2-10
2-10
「各自、もうだいたいすること分かってると思うけれども、
一応、状況のすり合わせの意味でも時間とることにしたわ。」
「「はい!」」
翌朝。参加可能な者らだけでもと戦闘技術情報室での打ち合わせだ。
というのは交代で何人か仮眠室で休んでいるからだ。デンとスミス、キューとミャー、スティとリュウの6名が艦載輸送艦で出ているが、通信維持で参加している。
「まずラスタラ地上ね。キューとミャーに動いてもらってるのは、
ムツミネとナツメグのひとたちを地上基地に降ろしてもらうためなの。
現地ではスティとリュウが積んでる艦載機でフォロー。いいかしら?」
『「はい!」』
「スティとリュウは地上基地で警備会社希望の人たちから適当に選抜して
ムツミネやナツメグさんたちを警護するように。」
『「はい!」』
「昨夜送られてきた名簿あるわね?」
『はい、あります。』
「軽くでいいから見ておいてね。スティは大丈夫?」
『はい!、頑張ります!』
「うん。テリーとトムはこのあとホラ市の倉庫の兵隊さんたちを拾って、
役所のほうをお願いね。」
「「はい!」」
「以上がテリーチームとして何かあったらテリーに連絡。いい?」
「『はい!』」
「ガルさんはこっちで引き続きベルト1の監視と分析の続きを。」
「はい。」
「ロックは、そう詰まらなさそうな顔しないで市長対策の続きね。」
「あーい」
「メイも議員とネズミのほう、それとちょっと気になるのでアイトーカ市の
警備体制をチェックしてみてもらえるかな?」
「はい。気になるというのは?」
「駐留軍の一部と警備協力してるでしょ?、今。」
「はい。」
「無いとは思うのだけれど、タイミングが同じだったのが気になるのよ。」
「はぁ…」
「ネズミが単なる連絡員で、そちらから情報が入ったってことならまだ
わかるのよ。でもそうじゃなかったら?」
「あ、駐留軍のほうから、ですか。」
「うん、あまり考えたくはないのだけれど…」
「それで引き揚げてきた艦載輸送艦をコッペパンに入れなかったんですか。」
「うん、それだけが理由じゃないけれど、万が一ってあるでしょ?」
「デンが『きいてねーよ!』って怒ってましたよ、ふふっ」
「えっ?、ロック?」
「あー済まねぇ、説明し忘れてたんだ。」
「もぅ…、デン?、スミス?、ごめんね?」
『いエそんナ、大丈夫でスよ。』
『(うっはごめんねキタ━━━(゜∀゜)━━━!!)』
「中佐の指定が収監設備付だったんで、うっかりしてたけどわかるだろ、
って思ってよぉ、そのまますっかり忘れちまってたんだ。」
「しょうがないわねぇ、で、ラップライフの手配は?」
「連絡はしといた。でも食糧の輸送はいいんだが人は回せないってさ、
中佐のほうでどうにかするだろうと思って無理には頼んでねぇ。」
「あれっ?、それじゃデンとスミスは何食べてたの?」
『積んでアった非常用のを食べてマスよ。』
「あらー、ひどいわねー、」
『ドリンクサーバーがあるだけまし…』
「テリー、バラクーダが戻ってくるの今日だっけ?」
「はい、昼前ぐらいになるかと。」
「どうせまるごと積みこむんだし、艦載機の補給が終わったら2人は
ホテルのほうで食事していいわ。頼んでおくね。」
『ありガとうゴざいます。』
『ありがとうございます。』
「収監したひとたち、まだ起こしてないんでしょ?」
『はイ、まだ寝てます。』
「んじゃパック食でいいわね。配膳と警備で20名ほど連れていくわ。
デンとスミスはその人たちの指示をお願い。」
『「はい!」』
「それでメイのほうはちょっとややこしいかも知れないけれど、
