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2-08


2-08



 会議室を出たところで門番役から腰にさしていたアスパラマンソードを返してもらい、アルミナ中佐は廊下を「あれ?どっちだっけ?」などと言いながら歩いて行く。


 ――あれ?、門番のひとって2人居なかったっけ?、まあいいかー、

   次は警察組織とスネア系企業かー、もうテリーがやっちゃってたりして。

   ふふふ。


 などと暢気に歩いていると、階段を下りたところで数名の男が立ちはだかった。


 「宇宙軍のお嬢ちゃん、悪いんだけどここから先は通行止めなんだ。」


 中佐の前に出ようとした随伴員5名を両手で制して、


 「ふぅん、あたしを捕まえて人質にでもしようってこと?」

 「物分りがいいな。大人しくしていれば手荒なマネはしないさ。

  武器と個人端末をゆっくり捨てな。」

 「武器ってこれぐらいなのだけれど?」


 と、腰に差していたアスパラマンソードを外した。個人端末もホルダーから外して一緒にそおっと床に置いた。

 それを拾った別の男が、

 「なんだこりゃ、オモチャじゃねーか。わははは」

 「いいから早く連れて行け。」

 「はいよー」


 随伴員とは別室に通された中佐。部屋の中には見張りが1人ついた。


 ――スネア派企業の連中か、スネア残党の悪い方の連中かな、

   いい機会だからこれで一網打尽にできればいいのだけれど…。


 などと考えていたら、

 「それ…」

 「あ?、このオモチャか?」

 「うちの息子がアスパラマン大好きなんで。」

 「そっか、ほい。」

 「どうも。」

 「いいってこった、そんなもん。礼ならそこのお嬢ちゃんに言いな。」


 連れてきた男は軽い乗りでそう言うとアスパラマンソードを見張り役の男に渡し、鼻歌を歌うような足取りで部屋を出て行った。

 見張り役の男は渡されたアスパラマンソードを腰に差し、構えているわけではないが肩から提げた銃を斜め下に持ちつつ油断ならない目つきでこちらを見ていた。


 ――緊張してるみたいだし暴発されても困るから何か話しかけておくかなー


 「その剣、ホラ市の生活用品店でアスパラマンフェアやってたの。

  それで面白いから買ってみたの。」

 「ほ、ほう?」

 「アスパラマンって人気あるんですってねー。」

 「おう、そうだぜ、うちの息子も大ファンなんだ。これもらっていいん

  だよな?」

 「お子さんのお土産にするんでしょ?、いいわよ?」

 「そっか、返さねえぞ?、ほんとにいいんだな?」

 「いいわよ?、ところであたしはあまり詳しくないのだけれど、

  その剣ってどうつかうの?、アスパラマンは。」

 「ああ、これはな、ん、お前、逃げたりしねぇよな?、何かあると

  俺が怒られるんだ。逃げねえと誓うなら銃を置いて説明してやる。」

 「逃げないわ。だいたい銃なんて無くったって、逃げようとしたら

  捕まえられるでしょ?、腕力じゃ敵わないのだもの。」

 「それもそうだな。よし、じゃ、説明してやろう。」


 なんとなく嬉しそうに説明を始める見張りの男が面白くて、こちらも微笑んでふむふむと説明を聞いていた。


 ――もしかしてお子さんと一緒に夢中になってるのかもしれないわね。

   想像すると楽しい親子ね。ふふっ。


 「ええっと、こう?」

 「そうじゃねぇよ、貸して見ろ、『アスパラショックウェイブ!』

  こうだよ、こう。ほら、やってみな。」

 「なるほど、腕を最初に交差するのね?」

 「そうそう。」

 『ギュィーン、シャキーン!』

 「「!」」

 「おい!、何だ今の音は…!、アスパラクロスの音じゃねーか!、

  どこから鳴ったんだ!」

 「あ、もしかしたら…!」

 「もしかしたら?」

 「これかも?」


 中佐が袖をまくった下には、例のアスパラマンブレスレットがあった。

 音が出たのはこれのせいだろう。


 「うぉぉ、最近のは良く出来てるな!、ちょ、ちょっともっかいやってくれ!」

 「いいわよ?、こう?」

 『ギュィーン、シャキーン!』

 「おおおお、かっけー、いいなそれ。俺にはサイズが合わないだろうな…」

 「そうかも。あ、これって変身するときの音なのよね?」

 「そうなんだよ、同じように腕をこうやってクロスして、『変身!』って

  こう動く。その最初のポーズがその、アスパラクロスって言われてるんだ。」

 「こうかな?、『変身!』?」

 『ギュィーン、シャキーン!』

 「なんか違うな、その後が違うんだよ、こうやってー、こう!」

 「こうやってー、」

 『ギュィーン、シャキーン!』

 「こう?」

 「おしい!、シャキーンって音のタイミングに合わせてだなー」


 大盛り上がりである。



   *  *  *



 こうして中佐のほうは暢気に見張りの男と遊んでいたが、一方、それどころではないのがカンイチくんの操縦室で中佐らの動きを監視していたキャシーたちである。


 「ちょっとこれどういうことなの?」(キャ)

 『なんか中佐つかまってしもたみたいですわー』

 「「えええっ!」」

 「助けに行かなくちゃ!」(キャ)

 『ちょっちょっちょ、キャシーはん中佐は大人しゅう待っててって言うて

  はりませんでしたぁ?』

 「そんなの中佐が何事もなく帰って来れたらの話でしょ!」(キャ)

 『そやかてキャシーはん、ああ、あんさん中佐から装備もろてたん

  でしたなー、でも過信は禁物やぁて言われてまへんか?』

 「言われたけど、でも!」(キャ)

 『でも何ですのん?、指咥えて黙って見てられへんとでも言うのんと

  ちゃいまっしゃろな?』

 「じゃあみんなで助けに行きましょう!」(スティ)

 『いやいやいやいやそれはないわースティはん。』

 「どうしてよ?」(スティ)

 『キャシーはんは中佐から危険な装備もろてますねん、そやからまだ

  わかるんやけど、スティはんらそんなん持ってませんやん。

  モニタ見てわかるように外は銃構えてる連中がわんさか居ますねんで?

