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第6話

瞬間的だったとはいえ、ランキングで一位を頂きました。感謝、感謝、大感謝です。

その奇跡的瞬間を見れなかったのですが、ご報告をして頂きまして…。

ドッキリとかじゃないですよね?


 むかっ腹が立ったまま、黙々と並んで歩いた。

 代わりのない人、とか言われ慣れない言葉に照れたなんて事ありませんよ、これっぽっちも!


 横から「そんなに怒るなよ」なんて、笑いながら言ってくる人の事をガン無視していると、王妃の宮に戻る手前くらいで騎士の姿を見つけた。

 ライニール・エイブラムス。

 銀髪碧眼、オールバック銀縁眼鏡がトレードマークの近衛騎士団第2部隊隊長である。


「おぉ、ライニール!」


 私が声をかける前に、ダグラス様が手を上げる。


「これはダグラス団長、お疲れさまです」


 サッと敬礼を返したライニール様。そして、それから私にやった視線は厳しめだ。


「ずいぶんごゆっくりでしたね?」


 うん、言われると思ってた。


 確かに、陛下の執務室に行って来ただけにしては時間が掛かり過ぎているのだから、そう言われるのは当然の事だ。


「そう言ってやるな。いろいろ面倒なのに捕まっていたんだ」

「あぁ、いつものあれですか」


 問われて、素直に頷いた。

 面倒、の一言で事情が伝わるのは、これまでも何度も同じことがあったからである。


「しかし、それは言い訳になりません。ああいう輩は軽くいなしときなさい。相手にするだけ馬鹿ですよ。時間の無駄です」


 全く同感です。


「今日はそれプラスだったものですから…申し訳ございません」

「プラス、とは?」


 ライニール様は銀縁の眼鏡をクイっと押し上げて、私に問う。

 一瞬、どう話せばよいのか迷った。そのままをお話しすればいいのだが、なんとも言葉に困ってしまう。


「コールデン隊長に送っていただいていたのですが、その途中で、ですね…なんと言いますか…」

「痴話げんか「ではございません。ちょっと黙りましょうか。ダグラス様」…おう」


 ややこしくするのは止めましょうね、本当に。


「それで?」


 慣れたもので、ライニール様もダグラス様の事を軽やかに無視して、私の言葉を促した。


「言いがかりをつけられた上に、独りよがり劇場が始まってしまいまして…説教を少々…」


 これ以上に合う言葉が見つからなくて、素直に口にしてみる。横で「ぶおっふっ」と噴出しているダグラス様は無視無視。

 

「…独りよがり、劇場……」


 伝わるかな、伝わらないよね、と思いつつ反応を伺っていると、ライニール様はどこか遠い目をして私に言った。


「……貴女も大変ですね」


 同情を込めた声で労わられ、私は悟った。この人、あれの被害にあったことあるんだ、と。


「…恐れ入ります…」


 なんとも言えない気持ちで、そう答えるしかなかった。


 今や第2部隊隊長として、王妃様をお守りするのが当たり前の光景となっているが、実はまだ着任してから2年程度で、第4部隊の副隊長から第1部隊副隊長を経て、第2部隊隊長となられた方だ。という事は、ライニール様は以前ラウルの直属の上司だったわけで。

 ラウルは王弟妃付きの部隊が設立された当初から第4部隊に所属していた。といっても、最初から隊長に抜擢されていたわけではない。平の騎士から始めていただろう。

 通常、護衛対象の一番近くで護衛するのは、隊長・副隊長だ。それ以外の近衛騎士は周囲を固めている事が多い。そこはきちんとされていたと思う。ライニール様の性格上、いくらラウルがプリシラ様のお気に入りだったとして、任務なのだから、特別扱いをするなんて思えない。

 となると、プリシラ様の傍にいることが出来ないラウルが、お得意の斜め方向的思考で「彼女を守ると誓った。その誓いは誰にも邪魔はさせない」とか「私は屈しない。彼女をお守りするのは私の使命なのだから」とかの一人芝居を、ライニール様観客で上演してしまったのだと思う。あぁ、なんて馬鹿。

 ライニール様は、もう相当なご苦労をされたのだろう。想像するだけで目頭が…っ。


 まぁ、その謎の頑張りで、経験を積み成果を上げて実績を作り、隊長へと昇進した事に対しては、大したものだとは思わなくもないけれど、だからと言って、他所様に迷惑をかけていいという話にはならない。


 私としては、ライニール様が第2部隊隊長になってくれたのは本当に僥倖だったと思う。それがラウルの昇進と同時という事に関しては腑に落ちない所だが、神経質な所があるものの、近衛騎士として優秀だし、人をからかう様な事はしないし、仕事に私情もはさまない。当たり前の事が当たり前のように出来ている方なので、一緒に仕事がしやすい。何より、同じ被害を受けた身としては同志感が募るわー。


「まぁ、その件については良いでしょう」


 気を取り直すように、ライニール様は小さくかぶりを振り、未だにぐふぐふ笑っているダグラス様に視線を向けた。


「それで、貴方は何のご用件でこちらに?」


 ライニール様からの冷たい視線、冷たい声音、冷たい表情をくらったダグラス様は、笑い声を一瞬で止めた。ちなみに私もすっごく冷たい目を向けていたのだが、ちっとも気に留められていない。何でだ、おかしい。


「いや、面白そうな事やってるもんで、つい…」


 ジロリ


「…っていうのは冗談だ」

「そうでしょうとも。団長様にそんな暇があるとは思えませんから」

「もちろんだとも」

「では?」

「こいつが困っていたみたいだから助け舟をだな」


 ピクリ


「こいつ…? まさか妙齢の女性に『こいつ』など、近衛騎士団長の任についている人とは思えない言葉が聞こえてきたのですが、聞き間違いですかね」

「侍女殿が、だ」


 ニコリ


「それはそれは、王妃付き(こちら)の者がお世話になったようで」

「いや、当然の行為だ。なぁ」

 

 タジタジという音が聞こえてきそう。全ての牽制を表情だけでやってのけるなんて、お見事です、ライニール様。ついついダグラス様に振り回されてしまう私としては、是非とも見習わせて貰いたい。


「……お前ら、実は兄妹かなんかだろ…」


 肩を落としながら呟いたダグラス様の台詞に、私はきょとんと首を傾げるのだった。 


有無を言わさぬ追い詰め方が似てる、という話…になってたらいいなぁ。



ご感想・ご指摘等、ありがとうございます。

お返事が出来ていない状態ではありますが、いつも有難く読ませていただいています。

お返事については、時間に余裕があるときにお返ししますので、ゆっくり待っていてもらえると助かります。

よろしくお願いします。





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