駐留軍に送られてるひとたちも調べておいて欲しいのよ。
余裕があったらでいいから。」
「わかりました。」
「あとは…、と。リリィは今日は演習あるんだっけ?」
「はいぃ、このあとすぐです。」
「研修生たちも一緒よね?」
「「はいっ!」」
「午後からこっちの訓練室使うならリリィに見てもらってね。何かあったら
ロックかガルさんに言うか、室長室からあたしに連絡してね。」
「「はい!」」
「ステラさんとキャシーはベンデルマンさんたちを迎えに行ってね。
あたしはカンイチくんで待ってるわ。」
「「はい。」」
「さ、んじゃ一気に片付けちゃいましょうか!」
「「はい!」」
* * *
ラスタラ地上、とくにメルキ市とホラ市は工業と商業が発達している街だ。
だが経済や金融がちゃんとしているわけではないというアンバランスな状態で、そこにスネア系企業が付けこんで甘い汁を吸っていたという訳である。
であるのでスネア系企業がごっそり停止すると、メルキ市とホラ市の経済が破綻しかねないのだ。
スネア系企業を経営していた上層部をごっそり捕えてすぐに入れ替わるようにすることも可能ではあったが、それをしなかったのには少しばかり理由がある。
スネア系企業や役所には、逮捕者のリストを渡してある。
リストにはどういった理由でというのも記載されていたので、この隙にと実権を握って甘い汁を吸おうと画策する者、何もかも放り出して逃げ出そうとする者、こういった者らをあぶりだそうというのがその理由のひとつだ。
状況を把握してなんとか支えようとするような気骨のある者や、上がどうなろうが取引先との仕事や契約を守ろうと動く者が居れば、管理職として抜擢しよう、という意図もある。
様子を見ようという者もいるだろう。そういった者のうちには強かで狡猾な悪人も混じっているかもしれない。だがそういう者は状況が不利と見れば身をひそめてしばらくは大人しくするだろう。
たった1日あけただけだが、そこで明暗がつけられることになる。
何も悪事を働いた者らを根絶しようというのではないし、あまり間をあけてしまうと混乱を収拾するのにも手間と時間がかかってしまうのだ。
それに地上基地のほうもあるので、1日あけるというのはあれこれ都合を考えた上での微妙なバランスをとったとも言えるのかも知れない。
本来なら会社資産没収、関与していた役員らの資産も没収して、そこから被害者救済や従業員の補償措置をとるのだが、関連企業もあり企業自体がラスタラ地上世界に与える影響も大きいというのもあって、こういう措置をとることにしたわけだ。
株式相場などの経済機構がろくに機能していないラスタラ地上世界であるので、このような普通に考えたら無茶苦茶なこともできるのだろう。
* * *
第四惑星リスーマから連れてきて研修中だった、元海賊ラゴニアのリスーマ支部改めパラギニア・リスーマ警備社予定のひとたちから警備員・配膳係として20名を連れ、デンとスミスが乗る艦載輸送艦に移した。
彼らには宇宙軍規定のバイト代を出すことになっている。それに通信で引き続き研修中の勉強はできる。
デンとスミスはその艦載輸送艦がバラクーダに積載されたら戦闘技術情報室に帰還するが、20名の彼らはそのままカーディナルへ収監した者らの面倒をみるために随行する。
カーディナルでは半日ほど自由時間があるので、お小遣い程度のバイト代だが楽しんでもらえればいいと思う。
それに、カーディナルで1泊帰りに1泊と、ホテル・バラクーダで計2泊することになる。
この条件を話した途端、希望者が殺到したらしい。研修所として使用している収容所の警備員が苦笑いして話していた。
