第4話「異世界サッカーはトンデモで滅茶苦茶だった」
リスタートして、ボールは俺の足元へ、まずは一点を返さないといけない。
しかし早速エドワルドのミサンガが光り出した。
また俺に何かの魔法を使って来るに違いない。
そう思い、俺はすぐさま左サイドのムヒノにパスをした。
しかしそのパスを読んでいたかの如く、相手の右サイドのモナがムヒノに迫り、あっさりとボールを奪取した。
これはまずいと思い守備に戻ろうとしたその時!
急激に眠気が襲ってきた。
これは・・・催眠の魔法か・・・
ダメだ・・・寝てし・・・
・・・ZZZ
「コウセイさん、寝ちゃダメです!
えい!」
「はうっ!」
お尻を蹴られた衝撃で目が覚めた。
どうやらミアが俺にダメージを与えて起こしてくれたらしい。
しかしこの何秒間かのやり取りのが命取りになった。
俺とミアがいない手薄な守備を簡単に突破され、またもやゴール前でオークにラストパスが渡ってしまった。
「ザルデーーーーーーーーーース!!」
オークの強烈なシュートをキーパーザルデスは防ぐことができず、ウインマージは手痛い二失点目を喫した。
落胆する俺達を挑発するようにエドワルドがニヤニヤしながら話しかけて来た。
「ワンマンチームは戦いやすくて楽だね。
さぁ、この試合で得失点を稼がせてもらうよ。」
この嫌味ったらしい発言通り、スカーレッズの猛攻はさらに続いた。
2点を追うウインマージのボールでリスタート。
それと同時にまたもやエドワルドのミサンガが光り、何かのスキルを発動させた。
俺はまた味方にパスを出そうとしたが、今回は身体に何の異変も感じられなかった。
それならと自分でこのままボールを運ぼうとした。
そんな俺に一人の相手選手が向かって来た。
それは既に2得点を決めているあのオークだった。
近付くとその身体の大きさに威圧されるが、動き自体は鈍かった。
これならドリブルで簡単に抜けはずだ。
そう思いドリブルを仕掛けようとした。
しかし、今までのっしのっしと重たそうに走ってたオークの身体が急に身軽になり、まさかのスライディングタックルをして来た。
この化物のとんでもない足の長さと太さで俺は避けきることができず、まるで交通事故のように吹っ飛ばされてしまった。
ピッチに倒れ込む俺、明らかに反則タックルにもかかわらず審判はファールの笛を吹かずに流した。
こぼれ球を相手選手に拾われた、しかりあまりのダメージで俺は立つことができなかった。
そうしてる間にまたもウインマージはスカーレッズのカウンターを受け、オークにこの試合ハットトリックとなる3点目を許してしまった。
喜ぶ相手チームの陰で俺は痛みでまだ倒れていた。
「コウセイさん!大丈夫ですか?」
ミアが心配して駆け寄って来た。
しかし立とうとしても立てない、試合続行不可能な状態だった。
「だめだ、足をやられたようだ。」
苦痛の表情でミアに泣き言を言う俺、それとは対照的にミアはニッコリして優しく話してきた。
「心配しないでコウセイさん、そのために私がいるんです。」
そう言うとミアは何やら呪文のようなものを唱えて左手に付けてるミサンガを光らせた。
これはまさか・・・
「ヒール!」
その言葉と共に俺の痛んでた足は回復し、立つことができた。
ミアもエドワルドみたいに魔法が使えたのか。
「ありがとうミア、助かったよ。」
「いえ、とんでもない。
それよりエドワルドさんのスキルは相手だけではなく味方にもかけれるので注意してください。
さっきのはクイックのスキルをオークさんにかけたのです。」
味方の能力を上げる魔法・・・なんでもありだな。
しかしそんな便利な魔法が使えるならなんで常にみんなにかけてないんだ?
MPの消費と関係あるのだろうか。
ミアに聞こうとしたがまたもや審判が早くリスタートしろと急かしてきた。
3点を追う状況、俺の動きは魔法で封じられてしまう。
それにそろそろ前半の時間も終わるはずだ。
こうなったら味方を前線に上げてイチかバチかのロングパスを繋ぐしかない。
DF2人以外は前線に上げるように指示をした。
エドワルドのミサンガはまだ光っていない。
今が攻撃のチャンスだとボールを思いっきり蹴ろうとしたその時、何と俺の足元にあったボールが姿を消していた。
これは一体どういうことなのか。
すぐさまボールの行方を探したら、とある男の足元にそれはあった。
「へっ、スティール成功だぜ。」
ボールを所持していた男、それは相手チームのFWアシルだった。
こいつも特殊なユニフォームを着ている、まるで中東の盗賊のような姿だった。
こいつがボールを瞬間移動させたとでもいうのか。
あまりの驚愕の連続にパニック状態に陥りそうだったその時、
「「ブオオオオオオオオオオオオオオン!!」」
またも審判があのうるさい角笛を吹いた。
どうやら前半が終了したらしい。
これから控室に戻らないといけないのだが、その前に審判にはどうしても一つ言いたいことがあった。
3点目を決められたときのオークのスライディングのことだ。
あれは普通のサッカーの基準なら明らかな反則で、レッドカードが出てもおかしくないものだった。
そのことを審判に話したところ、俺のパニック状態を更に加速するかのような返答が来た。
「あのスライディングは会心の一撃でない。
そのため反則にはならない。」
「は?」
錯乱状態の俺は控室に駆け込み物凄い勢いでミアに迫った。
「みいいいいいいいいあああああああああああああっ!!!」
「キャーーーーーーー!」
「教えてくれっ!
一体何なんだこの世界のサッカーは!!」
「わ、わかったから落ち着いてくださいっ!」
ハーフタイム、後半でどう追いつくかの作戦会議をしなければならないのだが、俺はそれをそっちのけでミアの説明を聞いていた。