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第27話

 近衛の仕事は要人の警護だけではなく、担当宮内の警備も含まれる。もちろん第4部隊が担当するのは王弟妃宮だ。もし本当に王弟妃宮で宝飾品の盗難があったのなら、その責任は当然第4部隊が負う事になる訳で、内密で彼らが動いていたとしても納得のいく話である。


「おそらく彼らは責任を少しでも軽くする為、問題が大きくならない内に自分達の力で解決させるつもりでしょうね。だから王宮内で起こった不祥事だというにも拘らず報告をしないのよ」


 それだけではなく、私の行動一つ一つがマイラ様の評価に関わってくるように、近衛騎士団第4部隊の行動も王弟妃の評価に関わってくる。だからラウルは王弟妃を守る為に表沙汰にしない事にしたのだろうと予想。


「今の時点で自分達が盗まれた宝飾品を取り戻す事が出来たら、内々で処理してなかった事にできますからね」


 私達がここに来なかったら、バウワー伯爵令嬢が騒がずに修復依頼を諦めていたら、もしかしたらそれも可能だったかもしれない。


「運が悪かったという他ありませんよね」


 気が付いちゃったんだもの、ざまぁみろ。


「といっても、これもあくまでも仮定のお話ですが…」


 確定じゃない事が至極残念。私の予想が当たっていたら思いっきり笑ってやるのに。まぁ、王宮内の不祥事ですから、少しは私に迷惑が掛かるかもしれませんけど、今まで散々謂れのない悪評をたてられたのだから、これ位仕返ししてもいいじゃないのよね。もちろんマイラ様の迷惑にならない配慮はしながらになりますが。


「その場合、修復に持ち込んだバウワー伯爵令嬢が犯人という事になりますが…」

「それも考えたのだけど、彼女の行動はやっぱり稚拙過ぎます」


 自分の足で宝飾品を持ち込んで、修復依頼証明書には本名をサインして。さすがにいくらお子様だとしても、彼女が犯人だとしたらもうちょっと考えるだろう。私への嫌がらせも歴とした犯罪行為だが、比べるまでもなく罪が重いのは王族の私物を盗む方なのだから。

 

「盗まれたのは宝飾品ではなく、パーツの宝石だけだと考えたら一応の辻褄は合います。例えば、この問題が表沙汰になる前に盗まれた宝飾品を修復して、何事もなかったように戻しておく、とかですね」


 そうすれば、表沙汰になることもないし、王弟妃の評価に傷が付かずにすむ。後は慌てることなく内密で犯人を見つけこっそり処理をするだけだ。例えそれが不正な行為だったとしてもそれがまかり通るのが、王宮が魔窟と暗喩される要因だ。


「彼女は第4部隊の協力者であって、犯人は別にいるのではないでしょうか」


 それも私の予想であって、証拠も何もないけれど。


「でも、いずれにしても報告は必要ですから、この後王宮に戻りましょう、ライニール様」


 ラウルの為に黙っておくという選択肢はございません。王宮内での足の引っ張り合いは日常茶飯事ですから、やられっ放しというのは性に合いませんので。


「そうですね。ですが、せっかくの休みに貴女が戻る必要はありません。今の時点ではどちらも推測の域をでていませんので、報告は私一人で十分です」


 えー、そうですか。どうせなら心の中でアレに『ざまぁみろ』と三唱しながら私の予想を報告したかったのだけど。


「貴女は予定通り明日の午後に戻れば結構ですので、ゆっくり休みなさい」


 いいですね、とまるで念押しするようにライニール様に言われたら引き下がるしかない。


「ではお言葉に甘えて。ありがとうございます、ライニール様」


 ま、ライニール様に任せておきましょう。


「お二方もご協力感謝します」

「いいって事よ。嬢ちゃんと俺の仲だからなぁ」

「不謹慎ではありますが、少々楽しんでしまいましたのでお気遣いなく」


 やっぱり楽しんでいたか、ニールめ。ネックレスの解釈を説明していた時、やたら目が合うなと思っていたけれど、真面目な顔して実は内心ニヤニヤしていたのだろう。でもライニール様の前で、被っている猫一匹剥がすのちょっと早くない? あと何匹いるの?


「こっちでも男共については引き続き調べるからよ。何か分かったら連絡するわな」

「できればグリーンアメジストも手に入れて貰えると助かりますね。証拠になりそうな物は確保しておきたいので」


 私の予想が事実に近かった場合、確固とした証拠品になる訳だから確保は必須である。


「承知致しました。何とかしてみましょう」

「助かります」


 とんとんと話が進んでいく中、私は喋り過ぎたせいか喉が渇いてしまったので、用意されてから時間のたったお茶で喉を潤していた。程よく冷めているので渇いた喉には丁度いい。


「では、そろそろお暇しましょうか」


 一通り話が付いたのか、ライニール様が私に向かって言った。


「そうですね。ガスパールも休まないといけませんし、少々長居をしてしまいましたね」


 最初の予定とは全く違う展開になったけれど、ライニール様は満足そうな顔をしているし、ガスパール達との顔つなぎも出来たので良しとしよう。


「体調が優れない時に付き合わせてしまい申し訳なかったですね」


 ライニール様も労わりの言葉をかける。


「いいってことよ。嬢ちゃんにも言われたが、体調管理が出来てなかった俺が悪ぃんだ」

「そうでございます。エイブラムス様がお気になさる必要はまったくございません。これはオーナーの自業自得でございますので」


 にっこ~りと優しい笑顔でさり気なく毒を含んだニールの台詞に、ライニール様は軽く首を傾げた。


「あぁ、そういえばこの季節にわざわざ一晩中雨に打たれていたんですってね。何でそんなことしたの?」


 ニールはすぐに分かると言って答えてくれなかったけれど、尋ねるタイミングがなかっただけで気にはなっていたのだ。


「そんな事をして体調崩すのは当たり前じゃない。ミランダさんがガスパールの様子がおかしいって心配していたけれど、体調だけが原因ではなくて何かあったのではないの?」


 忘れてしまう所だったが、これもガスパールを訪ねた理由の一つであるだから聞かない訳にはいかない。

 そう思って顔を向けると、一瞬のうちに死んだ表情になったガスパールがいた。


「……」

「ガ、ガスパール?」


 え、やだ。ちょっとどうしたの。なんでいきなり表情なくしてるの。さっきまでの笑顔どこいったの。私、そんなにまずい事聞いた?


「ガスパール殿…?」


 あまりにも不気味な顔しているものだから、ライニール様も心配しているじゃないの。


「………」

「………………ふぅ」


 何も言わなくなったガスパールに、ニールがこれ見よがしにため息を吐いた。


「エイブラムス様、お嬢さん。大変申し訳ないのですが、これ以上はどうか聞かないでやってくださいませんか」


 頭を下げながら本当に申し訳なさそうにニールが謝るものだから、頷く以外できなかった。ライニール様も同じように頷いている。


「え、えぇ、分かったわ。そっとしておいた方がいいのね?」


 普段、ガスパールを蔑ろにしがちなニールが頭を下げてまで、これ以上聞くのは止めて欲しいと願うのだから、ただ事ではないのは間違いなさそうだけど、これ以上の口出しは出来そうもない。


 でも心配して貰ってよかったね。少しは敬われているじゃないの、ガスパール。


「そうして下さると助かります。これ以上使い物にならなくなると困るのですよ。只でさえ人不足だというのに…ふぅ」


 そっち!? ガスパールを心配しているかと思いきや、そっちの心配なんだ!? 猫がはがれ過ぎよ、ニール! 被って被って!!!


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