そして中佐たちの乗るカンイチくんは第三惑星ラスタラのメルキ市上空に居る。
操縦席からキャシーがベンデルマンに尋ねた。
「ベンデルマンさん?、どのあたりなんですか?」
「え?、あー、えーっとこれはどうすりゃいいんだ?」
「もうベルト外していいですよ。」
「ん?、あれ、こうかな?、おお、外れた。」
「それでこっちきて地図を指で、」
「んー、あれ?」
「どうしてそっちに回るんですかー、そっちは裏ですよー?」
「おお、そうか、すまん。こっち側の外れなんだがな。」
「はい、どうぞ?」
キャシーが地図をスライドさせた。
「おお。ああここだ。ここの集団になってるのがそうなんだが。」
「そこだと降りる場所が…」
「ここの空いてる所は、だめか?」
「降りられるけど、隠蔽が厳しいかも…」
「う~ん…」
「中佐ぁー!、どうしましょーう?!」
「んー、ちょっとまっててー!」
「はーい!」
あまりぎりぎりのところに着陸すると、周囲の建物が隠蔽範囲に入ってしまうので、微妙に違和感があるようになり兼ねないのだ。
中佐は少し作業があると言って隣の部屋で何かしていたので大きな声で呼んだわけだ。
1分ほどで中佐が操縦室に戻ってきた。
「どうしたの?」
「降りる場所がないんですよー」
「東のほうに森の空地みたいなとこなかった?」
「えーっと、あ、んー、でもここって3kmぐらい離れてますよ?」
「大丈夫よ、車積んできたから。」
「そういうことなら。」
そして森のすきまのような空地に器用に着陸した。
「さすがキャシー。いい腕ね。」
「そんな、褒めないで下さいよ。」
「いや謙遜しなくてもいい。少ししか訓練を受けてないが俺でもすごい腕
だと分かる。しかし本当にすごいな、君といいこの艦載機といい…」
「カンイチくん?、下のハッチ開けて。」
『はいよ~』
「んじゃ行きましょうか。キャシーはお留守番ね。」
「はーい。」
そうして倉庫から中佐・ステラ・ベンデルマンの乗った車がカンイチくんのハッチから森に出ようとしたところで一旦停止した。
近くに草の葉に覆われた小山が見える。一部錆びた金属っぽい表面が見えていた。
ベンデルマンはそれを見て軽く溜息をついた。
「あれじゃぁなぁ…」
「小型揚陸艦ね。何年放置されてたの?」
「3年ぐらい…いやもっと…か…、こんなになってたとは…」
「つる植物ね。他にもあるみたいよ?、前に調査したのよ。
埋もれてるから見た目じゃわからないようだけど。」
「動かせる状態にない、ってのはこういう事だったんだなぁ…」
「このあたりも結構深いわね、相当長い事誰も来てないみたいね。」
「こんな車でここを走れるのか?」
「心配ないわよ。浮くんだから。」
「なにっ?」
返事を待たずに中佐が操作した。
3人の乗った車はハッチからそのまま真っすぐに、草の上を滑るように進んでいく。
「空行車ってのぁこんな風に飛ぶのか…」
「これは空行車じゃないわよ。噴射口が無いもの。」
車は地上1mぐらいの高さで浮いたまま、すぅっという感じで進んでいる。
ベンデルマンもそう詳しくは知らないのか、何かいいかけようとしている表情のまま固まっている。
車が出たあと、後方ではカンイチくんのハッチが静かに閉まって行く。誰も見ていないが。カンイチくんは着陸といっても草の上に浮いた状態を保っている。草に沈んでしまうと中佐たちが出づらいからだろう。
「こんな車あったんですか…」
「新製品のプロトタイプよ。調査団のひとたち連れてくるついでに、
カーディナルから持ってきてもらったのよ。」