  そんなとこにスティはんら出したぁ言うたらわてがあとで中佐から

  どないな目ぇに遭わされるかわかりゃしまへん。』

 「じゃ、あたしは行っていいってことね!」(キャ)

 『そやから待ってぇな、ほんま勘弁したってぇなー』


 そこに何やら席で黙々と作業していたリュウが、

 「よし。助けに行く。」(リュ)

 『え、ちょま、リュウはんこそこそ何してまんねんなー』

 「武器、作ってた。」(リュ)


 リュウはすぐ外にあったアルミ合金製の柵を一部転送し、カンイチくんの倉庫でそれを操縦室から遠隔加工して2m程の金属棒をあっさりと作り上げ、ささっと行ってもってきたのだ。


 「わ、そんなことができるんですか。」(キュ)

 『非接触マニピュレーターの加工モードでんな、さらに重力制御で

  圧縮使うてまんな、見事な出来栄えや。なかなかこうはできまへんで。

  リュウはん器用でんな。』

 「それは、カンイチくんが補助してくれているから…」(リュ)

 『中佐がわてを最適化しはったからでっせ。わてだけの力やおまへん。』

 「珍しくカンイチくんが謙遜してる…」(キャ)

 『わてかて正直に言うことかてあるんですわ。、っていやいやいやいや、

  ちゃいまんがな、リュウはんもキャシーはんもちょっと落ち着きなはれや、

  2人でこの包囲突破できまへんて、お2人を危険なとこへ放り出して

  しもたらわてがあとで中佐にー』

 「一緒に謝ってあげるから。」(キャ)

 「うん、一緒に謝るから。」(リュ)

 『あー、どないしたら…、そこのお三方も黙ってへんでこのお2人を止めて

  下さいよー』


 他の3名はこのやりとりにどうしたらいいのかわからず顔を見合わせて何も言えずに居た。


 「早くなんとかしないと中佐たちが危ない。」(リュ)

 「そうよ、人質にされてるなら交渉決裂でもしたら!」(キャ)

 『ああもうどないなっても知りまへんでー?、一応支援はしますけど!』

 「ありがとう、カンイチくん!」(キャ)


 そう言うとキャシーとリュウは操縦室を出ていった。

 ややあってハッチを開いたカンイチくんから2人が出たのがモニタに映る。



   *  *  *



 それ、の片方は疾風だった。

   銀色の棒を巧みに操り、素早く近づいてまるで盾を避ける蛇のように

   さえぎる者を打ち倒し、疾く駆けて行った。


 それ、のもう片方は悪夢だった。

   近い者が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

   銃弾やブラスターは全く届かなかった。

   一瞬で消えたように移動し、銃を向ける者は引き金をひく前に崩れ落ちた。


 「なんだあれは、人間か?」

 誰かがそう呟いた声が聞こえたが、次の瞬間には闇に包まれた。


 悪夢だ。



   *  *  *



 「おい誰かいねーのか?!」

 「だめだ返事がねぇ。」

 「あの黒いのの周りで何かあったんだ!」

 「あれをぶっ潰せばいいんだろーが。」

 「ふっふっふ、どうやらデガンバースターの出番のようですな。」

 「そうかあれがあったか、予定より早いが使うなら今だな、できるのか?」

 「映像をご覧になったでしょう?、あの程度の物体など敵ではありませんな。」

 「よし、あの黒いのをぶっ潰せ!」

 「お任せを。

  準備はいいな?」

 『はい、いつでも!』

 「デガンバースター発進!」

 『了解!』

 「デガンバースターよ!、思う存分その破壊力を示すがいい!、フハハハ」



   *  *  *



 「ふっふふふふ、やっとコイツを動かせる…!」


 つまらないシミュレーター訓練ばかりの半年だった。

 全身が喜んでいるかのように高揚しているのがわかる。モニタの隅には管制室の担当通信官が引きつった表情をしているのが見えた。それを見て気づいてしまった。今のオレの表情が口角を吊り上げているからなのだろう。


 いつの間にか、そう、無意識にそんな表情になってしまうのだ。


 巨大ロボット兵器という人類のロマン(※)をこの手で実際に動かし動くという一体感、さらにはこの強大な力を思うままふるえる快感、眼前の敵を蹂躙できるという興奮、そして今までの鬱屈うっくつした全ての暗色を一掃するかのような高揚感…、これらが絡み混じり溶け合う感覚があとからあとから湧いてきて自然とこういう顔になるのを止められないんだ!


  (※ 操縦者個人の主観です。)


 しかもその眼前の敵たるや、黒い球体を上下にすこし押しつぶしたような不気味な形状だ。そんなのは悪役の典型的な形だろう?

 正義の味方ってのはもっとこう、カッコイイもんだろう。白を基調に赤青黒で効果的にカラーリングされた、ヒーローらしさってのがあるもんなんだ。



 そう。オレが今乗っている巨大ロボット(モノ)のようにな!



 登場するときだってそうさ、味方のピンチを助けるようなタイミングだったり、基地からかっこよくせり上がってきたりするもんなんだよ!



 そう。オレが今こうして登場したようにな!!



 いい天気だ。遠くまでよく見える。なんという解放感、素晴らしい景色だ。

 固定ランプが消えた。一歩前に出る。

 下を見回すとその黒い物体はゆっくり基地建物のほうに移動している所だった。

 何人かが逃げながら銃を撃ったりしているが効果がないようで、ある程度近づかれた者は必死で逃げていた。


 管制官から無線で指示が飛んだのか、こちらに任せて退避するらしい。脇の建物から手を振ってる者がいたので手を振って返しておいた。


 さあ、あの得体の知れない物体をぶっ壊そうじゃないか!



