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2-09


2-09



 戦闘技術情報室に戻った中佐ら一行は、一旦現状を整理しようと主任ら5名と補佐官2名の計8名で打ち合わせをした。

 状況は艦載機とコッペパンが情報連結しているので知ることはできるが、こういう機会があれば軽く話し合って考えを擦り合わせておくことは必要だという方針なのである。


 まずロックが報告した。


 この艦がただのコロニーではなく新型試験運用の小型コロニーだということは募集時から知らされており、それが素晴らしいものだと宣伝されていた。

 だがそれが戦闘艦だということは一応軍の機密であるので、企業の上層部など、一部市民には知っているものも居るが、ほとんどの人々は、移動可能の小型コロニーとしか認識していない。

 議員たちにも知っている者とそうでない者がおり、市長は過去に地上で都市長を経験した者が抜擢された一般人であるので、このことを知らなかった。


 そこで市長らは、アイトーカ市の各所でビラを配りながら街頭演説をし、それと並行してネット上でも市政サイトを利用して檄を飛ばした(※)のだ。

 (※ 檄を飛ばす:自分の主張や考えを広く人々に知らせて、同意を求めること。)


 それは曰く、

  『当アイトーカ市コロニー艦は、軍の最新鋭の戦闘艦である。』

  『軍はこの事を隠して市民を危険に晒している。』

  『先日、アイトーカ駐留軍は不当にターミナルビルを包囲占拠したが、その理由を明確に市民には説明しなかった。』

  『市民の知らない間に何度も戦闘が行われている。』

  『我々は軍に、市民が知るべきである事柄を正しく公開するよう要求する。』

  『軍の秘密主義に対して立ち向かい、我々の正当な権利を回復しようではありませんか!』

 というようなものであった。


 ちなみに『ビラ』と呼んではいるが、紙媒体や景品を添えて配るようなものはカーディナルでは禁止されている。アイトーカ市はカーディナル準拠であるので当然、禁止である。

 ではどういうものかというと、街頭演説の広報員つまり『ビラ』を配る人がいて個人端末に文書を転送するための装置を持っており、近くの人の個人端末に『ビラ』を送りつけるというわけだ。

 相手の同意がなくても転送していいのか?、と疑問を持たれることだろう。

 なので市町村あるいは管区の軍組織または警察組織に事前許可を得なくてはならず、広報員は目立つ、決められた色の肩掛けや帽子などを着用することが義務付けられている。

 市長らは今回はアイトーカ警備本部の許可を得ているというわけだ。


 通常、個人端末同士であれば情報の転送には双方の同意が必要となる。同意なく送ろうというのだから、その地域担当の思考結晶が制御する必要がある。転送装置は地域の思考結晶の許可によって作動するので上記団体の許可がないと転送できない仕組みなのだ。

 内容についても事前に提出されたものと異なっていれば転送されないし、事前検査は過去の事例から相当に厳しいものになっているので不特定多数に悪さをするようなことはできない。


 個人端末に送られた『ビラ』は、読まずに破棄することもできる。最初から受け取らないように設定することもできる。

 それに、例えば今回のように複数個所で同じものを配っているという場合、同じものを何度も受け取ることはないが、もらって内容を確認せずに破棄する際には次回同じものが転送されてきた時に受け取るかどうかを設定できる。

 いろいろとややこしいかも知れないが、昔からそういうものだし皆は慣れたものなのだ。



 中佐たちは、市長らの主張について具体的な内容までは予想していなかったが、これまでの街頭演説などによってある程度の推測はできていた。

 これに対しては、かねてから市民らの注意を他に向けるという策を用意していた。

 それが別層にかねてから準備していて公開時期を調整中だった、テーマパークであり球形遊泳施設なのだ。さらに他にもいくつか用意していた。


 ロックはそれらを、市長らが動き始める前に公開したのだ。

 それが効果を呈しているのか、今のところは市長らの騒ぎに対して、あまり市民らが影響された様子ではないということだった。


 中佐は特に指示しなかったが、ロックらは市長らの主張に対して、過去この艦や艦載機で戦闘したときの映像を編集し、解説つきでネット上に置いてアイトーカ市掲示板からリンクして見られるようにしておいたのだった。

 もちろん公開しても差し支えのない部分を選別してである。

 敵性種《HS》の破壊や巣の殲滅、飛来してきた敵性種《HS》への対処などを主にしたものだ。

 海賊たちが無残に命を散らすところを見せるのは、それはそれで問題なのだから巧妙に避けているが、一部うまく抜粋されたものもある。


 これらのことを途中経過も含めて簡単に報告したのだった。


 次にガルさんが報告したのはアステロイドベルト1での短い顛末だった。



   *  *  *



 「バカかてめぇ、宇宙軍に敵対した者がどうなったか知らねぇのか!」

 「こんにゃろ!、敵対すんならどこか他所でやれ!ここでやるな!