「そうだったんですか…、そういえばこれ前回使いませんでしたよね?」
「いまいち使い勝手よくないので調整中だったのよ。」
「中佐どの、運転できたんだな。」
「操縦と言って欲しいわね。できるわよ?。免許はないけどね。」
「おい…」
「大丈夫よ、これぐらい。艦載機に比べれば簡単だもの。」
「だからいつも運転なさらなかったんですか…」
「だってコロニー内は免許がないとダメでしょ?」
「そうですね。」
「でもここなら問題ないし、それにこの車、あなたたち操縦できない
でしょ?」
「そりゃまぁそうだが…」
「ええ…、ハンドルぐらいしか同じじゃないですよね、これ。」
「でも簡単だからすぐできるわよ。」
「そうなのか?、ハンドルはいいとしてもレバー3本に操作パネルが
見えるんだが…」
「足元にペダルが5つあるけど、ちょっと多いだけでしょ?」
「「……」」
「ちょっと、2人とも、そんなに脚をじろじろ見ないでよ。」
「足を見ていたわけでは…」 「すまん…」
プロトタイプなので余計な機能がいろいろとついているのだ。それに通常なら思考結晶で調整するような部分まで、マニュアルで操作できるのでどうしても操作系は複雑になってしまうのは仕方ない。
こうして話をしながら木々を避けてすいすい浮いて進んでいる。中佐はなんでもないように操縦していて、簡単そうに見えるから困る。
フロントガラスにはモニタのようにあれこれ数値などの表示があり、それだけでもステラからすればうんざりするぐらいのものだ。
集落が見えるぐらいの距離になり、地上車が走れる幅の道に出たので地上を走らせる。集落と言ってもベンデルマンたちが出て行く前には住んでいた所である。数百人規模の木造建築がひしめいている町のようなものだ。都市計画なんてあったものではないので見通しは悪い。櫓のような建造物も見える。
集落の門のような木造のアーチの手前で停車し、それぞれドアを開けて地面に降り立った。
ベンデルマンが先導する形でアーチをくぐった。
「連絡はしたんでしょ?」
「ああ。呼びだしてみる。」
「ここには何人ぐらいいたの?」
「全部で300人ちょいいたはずなんだ。」
「それにしてはさびれてる感じがするわね。」
「ああ、俺だ。到着した。そうか、わかった。そっちへ向かう。
この先の倉庫に集まってるんだそうだ。歩くか?」
「じゃ、乗って行きましょうか。」
「ああ、頼む。」
車に戻って乗り込む。地図を表示させてベンデルマンに確認する。
「倉庫ってこれ?」
「だだっ広い集会所のようなもんだ。」
「ふぅん…、結構距離あるわね。道も狭いし曲がりくねってるし。」
「こっちは裏なんだ。表のほうからだと通りやすいんだがな。」
「中佐、この表示されてるのは…」
「うん。こちらを覗ってるひとが表示されてるのよ。
赤いのは武器と判断されているものを持っているひと。」
「警戒されてるってことですか。」
「そりゃあ見慣れない車が来たなら警戒ぐらいするでしょう。」
「大丈夫なんでしょうか?」
「ベンデルマンさん次第ね。ああステラ中尉、武器は置いていってね。」
「ですが中佐…」
「ダメよ。武器もってるのがわかったら余計に警戒されるでしょ。」
「…わかりました。」
「なんなら俺だけで行くが?」
「大丈夫よ。どうやらお年寄りと女性と子供しか居ないみたいだから。」
「やはりそうなのか…、聞いてはいたんだが…」
「どうしてわかるんです?」
「そっちにグラフが出てるでしょ、発見したひとの推定年齢と性別よ。」
「そんなことまで分かるのか…」
「何のためにこれに乗ってきたと思ってるのよ…、ここでいいのよね?
