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エピローグ①

(リムルside)


 シアンとルミネを説得した翌日。

 町はすっかり平常通りの姿になっていた。

 二人のしたことに関しては(おおやけ)にはされていない。


 ここ7日間の警戒体制のことも、大規模な魔法実験を行うためのものとしている。

 あの二人のやったことは大事(おおごと)にはなったものの、目立った被害もなかった。

 なので無理に広める必要はない。



「失礼します······」


 ドアがノックされ俺の私室に入ってきたのはシアンの父親だ。

 後ろからハルト、そしてシアンとルミネも入ってくる。



 俺の横ではベニマル、シオン、そしてシュナが油断なく立っている。

 俺はもう心配ないと思っているが二人を警戒してのものだ。



 シアンとルミネは戦意は失ったが力を失ったわけではない。

 覚醒魔王級の力は未だ健在なのだ。

 特にシアンの方はルミネの心臓を喰ったことでその力はあの理不尽魔王と言われているミリムにも届くかもしれない程だ。



 あの異形態と化したシアンはマジでヤバかった。

 正気を失っていたため、こちらの挑発に乗ってうまく誘導できたからなんとかなったがあの状態で冷静だったら勝てたか怪しい······。



 瀕死のルミネも完全回復薬(フルポーション)を使っても回復が遅かった。

 もう少し遅かったら手遅れだったかもしれない。

 本当に色々とギリギリの戦いだった。




 シアンとルミネの顔を見ると目が赤く、涙の跡が残っていた。

 二人には〈強化再生〉スキルがあり、目の充血などもすぐに治るはずだが、それでも未だに赤いということはついさっきまで泣いていたということだろう。

 この四人の処遇について決めておかないとな。


「お前達の今後についてだが······」

「どうかっ······どうか娘達の罪をお許し下さいっ!! あなた様に与えられた命を賭けるというのは滑稽に思われるでしょうが······私の命をもってどうかっ······!!」


 シアンの父親が土下座する勢いで言う。


「やめてっ、お父さん!! ······これはあたし達の仕出かしたことなんだから」


 シアンが父親の行動を止める。


「······魔王リムル······さま······、わたし達は再三に渡る降伏勧告を無視し続けた······今更許されるとは思っていない······いません。どんな罰も受け入れる·········受け入れます」


 ルミネが慣れない敬語を使い言う。

 もうシアンとルミネからは憎しみの感情は感じない。

 今までとは別人に思えてしまう程、弱々しい少女そのものだった。


「待ってルミネ、元はと言えばおれ達がこの国に攻め入ろうとしたのが原因だ······罰を受けるならおれ達の方だよ」


 ハルトがそう言う。

 それぞれが相手を庇いあっている。



「とりあえず安心しろよ、お前達を罰する気はないから」


 そう言って俺は四人を諌める。


「でも············あたし達のしたことは簡単に許していいことじゃないはずよ······」

「······国の王を殺そうとした者は極刑は当然······」


 シアンとルミネが前に出て頭を下げた。

 もう抵抗する気は無く、罰を受け入れる覚悟のようだ。


「そうだな、じゃあまず謝罪は俺じゃなくそいつらに言ってやってくれないか?」


 俺が目線で二人を促す。

 それに連れて二人もそちらを向く。


「フラメアさん······エレン······カバルさん、ギドさん······それにあなた達まで············」


 シアンがつぶやいたように、そこにはフラメア、エレン、カバル、ギド、そして五人の子供達がいた。


 フラメアが前に出て、二人に抱きついた。


「よかったですぅうう!!

リムル様とお二人が仲直りできてっ······どうなることかと本当に心配だったんですからーーっ!!」


 フラメアが泣きながらそう言った。

 それに吊られてシアンとルミネの目にも涙が流れる。


「うん······うんっ······よかったよぉ、シアちゃん······ルミちゃん」

「フラメアさん······エレン······っ、ごめんなさい······本当に······ごめんなさい······っ」


 エレンも加わりシアンが涙ながら謝罪する。

 ルミネも涙をグッと堪えていた。



「もうっ、お姉さん達! 先生の冗談を真に受けちゃダメよ」


 アリスが二人を窘めるように言う。

 ちなみに子供達にはシアンとルミネは俺のちょっとしたイタズラに激怒してしまったものだと説明している。

 ま、子供達には復讐だなんだと本当のことを言う必要はないよな。

 クロエあたりはなんとなく察していそうな表情だが。



 子供達も口々に仲直りできてよかったと二人に言っている。

 その様子をシアンの親父さんとハルトが微笑ましく見ていた。



「あんなに慕われていい子達じゃないか。それにいくら親や恋人の仇だからって魔王に立ち向かうなんてそうそう出来るもんじゃないぞ」

「親としては複雑です······喜ぶべきか、怒るべきか」


 親父さんが苦笑いしながら言う。


「一度殺した俺が言うのもアレだが、命は大事にしろよ? あの二人、魔王並みの力を身につけたと言っても精神的にはまだまだ普通の少女なんだからな。ちゃんと支えてやれよ。

ハルトもな。ルミネはもう手遅れなくらいお前に依存しちまってる、プロポーズまでしたんだからお前が責任持って幸せにしてやれよ」


「はい······そのつもりですよ」


「まあ、何か困ったことがあれば出来るだけ相談に乗ってやるから気を詰めすぎるなよ」


 俺の言葉を聞き、ハルトは何か気まずそうに苦笑いをうかべる。


「もしかして何かあるのか?」

「いえ······その、困っているというか······なんというか······」


 なんか言いづらそうだな。

 構わず言えと言ったら、ハルトはしどろもどろに答えた。


「おれはルミネを守るためなら命も賭ける覚悟だったんです······そのために自分なりに努力してきたつもりです。

······ルミネは自己評価は低いんですけど、とても有能なんですよ。しかも年を重ねればどんどん可愛らしくなっていきますし······それに······」


「············ノロケ話ならまた今度にしてくれないか?」


「いえ、そうじゃなくて······つまりですね、あいつに釣り合う男になるために頑張ってきたんですけど······そのルミネがおれよりも圧倒的に強くなっちゃってるんですよ。何故かおれ、ユニークスキルも使えなくなってるし······守るどころかこれじゃあ······」