  巻き添え食うのは俺達なんだぞ!」


 騒ぎを起こそうと爆発物を持ち込んだ連中はあっさり捕まった。

 単純に放火などをしようとした連中は周囲の人たちに袋叩きにされた。

 調査団に危害を加えようとした者らはあっさり撃退され、袋叩きにされた。

 宇宙軍に敵対しようと周囲を煽った者らは無視されるか、やはり袋叩きにされた。


 ベルト1の住人は今やほとんどがアスパラギン宙域開発事業団である。

 ここには宇宙軍に敵対しようだなんて考えるものは居なかったのだ。


 結果的に、ベルト1では騒ぎらしい騒ぎは起こらなかったということだ。



   *  *  *



 「とまぁそんな感じで、24名が送られてきまして、収容所で治療して

  います。」(ガル)

 「そうなるだろうとは思っていたけれども、思ってた以上ね。」(中佐)

 「ふふっ、容赦ないわねー」(メイ)

 「ちょっとやり過ぎなんじゃ…?」(キャ)

 「調査団が被害調査と補償を査定してるところで騒ぎを起こされては

  評価が下がってしまうかもしれませんし、調査団に何かあっては

  中断され兼ねません。彼らもちゃんと分かってるんですよ。」(ガル)

 「やり過ぎに見えるのは、今後そういう事のないようにっていう

  見せしめの部分もあるからでしょうね。」(テリ)

 「陽性だったのでしょ?」(中佐)

 「あ、はい。やはりそうでした。」(ガル)

 「え?」(キャ)

 「ポーションですよ。」(ガル)

 「だからやり過ぎるぐらい痛めつけないとダメなのよ。彼らもちゃんと

  わかってやってるのよ。」(中佐)

 「普通に痛めつける程度じゃ、すぐ復活しちまうかもしれねぇからな。

  どの程度やりゃいいか、ちゃんと知ってるってこった。」(ロッ)

 「そういうことだったんですか…」(キャ)

 「とにかく自浄作用が効いてて何よりだわ。」(中佐)

 「だな。艦長らが派遣した駐留軍より頼りにならぁ、ははは」(ロッ)

 「その駐留軍はこっちのことちゃんとやってるの?」(中佐)

 「今のところは何とも。

  市長らにそれぞれついてるみたいですけど。」(メイ)

 「マークは?」(中佐)

 「ついてます。」(メイ)

 「ならいいわ。じゃ、テリーお願い。」(中佐)

 「はい。ラスタラ地上ですが…、」(テリ)


 指名されたテリーが、今回のラスタラ地上の顛末、いやまだ収束に向かっただけで解決しきったわけではないのだが、かいつまんで報告した。



   *  *  *



 「01局のロボットかー、そういえば大変だったらしいぞ?、

  テームの工廠を半壊させたときに近くにあった01局の倉庫で

  いくつか被害があったってよー?」(ロッ)

 「ちゃんと事前に通達したじゃないの、相当前から半径1000km以内には

  入らないようにって。」(中佐)

 「そういうのもあって恨んでるんじゃねーのか?」(ロッ)

 「そんなの知らないわよ。大事なものは退避してねって言ってたのを

  無視したのが悪いわ。」(中佐)

 「でもなぁ…、あそこ聖地らしいからなぁ…」(ロッ)

 「何よ聖地って。」(中佐)

 「ロボットの聖地ですよ。」(ガル)

 「え?」(中佐)

 「ヒーローもののロボットなどの実物大レプリカや、

  そういった作品に登場した基地のセットや模型などが多数収められて

  いるらしいんです。」(ガル)

 「ああ聖地ってそれのことなの。

  それなら知ってるけど、テームに在ったのね。それは悪いことしたわね。

  でも、被害あったら言ってきてもいいじゃない?、

  何も言ってこなかったわよ?01局のひとたち。」(中佐)

 「そりゃなぁ、軍の倉庫でヒーローロボットの模型が壊れました、

  ってのは言えねぇんじゃねーか?」(ロッ)

 「金額に換算できるようなものでもありませんし…」(ガル)

