第7話 女神の詩
数時間後、ようやく全ての詩を集め終えた俺達は河の畔で小休止を挟んでいた。
「ようやく全部集めることが出来ました! ありがとうございます! 」
「にゃぁ~……疲れたにゃぁ~…」
「そろそろ昼過ぎってところか。日の出前に出てきたってのに、随分と時間がかかっちまったな。」
このペースだと今日中に街につくのは無理だな。野営道具は準備してきたことだし、今晩はこの森で夜を明かすことになりそうだ。
「早速女神の詩って奴を歌ってもらいたいところだが、まずは飯にしよう。シーナ、出番だぞ」
「にゃっはー♪ 待ちかねたにゃー! 」
「えっと、何をするんですか?」
「一応、携帯食糧は持ってきたけど、どうせなら上手い飯を食いたいだろ? 幸いここは森で、すぐそばには河もある。」
「おっさかな♪ おっさかな♪」
「見ろ。アイツは既に戦闘体勢に入っている。なら後は材料集めをするだけってわけだ。」
俺の方も準備にかかるとしよう。えーっと、確かサイドバックの中に
「あ、あはは、戦っているときよりも生き生きしてますね、シーナさん。」
「猫だからな、しょうがない。よし、これで準備できたな」
「そう言えば、さっきから組み立てているそれは何ですか?」
「ああ、これか?これは【ベースシール】だ。」
「【ベースシール】……ですか? 」
「俺の師匠、ステラ=ワイズマンが考案した魔法道具。組み立て式の簡易結界装置でな?中央のクリスタルに魔力を込めると最大で9時間ほど小規模な認識阻害結界を張ることが出来る。」
「わぁ! すごいですね! それがあれば野営がとっても楽になります! 」
「そう思うだろ? でも残念ながら結界を維持するクリスタルの強度が貧弱で、一度使うと壊れちまうのさ。」
「え、そうなんですか?」
「便利なんだけど補充が面倒であんまり使わないんだよ。俺自身、使うのはこれで3回目だ。」
「そんな貴重な物を……すみません。」
「良いよ別に。道具は使われてこそだろ? それに飯くらい落ち着いて食べたいからな。あんま気にすんな」
「はい、ありがとうございます。」
「おう。それじゃあ俺は森に木の実とかキノコなんかを採ってくる。レナはシーナの傍で火の準備をしておいてくれ……っと、そう言えば火起こしとか出来るか?」
「あ、大丈夫です! 見習いの基礎を教わっていた時にシルビア先生から習いました! 」
「そうか、それなら大丈夫そうだな。シーナ、レナの護衛任せた。何か異常があったら、いつものやつで報せてくれ。」
「了解にゃ!」
シーナが感じた視線の正体は未だに分からないが、敵意を向けてこないってことは現状動く気がないってことだ。なら、罠張りついでに様子見といこう。
1時間後
「げっぷぃ……お腹いっぱいにゃぁ~♪ 」
「食い過ぎだ、バカ猫! て言うか、あんだけの量の魚をこの河で獲ったことが恐ろしいわ! 」
先程まで料理を置いてあった簡易テーブルの上に散乱しているのは骨の山。この猫、あの短時間でどんだけ釣ってんだよ! しかもその9割方、こいつの腹に収まりやがった!
「……私、ビックリしました。まるで飲み物のように焼き魚がシーナさんの口に次々と入って行く様、まるで伝承にうたわれたヨルムンガントのようでした」
「お魚は別腹にゃ! 」
「いや、お前……あの量を別腹って……」
正直、ドン引きだよ。マジで
「はぁ、切り替えよう。レナ、サフィールの讃歌の方はどうだ?」
「全部解読済みです。写しも終わっているので、すぐにでも歌えます。」
「準備万端って訳だな。あまり時間をかけるのもなんだからな、早速頼む。シーナ、念の為警戒を」
「了解にゃ! 」
「は、はい。それじゃあいきます! 」
透き通った美しい声が辺りに響き渡り、ゆっくりとしたテンポで女神への感謝の思いが歌声を通して紡がれていく。
「うにゃぁ~……綺麗な声だにゃぁ~……♪」
「はは、マジかよ。まだ見習いだろ? それなのにこんな……」
聞き惚れる、なんて表現を自ら体験する日が来るとは思いもしなかった。歌声を聞くたび、背筋がゾクゾクする。驚きと感動、そして温かな歌声から伝わってくる優しげな気持ち。ああ、こいつは本物だ
「……いるもんだな、天才って奴は」
いや、そんな言葉では言い表すのは正しくないのか。才能や努力だけじゃ、多分この領域に達することは出来ない。それこそ……
「神の寵愛って奴か」
「さっきから何をぶつぶつ言ってるにゃ? ちょっとキモいにゃ」
「うっせ、ほっとけ! 」
レナの歌はそろそろ終わるようだ。さて、この後は一体何が起きるのやら