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司令棟1階にある一般食堂で、遅めの夕食をとったアルミナ少佐とその補佐官2人、ヴィクス中尉とリリィ少尉は、
「やっぱりラップライフ系列のごはんは美味しいわねー」
「ラップライフ系列?」
「うん、宙域基地や艦艇の食堂に、今や無くてはならないと言われる給食サプライヤーよ。」
無くてはならないと言っているのは主にアルミナ少佐なのだが。
もちろん宙域基地や艦艇で、ラップライフ系列の食堂が入っているところではもれなく評判もよく、それまでの給食サプライヤーや食堂会社を駆逐する勢いで兵士たちの嘆願が寄せられていたりする。一度ここの系列の食堂を利用したりドリンクサーバーを利用していた者がよそへ行くと、転属願を出したり、ひどい者だと脱走した者までいたらしい。ほんの1年たらずの間に、だ。とんでもないことだ。
「へー」 「そうでしたか。不勉強でした。」
「地上にいたなら知らなくても不思議じゃないわ。
カーディナル《中央》でなら地上でも有名になってるけど。」
「確かに、
ここに赴任してから食堂での食事が結構楽しみだったりします。
美味しいですからね。」
「士官学校の食堂とはえらい違いですよぅ」
「むふふ、そうでしょー」
そこでどうして少佐が得意げにしているのかは、補佐官の2人にはわからなかった。
詳細は割愛するが、数年前にアルミナ少尉(当時)が、カーディナル《中央》で一部の教育機関や一般企業などで食堂を経営していたラップライフサプライ(株)に目をつけ、経営の専門家たちを巻き込んでシステムのテコ入れを行い、「美味しくて満足の行く食事を!」ということでまず第43兵器開発局に食堂を開設。それまでにあった食堂を駆逐してカーディナルにある軍施設全てに食い込み、この5年ほどで幾つかの星系にまで進出してしまった、今や大サプライヤー会社なのだ。
そういったような事や補佐官らの近況や部下たちの様子などを適当に会話しながら、カツカレーやエビフライカレーやハンバーグ定食を食べた。
食後のお茶を食堂備え付けのドリンクサーバーからリリィ少尉がまとめて作ってもってきたのを飲んで食後の安息をしていると、ふいに思いついたように少佐が片方の袖をまくって端末を操作しはじめた。
「わ、なんですかそれ、かっこいい♪」
「ん、前にキャシーのところと共同開発したときの試作品よ」
「そんな端末を装備されてたんですか…」
「私物よ、私物。軍のじゃないわ。あ、あったわ。あたしの荷物。」
「あ…、そういえば…」
荷物と言われて気づいたヴィクス。
そういえばショルダーバッグだけを地上車のトランクから出しただけだったということを思い出したようだ。上司の荷物のことをすっかり忘れていたヴィクスは、やや申し訳なさそうに、
「どこにありました?、まさか地上車のトランクのままでは…?」
「ううん、大きい旅行ケース2つは司令棟の正面玄関わきに放置されてるようね。」
「放置……;」
「小さいケースは地上車のトランクに入ったままだわ。
第二駐車場に停めてあるわね。023番の場所。
ということで官舎に帰らないとだし、荷物を回収して帰りましょうか。」
「わ、私が回収してきます!」(ガタッ)
少し良心が咎めたのか、素早く立って走っていったヴィクス。
「あー、片方は室長室、じゃなくて副艦長室だっけ、のほうなんだけどー、
って足早いわねあのひと。」
「あたしが追いかけます!」(ガタッ)
「オレンジっぽい色のほうが室長室ね。お願い。
あたしはそこ(中庭)のベンチにいるから。
ついでにロックたちにもう帰るって言っておいて。あとやっとくから。」
と、少佐が早口で告げると、リリィは
「はい!」
と言うや否やタカタッターと走って行った。
――食堂は走っちゃダメなのよ?