 「じゃああたしにどうしろっていうのよ…、

  だいたい模型なら直せるんでしょ?」(中佐)

 「いや、そっちじゃなくてな、恨まれてるからもしかしたら送り込まれて

  きたんじゃねーかってな。」(ロッ)

 「それは無いでしょう。」(ガル)

 「うん、時期が合わないわ。あたしたちがアスパラギン星系(ここ)

  来ることになったのは今から8ヶ月ほど前のことよ?。

  あのロボットは1年以上前に01局から払い下げられたものでしょう?、

  マルキュロス経由だしスネアとの海賊繋がりでやってきたなら、

  そこに01局の意図は無いわ。」(中佐)

 「んじゃ偶然かー」(ロッ)

 「恨んでるってのはあるかもしれないけれども、あたしたちの邪魔をしても

  01局()の人たちにメリットはないはずよ。」(中佐)

 「今回のこと、やっぱり報告するんですよね?、中佐。」(ガル)

 「そりゃするわよ。あんなの隠蔽してどうするのよ?、

  バラしてリサイクルしろなんて言わないでよね?、

  カーディナルに送るんだから。」(中佐)

 「じゃーまた恨まれるぜ?」(ロッ)

 「何よ、あれもヒーローロボットだって言うんじゃないでしょうね?」(中佐)

 「そうじゃねーけど、あっさり無力化しちまったらしいじゃねーか?、

  作った連中からしてみりゃ、たまんねーと思うぜ?」(ロッ)

 「だったら報告に、倒すのに苦労しましたってウソ並べろって言うの?、

  そっちのほうが問題だわ。」(中佐)

 「そうは言わねーけどよー…」(ロッ)

 「報告書ですからね。映像だってそのまま記録されてますし…」(ガル)

 「そんなに報告書を書きたいならロックに任せてもいいのよ?」(中佐)

 「え!、いやそれは…、ごめんなさい。」(ロッ)

 「わかればいいのよ。それに恨まれるのはもう仕方ないわ。」(中佐)

 「そうですね、どうしようもありませんから。」(ガル)


 敵対してきた以上、速やかに無力化するのは当然であり義務である。それがなされたからといって敵対者が使った武装を造った者たちが恨むというのは筋違いな気もする。

 だがロックの言うように元々からこちらに良い感情を抱いていないのなら、それもまた恨む理由になるのだろうと思う。そんなことをいちいち気にしては居られないので、恨むなら仕方ないということだ。

 そういうのへの対処は軍本部で後方支援局の偉い椅子に座っているお父様に任せようと思う中佐だった。


 「あ、作ったひとってあの白衣着てたひとじゃないんですか?」(キャ)

 「そういえばあの白衣の男はメシマ博士でした。」(テリ)

 「ふぅん…、白衣の男ね、そんなのいたかしら?」(中佐)

 「えーっと、これですよ、昨年の記事ですが。」(テリ)

 「見覚えないわねー、んでこのひとがどうかしたの?」(中佐)

 「もう、ちゃんと捕まえた人のリストぐらい見て下さいよ中佐ぁ」(キャ)

 「え?、んじゃこのひとも捕まえたの?、じゃ下に居たの?

  01局の人なんでしょ?、どうして?」(中佐)

 「追放されて指名手配になっていたようなんですよ。」(テリ)

 「「えっ?」」(中佐・キャ)

 「あー、そういえばどこかで聞いた名前だと思ったら…」(メイ)

 「あ!、あー、あれか、巨大ロボ作って宣伝したら開発費がおかしいって

  01局内で調査入ってバレて追放されたって。やっと思い出したぜ」(ロッ)

 「へー…、それじゃお手柄じゃないの。」(中佐)


 さっきの恨むだのの話に加えて、01局の不祥事で指名手配したメシマ博士をアルミナ中佐のところで捕えたこと。これはおそらく01局としてはかなり複雑な気分になるんじゃないかと予想した中佐以外の面々は、やはり複雑な表情をして、それについて何とも思っていなさそうな暢気な発言をした中佐を、顔を見合わせてから見たのだった。


 「な、何よ?」(中佐)

 「いや別に…」(ロッ)

 「捕まえたのはあたしじゃないけれど、いいことじゃないの?」(中佐)

 「それはそうなんですが(けど)…」(ガル・キャ)

 「けど何よ?」(中佐)

 「01局としては複雑だろうなと…」(ガル)

 「うんうん」(キャ)

 「逃げた博士もロボも帰ってくるんだからいいじゃないの。」(中佐)

