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憎しみの終わり

(ルミネside)


 魔王リムルが連れてきたのは死んだはずのシアンの父親とハルトだった。


 なんで······? どうして······?

 ニセモノ······? それとも幻······?



 ······違う。そんなのだったらすぐにわかる。

 わたしの直感も目の前のハルトは本物だと言っていた。


「おとう······さん······? お父さん······なの······?」


 シアンが驚きのあまり問いかける。


「シアン、すまない······お前をこんなにも追い詰めさせてしまって······」


 シアンの父親が悲しげな表情でシアンのもとに近づく。シアンもどうしたらいいかわからず、動けないでいた。


「ルミネ、もうやめようぜ、こんなことは······」


 ハルトが気まずそうな表情で言った。


「······ハルト······本当にハルト······なの?」

「ああ、お前にはおれがニセモノとかに見えるのか······?」


 見えない······だから混乱してうまく言葉が出ない。だって······ハルトはもう······


「リムルさんがおれ達を生き返らせてくれたんだ。ルミネ達を······お前達を止めてくれって」


 生き返らせる······

 でも迷宮の中というわけでもない。

 復活の腕輪もない······それなのにそんなことが可能なの?



 混乱しているわたしをハルトが抱きしめてきた。

 わたしがケガしてるのを知っているから苦しくないように、それでも強く······


「ごめんな······ルミネ······おれ、お前を幸せにしたかったんだ。······そのためなら命だって賭ける覚悟だった。なのに、おれのせいで······お前をずいぶん苦しめていたみたいだ······」


 ち、違う······ハルトのせいじゃない······

 わたしが悪いんだよ······

 ハルトに甘えて······待っているだけだったわたしが······



「だけど······ずいぶん遅くなっちまったけど、生きてお前のもとに帰ってくる約束······これで果たしたぞ······」


 ······ああ······駄目······

 もう······二度と泣かないって······決めてたのに······

 堪えられない······堪えられるはず······ない。


「······うっ······あっ、ハル······ト······! ······ハルト······!!」


 わたしも強く抱きしめ返した。

 ······どんなに堪えても涙が······止まらない。


「ちょっ······ルミネ······マジ、苦しいって」

「······苦しめっ······わたしが······っ······ハルトが死んだと聞かされてから······今日まで······どんな想いでいたと、思ってるっ!! ······ハルトも、わたしの気持ちを······少しは理解······するべき······!!」

「ルミネ······」


 この声······この(ぬく)もり······この安心感······

 ハルトだ······本物のハルトだ。

 間違いない······間違えるはず······ない。


「······ハルトッ! もう······二度と会えないと思ってた······! もうっ······失いたくないっ······離したくないっ!! ······うっ、あああっ」


 ハルトが······ハルトが帰ってきた······

 もう···他になにもいらない······!

 それだけで······わたしはうれしい······


 涙が止まらないわたしをハルトはやさしく抱きしめ続けてくれた。

 わたしが少し落ち着いてきたところでハルトが声をかけてくる。


「ルミネ、実はお前に言いたかったことがあるんだ。······あの時は出陣前で縁起が悪いと思って言えなかったんだけどな」

「······ん、······なに······?」


「おれと······結婚してくれないか?」


 ························え?


「お前と······ルミネと生涯を共に生きたいんだ······おれと結婚してくれ、ルミネ······! ······駄目か?」


 ハルトとわたしが······結婚?

 わたし達は恋人同士······

 いつか······そうなりたいと思ってた······

 駄目なわけない······むしろわたしも······でも······


「······わ、わたしでいいの? ······わたし、ハルトに甘えてばかり······なにも返せてない······ハルトの役に立ててない······それなのに――――――」


 言い訳のような言葉を重ねるわたしの口を、ハルトは口づけで塞いできた。


 ――――――――!!!??

 これってハルトの唇の感触······


「お願いするのはおれの方だよ。お前がもらってくれなきゃ······おれは一生独り身で終わっちまうよ。それにルミネがおれになにも返せてない? そんなことあるかよ、お前は自分の価値をもう少し認識した方がいいぞ」


 ······もしかしてこれは夢······?

