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とあるパーティーの冒険譚  作者: 狗山犬壱
とある冒険者の受難
6/11

第6話 獣

 マーキングした場所へと戻ってきた俺達は、早速石碑を調べ始めた。といっても、正直なところ古代語に関しては俺もあまり自信がない。シーナに至っては


「ふぁ~……変な模様が一杯にゃ。見ているとなんだか……眠く、なって」


「寝るな、バカ猫。お前に古代語の解読とか期待してねーから、周囲の警戒だけしとけ」


「了解にゃ~」


 まったく、本能まっしぐらな奴め。ふと、レナに目を向けると何やら本を片手に石碑を調べはじめていた。


「レナ、お前読めるのか? 古代文字? 」


「あ、えっと、はい。一応。」


 これは驚いた。正直、貴族のご令嬢のイメージしかなかったからこんなスキルがあるとは思ってなかった。


「私の叔父が古代文学を専門に研究していたので、その縁で一通りの古代文字の読み方を習いました。」


「それはすごいな。俺も師匠のもとである程度の読み方を習ったことがあるが、正直な所、殆ど片言レベルの翻訳しか出来る気がしない。」


「えへへ……なんだか、嬉しいです。そんな風に言われたことがなかったので」


 この年頃じゃ他の貴族へ嫁ぐ為の花嫁修行や、淑女としての礼儀作法や勉強の方が基本だ。周囲の反応も芳しくなかったんだろう。だが、今はその知識がこうして役に立っている。昔、師匠が言ってた格言にあったな、確か……


「芸は身を助く、だな。」


「えっと、何かの格言ですか? 」


「大昔に異世界から召喚された勇者が残した格言っぽい何か、だな。師匠いわく、何かしらのきっかけで覚えた知識や技術が、困難な状況に立たされた時、逆転の糸口になるとかなんとか」


「そんな格言があるんですね。すごいなぁ」


「本来は別の意味だったらしいが。なんにしても、お前の努力がこうして役に立っているんだ。良かったじゃないか」


「はい! 」


「それじゃあ、解読の間、俺達は……」


 魔力感知に反応があったな。方角は北か。だが、相手の魔力が小さすぎるせいか小精霊の魔力と混同しちまっている。こう言うときは


「……レナ、そのまま解読を続けてくれ。シーナ」


「あっちの方から5匹。気配の大きさからすると、多分狼にゃ」


方向は俺の魔力感知と同じ。恐らく数もドンピシャだろう、流石は猫


「了解。俺はプロテクションを展開してレナの護衛。同時に魔力関知で相手がこっちに来るタイミングを知らせる。シーナ、やれるな?」


 俺がそう尋ねると、腰のシースから2本のダガーを引き抜き、自信満々な様子でにかっと笑った。


「誰にものを言ってるにゃ! たかが森のワンコに遅れはとらないにゃ! 」


「いや、犬じゃねーし! ったく、その自信はどこから来るのやら……接敵まで3秒。3、2、1」


 0と俺が言うのと同時に、シーナは前傾姿勢から一気に狼達の方へ走り出した。それに少し遅れて狼たちが森から顔を出したその時、シーナの姿が掻き消えた。


「えぇっ!? シーナさんが、消えっ……!」

挿絵(By みてみん)

 次の瞬間、宙に銀線が幾重にも走り、その軌跡を残す。次いで、無惨にも斬り飛ばされた肉塊が5つ、地面を赤く染めた。


「ふふん! 一丁上がりにゃ! 」


「シーナさん、すごいっ……!」


「普段はあーぱーな奴だが、腕前は一級品。実際、その辺の剣士程度じゃ、相手にならないしな。」


ホント、腕前だけは一級品なんだよなぁ。他の要素で台無しだけど


「にゃーはっはっは! もっと褒めるにゃ! そして、お魚をアタシに貢ぐが良いにゃ! 」


 あー、これは調子に乗らせ過ぎたな。レナの解読もまだ時間かかりそうだし、とりあえず、気付けの一発を手刀にてお見舞いするかな。


「調子乗んな、バカ猫」


「ぶにゃっ!? 何するにゃ!むっつり魔導師! このぷりちーな猫耳がキズモノになったらどう責任取る気にゃ!? 」


「誰がむっつりだ! まったく……狼がこれだけとは限らないだろ? レナの解読が終わるまでは気を抜くなよ。」


「ふーぶー! ん?」


 ぶーたれていたシーナの動きが急に止まり、険しい目付きで森の方を見つめる。俺の魔力感知には何も引っ掛からないが


「どうした? シーナ」


「……分かんないにゃ。匂いも気配も感じないんだけど、変な視線を感じるのにゃ。悪い感じはしないけど、なんか気持ちが悪いにゃ! 」


「視線、ねぇ」


 試練を見守っている件の女神か?それとも、別の何かか? そう言えば、レナードから届いたあの手紙には……可能性はなきにしもあらず、だな。


「お、終わりました! お待たせしてすみません! 」


「ああ、お疲れ。首尾はどうだ? 」


「書かれていたのはやはりサフィール様を讃える詩でした。でも、これ一小節分しか書かれていないんです。」


「他の詩を集めて、詩を完成させないといけないわけだな。しかし、他の見習いもこんなキツい試練を受けてんのか? 」


狼は偶然だったとしても、なんだか微妙に違和感を感じるんだが、気のせいか?


「……実を言うと、先輩から聞いていたものよりも難易度が高い気がするんです。他の方は遅くても半日で済むような内容でしたし」


 女神は何を考えているのやら、さっぱり分からん。だが、こうして試練を与えたと言うことは、善きにしろ悪きにしろ何かしらの思惑があるわけだ。なら、俺がするべきことは変わらない。


「とりあえず、他の詩を探そう。今の状況じゃ、それしか出来ないからな。」


「……そうですね。分かりました! 引き続き、護衛をお願いします!」


「了解だ。おい、シーナいつまでそっち見てるんだよ? 行くぞ」


「むむぅ……」


まだ警戒しているシーナを連れ、俺達は探索を再開し、森の中にある詩を探し始めた。


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