 「ところであんな大きいロボット、追放されたって話だけど

  どうやって逃げたんでしょうね?」(キャ)

 「ロボットが追放されたわけじゃないのだから、輸送途中で一緒に

  逃げたとかそんなのじゃないの?、気にしても仕方ないわよ?」(中佐)

 「でも、気になりません?」(キャ)

 「そんなのどうでもいいわ。

  あたしは明日からのこと考えるので精いっぱいよ。」(中佐)


 そう言うと席を立って、室長室へと入る中佐。

 主任ら5名はそれぞれを見て頷いたり妙な顔をしたりしてから、めいめいの作業へと戻るようだ。

 ステラとリリィはそれらを見送ってから、ホロルームの方に居る研修生らの様子を見に行こうと席を立った。



   *  *  *



 少し時間が前後するが、昨日の話。


 市長らの主張を街頭やメディアなどで知った市民たちは一時は騒然となった。

 だが、どこの植民惑星・コロニーよりも快適で養殖とはいえ合成食品ではない肉類に(もちろん合成もある)安全な農産物といった食の恩恵に商業施設や娯楽面の充実など、ひょっとすると惑星カーディナル上の都市よりも良いのではないかとすら思えるようなここの暮らしを知ってしまった多くの市民は、

 「本当に戦闘艦か?」

 「デマじゃないのか?」

 「戦闘艦だとしてもこんなに快適ならいいじゃないか」

 「不便だった元の場所なんぞには戻れない、戻りたくない」

 「試験運用なら戦闘艦だとしても無茶な戦闘はないだろう」

 「実績を積むためならこれ以上の快適さはないはず」

 という声があちこちで聞かれるようになると沈静化した。

   

 それでも騒ぐ者は他の市民に訴えかけたが、「現在の生活に別段不満もなく安定しているのになぜ騒動を起こすのか」、などといった、市長側に批判的な意見もあり、アイトーカ市のネット上ではあちこちで討論状態となった。


 市民たちのほとんどは他のコロニーのことなど情報でしか知らないはずなので、『他より快適』というのは言いすぎだろう。しかしその情報程度でも比べてみると歴然だったりする部分もあるし、移民してくる前に住んでいた所より遥かに便利で過ごしやすく、治安が良く安心して暮らすことができる、などの面もある。

 市民たちにとっては余計な騒ぎを起こして生活を乱されたくはないのだ。



 それに、市長らが行動を起こす前夜に、市民の関心を惹くあれやこれやの情報が怒涛のように公開されたのだから、それこそ余計な騒ぎを起こされるとそれらの催しや予定が中止となるかも知れない、と市民たちが思ってしまったのも当然の流れだった。


