないように黒く光る氷の塊が馬を止めた。それで馬は止まったのだが、荷台の方が勢い余って吹っ飛んでいく。

 丁度その方向に別の町から来たと思われる一般人がいた。


「あぶないっ!!」


 シアンが突き飛ばすように庇った。

 そのおかげで一般人は助かったのだが、シアンに荷台が激突した。

 ものすごい音を立てて荷台がバラバラになる。

 シアンはその下敷きになってしまった。


「シアンさんっ!!」


 すぐにフラメアや周囲の人々がシアンを救出するために破片をどけていく。

 武器商人の馬車だったらしく救出されたシアンの体には運悪く数本の剣や槍が突き刺さっていた。

 腕や足、腹部に深々と刺さり、おびただしい血を流していた。


「おいっ、早くポーションを持ってこい!」


 誰かが叫び、騒ぎが大きくなる。


「フラメ······アさ······ん、うぐっ」

「喋っちゃダメですシアンさん! もう少しでポーションが届きますから頑張ってください!」

「ほか······に、ケガした······ひとは······?」

「シアンさん達のおかげで誰もケガしていません! だから喋らないでください!」


 自分が重傷にもかかわらず他の人の心配をするシアン。

 フラメアが叫ぶように気遣う。


「そう······よかっ······た·········」


 シアンは心底安心するように言って気を失った。

 その後ポーションが間に合ったことでシアンは一命を取り留めた。







―――――――(回想終了)――――――――



「二人には感謝しているよ。突発的な事故はどうしたって防ぎにくい······あの二人がいなかったらもっと大きな被害が出てたかもしれない」

「はい······シアンさんも無事でよかったです。ポーションで治癒したあともしばらく意識が戻らなかったそうですから」


 リムルとシュナが先日の事を思い出し言う。

 リムルもあの二人が悪意ある人物とはとても思えなかった。

 だが初めて会った時のほんの一瞬の殺気がどうしても頭から離れない。



「俺に敵意を発した理由······やっぱりこれしかないか」


 リムルが再び報告書に目をおとす。

 シアンとルミネ。

 二人には共通していることがあった。


 それは約一年程前、シアンは父親を、ルミネは恋人をそれぞれ亡くしていた。

 二人のショックは大きく、しばらく生きる気力を無くした状態だったという。


「············一年前と言えば」

「旧ファルムス軍の進行······ですね」


 当時、国名がまだファルムスだった頃、この魔国連邦(テンペスト)に大軍を率いて攻めてきたことがあった。

 それは二万を超える大軍だったが、旧ファルムス軍の先遣隊が魔国連邦(テンペスト)の住人を何人も殺害したことでリムルの怒りを買い、文字通り全滅させられた。

 どうやらその軍の中に二人の父親と恋人がいたようだ。


「だが旧ファルムス軍が全滅したのは表向きは暴風竜ヴェルドラの復活したことによる余波に巻き込まれて消滅したことになってる。俺の仕業だと言うことは彼女達は知らないハズだが······」


 リムルはそう考えたが、魔国連邦(テンペスト)に向かったことで父親と恋人は死ぬことになった。

 その原因である魔物の盟主のリムルに対して敵意を持っても不思議ではない。

 それがあの時の殺気を放った理由だろうと結論付けた。


「············二人には気の毒だが、あの時の行動を俺は後悔していない」


 そうは言ったが、リムルはシアンとルミネに対して複雑な感情を抱いた。








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― 新着の感想 ―
[良い点] とにかく面白いです! 私も15巻の外伝、後味悪いなぁ、と思っていたのでこういったお話が読めて嬉しかったです。 私は二次創作はあまり好きではないのですがこのお話は転スラの雰囲気が壊れていなく…
2021/11/13 15:25 さっちゃん
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