第26話
確かにニールの言っている事だけを聞くと不審な点は見当たらないけれど、それはあくまでもニールの話の中でだけだ。
私にとっては納得が出来ないし、不審な点ばかりである。なんでライニール様がそれに流されているのか本気で分からない。
まず10年間贈り物を貰ったことがないのに、急に贈ること自体が不自然極まりない。何か理由があるのだとは思う。けれどそれは決して求婚ではないだろう。
それにラウルが宝石の意味をそんな詳しく知っているだろうか。ライニール様が宝石言葉に詳しい事は不思議だけど、ガスパールやニールが仕事柄で知識があるのは納得できる。けれど見た目王子様然としているが、中身が朴念仁であるラウルが宝石言葉など覚えるだろうか。花言葉さえ覚束ない事を幼馴染である私はよく知っている。
彼らが言っている事の辻褄が合うのだって、何かがおかしい。強引につじつま合わせをしているような印象が拭えないのだ。どこかこう、物語じみていて現実感が伴わない。どこか思い違いしているように思えて仕方がなかった。
最初は一体何が始まりだっただろうか。
ラウルが私に対してネックレスを贈ったけれど、届いていないと言った事からだったはずだ。
私はそこで何を考えた? どういう報告をした?
そう。王宮内の不祥事にも関わる可能性があるから調査の進言をしたのだ。結果、王宮内で他の贈答品の紛失は無しと。
「……ふむ」
王宮内での紛失はなかったという事は、王宮に届く前に行方が分からなくなったって事よね。
「ライニール様、調べたのは贈答品の紛失もしくは盗難でしょうか?」
私は顔を上げて、ライニール様に聞いた。
「ええ、そうですが?」
何かが引っかかる。けれど一瞬のうちに霞のように消えてしまい、それが何か分からなくなった。
そういえば、バウワー伯爵令嬢の持ち込んだ宝飾品は他に有名店の刻印のあるものが複数あったと言わなかっただろうか。
ん?
「ねぇ、ニール。バウワー伯爵令嬢が修復に持ってきた宝飾品で、このネックレス以外の物もパーツが欠けていたりした?」
「え…はい。全てではありませんが、拝見した限りでは欠けているだろう物はありましたが…」
「…そう…」
年代物でもないのに、有名店の宝飾品がそんなに壊れるものだろうか。
ニールが言ったように、このネックレスが私の物だったとしても、その他の宝飾品の持ち主は?
バウワー伯爵令嬢の私物なら、刻印の宝飾店に修復依頼をしているだろうから彼女の物ではないのは明白だし。
んん??
「おい、嬢ちゃん?」
「ごめん。ちょっと黙って、邪魔しないで」
「えー…」
期待していたリアクションを返さない私に、3人は訝しげな視線を向けてきたが、今私はそれ所ではない。
邪険にして悪いとは思うけれど、何か今、引っかかったのが見えそうな気が…。
「あっ…」
ふと、思いついた。
「ねぇ、もしかしたら盗品ではないかしら?」
「何当たり前の事言ってんだ。元々これは嬢ちゃんから盗んだ盗品だろうが」
呆れた声でガスパールが言うが、私の言いたいことはそれじゃない。
「バウワー伯爵令嬢が持ち込んだ宝飾品はこのネックレス以外にもあるのよ。全ての宝飾品が私への贈り物な訳がないじゃない。ラウルは私にネックレスだとはっきり言っていたのよ。複数の物を贈るのだったらネックレスだとは言わないでしょう?」
それに誕生日だからといって、沢山の贈り物をされる理由はないし、そんな事をする人でもない。
「さっきも言ったが、10年間嬢ちゃんへの贈り物を盗んでいたって事はねぇのか?」
それこそあり得ない。
「10年もの間、ずっとバウワー伯爵令嬢が盗み続けていたとでも言うの。彼女はデビューしたばかりなのよ。王宮内に出入りするようになったのは、ここ数か月の事よ。どうやって私への贈り物を盗めるというの」
100歩譲って、私と同じ年齢だったら考えられない事ではないかもしれないが、その場合、初犯時は6歳前後だ。しかも最初の1年は王宮ですらない。例え100万歩譲っても難しい。
「それにニールが言っていたでしょう。比較的新しいデザインだったって。という事は少なくともここ2,3年の物でしょう」
どう? と尋ねると、ニールは首を縦に振った。
「その全ての宝飾品がネックレスと同じように修復が必要なのよ。年数を経たうえでの劣化でもなく壊れる理由って何よ。しかもパーツが紛失しているってどういう事?」
この宝飾品の全てが盗品だと考えるなら、答えはたった一つ。
「バラして売ったのか!」
ガスパールがハッとした顔をして声を張り上げた。
「そう。グリーンアメジストと同じようにね。宝飾品をそのまま売ったら足が付くわ。でもパーツを外して売ったなら少なくともそのまま換金するよりは足が付きにくいはずよ」
ニールの推察した事が間違っているとは言わない。それは可能性の一つではあるとは思う。
「そもそもラウルが調べている事だって、別の件かもしれません」
でも、もしこの前提が違うとしたら話は大分変わってくる。
「贈答品ではなく、宝飾品の紛失盗難だったらどうです?」
「調査対象が変わりますね」
ライニール様は興味深そうにしながら眼鏡のブリッジを人差し指で上げた。
「ラウルが調べていると気付いたのは、第4部隊が動いているからですよね」
「ええ。第4部隊の様子に不審を抱き、知り得た事です」
「という事は、第4部隊隊長として調査の報告はされていない」
近衛騎士団としては「なし」と判断したのなら、ラウル個人が調べていても報告義務はない。だかしかし、第4部隊が動いているのなら別だ。
「王宮内では贈答品の紛失はなかったというのなら、私への贈り物が紛失した件は外部での出来事です。相応の機関に要請するならまだしも近衛騎士の出る幕ではありません」
────もし近衛騎士団として動いているのなら。
「内密に第4部隊が動かざるを得ない理由があったという事になりませんか?」
それは王弟宮で何かあった。そう受け取れないだろうか。
「例えば、王弟妃の宝物室から宝飾品が無くなっていた…とか?」
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上手くまとめられなくて、少し遅くなりました。
精進、精進。頑張ります。




