プロローグ~死亡編~「大型ディフェンダー・トラック選手の殺人タックル」
「「ピィーーーーーーーー!!」」
「うぉおおおおおお!!優勝だああああああ!!いええええええええい!!」
試合終了の笛と同時に勝利の歓喜でテンションがおかしくなってる俺は、藤沢中央高校サッカー部2年、宇津田光聖、身長173cm、ポジションは攻撃的ミッドフィールダー。
なんと俺の試合終了間際のゴールで名門東横浜高校を破り、高校サッカー神奈川大会を優勝したのだ。
「サンキュー!コウセイ。」
「ナイス!コウセイ。」
「せんぱぁ~い!!」
チームメイト達も満面の笑みで俺に抱き着いてくる。
中には調子に乗って俺のお尻を撫でてくる後輩がいる程だ。
普段なら脳天チョップを喰らわせるところだが、喜びで一杯だから今日は許してやろうじゃないか。
整列後、試合を決めるゴールを挙げた俺はこの試合のMVPに選ばれ、チームを代表しヒーローインタビューを任された。
「決勝ゴールを決めました。藤沢中央高校、宇津田光聖選手です。優勝おめでとうございます。今のお気持ちをお聞かせください。」
ピッチリポーターが俺にマイクを向け、ヒーローインタビューが始まった。
ここでマスコミウケするような気の利いたコメントを残せばプロからも一目を置かれるのだが、興奮してて冷静な思考が出来そうもなかったので、熱血キャラみたいに気持ちをぶつけるように答えた。
「ありがとうございますっ!最高ですっ!」
「値千金のゴールでしたが、そのゴールシーンを振り返ってください。」
「そうっすね!キャプテンがシュートの体制に入った時、もし相手キーパーに弾かれても詰めてれば何か起きると信じてゴール前に走りましたっ!そしたら丁度そのこぼれ球が足元に転がってきてくれたんで、あとは押し込むだけでしたっ!」
「これから神奈川の代表として全国大会に挑むことになりますが、意気込みをお願いします。」
「勿論、全国制覇ですっ!!」
「期待しています。藤沢中央高校、宇津田光聖選手でした!」
インタビューも終わり、表彰式に移った。
チームみんなで優勝トロフィーを掲げる最高の瞬間。
俺にも触らせろ、とトロフィーを取り合う微笑ましい光景。
この素晴らしい仲間達と全国に行ける!全国の強豪達と戦える!そう思ってワクワクしていた。
しかしその思いが叶うことはなかった。
神奈川大会決勝の翌日、俺は近所のコンビニに向かう途中の横断歩道を渡ろうとした時、それに遭遇してしまった。
「「「ブーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」」
クラクションを鳴らしながら物凄いスピードで走るトラック。
歩行者優先なのもお構いなしで、呑気に横断歩道を渡ろうとしている学校帰りの小女に襲い掛かろうとしていた。
ブレーキの故障なのか運転手が寝てるのか、とにかく激走するトラックの勢いは止まる気配がなかった。
これはまずいと思い、俺は小女を助けるために横断歩道に飛び出した。
プランとしては小女を抱え、前転しながらトラックを回避しカッコよく横断歩道を過ぎようという考えだ。
俺の身体能力ならイケる!そう思っていた。
しかしそれは過信にすぎなかった。
前日の試合の疲れがまだ残っていたのか予想以上に身体が動かず、小女を歩行者用道路に押し出すので精一杯だった。
小女は背中から倒れたが、ランドセルがクッションになってくれて大事には至らなかった。
それとは裏腹に横断歩道から抜け出すのに失敗した俺はトラックと接触不可避な状況だった。
少女の代わりはお前だ!と言わんばかりに迫りくるトラック。
まるでボールを奪えなかったが脚だけは削っていこうとするダーティなディフェンダーのようだった。
そして、
「「 バンッ!! 」」
俺は吹っ飛ばされた。
今まで喰らったどんな反則タックルよりも激しく力強かった。
「「 ヒュ~!! 」」
宙を舞う俺の身体。
今日の空はいつも以上に青く感じた。
「「 グチャ!! 」」
そして身体を優しく受け止めてくれなかった薄情なアスファルトによって脳や骨を粉砕され、俺は可哀想にも『選手生命』どころではない『普通の生命』を絶たれてしまった。