  「農業区では新たに南国フルーツの生産が軌道に乗ったことを

   お報せします!、農業区直営店でぜひご賞味下さい!」

  「季節の食材キャンペーン。美味しい新メニューはいかが?」

  「昨年度パルメニオン星系モーターショウで絶賛されブームを

   巻き起こした新型地上車が当コロニーでも販売されることに

   なりました!、予約キャンペーン中!試乗もできます。」

  「テーマパーク『すふぃあーず』近日開業!、プールもあるよ。」

  「球形プール『すふぃあ』近日開業!」

  「無重力球戯場完成記念!、企業や地域チームのリーグ戦を

   予定しています!、さらに参加希望チーム募集中!」

  「畜産区ふれあいもふもふ祭り開催!」


 これらの効果は抜群だった。

 コロニー市民らの関心はほとんどそれらに向いてしまったのだ。

 テーマパークの情報は少しずつ小出しにしていたこともあり、今回ネット上で詳細を公開したものだからその反響たるや凄まじいものだったらしい。

 農業区や畜産区も、テーマパークも、問い合わせ先に設定した企業がそれぞれ対応で大わらわとなってしまい、悲鳴を上げていた。



 そして市長らが動き出した数時間後に、軍部から発表があった。


 『現在は辺境星系アスパラギンに来ています。

  戦闘は敵性種《HS》や海賊と行いましたが速やかに対処しました。


  旧来、コロニーには防御のために警備隊や護衛艦を配備するものです。

  そして通常、コロニー本体に影響が及ぶような場合でない限り、

  軍部から戦闘に関しての発表は行いません。

  今回はあくまで特例であることをご理解下さい。


  ご覧いただければお分かりかと思いますが、当艦は安全です。』


 これに戦闘技術情報室で編集された記録映像の一部が簡単な戦闘解説つきで公開されたのだった。

 これを見た市民らは、


 「なんだ全然安全じゃないか」

 「攻撃ってどうやってるの?」 「わからんが防御は完璧だな」

 「余裕すぎる。新型艦最強」

 「海賊弱ぇ~」

 「敵性生命体ってどれ?」 「わからん」 「敵性種《HS》だろ?」

 「タグ付いてるけど見えない」 「あの遠くで光ってるの?」

 「見えるようになる前に撃退してるんだそうな」

 「マジか、捏造じゃないのか?」

 「何これ凄すぎ」

 「んでこのコロニーが戦闘してるって本当?」 「らしいよ?」

 「今までだってコロニーの外で警備隊が戦闘してたんだよな?」

 「ああ、昔そういうニュースあったな。」

 「市長がおおげさなんじゃない?」

 「揺れたりしなかったよな?」

 「全然気づかなかった」


 と、市長の主張もどこへやら、過去のコロニーでも外で戦闘があるのは普通の事だし、気づかない程度の戦闘が本当にあったのなら、どうでもいい、気にしなくてもいいだろう、という風潮になっていった。


 市長らは捏造《※ねつぞう》だと主張したが、映像に表示されている距離など幾つもの数値が、分析されたものと比較しても矛盾がなく、別の角度からの記録映像とも合致していたことが調査機関より発表されると黙るしかなかった。

 それに宇宙軍が戦闘に関して記録している映像を一部抜粋して公開することは、何もこれが初めてではなく、過去に多くの例が存在することでもあり、信用されやすいのである。


 もちろんこういった騒動の矢面に立たされることとなった艦長派の面々は、ひっきりなしにかかってくる問い合わせや取材申し込みに出演依頼などの対処に追われ多忙に多忙を重ねたのは言うまでもないことである。


 (※ 捏造:「ねつぞう」は慣用読みで、本来は「でつぞう」。でっち上げの語源。)


