1-06
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「ふゎ~ぁふ」
起きた。
ちょっと早めだったが、このまま二度寝すると、もしかしたら設定時刻より前にあのリリィとか言う物体が「でへへ~」とか言って寝室に侵入してくる危険がある。
起きると決めたなら善は急げだ。
装備を整え身支度をして、軍服の上着の簡易版のほうに袖を通す。下はズボンではなくいつものスカートだ。一応、これも正式な軍服である。
簡易版というのは徽章が縫い付けられた軍服に肩章と襟章がついているだけのものだ。袖は士官一般のラインが1本あるのみで、飾紐などの付いていないものである。肩章は肩についているボタン留めの帯に通すだけで取り外しができるし、襟章はバッヂのようなものだ。
そしてスカートにベルトを通し、愛用のショルダーバッグを手に、部屋を出た。
ダイニングではステラが朝食の支度をしていた。
「おはよう、ステラ中尉。あ、敬礼は不要よ。」
「おはようございます少佐。」
「早いのね、ステラさん。」
「日課になってまして……」
――さすが規律の厳しい地上部隊出身者。
厳しくない地上部隊もあるのだが、ステラの出身は、思想が頑固な反乱分子の居る星系で、施設や基地のある都市をきっちり守り続けている地上部隊だ。規律がきちんと機能しているからこそ守られている都市の市民の信用も高く、軍も市民を圧迫したりせず、市民たちも軍に協力的で、そこだけは理想的だという話を人員選択のときに資料で読んだ。
(資料は飾り立てられた文章が並んでいる建前の塊、ということだ。
よくある話である。)
昨晩、お風呂上りに少し話をして、くだけても良い場合には『ヴィクス中尉』ではなく『ステラさん』と呼ぶことになった。呼び捨てでいいとは言われたが、まだなんとなく照れくさいのだ。
「リリィ少尉はまだなのね。」
「はい…、申し訳ありません。」
「あなたが謝ることじゃないでしょ、
リリィ少尉も三ヶ月ですっかりたるんじゃったのかな…」
「そろそろ起こしてきましょうか?」
「いいえ、こういうときは科学技術の出番よ。」 「え!?」
と言うやいなや、個人端末を取り出してちゃっちゃと操作する。
「バトラー、聞こえる?」
『はいお嬢様。』
お嬢様、と言われてちょっと苦い表情をしたが、続けて、
「今ホームサーバーに送った音声ファイルを、リリィ少尉の部屋で、
近所迷惑にならない程度の大音量で流しなさい。」
『了解しました。お嬢様。』
「あと、お嬢様はやめなさい。少佐と。」
『了解しました、少佐。』
微笑を湛えて満足そうに頷いた少佐に、ステラが、
「少佐、一体何を…?」
「すぐわかるわ。」
すぐに天井の向こうから、(リビングの真上がリリィ少尉の部屋)
起床ラッパの音が聞こえた。そしてドタバタと音がして寝間着姿で軍服と枕を手にしたリリィが階段を駆け下りてリビングに飛び込んできて敬礼した。
「ね?」
「…はぁ…」
リリィは何が何やらわからないといった表情で敬礼したまま直立していた。
* * *
「ひどいですぅ少佐ぁ;」
顔を洗ってリビングで着替えたリリィ少尉。その間に少佐とステラは朝食を食べ終わってお茶を飲んでいた。
「ちゃんと起きれたでしょ?」
「そうですけどぉ……」
「早く食べないと置いていくわよ」
「は、はいぃ」
と、そこに玄関のチャイムが鳴る。ステラがインターホンをとって、
「宅配業者のようです。」
「あら、早いわね。午後8時って指定したつもりだけど…」
「受け取ってきます」
と、ステラがいそいそと玄関へ。そして荷物を受け取って戻ってきた。
「午前8時指定になってます。で、これは…?」
「メイド服よ。」
「「ええっ!?」」
「丁度いいからリリィ少尉、それに着替えなさい。着替えたら出るわよ」
「「…本気ですか」」
「だって昨夜、『メイドやります』って言ったじゃないの。」
「そりゃあ言いましたけどぉ…」