 それともわたしはやっぱり死んでいたのかな······

 こんなことが······現実に起こるなんて······


「······ダメなわけ······ないっ······うれしい······ハルト······!」


 ああ······もしこれが夢なら······

 夢なら······醒めないで······


「······うっ······わたし······もう死んでもいい······」

「いや、死なれちゃ困るんだが······今までがひどい悪夢だったんだよ。これからは楽しい現実を生きようぜ······一緒にな」

「······ん、ハルトと一緒なら」


 もういつの間にか、わたしの中の憎しみの感情はなくなっていた。









(リムルside)


「おとうさん······!! よかった······お父さん!! う、あああ!!!」

「今まで辛かっただろうなシアン······本当にすまなかった······!」


 シアンが父親の胸の中で大声で泣いていた。

 ルミネの方もハルトが収めてくれていた。

 ······まさかプロポーズまでするとは思わなかったけどな。

 もう心配はなさそうだ。



「見てるんだろ? 出てこいよ、悪魔」


 俺がそう言うと空間の歪みから例の悪魔が姿を現した。


『······マジかよ、二人揃って〝憎悪〟の感情が完全に消えちまったぜ』

「賭けは俺の勝ちだな?」


 悪魔の言葉を聞くまでもなく、もうシアンとルミネからは憎しみの感情は感じない。

 大切に想っていた人の胸の中で泣いているその姿は年相応の少女だった。



『なあ、ありきたりなセリフになるんだが、一つ言っていいか?』

「なんだ?」

『死んだ人間生き返らせるとか、反則だろ』


 確かにありきたりなセリフだな。

 だがそんなルールはなかったはずだ。


「不満か?」

『い~や、ただの負け惜しみだ』


 悪魔はやれやれと肩を竦めてそう言った。


「意外だな。なんだかんだ理由をつけて負けを認めないかと思ったぞ」

『んな見苦しいマネしねーよ。お前の規格外さを甘く見てたオレ様の負けだ。ったく非常識な奴だぜ』

「お前に非常識だとか言われたくねえよ」

『そりゃお互い様じゃね?』


 悪魔は笑みをうかべてそう言った。



『しっかし、あの女共の努力の報われなさもここまでくると筋金入りだな。そうは思わねえか?』

「なんでだよ?」


『だってよ、あいつらがあそこまで頑張ったのはお前を殺すためだぜ? それだけのために魔物を喰い、血を吐き、死に物狂いでやってきた。なのにもうお前を殺す理由はなくなっちまったんだからな。何のために強くなったんだよって話だ』


「そんなことねえよ」


 そういう意味か。

 だが彼女達の努力は無意味なんかじゃない。


「彼女達がここまでやらなきゃ、俺はあの二人を生き返らせたりはしなかっただろう。彼女達の執念がこの結果を生んだんだ。二人の努力は最高の形で報われたんだ、そうだろ?」


『まあ、確かにそうかもな』


 父親の胸で泣く少女。恋人の胸で泣く少女。

 その涙は絶望のものではない。

 一年以上に渡る絶望と憎悪の日々が終わりを告げたんだ。


『ならよ、お前の方はいいのかよ?』

「なにがだよ?」


『お前の立場からすりゃ、すでに終わってた問題をほじくりかえされた挙げ句迷惑かけられただけじゃねえか。あの女共は救われたかもしれねえがお前は得るものが何もねえ。

オレ様との賭けは別としてな、それでいいのかよ?』

「そんなことかよ、いいに決まってんじゃねえか」


 俺自身には得るものが何もない?

 そんなことねえよ。


「今回のことは俺にとってもいい経験になった。自分の覚悟の甘さを認識出来たんだからな。······命を背負う覚悟か。俺にはまだまだ覚悟が足りてなかった」


『これからは殺した命を全部背負うってのかよ?』


「んなことしてたら俺は押し潰されちまうよ。だが彼女達のような人を生まないよう、なるべく気を付けようってことだな」


 正直あの恨みの目は今でもキツイ。

 だがこれからも敵となった者を殺していく以上、彼女達のような者もまた出てくるだろう。

 ゼロには出来ないだろうが、それでもそんな人間を出来るだけ生まないように配慮しないとな。



「お前の方こそいいのかよ? 素直に負けは認めたけど、こんな結末でよ? もう憎悪の感情は喰えないし、最悪の終わり方じゃねえのか、お前にとってはよ」

『ヒャハハハハッ!! そんなことねーよ』


 皮肉を言ったつもりだったんだが悪魔はまったく気にした様子を見せず、むしろ楽しげに笑った。


『確かにあの極上の〝憎悪〟をもう味わえないのは残念だがそれなりに長いこと味わって来たからな。ここいらが潮時だろうよ。それに言わなかったか? オレ様は喜劇も悲劇も好きだと。こういう結末も悪くねえんじゃねーか?』


 ちっ、結局最後まで楽しそうにしやがったな、この悪魔。

 まあ、でも俺にとってもいい終わり方だしな。

 これ以上は何も言わないでおくか。







 こうして二人の少女による復讐劇は、少女側の戦意喪失による和解によって幕を閉じた。






次回からはエピローグです。

もう少しでこの物語も終わりになります。

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― 新着の感想 ―
まさかここで蘇生をしてくるとは・・・ 理論(?)的にも辻褄が合っている気がするので、自然と納得させられます。
[良い点] 話の構成が素晴らしいです! 転スラ好きとして嬉しい作品です。
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