想定外
切りどころを見失ったので、初投稿です。
それから、順調に森を進んでいき目撃箇所であろう場所についた。なぜ森の中なのに目撃箇所かどうか分かるのか、だって?それは…。
「こりゃあ、凄いな。木がなぎ倒されてちょっとした広場みたいになってる。」
「恐らく暴走した黒牙熊が獲物を追った後でございましょう。暴走すると、理性や野生の勘それに本能まで鈍って障害物を破壊しながら獲物を追い回したり、無意味に暴れ回ったりするのでございます。」
「その代わり、馬鹿みたいに力が強くなったりタフになるって訳か」
「そういうことでございます。魔物化はその延長にあるのでございますが、魔物化の場合、異形と化す場合が多くその元となった動植物を討伐するセオリーから大きく外れるのでございます。なので、危険なのでございますよ。」
「なるほど。まぁそれはいい、とりあえずはこれだ。木が倒れて道みたいになってるからそれに沿って行こう。」
「分かりましてございます。」
そうして倒れた木に沿って進んでいくと何かに食らいついている大きな黒い熊らしきものがいた。
「あれか?」
「あれでございます。体躯から考えて、ちょうど最も気性の荒い時期でございます。幸い、魔物化は兆候すらない様子。これ以上被害を広げないようにサックリ討伐するのでございますよ。」
「ああ、そうだな。よし、まずは俺が怪力無双の炎で気を引く。そしてそのまま、相手をしている内にマヤがその短刀で後ろから首に一撃を加えてくれ。」
「了解いたしましてございます。」
「それじゃあ、いちにのさんで行くぞ。」
そう言いつつ片手に周りに燃え移らないように炎を構える。
「1、2の…。」
ガオオオオオオオオオオオオオオ!!
バキバキバキィ!!!
「くそ!!なんだ!?」
黒牙熊の奥から木々を弾き倒しながら出てきたのは、普通の熊より二回りはでかい黒牙熊、それよりも2、3倍はでかいと思しき双頭の狼。
その狼は目の前の黒牙熊を難なく噛み砕き、2つの顎で胴体から引きちぎってみせた。
「あれは、不味いでございます。あれの名はオルトロス、凶霊級の魔物でございますよ。ここは一時撤退する他…。」
「いやもう無理だ、あいつぁ俺らを補足してるぜ。」
そのギラついた目は全てを殺し尽くさんと言わんばかりに確りと俺たちを見すえ、開いた顎からは黒い靄が吐き出されている。
「不味いでございますよ、かなり不味い。どうにかして逃げ出さなければ命がないのでございます。」
「なぁマヤ、俺が街まで逃げれたとしてだ。こいつはこの当たりの村をどうするだろうな。」
「それは…宗一殿、まさか!どれだけ強力な祝福を授かろうと、無手でなんの防具もきていない状態では自殺行為でございますよ!?」
「そんなのは分かっちゃいるさ。でもなぁ、俺は昔からこうなんだ。俺が逃げることで他に被害が出るのは納得出来ねぇ。」
「しかし!」
「しかしもカカシもねぇぞマヤぁ!ヤツはどこまでもやる気だ!逃げる準備を整えろ!俺が時間を稼ぐ。」
「いえ、そこまで言うのなら仕方がございません。私は末席とはいえ士族の家に名を連ねるもの!ここで、将来有望な男子を残して逃げおおせるなど言語道断でございましょう!」
「ああ、そうかよ。まぁ、死なない程度にやってくれや。そら!来るぞぉ!!怪力無双!」
痺れを切らしたのか、熊を食べ終えたのか。
オルトロスは、唐突に動き出し飛びかかってくる。
「っつ!!」
バキバキィ!