   *  *  *



 「なぁ知ってるか?、アル。」


 昼休み。学生食堂からの帰り、トリカイ・タイチローとアレックスが話しながら歩いているとクスノキ・リーデンノーツ(通称:リー)が追いついて話しかけてきた。


 「えっ?、何のこと?」

 「テーマパークに決まってんだろ、入場料住人半額らしいぜ?」

 「そうなんだ。」

 「なんだよサイト見てねぇのかよー」

 「見たけど気づかなかったよ。それで今プールの話してた。」

 「おおあの丸いプールな!、あれもすっげーな!」

 「どうやって泳ぐんだろうね?、って2人で言ってたとこ。」

 「わっかんねー、ははは、こうかな?、いや、こう?」

 「「あはは」」

 「何だよその手、あっはは」

 「表現しようと頑張ってんだって、」

 「何の踊りだよ、あはは、もっかいやってよ、あははは」


 そうやって3人で大笑いしながら教室に戻ってきた。

 席のほうではアレックスの後ろ、トルシェ・サティーナの席にハルサキ・カオリとコルマクラ・ジュン、そしてちゃっかりベスター・タックスの4人が集まって話している。


 「え?、お前らもう行ってきたの?、公開日まだ先だろ?」

 「うん、ご家族特別招待ってことでサティと行ったの。」

 「んで、どうだった?」

 「美味しかったけど、量が多くて…」

 「うん、美味しかったけど、しばらくフルーツはごちそうさまかな。」

 「コルマクラも行けばちょうど良かったんじゃね?」

 「そうかも…、ジュンも誘ったんだけどね。」

 「私も行きたかったんだけどうちの手伝いがあったんだもん…」

 「俺んとこみたいに店やってんなら分かるけど、コルマクラんとこで?」

 「会計事務所だよね?」

 「なんか今すっごく忙しいみたいで、学校みたいなところでいっぱい

  雑用させられたわ。そりゃあバイト代出たけどさ…」

 「会計事務所ってそんな仕事もあるのね。」

 「あっ、アル君たち戻ってきた。楽しそう。」

 「リーは何やってんだ?あれ」

 「変わったダンスね。」


 アレックスたち3人も気づいたようだ。トリカイは笑いすぎたのか涙目になっていた。

 「何の踊りだよそれ、ははは」

 「いや、これが水面で、こっちが人で、こうやって泳ぐのかなって」

 「球形プールの話?」

 「そうそう、だからその手、あっはは」

 「ひぃ、もうやめて、あははは、お腹痛い」

 「タイチ君大丈夫?、涙目になってるけど。」

 「笑いすぎ、でもおっかしい、あはは」

 「顔芸かっての、あはは」

 「いやほら、息継ぎするじゃん?」

 「手で表現してたんじゃないのかよ、はっはは」

 「何もそこまで頑張らなくっても…、ふふっ」

 「で、でも気にならない?、はー、久しぶりに大笑いした。」

 「そうね、潜ったらどうなるのかしら?」

 「何種類かあるみたいよ?、中まで水のとか、中は空気のとか」

 「それだとどっちが下になるの?」

 「んなもん、行ってみりゃわかんだろ?」

 「そうだけどさー…」

 「みんなで行こうぜ?」

 「えっ?」

 「でも水着…」

 「んなの学校指定のでいいじゃん」

 「そういう訳には行かないのよ。公開日までまだちょっとあるし、

  今日でも買いにいこ?」

 「「そうね」」

 「なーなー、どんなの買うの?」

 「それは当日のお楽しみってことで。ねー」

 「「ねー」」

 「ハモるなってば」

 「ねぇ、アル君はどんなのが好みなの?」

 「えっ?、似合ってればそれで…」

 「アルはお前らの水着なんてどうでもいいんだよ」

 「そ、そんなことないって」

 「ふぅん……?」

 「あ、そういえば中佐ちゃんからの返事、まだなのか?」

 「返事はすぐきたんだけど、今すぐは予定が立たないから

  少し待って欲しいって…」

 「それって脈無しってこと?」

 「でもすぐ返事きたのよね?」

 「脈無しってわけでもないのか。んじゃ中佐ちゃんも誘ってみたら?」

 「おおー、中佐ちゃんの水着姿見てぇ、痛てっ」

 「(バカかお前)」

 「どうかなぁ、お茶会のあとにしたほうが…」

 「お茶会のときにきいてみればいいんじゃない?」

 「うん、そうするよ…」

 「僕はもふもふ祭りも気になるかなー…」

 「あ、あたしも!」

 「羊とうさぎだっけ?」

 「メインはそうみたい。服とかも展示販売あるんだって。」

 「へー…、でもここって冬とか無いよね?」

 「低温区ってとこがあるらしいけど、居住区にはねーな。」

 「うん、だから冬服あってもね…」

 「旅行するときぐらい?」

 「旅行ってどこへ?」

 「うーん…?、どっか寒いとこ?」

 「タックんとこって冬用スポーツウェア扱ってる?」

 「いやー、どうだったかな、在庫はあるかもしんねーけど、

  店には置いてねーな。」

 「あれ?、スケート靴って置いてなかった?」

 「あー、あったかもしれん、あれも一応冬か。」

 「商店街チームは参加すんの?」

 「あー、無重力球戯場のやつ?、オヤジが張り切ってたな、そういえば。」

 「タックも出るの?」

 「いんや出ねえ。誘われたけどな。」

 「ベスター君ならやりそうなのに。」

 「だってよー、オヤジとか商店街の人らだぜ?、そんなとこに俺なんかが

  混じったらパシりやら何やらやらされるに決まってんだろ?」

 「あはは、それもそうね。」

 「でもすごいよね、ああいうのってコロニーの外とか特別に作った

  競技場にしかなかったのにね。」

 「そうだなー、一般的になっていくのかもしれないなー」


 彼らだけではなくアイトーカ市の住民たちの会話も、これと似たり寄ったりだった。このように住民たちの興味はイベントや新商品に向いてしまい、市長らの主張に耳を傾けるものはそれらに近しいものしか居なかったのだ。