もう遅い。
* * *
3人分のトレイや食器類をそれぞれの返却口に返し、中庭のほうに出れる食堂の出入り口を出て、通路沿いにベンチに向かう。
座ってからもしばらく腕の端末を操作しつつ、時折、「ふぅん…」とか、「おー」とか呟いていたが、そのうち袖を元に戻して、軽く伸びをし、ショルダーバッグから黒い樹脂のケースをだし、ぱちんと開いた。
中にあったのは特に変わったようには見えないオカリナだ。
夜空(が投影されている)の下で、中庭のベンチちかくの街灯に照らされ、オカリナを何曲か吹いていると、誰かが近づいてくる気配がした。
ガルさんだ。このオカリナはガルさんの作品だ。
* * *
ガルゴ・ボガラムと、アルミナ少佐とはときどき間が空いたりはしているが、5年来のお付き合いである。
といってももちろん男女としてではない。
それはそうだ。当時12・3の少女と34・5歳のがっちり体型がそんなことになったら誰がどうみたって親子か犯罪かの何れかだ。
研究者仲間として、と思っているのは少佐のほうで、ガルゴのほうは恩師かそれに相当する人物として尊敬の念をもっているので、奇妙なバランスの付き合いなのだ。
* * *
【5年前】
当時、彼女が第43兵器開発局の研究チームに編入して、まず最初に手がけたのは、
ガルゴ・ボガラムの所属する第41兵器開発局との共同開発、つまり素材の革新だった。
当時彼の所属する研究チームは、あまり芳しい成果が出せず、いや、チームだけではない。41局全体で、素材研究の分野で他の素材開発局(30~39局)の遠くなる背中を見るのみであった。
41という番号が振られた、素材局(30~39と41をひっくるめてこう呼ばれる)のなかでは一番あとに設けられた彼等は、比較的若い人材の占める割合の多い開発局である。
その中でもガルゴらのチームは、既存の理論を応用し重力制御を駆使した新素材の開発、をテーマに研究を進めていた。
いや、進まなかったのだ。
* * *
最初に彼女を紹介されたときは、一体何の冗談かと思ったものだ。
43局が数年前から画期的な研究成果を出し続け、その地位はいまや確固たるものになっていた。その43局の技術提供による共同開発をもちかけられたとき、局内の騒ぎたるや今思えば恥ずかしいやら情けないやらという様相だった。
軍から公開され学会に提出された基礎理論は難解で、実証され一部は実用化されたものの、その理論を応用したり利用したりすることは43局の協力なしにはいくつかの理由で不可能だった。
それがまさかこんなうだつの上がらない、下から数えたほうが早い41局に協力してくれようというのだ。皆のうかれようもわからないではない。
そして43局から紹介されたのが彼女、アルミナ・アユその人だった。
経歴は資料で見た。その実物がこんな少女だとは――確かに年齢なども記載されていたが――、そのギャップに驚いた。
しかも43局に入ったばかりだという。
さらに元43局長補で、現宇宙軍本部技術開発統括部長の娘だとか。
つまりお偉いさんのお嬢様だ。
年齢からしてこんなところにやってきているのだ、飛び級とかそういう類だろう。
当然、さぞかし優秀なのだろうとは思う。
元43局長補アルミナ・ハヤトといえば、数年前からの43局快進撃の立役者だ。
僕だって知ってる。論文は、内容はともかく、研究者ではその名を知らないものはモグリか何かだろう。
研究員たちの中には、優秀な親の薫陶よろしく優秀なお嬢様が、親の古巣に七光りで保護されたんだろう、なんていう者もいたくらいだ。あるいは、そこまで酷く思わないにせよ、親の威光の影響を疑わないものは居なかった。
初顔合わせということで会議室で紹介され、そのまま僕のチームで面倒を見ろと言われた。
「うちのチームで、ですか。」
「不満かね?」
「いいえ。了解しました。」
「では研究室などを案内してやってくれたまえ。」
紹介の間ずっと、いつになくごきげんな様子がちらほら見え隠れしていた局長が、反応のあまりよくない僕の言葉に少し語調を強めて命令した。
僕はどんより曇った心で不承不承うなづくと彼女を誘導し、案内を始めた。
歩調が合わないのか時々とたとたと小走りになりながら、僕の案内に不平を言わず付いてくる。今思えばすこし歩調を緩めるなりしてもバチはあたらなかったと思う。