疾い!巨体の癖に、尋常じゃない速さだ。
目で追うことがギリギリで、予想して避けなければ避けきれないほどの速さをしている。
しかし、体のコントロールは悪いようだ。そのままの速さで木に激突して、なぎ倒している。
「宗一殿!ヤツは恐らく生まれたての様子で、まだ体を動かすことに慣れていないようでございます。勝機はそこにしかないと思われるのでございます。」
「了解!行くぜオラァ!!」
さっきまで手に構えていた炎を、顔面に向かって投げつけつつ懐まで走る。
「ガオァ!ウガァ!」
横に広がるように投げたおかげか、2つの首ともに注意を向けることが出来たようだ。
「懐に、入ったぜ!」
頭が2つある相手に片方の頭を潰してもあまり意味は無いだろう。故に選ぶのは心臓。魔物を倒していて気づいたのだ、魔核はほぼ確実に生物で言う心臓付近に存在することに。
「しゃおらァ!!」
決まった。
怪力無双の馬鹿げた膂力で渾身の揚打を会心の波動拳でぶち込んだ。
オルトロスの体は折れ曲がり宙に浮く。
「どうだ。俺の渾身の打撃はよ。」
「宗一殿!危ないでございます!」
バヂィン!
「ごっふぁ…!」
オルトロスの反撃で吹き飛ばされる。
オルトロスにはかなり効いていたようだが、致命傷にはならなかったようだ。
「ガォォ…ガァァァァァァ!!」
「ぐあッ…。」
「きゃあああ!」
2つの首が火を吹いた。真っ黒でいかにもヤバそうな炎だ。
「おいおいおい。あいつ火まで吹きやがったぞ。」
「宗一殿、大丈夫でございますか?
凶霊級からは、瘴気を自在に使いこなし擬似的な魔法攻撃をするものがほとんどなのでございます。」
「ああ、こっちに来てからやけに体が頑丈になったみてぇだ、かなり効いたがまだまだ動けるぜ。
奴も渾身の一撃が効いちゃいるが、致命傷にゃ程遠いか。」
そう話している間も、件の狼は懐に入らせぬようその2つの頭から火を放っている。このままでは、森の中で大炎上を起こしこいつに殺されるまでもなく焼死してしまうだろう。
「仕方ねぇ…突っ込むしかないか。」
「では私が、祝福を使用して隙を作るのでございますよ。チャンスは4回ございます。さっきの一撃を複数当てることが出来れば、倒せるはずでございますよ。」
「よーしわかった!じゃあ行くぞ!」
走り出すとマヤが火に向かって手を突っ込む。
すると腕の紋章が砕け、火をかき消した。
その瞬間、両腕から白い光の塊が飛び出してケルベロスの2つの頭に向かって飛んでいく。
「「ギャウン!」」
2つの頭は同時に怯んだ。
その隙を逃さずに懐に入る。
「ぶち殺してやるぜ!この犬っころがァ!!」
連打連打連打…手の届く範囲の全てを殴り蹴りつける。
そして、ケルベロスの巨体が吹き飛んでいきそれを追いかけようとした時…。
「まだ死なねぇのか!…ッ!!」
ケルベロスの両首ともがこちらに向けて思い切り火を吹いたのだった。
「宗一殿ぉぉぉぉぉぉ!!」
マヤの悲痛な叫びが響く。
「これは…死んだな…。」
――――――――――――
ああ、やっちまったなぁ。あともうちょいだったろうに。
もう熱さも感じねぇや…あれ?熱くないな。
なんだこれは?どうなってやがる。
「宗一殿の体が炎を纏って…!」
「お?おお?生きてるじゃねぇか俺!」
そう、ケルベロスが吐き出した黒い炎は怪力無双の炎の鎧に吸収されるようにまとわりつき消えていった。
「おおお!なんか鎧が赤黒くなったぞ!」
ケルベロスは自慢の炎が効かなかったことに驚いたのか動きを止めている。
「おいおい、ビビったじゃねぇか。やってくれたなぁ。
これが…最後だッ!!」
そして一気に懐に入り、倒れているケルベロスの胸目掛けて突きを繰り出す。
