第3話「勇者と魔法とザルキーパー」
『赤のユニフォーム、スカーレッズボールで試合開始しました。
司令塔のエドアルドがボールを運びます。』
「さて、万年降格王国の君たちがどれだけ変わったか見せてもらうよ。
もっともこの試合は僕達にとって練習試合にしかならないだろうけどね!」
『そのエドアルドにチェックに行ったのは噂の新戦力、コウセイだ!』
スカーレッズのキャプテン、エドアルド。
何ともナルシストでキザっぽい顔してるが、こいつもミアのように特殊なユニフォームを着ていた。
それはまるで魔法使いのローブを彷彿とさせた。
「ほう、新顔かい。
軽く抜かせてもらうよ。」
エドアルドはパスを選択せずにドリブルで俺を抜きにかかった。
今までならこれで抜けたのだろうが、俺からしたらまるで隙だらけだった。
「あれ?」
『取ったー!!
なんとコウセイ、あのスカーレッズの司令塔からあっさにボールを奪った―!!』
「なんだと!
この僕がこうも簡単に…」
カウンターのチャンスだ。
俺は速攻を仕掛けた。
『さぁ、コウセイがボールを運びます。
おっとそこにハイメが守備に来る!』
「抜かせん!」
左サイドのハイメがチェックして来たが、俺の右に行くと見せかけたフェイントにあっさりと引っ掛かってくれた。
『おおっ!抜いたー!!』
「なにぃ!」
よし、いける!俺の技量でも充分に通用する。
そして2-3-2のシステムの穴、守備の枚数が薄くてカウンターに弱い。
俺が相手DFを引き付けてFWにラストパスだ。
『おおっ、コウセイのスルーパスがFWのゲイルに渡った!
キーパーとは1対1だ、いけえええええええ!!』
しかしゲイルのシュートはゴールバーの上を飛び越えていった。
『ああああああああ、なんということだ!
この決定的な場面で枠外シュートだあああああああああ!!』
「すまない、勇者…」
申し訳なさそうに話しかけて来たゲイル、俺はドンマイとフォローした。
しかしこの決定力は不安が残る。
まずは俺がエゴイストになってでも1点を取っておいた方がいいかもしれない。
「キャプテン、大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよモナ。
少し油断してけど、やるね彼、凄い技の持ち主だ。
あんな選手がウイマージなんかと契約するとはね。」
「でも相変わらず他のメンバーはたいしたことないようです。」
「そうだね。
彼だけを集中して狙おう。」
『さぁ、キーパーエリクのゴールキックでリスタートです。
これは是非ともミスキックしてほしい!!』
キーパーのゴールキックは恐らくオークを狙ったものなのだろう。
しかし憶測を誤ったのか、キック力が足りなかったのか、ボールは俺の頭上へとやって来た。
「彼に渡るな。よし、始めるか…」
胸でトラップして、足元に降りたボールを蹴りだそうとしたその時、俺の身体に異変が起こった。
「えっ!?」
俺の身体が急激に重たくなった。
まるで全身が石になったみたいだった。
これは一体どうしたというのか?
相手陣内を見るとエドワルドが右手を上げたまま止まってやがる。
そして奴の手首に巻いているミサンガが何やら発光している。
奴の仕業か?
奴が俺に何かしているのか!?
「コウセイさん、早くパスを!」
ミアがボールを受け取りに近くまで寄って来た。
しかし俺の足はとてもゆっくり動きパスが出せない。
その間に先に相手の選手が取りに来た。
「貰います。」
奪われたのは相手の右サイドのモナだ。
彼女も特殊なユニフォームを着ている。
これは猛獣使いが着るような服のデザインだろうか。
このモナからスカーレッズの攻撃が始まる。
俺を除いたウイマージのフィールドプレーヤーが守備をするが、やはり昨年の王者チームと最弱チームでは力の差は明らかだった。
スカーレッズのパス回しにまるでついていけず、ジリジリとペナルティエリアへと攻められた。
そして、
「キング!!」
ゴール前のオークに向かってクロスが飛んできた。
これを頭に合わせられると一気にピンチになる。
キャプテンでセンターバックのレアンドが必死にオークをジャンプさせないように競い合おうとしている。
しかしいくら2メートル近いレアンドであっても2メートルを優雅に超える巨体のオークに競い勝つのは難しかった。
その強靭なフィジカルでレアンドを吹っ飛ばしたオークはジャンプ一番、浮き球に頭で合わせ、もの凄い高さからのヘディングシュート放った。
「ザルデスーーーーーーーーーーーーー!!」
レアンドの叫びも虚しく、キーパーのザルデスはセーブに失敗。
シュートはゴールを揺らしスカーレッズに先制されてしまった。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「よしよし、オクちゃんいい子いい子。」
ゴールを決めて雄たけびを上げるオークと、それを褒めるモナ。
エドワルドも上げてた腕を下げて拍手をしている。
そしてやっと俺の身体から重さが消えた。
「大丈夫ですか、コウセイさん!」
ミアが心配して駆け寄ってくる。
俺は今さっき自分の身体に起こったことを聞かずにはいられなかった。
「教えてくれミア、俺はエドワルドに何をされた?」
「コウセイさん、あなたは魔法をかけられたんです。
エドワルドさんのスロウのスキルを。」
「魔法だって?
そんな反則技を試合中に使っていいのか?」
「それが反則ではないんです。
あの人は魔法使い枠ですから。」
魔法使い枠?
助っ人外国人枠やオーバーエイジ枠みたいな単語が出てきた。
何なんだそれは?
異世界サッカーには魔法使いを試合に起用できる枠組があるとでもいうのか。
ミアに詳しく聞こうとしたが、それを邪魔するかのように審判が早く持ち場に戻れとうるさい角笛で注意してきた。
「あっ、コウセイさん、早く持ち場につかないと!
話は後で!」
「ちょっと待ってくれ!
魔法使い枠のことをもっと教えてくれ!」
「安心してください!
MPには限りがありますから、スキルはずっと使えませんよ!」
ミアはそう言い残し本来のポジションへと走って行った。
MPってあのMPだよな?
試合中ずっとあの魔法を使われなければ何とかなるかもな。
そう思い、俺もセンターサークルまで戻り、試合をリスタートした。
しかし本当の地獄はこの後に待ち構えていた・・・