   *  *  *



 近くの倉庫が突然左右に割れた。ズズズともゴゴゴともウィンウィンともつかない低音がする。一体何事かとカンイチくんの操縦室に残った3人がモニタを見ていると、下から何かせり上がってきた。


 「な、何かでてきますよ?」(キュ)

 「頭…?」(スティ)

 「にゃ、にゃんですかあれは!?」(ミャ)

 「あれってもしかして01局の…?」(キュ)

 『あー、そやそや昨年なんやでっかいロボ造った言うて、

  話題になってましたっけ…』

 「にゃんと…、そんにゃの造ってたのにゃ!」(ミャ)

 「ミャーは何でそんな喋り方なの?」(キュ)

 「これは昨日テリーさんにチェスで負けちゃって、

  降陸中はにゃにか言うたびに『にゃ』を1度は言わにゃくちゃ

  いけにゃくにゃっちゃったのにゃ…」(ミャ)

 「だから今日ずっと黙ってたのね?、で驚いてつい喋ってしまったと。」(キュ)

 「そうにゃのにゃ…」(ミャ)


 ついにその巨大ロボットはその全景を現して数歩踏み出し、バカでかい銃器と刃物を携えてこちらを向いて堂々と立っていた。


 「ふぅん、舌噛まないでね。あ、あれみて、横に手なんか

  振っちゃってますよ?!」(キュ)

 『えらい余裕でんなー』

 「中に人居るの?、ぶ、ぶっ壊していいの?」(スティ)

 『なんや物騒ですけど、中に人いるみたいでっせ?、

  爆発でもされたらヤバいもん積んでるみたいやさかい、

  暴れられへん内に早いこと穏便に処理したほうがええんと

  ちゃいますか?』

 「あ、そ、そうね、えーっとこういう時は…」(スティ)

 『ちょっと落ち着きなはれ、防御なら任しといてんか、

  そやからちょっとだけ様子見て、ほぃで弱点をちょびーっと

  壊して無力化、ほんでガクガク揺らして中の人も無力化ぁ

  いうんでどないでっしゃろか』

 「わかったわ、それで行きましょう」(スティ)


 ガクガク揺らすというのは、微細振動を与えて気絶させるというお得意の無力化手段のことである。実際にガクガクと揺れるのが見えるわけではない。


 中佐らを監禁したりして武闘派が強気にでていたのは、どうやらこの基地の地下格納庫にあった、以前ネスパラダック社が第01兵器開発局からどうやってか入手した、巨大ロボの存在がその理由のひとつだったようだ。


 「カンイチくんやけに慣れてるね」(キュ)

 『そら中佐が、こういうこともあろうかと、って作業用ロボやら

  の暴走対策用設定を幾つも用意してくれてはるからですわ。』

 「さすが中佐…、で、それの応用ってこと?」(キュ)

 『っちゅーわけですわ。あ、ほら、あちらさん動き出したみたいでっせ?』

 「こっちにくるにゃ!」(ミャ)

 「えっ、ばっ、しっ、シールドを!」(スティ)

 『とっくに展開してまっさ、スティはんホンマ落ち着きなはれ。』



   *  *  *



 味方の退避もだいたい終わったようだ。敵も倒れている味方とはうまく離れてくれたようだ。

 悪の黒球は、やって来たときはふわふわ飛んできたらしい。噴出孔も翼もないんだ、重力制御だけのようだが重力制御機関それくらいこっちにだって搭載しているんだ。ならそんなに機敏に動けやしないだろう。

 だったらただのデカい的だ。一発ぶっ放してやろう。


 今回が宙域じゃないのが惜しまれる。なぜか?、そりゃあ基地のすぐそばだし地上だからあまり威力のある兵器は持ってこれなかったからさ。

 レーザーもブラスターもプラズマガンも大気中では出力に制限があるし、弾頭も周囲の影響から炸裂しないものに限られる。

 なので今回は通常弾頭のライフルと、プラズマソード――刃にプラズマを発生させてぶった切る片刃の剣――しか許可されなかった。

 仕方ないが充分だろう。


 そしておもむろにライフルを構えてぶっ放した。


 が、当たる直前で失速したように弾が落ちた。

 正直わけがわからない。シールドにしては落ち方が妙だ。重力制御なのか?、なんなんだアイツは。


 何発か撃ってみたが同じだった。避けるそぶりも見せやしない。

 ならば接近戦だ、と思い、背中に装備していた剣を手にして走って向かって行った。

 ところが剣が当たらない。ぐぐっと柔らかく跳ね返されてしまう。


 なんなんだこれは、シールドなのか?、シールドってこういうモノだったか?、そのうちプラズマ発生部が故障してしまった。ちっ、やわいな、使えねぇ…。


 試しに殴ろうとしてみたが同じだった、蹴るのもやってみたがだめだった。両手で押してみたが途中からびくともしない。黒球の表面に触れることすらできていない。


 こうなったら!、


 こんな至近距離ならあたるだろうと、頭部に装備されているパルスレーザー砲を使った。

 それも上空に逸らされて拡散してしまった。


 一体どうなっている?!


 『警告、右脚部に異常発生!、右脚部動作不能!』

 『警告、左脚部に異常発生!、左脚部動作不能!』

 な、なんだと?!、くそっ、こんな時に!


 『警告、左腕部に異常発生!、左腕部動作不能!』

 『警告、右腕部に異常発生!、右腕部動作不能!』

 敵の攻撃か?!、攻撃されたようには見えなかったぞ?!


 『警告、制御不能な…』

 『警告、原因不明の…』

 モニタに警告がどんどん表示されていく。


 気が遠くなってきた……通信官が何か叫んでる……

 ち…、ちくしょう…



   *  *  *



 「いきなり撃ってきたにゃ!」(ミャ)

 『大丈夫ですがな、あれくらいのもん。』


 銃器で攻撃されたが、後方の市街のことを考えて避けずに緩衝型シールドを調節してそっと落とした。

 突進して刃物のような武器で攻撃してきたが、これもシールドのパワーを調節し柔らかく受け止めた。刃部分が光っているのはおそらくプラズマでも発生させているのだろう、発生機関部を少し歪ませ破壊してプラズマを止めた。

 素材からして何度か振り回せば自壊してしまいそうな武器のようだったが、それを待つのもバカらしい。


 シールドを張らずとも、カンイチくんの外壁は強固に作られているのであれくらいの実体弾など、もし当たったところで真正面からでなければ少し傷になる程度で通用しないし、そんな刃物をぶつけたところで刃物のほうが壊れるだけだ。

 だが周囲への影響を考慮し、ちゃんと緩衝型シールドを張っているので当てることすらできないのだ。


 挙句には殴る蹴るである。


 その拳は関節が多く武装を扱う精密な部分のはずだろう、その足は自重を支えてかかる力を配分する精密な制御を行う部分のはずだろう。それぞれ可動部分のある精密機械だろうに、そのように扱っていいのか?、と要らぬ心配をしている場合ではない。


