夜をまとう少女
よろしくおねがいします。
だれもが眠った後がすき。夜の静けさが好き。肌にまとわりつく冷たい空気が、肺の中の熱い空気とかわって、わたしは夜の一部となるのだ。どこにだって夜は来る。忘れられたスラムの片隅に、薄汚れた牢獄に、ここにだって、夜は来るのだ。
決して広くない空間に、肌の色も、言葉もバラバラな少年・少女たちが雑魚寝している。毎日何人かがいなくなって、定期的にどこからか連れてこられていた。どこから連れてこられたのか分からないが、どうせわたしと同じようなものだろう。薄汚れた孤児や、浮浪児なんてのはどこにだってあふれている。さらわれでもしたか、甘い言葉に乗せられたか。
明日もだれかが連れていかれるだろう。
ぼんやりと宙を見ながらひとりごちる。連れていかれてどうなるのか。どうせろくなことは起こらないだろう。
みんなの寝息の音だけが静かに響く。
みんなよく寝るものだ。連れてこられた当初は話したり、ないたり、よく動いたものだが、長くここにいる子供から起きなくなった。たたいてもつねっても何しても起きなくなるのだ。みんな安らかな顔をして眠っていく。そうして眠ったものは例外なく選ばれた。けれど、眠る彼らがとてもうらやましい。いつしか私が一番長くいる子供になってしまった。取り残されていくような感覚に焦りが募る。なにもかも忘れて、眠ってしまえる彼らが、とても幸せそうに見えるのだ。
わたしも早くねむりたい。
窓のない部屋には月明かりも差し込まない。自分の輪郭があいまいになって、夜に溶けてしまうような心地がする。夜に溶けて、まどろんで、すべてが終わってしまえばいいのに。彼らのように眠りにつけたら。垢の浮かぶすすけた体を丸める。
期待とともに目を閉じて、冷たい空気と混ざり合った。
みんなと同じように安らかな夢を。
浅い夢はすぐに覚めてしまう。軽い落胆とともに目をひらく。簡素な部屋の扉が開いて、白い服を着た大人たちがきょうも子供たちを選んで連れていく。最近はいった小さな双子と、眠ったまま起きない少年。
「おい、そこの黒い髪。お前だ。」
ああ、ついに私の番か。彼らのように眠る前に呼ばれてしまった。のろのろと立ち上がって、大人についていく。白い服は目にまぶしくて、まどろみが遠ざかってしまう。
眠ったままの起きない少年はそのまま担ぎ上げられて違う大人にどこかに連れていかれる。私の横を歩く双子はお互いの手をギュッと握って、お互いを離すまいと身を寄せ合っている。その二人も途中で別の大人に連れていかれた。。遠ざかっていく双子の小さな背中を横目に二人とも一緒に連れていかれたから、まだ離されないかもしれない。なんてことをぼんやりと考えた。
複雑な廊下を行ったり来たりしながら、白い簡素な部屋に押し込まれる。
「喜べ、今日からお前は実験体No.12だ。」
一方的に告げられ、扉が固く閉ざされる。ほう、と息を吐いて、前の部屋にはなかった簡素なベッドに背を預け、ゆっくりと目を閉じる。白い部屋はまぶしいけれど、目を閉じれば夜の気配がする。夜はどこにだって訪れる。眠ってしまった彼らと同じように私も目を閉じてまどろもう。きっと明日には起きてしまうけれど。一時の安らぎに身をゆだねるのだ。
眠たいですね、読んでいただきありがとうございました。