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とあるパーティーの冒険譚  作者: 狗山犬壱
とある冒険者の受難
9/11

第9話 見えざる敵

 先程、シーナは敵の匂いも気配も感知できないと言っていた。俺の魔力探知にも反応がせず、まるでその場には存在しないかのような状態だ。相手の出方が予想できないって言うのは不気味なもんだ。

 こういう場合は先手を打って様子を見るのが一番。


「炎精よ、礫となりて敵を射て! ファイアボルト! 」


 先程、展開しておいた炎弾を声がした方へと放つ。一つ一つの威力は小さいが、速射性に優れている魔法だ。特に狙いをつけず先程息を飲む音が聞こえた範囲にばらまく。だが、予想通り何の変化も見られず、攻撃が当たった様子も見られない。

 魔法を撃つ手を止め、敵の動向を予測する。攻撃後、敵の攻勢が緩んだ場合どういう行動をとるのか? そう考えを巡らせていると、レナの時と同様の風切り音が多方向から耳に届く。


「姿なき精霊よ、我が身を守れ! プロテクション」


 展開した防御魔法で放たれたであろう攻撃を防ぐ。金属製の飛針のようだ。狙われたのは首、心臓、肺と急所ばかり狙ってきている。


「(暗殺者らしい鋭く精密な攻撃だ。それにしても、あえて物理的な攻撃を仕掛けているのか? 魔法を使う様子が見られない。)」


 気配と魔力、そして体臭すらも隠蔽できるにも関わらず、わざわざ予測しやすい物で攻撃する理由はなんだ? フェイクか、それとも隠蔽状態を維持するにあたりなんらかの制約があるのか? 

 いずれにしても、敵は優れた暗殺者。防御魔法を展開しなければおそらくこちらはすぐにやられてしまうだろう。このまま何もせずにいれば、だが。


「(ここはあれを使ってみるか。もし、相手が魔法の効果を全て打ち消す類いの物だったとしても、効果はあるはず。)」

 俺は防御魔法を維持しつつ、もう一つの魔法を詠唱する。

挿絵(By みてみん)

「姿なき精霊よ、原初へと還り、波紋を起こせ。アストラルウェイブ 」


 空間に光が走り、まるで波紋のように魔力の波が辺りへと広がる。次の瞬間、森の方から紫電を纏いながら人影が姿を現わした。


「……まさか、こちらが見えているのか?ば、馬鹿な! 隠蔽が切れただと!? 魔法の効果は一切受けないはず! 」


 完璧と自負するものを持ち、過信すると人は慢心する。自身の隠蔽に確かな自信を持っていたんだろう。暗殺者の声には冷静さがなくなっていた。


「それがどんな原理なのかは知らないが、今もあんたの隠蔽は効いているよ。見えているのはあんたの幽体だ。」


 さっき使ったのは幽体を認識出来るようにする魔法だ。術式に関して言えば、環境魔法のそれに近いものであり、付与魔法や防御魔法のように、直接被術者に対して効果のあるものと違って魂を視認できる空間を作り出したにすぎない。

 故に被術者に対して効果のある魔法を防いだり、反射したりする類いの魔法道具や技等に関していえば、これを防ぐ効力はほぼないに等しい。


「くそ! だが、所詮は魔導師! こうなれば実力で殺してやる! 」


そう言い放ち、奴はローブの袖からカタールを取り出し、構えた。


「暗殺者にしては沸点が低いな、アンタ。」


「黙れ! 丸腰の魔導師なんぞ、俺の敵ではない! 死ね!」


 凄まじい速度でこちらへと向かってくる。自分の力に絶対の自信を持っていたのだろう。恐ろしい程の殺意がフードの奥に隠れた眼光から放たれるのを感じた。

 眼前迫ったそいつは、突然土煙を上げ目の前から消えた。不意に背後から刃物が空を裂く音を感じた。確かにこの距離と速度では魔法は使えないな。だが……

挿絵(By みてみん)

「がっ……!」 


「魔導師が格闘出来ないって決めつけるのは、良くないぜ? 」


 右回し蹴りで後頭部を撃ち抜き、次いで左掌低にて顎先を揺らす。奴は膝から崩れ落ち、前のめりにその場に倒れ臥した。


「ば、馬鹿な……!動けない、だと!? 」


「殺しの腕は確かなんだろうけど、近接格闘の腕はそれほどじゃないみたいだな。さっきの掌低で顎先を掠めただろ? ああいう風にされると、人体の構造上立てなくなるんだと。」


 修行中、何度も師匠に実践と称してやられたからな。身をもって体得した極意の一つだ。……俺、魔導師なのに


「この俺がこんなガキに敗れるだと……!? 」


「悪いな。真っ当な戦闘で遅れをとるわけにはいかないんだよ。」


 奴の意識を奪い、拘束魔法で縛り上げて遺跡の前に置いておく。その後、口笛で近くに待機していた伝書鳩を呼び、レナードに向けて応援を要請した。これで後は増援が来るまでの間、奴を見張るだけとなった。


「レナ達の方は大丈夫か? シーナがいるから戦闘方面は問題ないだろうけど」


 あのバカ猫は、時として予想を遥かに上回ることを仕出かすからな。何も起こらなければ良いのだが。

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