研究室棟から、工廠、さらに工廠脇の制御室兼実験室にチームの皆を集め、彼女を紹介した。やはりというか想像通りというか、あまり皆の反応はよくなかったが、彼女は始終やわらかく微笑んでいた。
一通り挨拶が済み、皆がめいめいの作業に戻ろうかという間際に、彼女が僕に、
「ガルゴ・ボガラムチーフ、ガルさんとお呼びしますね。どうぞ、これを。」
と、1つのデータスティックを手渡したのだ。
「これは?」
「43局のキモとなる資料です。内容は見て頂ければわかると思います。」
その少女から手渡されたデータスティックには、基礎理論の解説だけでなく、素材分野への応用理論、それらを利用した加工技術展開、などが幾つもの資料にわけられ、整然と収められていた。
僕は急いで皆を呼び止め、部屋にある複数の端末でその資料が閲覧できるように設定した。
「ち、チーフ!、こりゃすごいですよ!」
「これを使えば私たちの研究が完成しちゃいますよ!」
「完成なんてもんじゃないぜ?、おい、革命レベルだぜ!?」
「こ、こ、こっちの資料に、こ、小型炉が……」
「試験データも…って、43局って凄まじいわね……」
「43局じゃなく、あの子が凄いんじゃないのか?」
「「……」」
研究員たちの視線を全く気にした様子もなく、その少女はいつの間にか、チームの研究主題で使っていた炉をぺちぺちと触ったり制御盤をいじったりしていた。
ときどき、「ふぅん…」とか、「おー」とか言っていたようにも思えたが、皆、彼女が提供したデータスティックの資料に釘づけで、彼女の行動を気にする余裕などなかったのだ。
そのうち研究員の誰かが、彼女に資料について質問や説明を求め始め、我さきにと彼女の前に列をなし、彼女がそれを順番にさくさくと捌くようになると、もう誰も彼女の年齢や見かけに惑わされることなく、まるで尊敬する先生か教授にでも教えを乞うかのようになっていった。
その彼女は、数日ほど41局に居座り、僕も含めて皆にあれこれ尋ねられたり世話をやかれたりと、マスコット的な扱いをされていたが、あるとき、
「そろそろあれ解体して窯つくるんでしょ?」
「いえ、窯でなく炉ですよ」
「どっちでもいいのよそんなの。造るんでしょ?」
「ええ、まぁ…」
「じゃ、オカリナね。」
「オカリナですか…?」
「どうせテストで何か作らなくちゃいけないんだし、
土くれや金属の塊を焼いてもしょうがないでしょ?
それともお茶碗か湯呑でも作るつもりだったの?」
「ええ、はい、そのうち…、とは考えていました。」
「そういえば、ガルさんて陶芸が趣味なんですってね。」
「はい」
「オカリナ作ってよ。これで。」
「はい? い、いえ僕、私は楽器は全く……」
「じゃ、やってみたら?」
「は、はぁ…、…やっぱり他のものにしませんか?」
「あたしが欲しいのよ。オカリナを。
別に凝ったものを要求してるんじゃないのよ。標準的なのでいいの。
古代からあるようなそんなふつーのオカリナよ。」
かくして試作品にオカリナを作ることになったのだった。
彼女は元の炉を解体し始めてからは他の用事があるとかで来なくはなったが、皆も丁度忙しくなってきたところなので、少々さびしくはあるが、そういうものかと思って気にはしていなかった。
* * *
幾度も失敗し、そのたびに窯の調整をした。
研究員たちも皆、自宅に帰るのも惜しんで没頭した。
なにせ新技術で新素材だ、成功したらなどと考えるまでもなく、皆、楽しくて仕方がないのだ。少しオカリナに詳しくはなったが、それも楽しみのひとつになっていた。
内部構造や組成の検査をパスし、ようやくまともと言えるものができたのはそれから三ヶ月ほど経った頃だった。
その日の昼過ぎに現れたアルミナ少尉(待遇)は41局内を我が物顔でつかつかと、自然に道をあけていく少しやつれた風体に達成感と喜びをごっちゃにした研究員たちの間を、割るように歩いてきた。
「思ったより早かったわね。」
「は?」
「なんでもないわ。そう、できたのね。」
データのまとめられた端末を渡すと、手慣れた様子でパラパラとウィンドウを展開し、あれこれと端末をしばらく操作していたが、
「音響解析から重力波動の影響もちゃんと取ってるようだし……、
うん、合格ね。これならもう次に何がきても応用できるでしょう?」
と言うとこちらを見上げた。
一瞬、どういう意味かと考える間もなく、
「んじゃ、次はこれをお願いね。明日からでいいわ。期待してるんだから♪」