 ああ、そういう話か。

 ハルトのユニークスキルが使えなくなったのは生き返らせた時に与えた魂の力が完全ではなかったからだろう。

 一度死んだのだからある程度の弱体化は仕方無いだろう。

 100%完全に復活させることも今後は可能になるかもしれないが、今回は初めてのことだったしな。



 今から魂の力を与えてユニークスキルを使えるようにすることも可能なのだが······ルミネは覚醒魔王級の力を持ってるんだよな············。

 ユニークスキルの一つや二つじゃ、この実力差は埋まらないだろう。


「······大丈夫、ハルトはわたしが守る。もう二度と死なせたりしない」


 こちらの話を聞いていたルミネが言う。

 守ろうとしていた少女に守られる側になってしまったのか。

 ハルトとしては嬉しくもあり、情けなくもあるな。


『そういうことならオレ様が力を与えてやるぜ』


 声が聞こえたのと同時に悪魔が姿を現した。

 相変わらず神出鬼没な奴だ。


「え、リ、リムルさん······この人は······?」

「そいつがシアンとルミネに力を与えた悪魔だよ」


 ハルトの質問に答えてやる。

 親父さんの方も驚きの表情だ。


『女に守られる男なんて情けねえからな。オレ様が力を与えてやるぜ』


「勝手に話を進めるな。······なにを企んでやがる?」


『なにも企んでねーよ。ただあの女共と同じ力をコイツにも与えてやるだけだぜ』


「なにを代償にだ? この場にお前の好きな〝憎悪〟の感情なんてないぞ」


『代償なんていらねーよ。あの女共には〝憎悪〟の感情をずいぶんご馳走させてもらったからな、オレ様の方が貰いすぎだったんだよ。その釣り銭代わり、ただのサービスだ』


 悪魔は構わずハルトに手をかざす。

 悪魔の中の力がハルトの中に入っていくみたいだ。


「こ、この力は······」

『お前には()()のスキルを与えてやったぜ。あの女共に与えた4つに加えて〝次元収納〟もサービスしてやった。〝次元収納〟はあの女共には与えてない力だ。かなり便利なスキルだぜ? それで頼れる男を見せてやれよ、ヒャハハハハ!!』


 ハルトは自分の中に新たなスキルが入ったことに驚いている。

 ていうか次元収納って······なんて力を簡単に与えてやがる。


『スキルの使い方はあの女共に聞きな。〝次元収納〟の方はそこの魔王様が詳しいんじゃねえか?』

「お前······とんでもない力を簡単に与えやがったな」

『〝次元収納〟やらアイテムボックスってのはチートのお約束のようなスキルじゃね?』


 確かにそういった物語には大抵出てくる力だが······

 つーか、そういう力を与える存在ってのは悪魔じゃなくてむしろ············。


「なあ、一つ聞いてもいいか······?」

『なんだ?』

「お前······本当に悪魔か?」


 俺の言葉を聞いて悪魔は楽しげに笑いだした。


『ククククッ············どいつもこいつも、ああオレ様は悪魔だぜ。しがない、名もない下級悪魔だよ。

ヒャハハハハッ!!』


 まあ、コイツが規格外なのは今更か。


『おっと、そっちの親父さんにも与えねえと不公平か? だがさすがに同じだけの力を与えると今度はこっちが払いすぎになっちまうんだよな』


「いや、私は別に············」


『スキルは悪いが諦めてくれ。代わりに身体能力の強化をしてやるぜ。簡単には死なないくらいにな』


 悪魔は親父さんの方にも力を与えた。

 親父さんの力がとんでもなく上がったのがわかる。

 レベルが一気にはね上がった感じだ。

 とんでもないことを平気でしやがるな、この悪魔。



「······悪魔」


 ルミネが悪魔の前に立つ。


『ん、何か用か?』


「······あなたには感謝してる。あなたが真実を教えてくれなければ、力を与えてくれなければ、こうしてハルトが帰って来ることはなかった······」


『よしな、それはただの結果論だ。オレ様もこんな展開になるとは思わなかったしな』


「······それでも、あなたに感謝を送りたい············

ありがとう」


『············オレ様の好きな感情は〝憎悪〟だぜ。感謝の感情を送られてもな······まあ食後のデザート代わりにはいいか。わかった、受け取ってやるぜ』


 もしかして照れてないか、この悪魔?

 案外悪い奴じゃないのかもな。


 それにしても今ルミネがありがとうと言った時、満面の笑顔だった。

 普段無表情なだけに、この笑顔は破壊力が高いな。


「ああそうだ親父さん、コレ返しておくぜ」


 忘れるところだった。

 俺は親父さんにある物を渡す。


「これは······!? 妻の形見の············」


 渡したのはブローチだ。

 中には四つ葉のクローバーが入っている。

 旧ファルムス軍を全滅させた場所を探してようやく見つけたものだ。

 一年以上前のことだったから正直見つかるとは思わなかったが、ブローチは何かに守られるように木の影に落ちていたのだ。


「大切にしてやれよ。それをくれた娘さんをな」


 そのブローチが印象に残っていたから魂の解析もスムーズに行えた。

 クローバーに込めた願いが叶ったのかもな。






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