 光学兵器まで搭載していたが、基地の敷地とはいえ市街にでも逸れたら大惨事である。一体何を考えているやらわからない。

 先程の刃物だってそうだ。地上に近いところであんなものを振り回せば先端は音速を超えかねないのだ。もし衝撃波が周囲に漏れでもしたら大惨事どころでは済まないのだ。


 おそらくそんなこと考えもしていないだろう周囲で見ている連中は、自分たちがカンイチくんに護られたことすら分かっていないのだろう。

 どうして相手側の無責任な行動をこちらでフォローしてやらねばならないのか、正直勘弁して頂きたい。


 カンイチくんは、相手を殺さないようにとの配慮から、相手の脚部と腕部の関節を少し歪ませただけで無力化。

 そのままそっと横たえさせたのだった。


 『と、まぁわてがやったわけですが全部中佐の設定した通りの対応を

  しただけですねん。手柄とかそんなんええんですわー』


 と、褒めて欲しいのか何なのかよくわからないカンイチくんに、キュー・ミャー・スティの3人はとりあえず褒めておけばいいのかな?、と考えて、拍手をしながらカンイチくんを讃えたのだった。


 そして調子に乗るカンイチくん。

 『あないにどこが弱点か見てすぐ分かるっちゅーのが欠点やと

  何でわからへんねやろなぁ…』

 『せっかくの重力制御機関のパワーを機体制御に使いすぎてて、

  攻撃や防御に回せへんのも欠点やねぇ…』

 『小型の重力制御でも動けるメリットは、中の人が酔うてまうから

  相殺してるようなもんやし…』


 「カンイチくん、そのへんにしたら?」(キュ)

 『はーい』


 そしてその巨大ロボット、あとで分かったが自爆装置までついていた。


 やはりこれも彼らの言う『ロマン』なのだろうか…?



   *  *  *



 一方、建物内に侵入したリュウとキャシーは、襲ってくる武闘派海賊たちを無力化しながら廊下を進んでいたが、途中の廊下には机や椅子などが積み上げられており、状況的に攻めあぐねている状況だった。


 それまでは、リュウは金属棒を巧みに操って銃弾を避け接近して打撃によって無力化をし、キャシーは中佐からもらった装備で個人シールドを張り、ときどきリュウも守りつつ微細振動波を撃って、向かってくる者らの意識を刈り取っていた。

 銃が撃たれる前に瞬歩(超ダッシュ)で飛び込んで吹っ飛ばす。

 撃たれても逸らす、撃ってきた相手の方向に微細振動点を設置する、リュウもキャシーもまさに無双、まるで雑魚を吹っ飛ばして進むゲームのような状態だった。


 しかしそのバリケードの向こう側にはブラスターや実弾銃が銃口をこちらに向けて待ち構えており、一度に吹き飛ばすのは躊躇ためらわれたのだ。

 おそらく中佐なら問題なく建物を含めた周囲を防御しつつ微細振動点を複数設置して無力化、そしてバリケードを排除、という処理を速やかにこなしただろう。だがキャシーはまだ装備の操作に不慣れなのでそこまで一度にはできないのだ。


 「あの向こうの角を曲がってすぐのところなのに…」

 「焦ってはダメです。キャシー主任。」

 「うん。」


 おまけにT字路の廊下であり、こちら側から直進して見えるほうからも後ろ側からも武闘派海賊たちがときどき襲ってくるのだ。Tの縦棒側にはそのバリケードがあるので、向こう側へ渡ろうにも狙い撃ちされてしまう。

 個人障壁を張っているので当たりはしないが、やはり気分のいいものではないのだ。



   *  *  *



 「おい!、あっさり負けたじゃねぇか!、って逃げ足早ぇなあいつ。」

 「いつの間に居なくなったんで?」

 「知るか!、おい、あの黒いのは厄介だ、こうなったらあの娘を脅して

  黒いのをとめるぞ!」


 そう言ってダラズは部屋をでてアルミナ中佐を捕えている部屋に向かった。

 「あの黒いのがあんなに強ぇなら、乗っ取って使うって手もあるな。」


 にやにやした笑いを浮かべつつ中佐の部屋につくと、部屋の中から笑い声が聞こえる。

 扉を開けると何やら娘と見張り番が妙なポーズを取って笑い合っていた。

 一体何なんだこいつらは…。


 「おい!、お前!あの黒いのが動き出したんだ、こいつを渡すから連絡して

  黒いのを止めろ。いいな、余計な事をしたらぶっ殺す。」

 「わかったわ。連絡するから酷いことはしないで。」

 「お前の態度次第だ。」


 娘はこくこくと頷くとダラズから個人端末を受けとり、連絡をとった。


 「あたしです。そう。その乗り物を停止してその場に着陸して大人しく

  して下さい。いいから。え?、あたしなら大丈夫です。

  じゃ、え?、いいから。大人しくしてて。いい?。それじゃ。」

 「じゃ、個人端末を渡しな。」

 「はい。」

 「ところでそいつぁ何だ?、今流行りのアスパラなんとかってやつか?

  2人でえらく楽しんでたみてぇじゃねぇか?、え?」

 「俺も中佐ちゃんと仲良くなりてぇな~、えっへへ、あ痛て!」

 「お前ぇは黙ってろぃ!」

 「すいやせんダラズさん…」

 「お嬢ちゃんにはこのまま人質になってもらってあの黒いのの所まで

  一緒に行ってもらおうかと思ってんだ。」


 ――そろそろ怒ってもいいのかな、でもこのひとはよさそうな人だし

   今は銃もってないから下がっててもらおうかな。


 人のよさそうな見張り役の男に目線と手で下がるように指示し、離れたのを見てから個人シールドを張った中佐が、教えてもらったアスパラマンの変身直前の腕を胸の前で交差するポーズをとる。


 『ギュィーン、シャキーン!』

 腕から音がした。


 笑うダラズら。

 「おいおい何だよそりゃぁ、ひゃっははは、変身でもするのかよ、」

 「「ひゃっははは」」 「あっははは」


 不安そうな見張り役の男が視界の端に見える。


 「アスパラマンに代わってお仕置きね!」

 と言って手に持っていたアスパラマンソードを、見張り役の男に教えてもらった動きでダラズらに向けると同時に叫んだ。


 「アスパラショックウェイブ!!」


 ダラズらは笑いながら吹っ飛ばされ、微細振動波を浴びて気絶した。


 「えええー?」

 と言って目と口を開いて唖然とする見張りさんに、

 「びっくりした?、ちょっとこの人たちを縛るの手伝ってくれる?」

 と笑顔で言うとこくこくと頷いて手伝ってくれた。


 「他のひとたちが捕まっている部屋はわかる?」

 「あ、ああそれならこっちだ。」


 案内してもらい、一緒に捕まっていた人たちを救出した。

 カンイチくんに連絡をとると、キャシーらが近くの廊下で睨みあっている状態らしい。

 