すると、赤黒くなっていた鎧から炎が吹き出し拳にまとわりついたかと思うと螺旋を描きケルベロスの体に大穴をぶち開けた。
体に大穴が空いたケルベロスは、即座に霧散し大きな黒みがかった紫の魔核を残し消えた。
広がっていた黒い炎も一緒に消え、回りには燃え残った灰や炭だけが残っている。
「倒した…か。」
「やったでございますよ!宗一殿!ケルベロスをお倒しになられたのでございます!」
「そうだな、やったぞー!」
強敵を倒した余韻をしっかりと堪能した俺たちは残った魔核と、ケルベロスに無惨に倒された黒牙熊の討伐証明の黒い牙を剥ぎ取ってから帰路についた。
そうして、街の城門に着いた時にはもう夕方だったのであった。
「ふぅ、さすがに腹が減ったな。」
「そうでございますね。ギルドへ報告に行く前に食事にするでございますか?」
「ああ、そうしようか。何か時間取られそうだしな。」
「取られるでございますよ。何せ登録したばかりの鉄級が下位と言えども凶霊級のケルベロスを狩ったのでございますから。」
「いやいや、俺だけじゃなかったろ?」
「私はほぼ何もしてなかったのでございますよ。はっきり言ってケルベロスを倒せたのは、宗一殿のおかげにございます。」
「そんなことないと思うんだがなぁ。ま、いいやそんなことより飯食いに行こうぜ」
「ではまた、蜂の巣亭に行くでございますか?」
「そうしようか。」
そうして、蜂の巣亭で昼食兼早めの夕食をすませた俺たちはギルドに向かった。
「まずはどうする?」
「取り敢えず、黒牙熊とブラックハウンドのクエストの完了
報告をしてからにするのでございます。」
「よし、分かった。」
クエストの完了報告受付へ向かう。受付嬢は普人族だった。
「クエストの完了報告に来たんだが…。」
「はい、かしこまりました。ギルドカードと討伐証明部位等をご提出ください。」
「じゃあ、これと…(マヤ、ブラックハウンドの魔核はいくつ出せばいい?)」
「私のギルドカードでございます。(まずは、10個出すのでございます。これから、ケルベロスについて打診を行うでございますので。)」
「よし、これが黒牙熊の牙とブラックハウンドの魔核だ。」
「10個ですか…かなりの群れを倒したのですね。かしこまりました、完了報告の受理を行いますので少々お待ちください。」
少し待ちながら、マヤと話す
「完了報告しちまったがいいのか?」
「問題は無いのでございますよ。完了報告を済ませたら、ギルド長への面会を取り付けるのでございます。」
「おいおい、そんなこと出来んのか?」
「ここで私のランクが役に立つのでございます。金級からは、ギルド長へ直接の報告が出来るのでございます。これは、危機的状況に限るのでございますが、ケルベロスが出た時点でかなりの危機的状況になるでございますので、恐らく通るかと。」
「そうか…。」
そうこう話している内に、完了報告の受理が終わったようだ。
「完了報告を受理致しました。こちらギルドカードと今回の報酬の10万3000ジニです。内訳は暴走した黒牙熊の討伐が、2万ジニ。ブラックハウンドの討伐が3000ジニ、ブラックハウンドの魔核の買取金額が合計8万ジニとなっております。」
こりゃあすげぇな昨日のほぼ5倍か。
「もし、ギルド長へ面会したいのでございますが。」
「ギルド長への面会のご希望ですか?少々お待ちください、確認を取ります。」
「ええ、お願いするでございます。」
「はい、確認が取れました。3階のギルド長室へどうぞ。」
「ありがとうございます、では。」
こんな簡単にギルド長へ面会できるなんて緩いんだな。それか金級からは余程信頼があるのだろう。
「では、行くのでございますよ。宗一殿。」
「あ、ああ。」
階段を上がっていって、直ぐにでかい扉が見えた。
