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第23話

「今までのプレゼントから傾向が分かるのではないでしょうか。ご本人が選んだものなら好みが出るでしょうから」


 ニールの発言に二人の視線が私に向いた。今まで貰ったプレゼントの傾向を、とその目が言っている。


「んー…っと、ですね…」


 どうしよう。言わなくちゃ駄目だとは分かっている。だがしかし、少々勇気がいるのだ。これを言えば、どういう反応が返ってくるか想像がつくので出来れば言いたくない。

 

「マーシャ殿?」

「嬢ちゃん?」


 不審気な眼差しを向ける二人から逃げるようにして、私は顔を背けた。

 

「んー…そうですね、プレゼントの傾向ですか、うーん…っと」


 ちらっと二人の顔を見ると、不思議そうな表情で私の答えを待っている。


「………………………………………………………………貰ったことない、です」


 たっぷり時間をかけて、顔を背けたまま小さな声で告げる。


「あ? なんつった?」


 私の声が小さくて聞こえなかったのか、もしくは耳が拒否をしたのか、どちらかは定かではないが、ガスパールが聞き返してきた。


「だから、宝飾品など、アレから、貰ったことはありません!!」


 もうやけくそだった。なけなしの女としての尊厳はズタボロだよ、もう。


「え!?」

「はぁ!?」


 だよね。そうだよね。いつも冷静なライニール様だって、ついそんな声でちゃうよね。ガスパールだって顎が外れちゃうくらい口開けちゃうよね。分かってたよ!!


「……………………………………それは、本当ですか?」


 信じられない、と言葉に滲ませて言ったライニール様に、私は頷く。


「本当です。10年程、手紙一つ貰ってないです」

 

 11歳の時に婚約が決まってから約14年。貰ったプレゼントは幼き頃のぬいぐるみやオルゴール。装飾品はレースのリボンが精々だ。15歳の誕生日に留学先のクワンダ国に届いた綺麗な彫りのあるガラスペンを貰ったのを最後にして、それから贈り物は一切ない。


「正直、アレが私に贈り物をしたと聞いた時も珍しい事があるなと思いましたし、何なら嘘ではないかと疑ってもいました」


 ライニール様からラウルが調べていると聞いて、その時初めて事実だと受け入れた。


「今でも何かの罠ではないか、とさえ思っていますし?」


 だからですね。


「そういう訳ですので、アレの好みは存じません!」


 開き直って言い切り、三人の顔を見やれば、頭を抱えているガスパールと、哀れみの表情を隠しもしないニール。


「…ひっ…っ」


 そして、鬼の形相をしているライニール様がいた。


「ラ…ライニール…様?」


 怖い怖い怖い、すっごい怖い、本気で怖い。ライニール様から漂ってくる怒気で凍えそう。


「女性に対して、ましてや婚約者に…これが騎士のする事か…っ」


 男として騎士として、そしてきっと私の仲間として、どれだけラウルの行動が受け入れ難い事なのか、ライニール様の怒りがそれを物語っている。


「ライニール様。落ち着いて下さい」

「私は落ち着いています」


 そう言う人に限って、全然落ち着いていませんから。


「貴女はなぜ冷静でいられるのですか。ここまで蔑ろにされて腹立たしくないのですか!」

「腹立たしい…ですか」

「そうです。貴女はもっと怒るべきです!」

「それはそうですが…」


 男性から女性に対しての贈り物が気持ちの大きさを示す手段であるというのは知っている。それが婚約者相手となれば、例え形式的なもので気持ちが伴わなくとも送り合うのは当然である事も。


 私だって、腹立たしくて仕方がない時はあった。悔しくて、悲しくてやりきれない気持ちで一杯になった時も。けれどそれは本当に最初だけ。


「10年間も怒り続けるのは疲れます」


 怒りを持続させるのは案外大変で、私にはそれを持ち続けていくだけの気力を持ち得なかった。

 女としての尊厳は確かに傷つくけれど、私個人としては、ラウルからの贈り物(気持ち)が貰えなくても平気な自分がいたのだ。


「私、アレ一人にそんな労力を使う暇はなかったのですよ、この10年間。目まぐるしい日々に追われてそんな隙どこにも存在していません。むしろ目の前をうろちょろされて邪魔以外の何者でもなかったですね。それは今もですけど」


 私の時間や労力を返せと思う事はあっても、贈り物をしてくれないからと、腹立たしさを感じる事はなかった。


「正直な所、貰っても処分に困ります」


 どうせ身に付ける事はない。


「あのよ、嬢ちゃん。別に奴を庇う訳じゃねぇけどよ、今回のように誰かが盗んだって事はねぇのか?」

「流石に一切贈り物をしないというのは考え辛いのでは?」


 ガスパールとニールの二人が考え付くように、私だってそう思った事がある。


「だからこそ、私は許せないのですよ」


 怒りを声に滲ませ、ライニール様は言った。この人は私ときっと同じ考えにたどり着いたのだ。ガスパールとニールの二人は、その言葉の意味が分からないという顔をしている。


「あのね、婚約者から宝飾を送られたら身に付けるのが普通でしょう。すぐに身に付けなくても、お礼状くらいは書くものよね。例え不仲でもそれは礼儀ですもの」

「嬢ちゃんは礼儀には厳しいからな」


 さっきもガスパールを叱ったばかりだものね。


「私は身に付けていない。お礼状も届かない。ガスパールならどう思う?」

「どう、と言われてもな…」

「届いていないのかなとか、気に入らなかったのかなとか、私の行動を気にするものではないかしら?」

「まぁ、そうだな」

「そうよね。どうしたのかな、変だな、おかしいな、疑問に思ったのなら普通は聞くなり、何なりするわよね。原因は何なのかって」

「…………そうだな」

「私、一度もそんな事聞かれた事はないの。調べ始めたのは今回が初めて」

「…………」

「思わない、気にしない、気付かない、聞かない、調べない。さぁ、その心は?」

「……………………………」

「その心は?」

「………………………………………………………………」

「そ・の・こ・こ・ろ・は?」

「……………………………………………………………………嬢ちゃんに興味がない…?」

「はい、大正解!!」


 その通り、興味がないのだ。

 私からのリアクションがなくても、どう思われても気にならないから気付かない。変だとすら思わないので聞かないし調べる事もしない。


「今回の事だって、元はと言えば私に対してあらぬ疑いをかけた時に発覚したから動かざるを得なかっただけじゃないかしら」

「そうかもしれませんね…全く嘆かわしい」


 私に関してはポンコツだからね。それさえなければ出来る人間なのに、本当に残念な男。


「嬢ちゃん…」

「ん?」

「それなのに何で奴は婚約解消に同意しないんだ??」


 さぁ? 私もそこが知りたいんだけどねー。


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