とデータスティックを手渡すと、踵を返して鼻歌まじりで帰って……行こうとして駆け足で戻ってきた。
「そうそう、できたオカリナって、これよね?」
「は、はい、そうですが」
「もらって行くわね♪」
「…ど、どうぞ」
呆気にとられる僕たち研究員の視線もなんのその、楽しそうに、まるでスキップするかのような鼻歌まじりの歩調で、さっさと行ってしまった。
「もってっちゃいましたね。」
「ああ」
「いいんですか?」
「あんなに楽しそうに言われてしまっては、断れるもんじゃないさ。」
「めちゃくちゃ嬉しそうでしたね。」
「それより、これだよ……」
「ちょっと怖いかも」
「だよなぁ、一体何をさせられるのかと思うと、な」
「でも楽しみかもー」
「チーフ、早く中身を!」
「そうだな、んー……うおっ」
「「げっ!」」
「ちょっとこっちにも権限ください!」
「あ、ああ」
皆が驚くのも無理はない、本当にそんなことが可能なのか?、とすら思えるような夢の素材が僕たちの手のすぐ届くようなところにあると記されているようなものだ。
「なるほどなぁ、あの窯をこんな風に使えばいいのかー、すげーな…」
「窯じゃなくて炉だってば」
「どっちでもいいんだって、アユちゃんはそう言ってたぜ?」
「よくあんなひとに『ちゃん』付けできるわね」
「お前だって最初はそう呼んでたじゃねーか」
「もうムリ。だって遠すぎるもの、もう恐れ多くて足向けて眠れないわ、
『ちゃん』付けなんてとてもとても。」
「そんなことよりおい、これ艦外殻に艦構造骨格だぜ!?」
「こっちはワイヤーケーブルだってさ」
「ひゃぁぁ、ワープ機関構造材ぃぃ!?」
「こ、こここれ、重力波動機関……」
「ちょ、超軍事機密の塊じゃないですか…43局ってこんなに…!」
「やっべぇ、マジかこれ、こんなの本当にオレらでできんのか!?」
「…できると期待したからこそ、我々に託したのではないでしょうか」
「そうだよ、やろうぜみんな」
「オレらだけじゃできねーぜ?こんなの」
「他のチームの手を止めさせてでもやらなくちゃ!」
「ちょ、ちょっとチーフたち呼んでくる!」
「いえ、明日からって言われましたし、今日は休息をとりましょう」
「こんなの見せられて、のんびり休めるかい!」
「そうだそうだ!」 「そうよ!」
「「チーフ!」」
「上に相談しましょう、炉をあといくつかつくらなくてはいけませんし。」
「よっしゃぁ!」
「そのあたりを目算したら、各自自由に休息すること。いいですね。」
「「はい!」」
士気があるのはいいことなのだが、なんなのだろう、この気持ち。この雰囲気。
僕の知る限りこんなに充実した、充実…そうか、充実しているのだ。皆が。僕が。
それから僕らはその日のうちに計画をまとめ、局内会議を提唱し、翌日には局内全体がこの活気に包まれたのだった。
僕らのチームは、他のチーム全てに分かれて補佐をすることとなり、それと並行して各チームから選抜された研究員が僕のところで試験や実験を行いつつ、各所に建設予定の炉の素材を産み出し、加工すべく動き回っていた。もちろん炉は連日フル稼働だった。
そして41局内に大型の炉と加工設備が完成し、艦の部材が毎日のように作られるようになると、他の局からも問い合わせがひっきりなしに舞い込み、41局は他の素材局を押しのけて素材局の代表的存在になってしまっていた。
* * *
【8ヶ月前:41局内ガルゴの自室】
「気づいたらすんげーことになっちまったよなー、ガルさんよー」
「そうですね、あれよあれよと言う間に、増員に景色まで変わってしまいました。」
「んでよ、どーすんの?」
「お受けしようかと思っています。」
「マジで?新型コロニー艦の技術部門の主任だろ?、オレも呼ばれてんだけどよー、正直どうなんだってよ、金だってそんなにイイってわけじゃねーしなー」
「お金云々じゃないんですよ。」
薄くわらって彼、フィリメール・ロッカースのほうを見ると、こちらを見もせずにテーブルに頬杖をつき、もう片方の手で彼の持参した鶏のから揚げをフォークで皿から取り、面白くなさそうにつまんでくりくり傾け、それを見ながら、
「重役待遇や取締役って声もかかってんだぜ?、ガラじゃねーけどよ」
「そういう声なら僕のところにも来てますね。」
「っだろー?ガルさんならそれこそウッハウハな生活ができんじゃねーの?