 アスパラマンソードを肩にぽんぽんと当てつつ歩き、

 「ダラズたちは縛り上げたわよ」


 後ろからそう声をかけられて、驚く廊下で挟まれた状態の武闘派たちは、一部が中佐のほうに襲いかかってきたが、中佐に弾き飛ばされて後続の者に受け止められた。

 中佐がアスパラマンソードを格好をつけてタイミング良く振っていた。

 それを見て残りは全員武器を捨てて大人しくなった。


 まくっていた袖を伸ばしながら、アスパラマンブレスレットを外し、アスパラマンソードと一緒にして、なぜかついてきていて唖然としている見張り役の男に渡してあげた。


 「お子さんにこれを上げるわ。喜ぶといいわね。」

 「お、こ、これホントにいいのか!?」

 「どうぞ?」

 「ありがとう、きっと喜ぶよ!」

 「そのお子さんのためにも真っ当な仕事に就かないとね。」

 「そ、そうだな…」

 「上の会議室の人たちは真っ当なお仕事をするみたいよ?、参加してきたら?」

 「そうなのか!、ありがとう、早速いってくらぁ!」


 手を振って去る見張り役の男に手を振り返していると、キャシーが、

 「中佐?、あのひとどなたなんです?」

 「あ、名前きいてなかったわ。」

 「あらら。でもいいんですか?、せっかく買ったのに。」

 「いいのよ、ちょっとしたお礼と餞別せんべつだもの。」

 「そうなんですか…」

 「さ、ここでの仕事は終わったし、テリーたちに連絡して、

  次行きましょっか、次。」

 「はーい」


 縛り上げたダラズらはカンイチくんの倉庫に放り込んだ。

 巨大ロボットの操縦士と、のこのこ逃げ出そうとしていた白衣の男も一緒にだ。

 白衣の男はこそこそと建物から出てきて、割れた倉庫のほうへ移動し始めていたのがあからさまに怪しかったのをキューが目ざとく見つけ、カンイチくんに捕えさせておいたのだ。


 巨大ロボットは動かない状態だし放置でいいだろう。あとでデンとスミスにでも回収させればいい。カーディナルに証拠品として送り届けなくてはならないからだ。



 カンイチくんに戻った中佐が、

 「そういえばあのブレスレット、音が鳴るなんて知らなかったわ。」

 「あげちゃったアスパラマンブレスレットですか?」

 「音が鳴って見つかっちゃったのよね、ちょっとびっくりしたわ。」

 「見つかってどうしたんです?」

 「あの人がアスパラマンのファンだったから、変身ポーズとかの話に

  もってってなんとかしたわ。」

 「ちゃんと説明書読みましょうよ…」

 「そうね、次から気を付けるわ。」


 キャシーに呆れた目で見られてしまった。



   *  *  *



 後日、アスパラマンブレスレットとアスパラマンソードをもらった見張り役の男は、子供に中佐の活躍のときのことを自慢げに何度も話したらしい。

 でも、どうやってもアスパラショックウェイブが出ない、と首をかしげていたとかなんとか。


 子供はアスパラマンブレスレットで音が出たり光ったりするのが嬉しいらしく、ずっと装着しているんだそうだ。喜んでいるようで何よりだ。



   *  *  *



 テリーらは研究所施設と工場施設を制圧・整理したあと、ステラ中尉とリリィ少尉とトムと11ユニット55名の合計58名を回収した。


 制圧と言っても抵抗する者の居ないというか居てもその場に倒れているだけなので、誘導台車にそういう人ら武装解除して乗せて運ぶ作業と、テリーの指示で施設の研究製造機械を停止したり圧力弁を操作したりする、軍服は着ているが作業員のような仕事だった。

 そういう意味でステラ中尉とユニット員らは疲れた表情をして艦載機に乗り込んで行った。


 リリィとトムは結局張り込んでいただけで、誰も来なかったのでトムはともかくリリィはどことなく不満そうだった。

 だが誰か来ていたら問題であり、それは走査で見落とした部分があるということなのだから、来ないほうがいい。


 そのままメルキ市街上空へ飛び、上空のスミスとデンの乗る艦載輸送艦に指示を出して、予め調べ上げておいたメルキ市警察組織の上層部とネスパラダック社役員らをかたっぱしから捕獲し収容していった。そしてトムとステラ、それとユニット員は幾つかの証拠品を押収、テリーは収容した連中の端末類から情報を吸いだしてコッペパンに転送、分析調査にかけたのだった。


 中佐がテリーらに連絡をしたときにはほぼそれら捕獲作業が終わっており、中佐は「ほーら、やっぱりね。」なんて言っていた。


 『何名かネスパラダック社の幹部が居ませんでした。どこかに潜伏して

  いるようなんです。どうしますか?』

 「どうしますかも何も、今そっちのひとたち、すし詰め状態じゃないの?」

 『あ、そうかもしれません』

 「はやく倉庫に降ろしてあげなくちゃ。」

 『そうですね、うっかりしてましたよ、はははは』


 はははは、じゃないものだ。テリーたちは4名で広い操縦室に居るからいいが、カンイチくんなら大きいからともかくテリーのほうは普通の艦載機なのだ、11ユニット55名の人たちは何部屋かに分かれて乗っているが、それぞれ全員が座れる場所などないのでほとんどが立ったまま乗っている。当然吊革や手すりなどない。しかもろくに眠らず制圧作戦に参加し、何ユニットかは証拠品押収も手伝ったわけだからき使うにも程がある。もう少し考えてやって欲しい。