着いたわよ。キャシー、カンイチくん、頼むわね。」
『はい。』 『任しといてんか~』
「繋がってたんですか…」
「当たり前でしょ。さ、行きましょ。」
先程と同じく、ベンデルマンを先頭にしてその倉庫の扉に近づいていく。
扉といっても細い枝を組んだような中が透けて見える扉だ。
中からこちらを確認したのだろう、物騒な銃を抱え持った恰幅のいい女性がその扉を押して出てきた。
取っ手がないところからすると内外どちら側にも押せば開く、いわゆるスイングドアと呼ばれるタイプの扉だろう。
「後ろの2人はそこで止まれ。」
「この人たちは、」 「いいわ。待ってる。」
遮った中佐にベンデルマンは振り向いて頷くと、扉のほうへ向き直ってその女性に近づいた。
「スバジーは?」
「奥にいるよ。」
短いやりとりをしてベンデルマンは扉を押して入った。
「(ステラさん、もうちょっと離れて)」
「(はい、何かあるんですか?)」
「(近いと暑いのよ)」
「(は?)」
「(そっちが風上なのよ)」
「おい!、何をこそこそ喋ってる!」
「何でもないわ。そんなに警戒しなくてもいいじゃない?、
武器なんて持ってないのだから。」
「とにかく大人しくしてろ!」
仕方なく黙って佇む2人だった。
* * *
「ひぃ、はぁ、こりゃ、きついぜ…」
「学校のより、厳しいよ…はぁ、はぁ…」
「なんで、メイド服の、ままなんだ…?」
「というか、なんで、あんなに、動けるの…?」
「おいこらそこ!、追加されたいのか?!」
「「いいえ!」」
「喋りたいなら黙って喋れ!」
「「はい!」」
きついと言いながらも一般兵のほとんどに紛れてついていけては居る。金属の多い部品のついたプロテクターを装備しおもりを背負い鉄かぶとをかぶり、おまけに疑似銃をかついで走っているのが士官学校より重くてきついのだ。
リリィは狙撃兵なのでプロテクターが小さいが、その分おもりと銃が重い。そして障害物のあるコースを走っている。上級者コースだ。
研修生の彼ら4人は一般兵たちと障害物のないコースを走っている。彼らが見たのはコースが並んでいる部分に差し掛かったときに、リリィたち上級者がその平行しているが障害物のあるコースをずんずんと追い抜いて行ったところだ。
上級者たちのなかでひとり小柄でしかもメイド服だからとても目立つ。ついでにメイド服と装備がアンバランスなのだから尚更目立つ。
黙って喋れ、というのはどうすればいいのか分からないが、とにかく喋るなということだろうと、黙々と走ったのだった。
実際の装備であればプロテクターは繊維製で軽くて丈夫なものであり、銃も小さめで軽い。鉄かぶとも繊維製だ。だからこれほどの重量で走るということはない。
だがこれは訓練なので、実際のものよりかなり重くしてある。
最初に装備をつけて走り、装備を外して整理体操をし、一旦休憩。
そして上級者たちがそれぞれのチームに付き、順番に訓練設備を巡って動きの指導をすることになる。もちろん教官もあちこちに居て指導する。
そしてなぜかリリィにはかならず教官がついている。
研修生4名にとって不幸なのは、リリィが彼らのチームに付くことだ。
同じ戦闘技術情報室に所属しているということで、リリィが彼らにつくのは仕方がないだろう。だがそうすると、もれなく教官もセットで付いてくるのだから彼らにとってみればたまらない。
リリィの口調はいつものあのまんまだし説明が壊滅的に下手なので、教官がついているというのは指導をうける彼らにとってはむしろいいことだったりする。
指導が始まってしばらくして彼らもそれに気づいた。
リリィは説明に困ると、まるで助けを呼ぶかのような表情で教官を見るのだ。そして教官がやれやれという表情で補足説明をしたり指導補佐をしたりする。なるほど犬っぽい。そして教官がつくわけだと彼らも納得した。