重役とか似合そうだしさ。」
「だから、お金云々じゃないんですよ。」
「あーあ、お嬢もあと半年したら抜けるって言うしよー。
まだ今はおもしれーんだけどなー、半年したらつまんなく
なっちまうのかーって思うとよー。
…って、なんだよガルさんさっきからニヤニヤと。」
やっとこちらを見たロックは、僕の不敵な笑みに気づいたらしい。
僕は持っていたグラスを置くと、すこしだけ身を乗り出すように、テーブルに腕を置き、やや小声で話しかけた。
「見ました?、そのコロニー艦の仕様。」
「仕様?、住人募集してるあれだろ?、見た見た。」
「いえ、そうではなく、機密扱いのほう。」
「え!?なんかあんのあれ?」
「これは推測、いえ、もう確信なんですが…、
あれはただの移動型密閉式小規模コロニーじゃないですよ。」
「んじゃなんだってのよ?、軍艦だとでもいいてぇの?」
「はい、あれはまさに軍艦ですよ」
「……マジか、いや、でもあれ武器ねーぞ?、
もしこっそり付けてたら住民が暴動おこすぜ?」
「このあいだ、そっち(43局)で第二衛星上の工廠周辺を破壊したでしょう?」
「破壊、ってなぁ、半壊っつってくれよ、まぁ、壊したのは壊したんだけどよ」
「それで今、第二系外基地で大規模実験するとかなんとか、根回ししてますよね?」
「さすがガルさん、詳しいなー」
「戦艦ミズイリに搭載されているあれ以上のものがそのコロニー艦に
搭載される可能性があります。」
「げ!?、マジかー、ちくしょー、オレもあっちやりたかったぜー;、
いやそれはいい。いやよくねーけどよ。
ってことはコロニー艦ってとんでもねーんじゃねーの?」
「でしょうね。次の大規模実験が成功したら、最強クラスの軍艦でしょう。」
「……最強か、すげーな…」
「そしてそのコロニー艦は、最初の建造艦ということで、」
「最初っつーとあれか」
「ええ。中尉が大好きな『最初の1つ』です。」
「おおおお…」
「なら、」
「「中尉(お嬢)が乗艦しないわけがない(ねぇ)」」
「うおぉ、マジかー、乾杯しようぜ乾杯!、
あ、そうだテリーも呼ぼうぜ、
あいつにも声かかってっかもしれねーけど、連絡つくかな」
「ははは、元気がでてきましたね」
「ったりめーじゃねーか!、
おお、いたいた、テリー!時間あるだろ、なかったら作ってガルさんちな!
今すぐこいって!え?、女だぁ?、そんなもんそこに捨ててこいや!、
え?、すげーんだよ、お嬢がよー、
いいから来いって!来たら話す。じゃぁな!すぐ来いよ!」(プチ)
「あいかわらず強引ですね」
小一時間ほどしてやってきたテリーを加えた3人で、夜が明けるまで飲みつつ今後の計画を話し合ったのだった。
* * *
【D8608型駆逐艦 アイトーカ市駐留軍司令棟 中庭】
司令棟の食堂でかなり時間のズレた夕食を摂り、トレイや食器を返却して戻ろうとすると、ふと、どこかで聞いたような音が聞こえた。
中庭のほうをみると、近くの街灯に照らされたベンチにアルミナ少佐が座ってオカリナを奏でているのが見えた。
そう、あのオカリナだ。ところどころどこか微妙に音のズレたあのオカリナだ。
僕は食堂の中庭側の出入り口からでて、中庭の通路に従って斜め後ろから少佐のほうへと歩いていった。
「少佐、まだそれを持っておられたんですか。」
「当然よ、これは記念品だもの。」
彼女は演奏を止め、こちらを見もせずに遠くを見るように顔を上げ、答えた。
「記念品?」
「そう、これはガルさんらのチームとで作った、
最初の『奏でるもの』だもの。」
そう言うと彼女ゆっくりとこちらを向いて微笑んだ。
「少佐……」
「『奏でるもの』そう、重力波動圧縮理論によって奏でられた
あらゆる新素材の魁、それがこれ。
ガルさんの作品よ?、」
「そんな…、大げさなものでは…。
それに僕だけの成果ではありませんよ。」
「いいえ、これはあなたの成果なのよ。誇りなさい。」
「ありがとうございます……」
「だからね、多少音がズレてようが、
楽器としての出来なんてどうでもいいのよ。味よ、味。」
そう言って彼女はにっこりほほえんだ。
そして正面を向くと、また彼の知らない、だが耳ざわりのいい曲を吹きはじめた。
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20150211---- 一部の語尾を修正しました。