 「とにかく一度倉庫に戻りましょう。それからどうするか考えましょう。」

 『わかりました。それから報告がひとつ。』

 「アイトーカ市のほう?」

 『あ、御存じでしたか。』

 「ロックから報告文が来てたのよ。

  市長らが動きそうなので作戦開始します。って。」

 『そうでしたか。やはり動いたようで、市内5ヶ所とネット上で軍を糾弾

  する記事をいくつかと、それによる軍への要求がでています。』

 「そっちはロックたちに任せてあるから、こちらからどうこうする事は

  ないわ。他は?」

 『ありません。』

 「そう。デンとスミスは、基地のとこで倒れている巨大ロボットを回収して

  欲しいのだけれど、積載量、余裕ありそう?」

 『あ、はい、どれグライの大きサですカ?』

 「えーっと、(ぴっぴっぴっぴ)22mぐらいあるみたい。」

 『それナラ大丈夫デスよ?』

 「じゃ、よろしくね。カーディナルに送らなくちゃいけないし。」

 『了解デス』

 「さて、んじゃあたしたちも倉庫に行きましょうか。

  あ、そうだダラズとかいう人たち捕まえたんだったわ。

  スミス?、まだ聞こえてる?」

 『ハイ。』

 「こっちに収容してる4人をそっちに転送したいの。悪い人たちだから、

  そっちのにまとめちゃっていいわ。」

 『はーい。』

 「起きるようならまた気絶させといて。」

 『デンが監視しテマす、ばっチリでスよ。』

 「んじゃ、おねがいね。」

 『ハイ。』

 『(中佐のおねがいまたキタ━━━(゜∀゜)━━━!!)』

 「さ、んじゃキャシー、いいかしら?」

 「いつでもどうぞー」

 「じゃ、カンイチくん、発進!」


 何かスミスの近くでデンが叫んでいたが、皆微妙な表情で聞こえなかった事にしたようだ。



   *  *  *



 倉庫への帰路で艦載機それぞれの情報を確認した中佐らは、到着した倉庫でユニット員らと随伴員らを降ろした。

 テリー機にキューとミャーとスティを補佐のために移乗させて、テリーらはそのまま回収し残したステラ派企業上層部を走査探索しに向かった。


 中佐とステラ中尉は倉庫で整列した68名の前で彼らの作戦参加の一時終了を告げ、労をねぎらった。

 一時終了というのは、彼らにはまだやってもらわなければならない事が幾つか残っているからだ。とりあえず次の段階、中佐らが戻ってくるまでだが、それには最低半日はかかると思われるのでそれまで休養待機してもらうことになる。


 まだすぐには地上基地で大してする事は無いし、基地に居る海賊残党らを刺激する事にもなり兼ねないので、最低限の連絡要員として1ユニット5名を派遣するに留める。

 それ以外の人員はしばらくこの倉庫が拠点となるが、ここはメルキ市からは距離があるためそちらの任務に就く者らはここではなく別に拠点を用意しなくてはならないだろう。


 その後最終的には、主に規模縮小する予定のラスタラ地上基地へと戻って基地要員として働くことになる。


 元からそうだったわけではあるが、第147辺境防衛隊ラスタラ地上基地要員として復帰することになる。

 これまでの基地運用はひどいもので、宇宙港の管理もいい加減だし、当直も計画も予定も何もあったものではなかったらしい。

 アルマローズ司令も地上基地に居た士官らも、なんとかまともに機能するようにと努力はしたらしいが、海賊スネアに宙域を牛耳られていたし戦力差も絶望的だったので強く出ることもできず、最低限の基地設備を維持、いや、なんとか守るだけで精一杯だったようだ。

 しかもスネア系の連中が、教育や訓練などまともにやるわけでもないのに、勝手にそこらの若くていろいろ余ってるようなのをスカウトしてくるのだ。つまり人数すら管理できていなかったわけだ。本当にひどい。

 何せアルマローズ司令側で把握していた名簿には204名が記載されていて、そのうち63名と亡くなった17名を合わせて80名を差し引いた124名がスネア派だったということになるのだが、どう見ても地上基地にはそれ以上の人員と、その周囲に設営したりいつの間にか建物ができていて住みついていたりしているのが何千人もいるわけだから、いかに杜撰ずさんだったかが分かるというものだ。


 さらに言うとそれら基地周囲の誰が基地に出入りする者らで、誰が基地周囲の企業団地で働く者らなのかすら把握できていない。

 この際だからそのあたりも、合法組織になる以上はきちんと整理することになるだろう。


 そういう訳なので以前より人数がかなり減ったが、あれこれ民間委託してしまうのだから、主な任務と言えば宙域にある第一辺境防衛基地との繋ぎのようなものに縮小するわけであるし、3交代でならそれぐらいの人数で丁度いいかもしれない。


 倉庫で留守番をしていた調査班5名は、彼らの乗ってきた小型艇で第一辺境防衛基地に一旦帰還するそうだ。アルマローズ司令に地上の顛末を報告するのだろう。

 おそらく地上の士官が不足している現状ではまた戻ってくる事になるでしょう、とホッパー少尉は苦笑いして言っていた。


 そして中佐らは68名に分かれを告げ、まずはメルキ市庁舎へ向かった。

 市庁舎では強引に市長室に入り、警察組織を一時軍の管理下に置くこと、市民らの不安を煽らないこと、スネア残党は転身して陸上警備隊やイベント会社や宇宙港運営会社になること、スネア企業の上層部やスネアの武闘派、警察上層部は全て拘束したことを告げ、逮捕者のリストを渡し、これら混乱が収拾するまではいつでも軍の介入があることをほのめかし、言う事だけ言ってさっさと引き上げた。


 ホラ市の市庁舎でも同様に行い、ついでに港湾警備隊本部に寄って事情を説明し、市街警備に協力を依頼しておいた。


 「さーて、これからコッペパンに戻って状況を確認して、と。

  明日はムツミネやナツメグの人たちを地上に連れて来なくちゃね。」

 「彼らは知ってるんですか?」

 「昨日のうちに文書で知らせておいたから、準備はしているでしょ。」

 「なるほどー。」


 中佐に振り回されるのもこれが初めてじゃないだろうし、気の毒だとは思うが長い目でみれば彼らにとってもいい事なんだろうなと、キャシーは寝不足の頭でそう考えていた。

 操縦席から艦長席でにこにこしている中佐をちらっと見た。

 「(まあ中佐がごきげんならいいわ。)ふふっ」

 「ん?、キャシーどうしたの?」

 「いいえ?、なんでもないですよー。」

 「そう。」


 中佐としては、ラスタラ地上で騒ぎを起こされる前にいろいろ片付けられてごきげんなのだ。


 「あ、そういえば地上で騒ぎが起こらなくて良かったですね。」

 「ぎりぎりこっちが早かったのよ。」

 「そんなぎりぎりだったんですか?」

 「そうなのよ。あ、ちょうどトムが戻ったわね。

  トム、地上で騒ぎを起こそうとしてたってこと、話してあげて。」


 トムとリリィは、倉庫に戻ってカンイチくんに移乗してすぐ仮眠をとっていたのだ。

 ステラにも仮眠をとるようにと中佐が言ったのだが全く聞き入れず、市庁舎に行くときも随伴した。


 「あ、はい。えー、リリィさんと研究所からの抜け道である小屋を見張って

  いた時ヒマだったもので、これで、」(トム)