「いいから着替えなさい、せっかく注文したんだから。」
「…わかりました」
ステラはどうしていいやら分からなくなって頭の整理がおいつかないようだ。
リリィは昨晩自分が言ったことでもあるし、少佐が喜んでくれるならと心を決めたようだ。またリビングで着替え始めた。
「そうだわ、設定しておかなくちゃね。」
と言うと少佐は、また個人端末をちゃっちゃと操作し、
「バトラー、聞こえる?」
『はい少佐。』
「あなたの固有名を『セバスチャン』と命名するわ。」
『了解しました。少佐』
「そして私とステラ中尉に対して、『お嬢様』と呼ぶことを許可します。」
「しょ、少佐それは…!」
「気に入らないようね?、
ではセバスチャン、ステラ中尉に対しては『ご主人様』と呼びなさい。
リリィ少尉はリリィと呼び捨てるように。」
『了解しましたお嬢様。』
「これでよし、と。」
なにが「よし」なものかと絶句するステラ。着替え途中で「あたしは呼び捨て…」と唖然とするリリィ、満足そうに微笑む少佐。そしてつかつかとダイニングテーブルから着替えているリリィに近寄り、
「さ、着替えた?、あら、まだなの?、
あれ?スカートは短い方があったでしょう?
そう、こっちよ、こっち。」
「え?あ、はいぃ」
「ほら手伝ってあげるから。」
てきぱきと手伝って着替えさせた。「ほらこれも着けないと」と、
桜色の端に襞のついたクロスタイをラピスラズリ風のブローチで留め、最後にヘッドドレスを装着させて、
「おー、よく似合うじゃないの。赤茶色の髪にこの深緑がいいわね、
ホントによく似合ってるわ、紺色でもよさそうね、ふふっ」
「ほ、ほんとですか少佐ぁ」
褒められたリリィは当初の不安もどこへやら、少佐から『よく似合う』なんて笑顔で言われたので舞い上がってしまい、リビングの扉のガラスに映してみたり、個人端末に搭載されているカメラ機能をホームサーバー経由でリビングのモニタに映すようにしてポーズをとったりしていた。
その様子に呆れるやらなんやらもうどうにでもして下さいという表情で、ステラが促す。
「少佐、そろそろ…」
「あ、そうね、んじゃ行きましょうか。」
急いで元の軍服から襟章やポケットの小道具に個人端末のホルダー、ズボンのベルトなどをあたふたととりだしてあとに続くリリィ。
玄関で少佐が、
「リリィ少尉、箱にブーツもあったでしょ」
「え?、あ、はいただいま!」
「ちゃんと色やデザインも考えて選んだんだからね!」
「(リビングのほうから)はーい!」
たったったと玄関に出てきたリリィが、自分の髪と似たような赤茶色のハーフブーツを手に、
「こんな高そうな靴、いいんですか…?」
「何言ってるの、軍靴のほうが余程高いのよ、知らないの?」
「そうだったんですか…。」
「いいから早く履いて。走らなくちゃいけなくなるわ。」
「は、はいぃ」
こうしてメイド服の少尉が司令棟をうろちょろする、という奇異ができあがったのだ。
* * *
司令棟に着くと、案の定「メイドだ…」、「え?メイド?」、「なんでメイドが…?」など二度見されたり撮影されたりと物珍しがられた。
総務部で少佐がもってきた辞令や仮承認端末などを提出、返却などしてから戦技情報室へ行く間も、往来の多い朝の総務部で、周囲の視線に晒されて2人は居心地悪そうにしていた。
少佐が「そのうちみんな慣れるわよ」と言い、あまりにも堂々としているので、顔を見合わせて溜息をつきあきらめるしかないのだと悟ったようだ。
戦技情報室に入ると、居た人みな挨拶もそこそこに、
「おぉーメイドいいじゃねーか、似合ってるぜー少尉」
「よくお似合いですよ少尉。」
「ふふふ、いいわね~」
「少佐、ぐっじょぶ」
「少佐の見立てですか、いいですね、少尉、お似合いです」
などと口々に褒めるものだからリリィは恥ずかしいやら照れくさいやら嬉しいやら、とにかく少佐もにこにこしているので、ぺこぺこお辞儀して「ありがとうございます」と何度も言っていた。
