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第1話「王国の姫、熱い手のひら返し」

 かつて、この世界は邪悪な魔王に支配されていた。

 冒険者は次々と魔王討伐の為に旅立った。


 しかし、誰一人として魔王を倒せる者はいなかった。

 人々が希望を失いかけたその時、天界より伝説の勇者が降臨した。


 勇者の力は凄まじく、魔王を一瞬で葬り去った。

 世界は救われた。


 しかし、平和は長くは続かなかった。


 今度は国と国が領土を奪い合う、人間同士の争いが始まったのだ。

 冒険者たちは傭兵となり、国直属の兵士と共に戦場で殺し合いを展開した。


 戦いが泥沼化したその時、あの伝説の勇者が戦場に姿を現した。

 そしてその場の兵士達を掻き分けるように吹き飛ばして、こう言い放った。


「なぜ殺し合うんだい?スポーツで勝ち負けを決めようよ。

 そう、僕の居た世界で最も人気のスポーツ・・・サッカーで。」


 ・・・というのがこの世界にサッカーが普及した理由らしい。


 神が言っていた先客というのはその伝説の勇者のことか。

 しかしその人のお陰で俺はこうして再びサッカーボールを蹴ることが出来ている。


 神のせいで変質者の汚名を着せられた俺は、このウインマージ王国の国王の御前で尋問をされたのだが、俺が天界からサッカーをするためにこの世界に来たと話したら大歓喜され、この国代表のサッカー選手になって欲しいと頼まれ無事に釈放された。


 俺をゴミを見るような目で見ていたこの国の姫、セレスティーナも尋問後は目を輝かせながら豹変した。


「勇者殿!!

 そなたこそこの国に現れし救世主だ!!

 是非そなたのお力を見せてくれ!!

 兵士よ、このお方を訓練所に案内しろ!!」


 というわけで俺は訓練所でサッカーの練習試合に参加している。

 チームメイトは俺の出すスルーパスやドリブルに驚き絶賛して来た。


「何でそんなとこにパスを出せるんだ!」


「上手いよぉ!上手すぎる!」


 いや、ただの高校レベルのプレイなんだが…と言いたかったが、このチームメイト達にはそれでも着いて行けないほどにレベルの高いプレイだった。


 これが国の代表なのかとも思ったが、しかしそれも仕方がないのかもしれない。


 姫の話ではこの世界でサッカーが普及してまだ10年くらいで、しかもこの国のサッカーの強さはイマイチらしく、全12カ国の中でも常に最下位の常連らしいのだ。


 毎年10カ国によるリーグ戦が行われ、最下位と下から二番目の国が翌年はリーグに参加することが出来ずに審判などの運営を自費で受けなければならない。


 いわゆる1回休みの状態だ。


 リーグに参加するだけで賞金や観客動員で金が入ってくることを考えると、残留出来ずにリーグ落ちすると大きな痛手となる。


 このウインマージ王国はリーグ落ちする度に戦力が他国に引き抜かれている。

 元々この国に仕えてる兵士はともかく、元冒険者の傭兵は所詮は金で雇われた身なのであっさりと他国に寝返ってしまう。


 そうしてどんどん弱体化、貧乏化して今の位置にいるらしい。


 もしかしたら伝説の勇者は殺し合いではなく経済的に国を消滅させる方法で疑似的な戦争をさせているのかもしれない。


 とにかく俺の実力でも、この国の戦力としては充分だったというのは分かった。

 練習試合を見ていたセレスティーナが満面の笑みで近づいてくる。


「勇者殿!とても素晴らしい技量だ!!

 そなたが居れば今年は絶対残留出来る!!

 是非ともこの国の力になってくれ!!

 開幕戦はスタメンとして頼んだぞ!!」


 俺に対し感激と期待で言葉が止まらないセレスティーナ。

 それほどまでにこの国が強くなることを望んでいたのだろう。

 サッカーがやりたかっただけの俺も次第にこの国の為に頑張ろうか、という気持ちが芽生えてきた。


「まかせとけ!

 ところで開幕戦っていつなんだ?」


「明日だ!!」


「ふーん明日か・・・え?

 明日ああああああああああああああああ!?」


 翌日。


 試合開始一時間前、今日の試合が行われるウインマージ王国の城下町にある闘技場(アリーナ)へとやって来た。

 俺たちスタメン組とベンチ組はウォーミングアップの為にピッチ上に入っていった。


 それは意外にも綺麗な天然芝のピッチだった。

 見渡すと鉄制のゴールが設置されており、そのゴールにはちゃんと網が取り付けられてる。

 まさに元いた世界と同じようなサッカー場だった。


「おい、あれが噂の新戦力じゃないか!」


「そうだ、あれだ。助っ人として来た勇者だ!」


「頼んだぞ勇者ー!!」


 俺への歓声が聞こえる。勇者が助っ人してチームに加わったことは、城下町の人々の耳にも広まっていたらしい。

 見知らぬ土地の人達とはいえ、応援してくれることにモチベーションが上がった。


「新戦力なら僕はミアたんだなぁ。ハァハァ…

 あの小さかったミアたんが国の代表選手になるまでに成長したんだからなぁ。ハァハァ…」


「うへぇ、お前相変わらずロリコンだな!」


「うるさいなぁ。ハァハァ…

 ミアたーん、頑張れー!」


 ミア?

 歓声の向かう先を見ると見覚えがある少女がそこにいた。


 この子、セレスティーナと一緒に大浴場に入ってたまな板の子じゃないか!

 ピッチ上にいるってことは、まさかこの子も選手だったのか。

 存在感薄くて今まで気づかなかった…

 とりあえず話しかけてみることにした。


「あっ…勇者さん。」


「チームメイトだろ、コウセイでいいよ。

 それより君も選手だったんだな。」


「あっ、はい。そうなんです…」


 こんな小さな子も選手として使うのか…

 この国はよほど人材難なんだな。


 それにしてもミアの態度はとても余所余所しい。

 もしかしてタライで俺を殴ったこをと気にしてるのだろうか。


「コウセイさん…。」


「ん?」


「どう思いました…?」


「何を?」


「私の裸…。」


「「ブーーーッ!!」」


 思わず吹き出してしまった。

 俺は見てない、とバレバレの嘘をついてミアの元から逃げるように離れた。


 観客席の人たちに挨拶として頭を30度ほど下げ、アップを開始した。

 まずは走り込み、次は手足のストレッチ。そしてボールを使ったパスとシュートの練習である。


「おい、勇者のボールコントール上手くないか!?」


「ほんとだ!シュートもゴール隅に入ってるぞ!これは得点が期待できる!」


 観衆の期待の声に上機嫌になりながらボールの蹴り心地を確かめてた。


 その時である。


「ワーーーー!」


「キャーー!!」


 急にアウェー客が盛り上がり始めた。

 どうやら対戦相手の選手たちがピッチに姿を現したらしい。

 その歓声に釣られ、シュート練習の足を止め、入場ゲートの方に目を向けた。


 しかしその瞬間、俺は目玉が飛び出そうなくらいショッキングな光景を見てしまった。


「なんじゃありゃああああああああああああああああああああああああ!?!?」


 なんとぞろぞろと姿を現す相手選手の中に、3メールはあろうかという獣人の化け物がのっしのっしと歩いていた。

 その姿は豚のような顔、筋肉質なのにポッコリと出っ張った腹。


 それはまさにオークという生物だった。


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