これでどうしてホロの訓練であんな抜群の成績を叩きだせるのか、彼らは不思議だったが、リリィは感覚的に動きを識っているのであって、理論的に動きを理解しているわけではないのだからこういうことになる。
それでも座学の試験では成績がいいのだ。おそらくそれは問題が選択式だからであって、論文形式で答える問題であれば成績は悪かったかもしれない。
そんなこんなで、リリィの付き添った研修生4名の初めての訓練が終わった。
* * *
「すまん。俺の力不足で…」
「気にしないわ。もともとあまり期待してなかったもの。」
集落が見えなくなる距離までは地面をのろのろ走る。その車内でベンデルマンが済まなさそうに頭をさげた。もしかすると中佐が交渉していたなら状況が変わっていたかもしれないとベンデルマンは思っていたようだが、それは買いかぶり過ぎというものだろう。
この集落は元海賊ラゴニアのラスタラ上での活動拠点だったのだが、ベンデルマンたちが宙域や第四惑星リスーマで活動するときに意見の食い違いから喧嘩別れのような状態になってしまったのだそうだ。
『ラゴニア』という名前はこの集落の通称名でもある。最初に開拓したときのリーダーの名前だそうだ。便宜上中佐たちはここを『元海賊ラゴニア ラスタラ支部』と呼んでいるが、どちらかというとここが本部だろう。
ベンデルマンたちはその後、宙域で護衛や調査などで稼いだ資金や、リスーマで地道な土木作業や採掘などをして稼いだ資金でこの集落を支援したりしていたのもあって、断絶状態ではなくなっていた。しかしやはり働き手を多く連れ去ったというのもあり、ベンデルマンたちにいい印象をもっていない住人のほうが多い。
ベンデルマンが宙域からこのラスタラ支部(本部)に連絡を取った際、宇宙軍に協力して会社組織になると伝えたが猛反発されたのもそういう背景があったからだろう。
さらに軍といえばこの土地の者からすると、スネアに染まった地上基地を指す。それはもう軍服で訪れた中佐らもうかつだったのだろうが、彼らからすると過去に離反して抜けたベンデルマンが裏切って軍人を連れてきた、というように思われても仕方がない。
「あたしが交渉したとしても、そのスバジーってひとはいい返事を
くれなかったでしょうね。」
「スバジーじゃなく、スバって名前の爺さんなんだ。だからスバ爺なんだ。」
「あ、そうだったの。それでどうするの?、支援続けるんでしょ?」
「いや。支援も断られたさ。軍からの金は受け取らねえってよ。」
「ふぅん…」
「うまく伝えられなかった。俺が至らないばかりに…」
「自給自足でやっていけるようには見えなかったわね…」
「…基地や街のほうに出て行った連中が仕送りしてくるようになるんだとよ。」
「それって結局、宇宙軍の支援じゃないの。最初だけなのだけれど。」
「そう、だな…」
か細い声で返事をするベンデルマン。すっかり俯いてしまっている。
中佐はベンデルマンのほうを上体ごと向いて、慰めるように言う。
「まぁ、残念だったわね。」
「ああ。」
「こちらとしても少しは労働力として考えてたところもあったのよ。
でも無いなら無いで構わないわ。」
「ああ…。」
「でもね、あなたたちだって他を支援してる余裕なんてないはずよ?、
むしろ断られて良かったんじゃないの?」
「中佐、それはあんまりでは…」
「いや、ヴィクス中尉、大丈夫だ。ありがとう。ここは一応は俺達の
故郷のようなものだと思っていたんだがな…」
「あのね、あなたたちが故郷に錦を飾れるぐらいかどうかなんて、
そのスバって人だって分かってるんじゃないかな?」
「…!」
ベンデルマンは驚いたように俯いていた顔を上げた。
「だってそんなツナギのまま来てるのだもの。余裕があるようには
とても見えないわよ。そんな人から支援だのなんだの言われたら、