   *  *  *



 ――ふぅ、これでだいたい片付いたかなー

   あとはそれぞれ頑張ってもらうとして…、と。


 室長室でムツミネなどあちこちに連絡し、書類を作って送り、それらを終えてひと段落といったところで背もたれに体を預け、伸びをするアルミナ中佐。


 ――何か飲むかな、あ、もうこんな時間じゃないの。食堂しまっちゃう。


 そう認識するとなんとなくお腹が空いた気になるから不思議だがそういうものなのだろう。デスク上をぱぱっと片付けると席を立つ。

 まさに室長室を出ようとしたとき、テリーが扉のすぐ外に居た。


 「わ」

 「あ、中佐。お出かけですか?」

 「ん?、晩ごはん食べようと思って。」

 「ああ、食事まだだったんですか。あとにしましょうか?」

 「長くなりそうなの?」

 「それほどでも。」

 「んじゃ今聞くわ。」

 「例の『山の民』の敵性種《HS》ですが、どうしましょう?」

 「あまり原住民の『御神体』をどうこうしたくないのよね…」

 「そうですね…、でもこのまま放置するわけにも…」

 「そう言いつつ何かやってそうね、テリー。」

 「過去の情報から何か無いかと探してはいるんですよ。

  でもあれ以上のものは見当たらなくて…」

 「研究所の位置が『山の民』の近くに建てられてるってのは、

  やっぱり関係があるって思わない?」

 「はい、まだ結果は出てませんが、持ち帰ったサンプルや

  研究所の思考結晶をガルさんのほうで分析にかけてもらってます。」

 「それと捕まえた研究所のひとたちを尋問したら何かわかるでしょう。

  それ以外はさっさとカーディナルに送ってしまいたいわね。」

 「わかりました。艦載輸送艦ごとバラクーダでいいんですよね?」

 「うん。いちいち載せ替えるのも面倒でしょ。」

 「で、『山の民』のほうは?」

 「経過観察中ってことにしましょう。中央への報告は伏せておいて。」

 「いいんですか?」

 「しかたないでしょう。とにかく市街側が落ち着いてからじゃないと、

  今、『山の民』たちを刺激してしまうと手が足りないわ。」

 「そうですね、わかりました。」

 「もうみんな食事済んじゃったのかな。」

 「と、思いますよ?」

 「ふぅん…」


 ――食事行くなら声ぐらいかけてくれたったいいのに…。


 テリーに軽く手をあげて食堂へ向かった。

 室長室にこもって作業していたのでおそらく気を遣ったのだろうと思うが、それはそれでなんとなく面白くない中佐だった。


 食堂に入り、あれこれ売り切れランプがついている券売機を見る。


 ――やっぱりこの時間じゃ、もうないかー…

   あれっ?、期間限定お茶漬けシリーズ?、こんなのあったの…

   でもまぁ、今日はこれかな。


 たしったしっとボタンを押して出てきた食券をとり、窓口に出して少し待つ。

 混んでる時間帯はある程度作ってあるが、もう今は空いているので待ち時間が少しある場合もある。

 トレイを持ってそこらの席に座ろうと見ると、奥のほうで研修生4人が居て、こちらに会釈したので頷き、目の前の席に座ろうとトレイを置いたら「中佐~」とイリ研修生が呼んだので、そちらへ行くことにした。


 ――物怖じしないのね。まぁいいけど…


 「どうしたの?」

 「せっかくなんですから一緒に食べましょうよ」

 「それはいいけれども、あなたたちもうほとんど食べ終わってるじゃないの。」

 「まあいいじゃないですか、ね?」

 「うん、まぁそう言うのなら。」


 アック研修生がすこし引きつった笑顔だったが、ここで離れるのもなんだか妙だし、しかたなく座った。


 「あ、それあたしと同じですよ。豆腐ハンバーグ。」

 「あ、僕もそうでした。」

 「そう。ここのはどれも美味しいでしょ。」

 「「はい」」

 「そうですねー、こっちに来るときのホテルも美味しかったんですが、

  ここのも遜色そんしょくないです。びっくりですよ。」

 「そりゃあ同じだもの。(いただきます)」

 「えっ?」

 「ラップライフサプライっていう会社なのよ、ここも、バラクーダも。」

 「バラクーダ?」

 「あなたたちがカーディナルから乗ってきた輸送艦よ。」

 「あ、そういえばそんな名前でした。あのホテル。」

 「作ってる人は違うけれども、食材の業者が同じなのよ。

  バラクーダのほうはホテルのコックさんだし、一部はあそこで栽培

  してる食材もあるから、だいぶ違うメニューもあったはずね。」

 「ホテルのディナーと食堂と比べちゃだめでしょ。」

 「そうだよなー、値段が全然違うんだし。」

 「中佐はそのバラクーダのホテル、何度か利用されたんですか?」

 「ん?、そうね。うん。何度か。」

 「へー、いいなぁ、また泊まりたいなぁ…」

 「そのうち機会もあるでしょ。」

 「ところで中佐、」

 「ん?」

 「俺達艦載機の訓練やり始めてますけど、実機を動かす機会って

  あるんでしょうか?」

 「あら、動かしてみたいの?、トオル研修生は。」

 「そりゃ…まぁ…」

 「トオルは必死すぎなんだよ」

 「いや、だってあれは燃えるだろ?」

 「アックだって今日必死だったよね。」

 「うん、ひとのこと言えないよあれは。」

 「そ、そうだったかな…」


 アックはちらちらと中佐こちらうかがっている。怖がられているのかもしれない雰囲気だ。どちらかというと彼の反応が普通なのではないのかな、と中佐はもぐもぐ食べながら会話を聞いていた。