 と、小脇にかかえていた大きめの端末を示して、

 「せっかく上空待機している艦載輸送艦があるんだからと、地上を走査して

  いたんですよ。」(トム)

 「ヒマって…。」(キャ)


 ヒマだったから、というのがなんとも彼らしい。

 リリィひとりで充分だと中佐は最初思っていたが、テリーとステラが「連絡役をつけたほうがいいのでは?」と提案したため、トムが付くことになったのだ。

 だいたい森に潜伏して小屋を監視するのに、そんな端末を開いてごそごそやってたら光るし潜伏の意味がないとは思わなかったのかとキャシーは呆れた。だが、小屋は無人だし周囲には何もないし街からは距離がある。研究所や工場は上空も含めて3方向から艦載機で監視するわけで、突入前には敷地内の人員は無力化されているのだから、途中からであれば潜伏状態じゃなくても構わないだろう。

 それに問題があるならテリーや中佐が許可するはずがないし、トムだってそれぐらいのことは分かるだろう、とキャシーは思い直した。


 「それでメルキ市街のあちこちに、どうも人の流れからすると異質な連中が

  ちらほらと居たんです。早朝ですからね。こういうのは見つけやすいん

  ですよ。」(トム)

 「なるほど。それがスネア残党だったってことですか。

  準備はしてたんですね。」(キャ)

 「ええ。おそらく今日だったんでしょうね。混乱に乗じて

  何かするとか。」(トム)

 「彼らの上のほうはこの星系を脱出したがってたみたいなのよ。

  おそらく地上と宙域と艦内とで混乱を起こせばその隙に

  逃げられるとでも思ったのじゃないかしら。」(中佐)

 「そんなことをしても監視基地が稼働してるんだから逃げられるはず

  ないのに…」(キャ)

 「それが分かるような人たちだったら良かったんですけどね…」(トム)

 「それで、騒ぎが起こらなかったのはどうしてなんです?」(キャ)

 「先に基地のほうで騒ぎが起こってしまったからですよ。」(トム)

 「あー…」(キャ)

 「通信内容からすると、予定時刻が迫っているのに一向に連絡が

  来ないのに焦れた彼らは迷ったようで、彼らのほうから基地に

  連絡を取ったんです。すると基地のほうはもう巨大ロボまで

  片付いてしまった後だった、と。」(トム)

 「あれっ?、それだとやけに工作員たちが現地に居るの、早くないですか?、

  普通そういうのってもっと直前になってから動くって訓練で…」(キャ)

 「そこは軍の工作員じゃないんですから。素人なんですよ?、

  彼らは。」(トム)

 「そういう意味でも『見つけやすい』ってことなのよ。」(中佐)

 「そうですね。」(トム)

 「なるほど…」(キャ)

 「それで連絡をしてみれば基地のほうでは中佐の提案通り、

  会社を作って社会貢献する組織に生まれ変わろうって話になってて、

  これは乗り遅れちゃマズいってんで急いで撤収して地上基地へ

  引き上げて行ったようです。」(トム)

 「そういう事だったんですね。余裕だったんじゃないですか、

  中佐がぎりぎりって言うからもっとシビアなタイミングだった

  のかと…」(キャ)

 「いいえ、ぎりぎりなんですよ。これは。」(トム)

 「え?、どうして?、今の話だと中佐が話し合いに行ったのは、

  彼らの予定時間のだいぶ前じゃないですか?」(キャ)

 「そこが基準じゃないんです、ね?、中佐。」(トム)

 「うん。巨大ロボのことが基準なのよ。」(中佐)

 「え?、そうなんですか?」(キャ)

 「彼らというかスネア残党の武闘派って仮に呼ぶけれども、

  騒ぎを起こそうなんて連中は、強大な武器や装備、そういうもので

  力をつけたり強気に出たりするものなのよ。」(中佐)

 「ふむふむ」(キャ)

 「だから巨大ロボットの存在があったからこそ、市民らに被害が

  でるような計画も立てられる。

  スネアだって市民らから搾取したり甘い汁吸ってたりしてたのよ?、

  市民らを殺したり市街を破壊しちゃったらできなくなるじゃないの。

  だからそんなのは悪手なはずでしょ?」(中佐)

 「生かさず殺さず、ですよね。」(トム)

 「うわートムひどい。」(キャ)

 「ああいう組織ってのはそういうものなのよ。だから市民を守る、

  偽善でも地域住民のごきげんをとったりすることもあるの。」(中佐)

 「お祭りで子供たちにお菓子を配ったり自警団を手伝ったり、

  そういうのですよね。」(トム)

 「そういうこと。全部がとは言わないけれども、そういう意図も

  あるんだってことなの。もちろん住民にナメられちゃダメだから、

  締めるところはきっちり締めて、恐れられる存在であり続けるのは

  前提なのだけれど。」(中佐)

 「そっか…、トムごめんね。」(キャ)

 「いえ。」(トム)

 「軍だって似たようなところもあるのよ。宇宙軍は特にね。」(中佐)

 「星系(地方)によってはそういうのとほとんど変わらない軍隊も

  いますからね。で、話を戻しますが、」(トム)

 「「うん。」」

 「その巨大ロボの存在が支えだったわけなんですよ。それがあっさり

  倒されてしまったわけで、宇宙軍には逆らえない、と。」(トム)

 「それで提案のほうへ進むしか無くなったって?」(キャ)

 「あたしが話した連中は穏健派、これも勝手にそう呼ぶけれども、

  穏健派なのよ。そもそも基地を占領しようなんてのがほとんど

  なのだから、ほとんどが武闘派寄りなわけね。どっちつかずなの

  も居たかもしれないけれど。」(中佐)

 「それが支えを失って、一気に健全化する方向に向いたんですよ。」(トム)

 「そっかぁ、それで『ぎりぎり』って…、確かにそういうことなら

  ぎりぎりだったんですね。」(キャ)


