第4話 冒険者ギルド
【side レナード】
「レナード、追加の書類です。決裁印をお願いします。」
「はいよ。」
「こちらもお願いします。」
「……おう。」
「忘れていました、こちらも確認して下さい。来月開催される世界会議に提出する……」
「いや、待て待て! なんか書類が多くね? 普段より圧倒的に! 」
次々と積まれていく書類の山に囲まれ、流石にヤバいと思った俺はセルシオへと声をかける。いやだって、この量は明らかに異常だろ!?
「仕方がありません。今月末の選王の儀、来月の世界会議、それから来期の予算編成とやることが山積みなのですから。」
「それにしたってこの量は……!」
なおも言い寄る俺にセルシオはため息を一つつき、まるで屠畜場の豚を見る目でこちらを見つめながら、ゆっくりと口を開く
「……先月は娘さんのお誕生会、さらにその前は奥さんの誕生日」
「うぐっ! 」
「その前の前は、娘さんの一生に一度のお願い(合計4回目)で1週間の家族旅行、でしたか? 」
「グホッ! 」
「そして、今月は娘さんが男の子の友達を連れてきたからと早退。何か申し開きはありますか? レナード」
「すみませんでしたぁぁー!! 」
返す言葉ない俺はその場でジャンピング土下座をきめ、床に伏せる。
「いやほんと、セルシオ様のお陰で休みが取れました! 感謝してます、マジで! へへ、なんでしたら靴でも磨かせていただきやす! 」
顔だけあげて、卑屈に笑いながらセルシオに媚を売る。なんとでも言え! 家族の為なら俺のちっぽけなプライドなんてそこらのチワワにくれてやる!
「……はぁ、即刻その卑屈な態度と土下座をやめてください。正直、不快です」
「イエス! ボス! 」
「いや、ボスは貴方でしょう? まったく」
その言葉を待ってました! 俺はすぐに立ち上がり、ギルマスの席へと戻る。セルシオはそんな俺を見ながら、くいと眼鏡を直し少し表情を緩めた
「レナード、貴方はこの自由都市の冒険者ギルドのギルドマスターなのですよ? 家族サービスをするなとは言いませんが、締めるところはしっかりとして下さい。」
「はぃぃ……以後、気をつけます」
「結構。それでは引き続き、お仕事といきましょうか」
そう言えば、今頃ライ達はどうしているだろう。今日の朝方、街を出立すると言っていたが。
「なぁ、セルシオ。ライ達についてなんだが」
「それでしたら、監視任務についていたノラからの報告がありました。問題なく出発したとのことです。シーナさんも特に問題行動をせず、大人しかったそうですよ」
「はは、それを聞いて安心した。あの子は良くも悪くもトラブルメーカーだからなぁ。後は道中、何事もなければ良いんだが」
「今は秋ですからね、彼らが向かう南西の森林地帯だとネームドクラス以外の魔物なら大丈夫ではないですか? ライがついていますし」
「我らがギルドのエース直々に出向いているからな。そこは心配してないんだが」
「……王都の件ですね。現在、ホノカが諜報を行っていますが、今のところ行動を起こす気配はないそうです。」
背もたれに寄りかかり、椅子へと沈みこむ。意外とふかふかなんだよな、この椅子
「……ランシーヌ伯からは何か情報は? 」
「身辺に異常はないが、スグレット侯爵領から行軍演習の為、中隊規模の騎士団が出立したとのこと」
「行軍演習ねぇ……場所は? 」
「カナードの南方、ルフィナ平原です。」
はぁ……なんだってこうもキナ臭いことばっかりなのかねぇ
「一応、ライ達に伝書鳩を飛ばせ。念には念をいれた方がいい」
「了解です。」
さーてさて、ここから先は気合いを入れ直すとしよう
俺らを舐めたこと、後悔させてやる
「レナード、手が止まってますよ? 」
「……はい」