 「わかった。お前俺に勝てねぇもんだから…」

 「お前ら先に訓練やってたろ?、勝てねぇのはしょうがねーだろ!」

 「ちょっとアック…」

 「あ…、済みません中佐。」

 「ん?、気にしないわよ?。続けて?」

 「そういえば訓練メニューなんですが、誰にきいても

   『中佐には敵わない』、『中佐が一番上手い』

  って言ってたんですよ。でも中佐の点数って載ってませんよね?」

 「ああ、だってあたしはテストのときさんざんやってるのよ?、それに、

  基本設計したのだから、どこをどうすれば点数がとれるか知ってるし、

  それであたしが点数低かったら情けないじゃない?」

 「作ったひとが上手いとは限らないんじゃ…」

 「艦載機に関してだと、操作パネルの配置から何から全部調整したのに

  それであたしが下手だったら滑稽じゃないの。」

 「えっ、艦載機って中佐の設計だったんですか?!」

 「もちろん全部じゃないけれども…。」

 「(すげぇ…)」

 「だからあたしのはランキングに載せないのよ。」

 「そうだったんですか…」

 「狙撃支援の基本編には中佐のスコアがありましたよ。」

 「あれっ?、そういえば消した覚えがないわ…、消さなくちゃ。」

 「そうだあれ難易度高すぎですよ、当たんねーのなんの。」

 「マイコがちょっと当てたぐらいよね、あたしたちでは。」

 「俺なんてかすりもしなかったよ…」

 「ハマーノン先輩が、『中佐のスコアが抜けない』って言ってました。」

 「あれの基本編は、命中ポイントが低く設定されてるからねー、

  当てる事よりも動きのほうを重視してるのよ。」

 「なるほど…」

 「だからちゃんと説明やアドバイスを聞いて、敵味方の動きを理解して

  狙撃支援ってのはどういうことなのかを学ぶのが基本編なのよ。」

 「学校で教わったのとは大違いでした。

  わかっているつもりでもなかなか動けなくて、アドバイス見て、

  ああ、なるほど、って…」

 「マイコはまだいいよ、俺達なんてひどいもんだぜ?」

 「仮に全部外したとしても、基本編なら生き残れるし味方の被害も

  ゼロにできるのよ?」

 「えっ?、そうなんですか?」

 「うん。だから被害があったってことは、どこか間違えてるってことね。」

 「うわー、やっぱ難易度たけーよー」

 「アック…。」

 「確かに艦載機や他のに比べると、厳しい面もあるかもしれないわね。」

 「狙撃支援ってそれだけ難しいってことなんですよね?」

 「うん、そう思ってくれていいわ。実際そんな役がそうすぐに

  あなたたちに割り振られるわけじゃないでしょうし。」

 「でもハマーノン先輩を見てると…」

 「あの子は特別なのよ。普段はあんなだけれど。マネできるような

  ものじゃないってことは知ってるでしょ?、同じ学校だったのなら。」

 「「はい」」 「そうですね」

 「あたしだって応用編以上だと、リリィにはとても敵わないわよ。

  あの子そういうところは迅速だし、全部きっちり当てるから。」

 「あ、それで艦載機ですけど…」

 「ああ、その話だったわね。んー、そうね、見積りが終わったら

  機会あげてもいいわ。」

 「ほ、ほんとですか!」

 「そんなに操縦したいのね。でもちゃんとやることやらないとダメよ?」

 「はい!」

 「他のひとも何か希望あったら考慮するわよ?」

 「えっ?、急に言われても…」

 「中佐、俺も操縦してみたいです。」

 「アック研修生もトオル研修生と同じね。いいわよ。2人は?」

 「今は特に…」

 「急に言われても…」

 「そう。考えておいて。(ごちそうさま)、じゃ、あたしは戻るわよ?」

 「「はい!」」

 「あ、中佐、片付けておきます。」

 「そう。ありがとう。」


 イリ研修生の気遣いに報いるように笑顔で返し、中佐はとことこと食堂を出て行った。なんとなくそれをしばらく目で追っていた4人だったが、中佐の姿が見えなくなると示し合わせたように動き始める。

 そしてあれこれ喋りながら少し声の響く食堂で、トレイを返却するなどの片付けをし始めた。


 時折、厨房の奥で食器洗浄機が音をたてる。

 それらを優しく包むようにBGMが静かに鳴っていた。


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