装飾は凝っているが華美ではなく何となく質実剛健という言葉が思い浮かぶ。
「ここでございます。」
「なんか緊張してきたぞ。」
緊張で手が震えてきたが、そんなことを気にせずマヤが扉を叩こうとすると…。
「入りな。」
扉を叩く前にしわがれた、しかし貫禄を感じさせる声が届いた。
「では、入るのでございます。」
「よし、入るぞ…!」
自分に気合を入れて扉をくぐると、そこには
太くとがった8本の脚と大きな蜘蛛の体。
全てを見通すような黒く澄んだ8つの目。
声とは違い老いを感じさせない、妙齢の容姿。
所謂、アラクネと呼ばれる存在がそこに鎮座していたのだ。
「どうしたい。蜘蛛の異形を見るのは初めてかい?」
随分と惚けていたららしい。はっとしながら姿勢を正した。
「い、いえっ!何でもありません!」
「ふふっ、そうかい。で、コガネのとこの小娘が一体なんの報告だい?」
「はい。まずご紹介致しましてございますは、こちら播磨 宗一殿にございます。」
「よっ、よろしくお願致します!」
「へぇ。ああ、自己紹介がまだだったね。
このカブト領コウの街支部の支部長を務めさせてもらってる。ミヤビ・クモだ、よろしく頼むよ。
で?この男がなにか関係あるのかい?」
「まずは、これを見ていただきたくございます。」
そう言ってマヤは、ケルベロスの魔核を取り出した。
「ほう…。これはちょいと小さいが凶霊級かい?よく倒せたね。ランクの上昇も考えなければならないね。」
「お言葉でございますが、これは私が狩ったのではございません。こちらの播磨殿がほぼお1人で討伐されました。」
「何…?それは本当かい?」
端正な顔を歪めて、問う姿はかなりの貫禄だ。
「はい、本当にございます。こちらの播磨殿は、素晴らしい武術を使い、強力な祝福をお持ちなのでございます。」
「へぇ、確かに風貌は堅気じゃあないね。あんた、どこの国のもんだい?」
「あの…えぇと…ですね。」
「(宗一殿、この御仁は異界の旅人だとばらしてもようございましょう。悪いようにはしないと思うのでございます。)」
「(それは本当か?俺としたらそうした方が嘘もつかなくて済むし説明しやすいんだが…。)」
「(討伐者ギルドは、世界を股に掛ける大規模ギルドでございます。ここで、打ち明けることで、他の有象無象の国から守ってもらえるという利点もございます。何せ、討伐者ギルドには異界の旅人よりも強いと言われる者も多数おられますから。)」
「なんだい。2人でコソコソ内緒話かい?煮え切らないねぇ、早くお言い!あんたはどこの誰で、一体何しに来たんだい。」
「は、はい!俺、いや私は先日この世界に落ちてきた所謂、異界の旅人という者で特に何しに来たとかはありません!」
「播磨殿の言葉は私が保障いたしましてございます。」
「なるほどねぇ…。異界の旅人かい。
不思議な着物に靴、歳不相応に見える技量の体捌き、おまけに強力な祝福かい。
確かに、詳しい技量や強力な祝福の内容は見てみなけりゃ分かりゃしないが、この魔核の主を倒したことは一応認めてやるさね。
で、ついでに力を見せつけて討伐者ギルドに国から匿ってもらおうって魂胆だね?コガネのとこの嬢ちゃん。」
「全てはお見通しでございますか。」
「何言ってんだい。私も無駄に歳をとってるわけじゃあないってことさ。さて、その話は後日聞くとしよう。このランクのが出たんだ、どっかにでかい瘴気溜まりがあるってことだろう?」
「左様でございます。」
「ならさっさと調査をしなくちゃあね。すぐに斥候に強いとこにクエストを発行しておくさね。じゃ、あんた達は帰った帰った。仕事の邪魔さね。」
「は、では失礼致しましてございました。」
「し、失礼しました。」
若めの顔なのに年寄り口調っていいよね。