素直に首を縦には振れないわ。」
「なるほど、そういう事ですか。」
「……そ…」
「あの集落の様子からして、支援の話なんて喉から手が出るほど欲しいはず
でしょ?、それを断るのだからあのスバってひとも大した御仁だわ。」
「そういう意味だったのか…」
「ただの推測よ。でもね、ベンデルマンさん。」
「…ん」
改めて名前を呼ばれたので中佐に視線を合わせるベンデルマン。
「あの集落は今でもあなたたちの故郷よ。一部恨んでる人も居るかも
知れないけれども、少なくともスバってひとはあなたたちの事を
考えて申し出を断ったのだと思うわ。」
「…そうだな、ありがとう。」
「事業が軌道にのって、きっちり儲けがでるようになったら、
もう一度話をもちかけることね。そのご老人が生きてるうちに。」
「ああ、わかった。励みにするよ。皆にも伝えよう。」
中佐はそう言ったベンデルマンを見て、微笑んで頷いた。
「ところで中佐、」
「なぁに?」
「ちゃんと前を向いて運転して下さいよ…」
「何よいまごろ。ちゃんと自動運転になってるでしょ?」
「えっ、いつの間に…」
「だからもう浮いて走ってるじゃないの。」
「そういえば揺れが…」
「あたしだって操縦するときはちゃんと前方を見るわよ。」
「済みません…」
* * *
室長室のデスクの上に浮いている留守番コッペパン、略して留守パンは、とくにアルミナ中佐が指示した場合を除き、彼女が戦技情報室を出ると現れ、戻ると消える。
入室に制限をかけていないので、司令棟地下に降りられる者なら誰でも入ることができる。だが戦技情報室側に入室制限があるし、廊下側から入るにしても2棟から地下への赤い扉のエレベーターは高セキュリティ設定なのでそちら側からは戦技情報室に所属する者でないと入れない。
結果的に、戦技情報室に入れる者でないと入れないということになっている。
アルミナ中佐は軽い気持ちで便利だろうと留守パンを作ったが、こういったものは昔からある。それは軍として軍艦としてでは前代未聞であるが、一般的な留守番マスコットであり店番マスコットや高級車の見張り番マスコットなどが普及している星系もある。それらはもう少し擬人化されていて、顔がついて喋っても違和感がないものだ。
もちろん、留守パンのように艦の巨大な思考結晶が動作を担っているものなどどこにもありはしないが。
「なんだ、イリ…研修生だっけか?、どした?妙な顔して。」
ドリンクサーバーで温かい飲み物を作ったらしいロックが、室長室から妙な表情をして出てきたイリ研修生に声をかけた。
「あ、ロック主任。」
「主任付けなくていいぜ。で、どした?」
「室長室のデスク上に浮くパン、一体なんですかあれは。」
「ん?、ありゃぁ留守パンだな。」
「留守パン?」
「この艦の思考結晶の名前がコッペパンなんだよ、だからパン。
留守番するマスコットだから留守パンだってさ。」
「な、なるほど…」
「それで、中佐に用事だったのか?」
「あ、はい、ちょっと見積り作業のことで、ハマーノン先輩に
おききしたら、中佐にきいてと言われたので…」
「リリィ少尉はそっち方面さっぱりだからしょうがねぇよ。
俺で良ければ聞くが、テリーもトムもいねぇしなー、俺で分かるかな…」
「あ、中佐に連絡がとれたので解決しました。」
「そっか。んじゃどうして小首かしげてたんだ?」
* * *
「ってことがあってね、室長室に入ったらデスクの上にパンが浮いてたわ。」
「ああ、前に直談判したときに見たアレか。」
「そうそう、あのパン。」
「そのパンがくるっと回転してさ( ゜-゜ )漫画みたいな顔で
こっち向いて『何か御用でしょうか?』って言うんだもん、
びっくりしたわ。」
「あれ留守番マスコットだよね?」
「なんだそりゃ」
「え?知らない?、店番だったり深夜監視だったりするマスコット人工知能。」