「さて、改めておはよう。報告、相談などありますか?」
と、少佐が真面目な顔になって言ったとき、場の雰囲気が一変した。
「こちらは特にありませんぜ。」
と、ロック。頷く少佐。
「前倒しで順調です。」
と、ガルさん。頷く少佐。
「こちらはデータ集計整理済みです、のちほどそちらへ。それ以外は順調です。」
と、テリー。「そう」と言って頷く少佐。
「行政関連各位へのマーキングを完了。それ以外は順調です。」
と、メイ。頷く少佐。
「ネズミの特定完了。通常業務は順調。」
と、キャシー。すると少佐が、
「これは皆にも知って欲しいことね、じゃ、室長席へ。」
と言い、制御台をぐるっとまわって室長席に着いた。
5名はそのまま前にでて室長制御台を囲み、
そしてキャシーが室長制御台の下からせり出したコンソールを操作しつつ話し始めた。
「第147辺境警備隊隊長、第一辺境基地司令アルマローズ中佐から
送られたのは、このネズ探偵社、ネズ・ジーラスという男と
そこに所属する3名の調査員でした。」
「ふぅん、ネズミがネズネズってのは笑えない冗談ね。」
「ちげーねぇ」 「「ははは」」 「「ふふっ」」
「彼等は先月、当艦が立ち寄ったNE159112マルキュロス星系より、
移民たちに紛れて入植してきていました。
探偵業はそこそこ普通に営んでいるようです。利益もあるようでした。」
「へー、真面目に探偵さんやってるのね。」
「はい、ネットに広告も出しています、これです。」
制御台の上にウィンドウが浮かび、ネズ探偵社のネット広告が映し出された。
各自ぱぱぱっとウィンドウを操作して読んでいる。
「結構ちゃんとやってるじゃねーか、これ本業でいいくらいだな」
「本当かどうかわからないけど、過去の実績や経歴までちゃんと
記載されてるね、マルキュロス探偵協会認定104125号?」
「実績の半分は本当のようです。当人かどうかまでは不明ですが、
マルキュロス探偵協会というのは実在し、認定も受けています。」
「なるほどね、移民や営業の認可が下りるわけだ。」
「で、どこで分かったの?、これは特定してから調べたでしょ?」
「(もうバレちゃった)えー、実はこんなのが見つかりまして…」
言いながらキャシーが操作すると浮いていたウィンドウが全て消え、商業区商店街裏通りのネズ探偵社が立体的に透過フレームで表示された。中には人影らしきものも4体表示されている。
「これです」
そう言って探偵社の位置を拡大した。
赤くマーキングされた端末らしき物体が全部で4つあり、そのうちのネズのものらしきデスクの上にのっている物体を、キャシーが指でひょいっと宙に指示して別にウィンドウを展開した。
「これらは、第147辺境警備隊によって承認を
受けたことのある、NE314159アスパラギン星系第三惑星ラスタラの
工場で作られたネスパラダック社製の個人端末です。」
「ふんふん。続けて?」
「そしてネスパラダック社は、名称未定宙域海賊指定、通称『スネア』の
資金源の一つでもあります。」
「あ、少し補完していいですか?」
ここでテリーがそう言って軽く片手を上げ許可を求めた。
「どうぞ?」とキャシー。 頷く少佐。
「まだ星系全体ではありませんが、海賊『スネア』のものと
思しき建造物集合体が6箇所判明しています。
倉庫らしき建造物にはネスパラダック社の製品が多く格納されていました。
他に海賊組織は1つ、名称未定宙域海賊指定、通称『ラゴニア』
がありますが、そちらの2か所の建造物にはいずれも同社の製品は
ほとんどありませんでした。」
「ほとんど、というのは個人所有ね。」 (※ 存在する理由はという意味)
「はい、その通りです。」
「逆に偽装として使われた可能性は?」
「…意図が不明です。海賊間協定もあるようですので、そこを偽装
したところで『ラゴニア』にはデメリットのほうが大きいでしょう。
なので除外していました。」
「いいわ、そちらはどっちにせよそのうち全部潰しちゃうのだから。