 中佐の提案事項と巨大ロボットの無力化、それに武闘派の中心だったダラズらの拘束。これらの要因でもって治まったと言えるので、どれかが欠けていても騒ぎを起こされた可能性がある。

 結果的には地上基地の問題はうまく収拾がつけられたように見えるが、実のところは結構危うい綱渡りだったといえるのだ。


 「うん。あっちがカンイチくんに巨大ロボットを出してきてくれて

  良かったわ。まさかあんなのがあるなんてね。

  走査でわからなかった、ってのも今後の課題だけれども、

  先に基地が占領されてしまっていて、こっちに情報連結できなかった、

  ってのも見つからなかった理由ね。」(中佐)

 「走査でわからなかったのはどうしてなんです?」(キャ)

 「あれが格納されていた倉庫の下、二重障壁だった上に金属だらけで

  形からみても判別つきづらい収容の仕方をしていたのよ。」(中佐)

 「今みればわかると思いますけど、そんなのがあるなんて、

  思いも寄らなかったので見逃してしまっていたんですよ。

  申し訳ありません。」(トム)

 「トムが謝ることじゃないわ。いい教訓になったのだからいいのよ。

  パターン化して登録設定しておけば、次からは見逃さないのだし、

  そこをきちんとやれるならそれでいいわよ。」(中佐)

 「「はい。」」

 「01局ってあんなの作ってどうするんですかねー?」(キャ)

 「あそこは観光資源もあるし、機構関係では強いからお金余って

  るのよ。」(中佐)

 「観光資源?!」(キャ)

 「ロボ関係の番組やそれに類するイベントで作ったのを、

  全部置いてあるらしいのよ。展示してて、たまにツアー組んでたり

  するみたい。結構な観光収入になってるらしいのよ。」(中佐)

 「なんか凄いですね…」(キャ)

 「だから人気は絶大で、兵器開発局の競争率でいうと01局は

  毎年上位を争うの。」(中佐)

 「そういえばそんな話を聞いたことあります。あたしの居た42局は

  地味だから志望者が少ないって局長がボヤいてました。」(キャ)

 「思考結晶は民間の研究所に負けてましたからねー、以前は。」(トム)

 「う…。」(キャ)

 「そゆこと言わないの。とにかく01局ってのは直接兵器としての実績が

  なくて軍からの予算は少ないけれど、他でたっぷり儲けてるから、

  お金余ってるのよ。」(中佐)

 「他ってロボット開発なのにですか?」(キャ)

 「機構技術ですよ、もちろん作業用運搬用などのロボットもありますし

  建設用や発掘用なども一部ありますが、それよりもアームやハッチなど、

  可動部分の技術がすごいんです。」(トム)

 「コッペパンにだってカンイチくんにだって、01局の技術が一部

  使われてるところ、あるのよ?」(中佐)

 「そうだったんですか…」(キャ)

 「カンイチくんと言えば、何かやけに大人しいわね。だいたいいつも

  こういう話をしていたら割り込んで来そうなものだけれど。」(中佐)

 「あはは、カンイチくんなら中佐に叱られると思って出て来ないんじゃ

  ないですか?」(キャ)

 「あたしに叱られる?、何か悪いことしたってこと?、

  ちょっとカンイチくん!、あなた何したの?、正直に言いなさい?

  じゃないとリセットするわよ!」(中佐)

 『ちょー待ってぇな中佐はん、何でもリセットリセット言うて、

  ほんま勘弁したって下さいよ…』

 「じゃあリセットしないから正直に言いなさい?、何したの?」(中佐)

 『い、いや別に大したことちゃいますねん。大人しく待っとけっ

  ちゅーて言われたのにキャシーはんとリュウはんを外に出して

  しもうたわけでして…、はい…。』

 「なんだ、そんなことなの。」(中佐)

 『そんなことて中佐、そらないですわ、わて板挟みになってもうて

  ほんまどないしてええやら分からへんし、お二人が一緒に謝って

  くれるぅ言わはるさかいに、それで…』

 「呆れた…、キャシー?それにリュウ?、そんなこと言って

  カンイチくん説得したの?、あははは、面白いことするわね、

  あなたたち、あははは。」(中佐)

 「だってカンイチくんが中佐に叱られるってハッチ開けてくれなかった

  んですよ?、だったら一緒に謝ってあげるって流れに…」(キャ)

 「はい、だからそれがしも一緒に謝るって約束をしたんです。」(リュ)

 「これで2人とも無事じゃなかったら叱るところだけれど、

  無事だったし、カンイチくんも遠距離で支援してたみたいだからいいわ。

  カンイチくんは悪くないもの。」

 『ほんまでっか!、さすが中佐やわ、わての事ちゃんと見てくれはりますわ、

  よかったわー、正直びくびくしてましてん、そやから黙って様子を…』

 「ちょっとカンイチくん?、あなたいつもそうやって調子に乗るから

  ダメなのよ。わかってるの?」(中佐)

 『あ、はい!、よおく分かっております。はい。真面目にやります。』

 「よろしい。ほんっと真面目にやってよね。何度目よ全く…」(中佐)

 「「あははは」」


 カンイチくんのせいでキャシーとリュウに注意する雰囲気では無くなってしまったなと、皆と笑いながらの帰路だった。

 カンイチくんにならともかく、キャシーやリュウに注意するなら個別にするべきかな、と中佐もこの流れにありがたいと思いつつ考え直した。


 自分もひとのことは言えないかも知れないが、巻き込まれるかもしれない危険と、自分から飛び込む危険とは、やはり同じではないはずだ。それが中佐のことを心配して助けに来ようとしてくれたのだとしても。

 それ自体は嬉しいが、それとこれとは別問題なのだから。


 それにしてもキャシーには装備を渡してあるからまだいいとして、リュウは一体何者なのだろう?。金属の棒1本もって銃を持った集団を倒して走り抜けたらしいが、彼は中佐の名前のついた、しかし1度も行かなかった研究室で一体何をしていたのだろうか。


 それはともかくとして、テリーやスミスらもこちらの操縦室の会話はモニタしているはずなので、カンイチくんのおかげで雰囲気が和んだのはいいことだと思う。

 そういう点ではカンイチくんの妙な性格は役立つ。

 あちらでも笑っていることだろう。

 もしかしたらデンがまた何かヘンな事を言ってスミスが引きつっているかもしれないが…。



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読んで下さる方に感謝を。

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