「そんなのあんのか。」
「うん、ロック主任にきいたらそういうのがあるんだって。
そんで留守番するパンだから留守パンって。」
「留守パンかー、面白えことするな、中佐って。」
「中佐が作ったらしいよ。」
「へー、んでイリはそれからどうしたんだ?」
「あ、うん。中佐に連絡をとってもらったら、パンから小さな手と
受話器が出て中佐と通話してからこっちに回してくれたんだけど、
もうびっくりするやらシュールというか笑いを堪えるやらだったわ。」
「受話器って普通にこう構えたの?」
「うん」
「やっぱりパンだけに耳ぐらいあるのかな。」
「くっだらねぇ、あっはは」
「「あはは」」
「ロックさんが言うには、中佐流の冗談なんだってさ。面白いね。」
「そういやキャシーさんも言ってたっけな、
中佐は大真面目で冗談みたいなことをするクセがある、って。
これもそういうのなんだろうな。」
「戦技って中佐のそういう雰囲気もあって堅苦しくないのがいいわ。」
「ああ。」
「そうだな」
「そうだね」
「あたし、配属希望ここにしようかなー」
「でもここってきっと他よりきっついぜ?」
「それがいいんじゃないの。」
「イリ、お前マゾだったのか…」
「そういうんじゃないって。」
「冗談だって。ハマーノン先輩を見てたらここがどれだけ恵まれてる所か
ぐらいわかるさ。」
「ハマーノン先輩といやぁこないだの居眠りはいろんな意味で凄かったな。」
「中佐も笑ってたね。」
「ヴィクス中尉が見たら叱るんだろうけどな。」
「マイコの恋も冷めたろ?、あんなの見ちゃったら。」
「だからそんなのじゃないって、…(可愛かったけど…)」
「ちょっと、マジなの?!」
「お前あれ見て可愛いとかスゲーな。」
「いや、だからそんなのじゃいんだってば、子供の頃に飼ってた犬に
似てるっていうか…」
「先輩を犬呼ばわりか、あっははは」
「そうじゃなくて、あんな感じの寝相だったんだよ。
ソファーとかクッションで仰向きにぐでーっとさ。」
「あははは、でも分かる気がする、中佐に呼ばれたときの先輩なんて
尻尾があったらちぎれるぐらい振ってるんじゃないかって表情だもん。」
「そうそう、そんな感じそんな感じ。」
「なるほど、言われてみりゃメイド先輩、犬みてーだな。」
「みんな、だめだってそんなこと言っちゃ;」
「マイコが言い出したんじゃねーか。」
「そうかもしれないけど;」
さすがに犬にメイド服を着せたりはしていなかったが、ハマーノン先輩を見ているとその犬に雰囲気がそっくりな所が時々あるので懐かしい感じがするのだ。
名前も『リリィ』だったなんてこれはとても言えないな、とマイケルは思った。
* * *
カンイチくんに帰還した中佐たち3名が操縦室に戻ってきた。
「おかえりなさい。」
「ただいま、キャシー。何かあった?」
「いいえ、何もなくて退屈でした。」
「そう、お留守番ご苦労さま。」
「ふふっ、それでそちらはどうでした?」
「収穫なし、ってところね。ベンデルマンさんは精神的に収穫があった
みたいだけれども。」
「え?、ああ、そうだな。」
「何か雰囲気が出る前と違いますね。」
「いろいろ思う所もある年頃なのよ。そおっとしておいてあげて。」
「はーい。じゃ、次は地上基地のほうですね。」
「うん、ん?、あ、ちょっとまって通信きたの。」
「はい?」
「ああ、とりあえず出発していいわ。隠蔽状態で基地上空待機で。」
そう言って中佐は隣の部屋へと小走りで移動した。
「はい、じゃあ、んんっ。
カンイチくん発進!」
『あいよ~』
「えへへ、これ言ってみたかったんだー」
-------------------------------------------------
少し間があいてしまいました。
お読みくださってありがとうございます。