ではネズミは海賊スネアと第147辺境警備隊の二重スパイで確定、
ネズ探偵社ネズ一味をネズミの巣として……どうにもしまらないわね、
なんかない?」
「あっはは、仕方ねーよ、ネズネズだし」
「「ふふっ」」 「「くっくっ…」」
「しょうがないわね、ネズミの巣として確定するものとし、
無力化する方法を考えましょう。何か意見は?」
皆が少し考える中、ガルさんが、
「少佐は何かお考えでは?」
「あたしの考えを言っちゃったら会議が終わっちゃうじゃないの。」
「なんだよー、考えてたのに」
「じゃ、ロック、あるなら言って」
「え!?、いや、んー、普通に制圧して排除しちゃぁ…だめなんだよなぁ?」
「ええ。却下よ」
「無力化、だよな?」
「そんなすぐ思いつきませんよー」
「何よ、いつも言ってたでしょ、
研究者たるもの多角的に物事を捉え分析せよ、って。
テリーだっけ?最初に言ってたのは。」
「ええ、まぁ…」
「しょうがないわねー、いい?、ネズミは探偵社なのよ。
そしてそれでここでも食べていけるぐらいの実績があるの。」
「もしかして…?」
「そう、もっと忙しくしてあげましょう。
余計な事をしたり考えたりするヒマなんてないぐらいに。」
「それだけ……?」
「そのかわり、彼等もちゃんと探偵業に没頭できるように、
お膳立てしてあげなくちゃね。」
「ふふふ、余計な連絡をとらせないように妨害するのね?」
「なーるほど、ちょっと面白そうだ。」
「穏便でしょ?」
そう言って少佐はにっこり笑った。
* * *
名称未定宙域海賊指定、というのは、
・名称未定:正式名称が宇宙軍に登録されているわけではないもの。
辺境によくいる。
・宙域海賊:主に宇宙空間で活動する海賊
・海賊指定:当人たちが海賊であるかどうかの自覚にかかわらず、
宇宙軍が『海賊だ』と決めつけて登録したという意味。
そもそも海賊なんてものは自称他称自薦他薦に関わらず、公的機関や軍に対して登録申請をするようなものではないので、『指定』なんて付けずともいいようなものではある。
それに、未登録であってもその時点から記録に残るので、登録されることになるのだから、未登録か登録かなんて大した差はないのである。
しかし、慣例的にそういう正式呼称をするようになっているので、是非もない。
宙域だろうが地上だろうが海域だろうが、それこそ海賊だろうが山賊だろうが似たようなもん、と思っているアルミナ少佐は、口にこそ出さないが、とかくこのしちめんどくさい呼称を避ける傾向がある。報告書等の書面では仕方がないと諦めているが、口頭ではテリーやキャシーのようには言わず、ただ「海賊なんとか」と言っている。
もちろん他人がどう表現しようが自由なので、そんなことに文句は言わないのだ。
* * *
ネズミ関係の作業をキャシーとメイに継続的に任せることにして、テリー以外は解散してそれぞれの席へと戻った。
「それで、最適運行経路は算出したのね?」
「はい、幾つか候補はありますが、概ねこういう感じで移動すれば
海賊の航路から離れて星系を網羅できます。」
テリーは制御台で、さきほどキャシーがしたように、
せり出したコンソールを操作して、NE314159アスパラギン星系の
航路図を立体的に表示した。
「ふんふん、全て(星系内構造物を)把握できるのにこれだと
それぞれ何日かかりそう?」
「最短で5日、最長で2週間です。」
「ふぅん、敵性種《HS》は?」
「不確定要素が多くて予測がつきませんが…。」
「概算でいいわ。」
「最短航路ですと1度か2度、最長経路ですと20回ほどになりそうです。」
「うーん、辺境とはいえ多いわねー。」
「既に対処しているだけで、この星系に到着してから十数回あるんですよ?」
「それはコッペパンに聞いたけれども…」 (※ データを見たという意味)
「海賊たちが対処した分はそのうち5件あるようです。」
「被害は?」
「単体小規模襲来のようで、被害はないようです。」
「司令室には?」
「海賊の分を除いてですが、データを回してあります。」
「んー、最長経路のほうが海賊の影響が低そうね。」
「はい、その分遠回りですが。」
「いいわ、ちょっとまだ情報がいろいろ足りないからできるだけ集めて
おきたいし、遠回りのほうが敵性種《HS》の脅威もこちらで対処できる分、
海賊さんたちも助かるでしょうし、星系の人的被害もへるわよね。」
「そうですね。」
「協定って言ってたわね?、海賊同士の戦闘ってないのよね?」
「今のところは。」
「なら、最長経路に若干の修正を加えて10日で回るようにしましょうか。
この経路で……ここでこっちにこうして。」
「なるほど、了解です。」
「じゃ、それで練り直して司令部を誘導するように、
適当にでっちあげておいて。いつぐらいになりそう?」
「お昼前には回せます。」
「そう、じゃ、おねがいね。」
「はい!」
* * *
自席に戻るテリーを見て、制御台をクリアした少佐は、左右斜め後ろに立ち控えていたステラとリリィをみて、いま気づいたように、
「あら?、ずっとそこに立っていたの?」
「「はい」」
「席に座ってていいのに…。何か飲む?」
「いえ、あ、入れてきましょうか?」
「あたしがやりますっ、メイドですからっ」
「ああ、メイドだったわね、じゃ、食塩いりのトマト野菜ジュースでお願い。」
「はいぃ」
リリィがもってきた食塩いりのトマト野菜ジュースを例によってストローで「ちゅー」と美味しそうに飲みながら、
「あれ?2人は飲まないの?」
「今はいいです。」 「だいじょうぶですぅ」
「そう?、官舎のはワリカンだけど、ここのは戦技情報室につくからタダよ?
タダ。自由に飲んでいいのよ?」
タダだからって理由もいかがなものか。
ちなみに司令部近辺にあるドリンクサーバーの分は、司令部につく。
食堂にあるのは、お茶と水はサービスで、それ以外は操作した人の個人端末で判別されて個人につく。他人の端末をもって操作したらその他人のについてしまう。それを利用して、『奢り』といって端末を渡し、操作してもらってまとめて運んでもらったりできる。
こっそり他人のを、なんて悪いことしてもすぐバレるし、立件されたら職を失うどころじゃない重罪になるので、そんなことをする人は軍には居ない。(居たら軍から居なくなる)
食堂の出入りは個人端末がないと扉が開かないし、食券の購入もできない。
なので、端末の貸し借りをしてもちゃんと返してもらっていないと出られなくなったり、通報されて駐留軍警備部がすっとんできたりする。キビシイのだ。
総務部にあるのは総務部につくが、カウンターの内側で奥の応接コーナーの近くなので、そこまで総務部以外のメンバーが足を運んで使うことはほとんどないと言っていい。
このように各部署にあるものは、他の部署の人が使いづらい位置に設置されていることが多いので、インチキするのにはちょっと度胸が必要かもしれない。
話を戻して、アルミナ少佐らの話。
「ありがとうございます、飲みたくなったら頂きます。」
「そう。リリィ少尉は今何か飲みたそうな顔をしてるけど?」
そう言われたリリィはちらっとステラのほうを見たが、
例によって「(キッ)」と睨まれたので首を少しすくめた。
「だいじょうぶです…」
「そう。」
少佐は興味なさそうに室長席を正面に向け、「ちゅー」と飲みつつ、片手で制御台をちゃっちゃか操作し始めた。
十数分だろうか、そうして制御台で何やらウィンドウを出したり消したりデータをいじったりいろいろと作業していたが、ぱっとウィンドウを全て消し、やおら立ち上がると、
「ちょっと出かけるわ、ついてきてもいいけど?」
「「はい、お供します(ぅ)。」」
「んじゃ副艦長室で靴、履き替えるわ。」
と言って扉へと歩いて行った。
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20150211---- 一部の語尾を修正しました。