表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/41

2-07


2-07



 戦技情報室で朝の打ち合わせに参加した研修生4名は、備品室から2人分の補助制御台を持ってきて4席を2席ずつ向い合せにしてステラの席の前に並べた。


 そして他の皆が静かに慌ただしくしている中、彼らは早速閲覧許可の下りた資料を順番に制御台を通じて分担して読んでいた。


 「しかしこの資料もそうだけどよ、戦技ここってすげーのな。」(アッ)

 「ある程度資料みたらアックとイリも今ある訓練、一通りやっていいって

  ロックさんに言われたよ。」(マイ)

 「あ、2人が『燃える』って言ってたあれ?」(イリ)

 「そうそう。」(マイ)

 「おおー、楽しみだなー」(アッ)

 「楽しみねー。そいえばさっきのアックじゃないけど、中佐すごかったね。

  『無力化して素っ裸で放り出す』って、あはは、かっこよかったー」(イリ)

 「俺はおっかねーって思ったな」(アッ)

 「声に出てたもんな、あはは」(トオ)

 「でもさ、『中佐っていうのは重いのよ』ってのはなかなか言える

  事じゃないと思ったよ、僕は。」(マイ)

 「そうだな、しかしさっきの会議さ、内容が凄すぎて俺自信なくなっちゃっ

  たな…、宇宙軍って戦闘艦乗って戦ったりするだけじゃねーんだな…、

  俺、いつか中佐みたいになれんのかな…、あのひとあれで3つも

  下なんだぜ?」(アッ)

 「またアックはもう…、あのひとは特別よ。誰もあの人みたいには

  なれないわ。アックはアックなりにやっていけばいいのよ。」(イリ)

 「そうだぜ?、年がどうとか考えねーほうがいい。今やれることを

  頑張ってりゃいいんだよ。」(トオ)

 「トオルにしてはまともな事言ってるわね。」(イリ)

 「なんだよひっでーなー、俺だってたまにはなー。」(トオ)

 「まあまあ、でも僕たちここに来て良かったよね。まだ3日目なのに、

  驚くことばかりだけど、すっごく勉強になることばかりでしょ?」(マイ)

 「そうだな、ま、とにかく今は資料を参考にして方針たてようぜ。」(トオ)

 「そうだね。」(マイ)

 「そうね。」(イリ)

 「ああ。」(アッ)


 今朝の打ち合わせに参加して、彼らは彼らなりにいろいろと思う所があったようだ。



   *  *  *



 2機の艦載機に分乗したアルミナ中佐ら10名はとりあえずホラ市の倉庫ちかくの港湾部分に隠蔽状態で降下し、着陸。偽装投影や遮蔽などはもちろん万全だ。


 そして下部ハッチが開き、中佐らが外に出る。


 ++ むわー ++


 「うっ…暑い!、夏なの?!」

 「あ、言い忘れていましたが初夏ですよ。」と、テリー。

 「ひぃぃ、もっと早く言いなさいよね!」

 「何も仰らなかったのでご存じなのかと。」

 「ああそういえば経緯度や惑星座標からすると初夏よね、

  って今頃気づいても遅いのよ。」

 「あはは、でもコンバーターがあるんですから。」

 「無いのよ。」

 「は?」 「えっ?」

 「だからリスーマの時ジャケット着てたでしょ。」

 「そういえば…」とキャシー。


 テリーの言う『コンバーター』とは温度調節コンバーターのことだ。

 戦闘技術情報室員らの軍服にもその機能がついているものが支給されている。

 軍服には高いものと安いものがあり、安いほうだと生地は同じ素材を使っているが、温度調節コンバーターがついていない。


 中佐は高い方を着用していたとしてもその機能を切っている。なので高い方は式典や節目に着用する程度で、いつも安い方を着ている。

 今回の降陸もそんなことを忘れていたため、安い方、つまり温度調節コンバーターがついていないのを着て来てしまった。


 皆は普段から高い方ばかり着ている、というか安い方を持っていない者ばかりなので、中佐の軍服にまさか温度調節コンバーターがついていないなどとは思っておらず、「暑い!」と聞いて不思議に思ったのだ。


 ステラとリリィは駐留軍の訓練に参加するときには安い方を着て行く。駐留軍の一般兵士には安い方しか支給されていないからだ。そもそも駐留軍のほとんどはコロニー内での軍事活動のために駐留しているし、軍服のまま活動できる区域は温度管理されているわけで、温度調節の必要がない。

 旧来、コロニーの外部は別に艦艇を配置したり監視基地を設置したりして守るものだからだ。その場合は駐留軍とは言わずに普通に警備隊と言う。


 地上軍の軍服には温度調節コンバーターがついていないもののほうが多い。ラスタラ地上軍の軍服もその例に漏れず温度調節コンバーターがついていない。というか第147辺境警備隊いちよんななの軍服にはついていない。

 後述するがコンバーター付きの軍服は地上でのある種の軍事行動では目立つのだ。そして付いていない周囲の者たちから疎まれる。


 そのようなわけでステラとリリィ、そしてトムは安い方を着替えに用意しているが、今は高い方を着ている。中佐以外の皆もそうだ。


 キャシーのは新しい腕輪なので温度調節コンバーターとの相性問題が解決されているが、中佐のはプロトタイプなのでそのへんが微妙であるため、軍服上着の温度調節コンバーターの機能を普段は切ってある。大きな問題があるわけではない。なんというか細かい所で調節が必要になる程度だが、それが中佐にはなんとなくイヤだったというだけなのだ。だから中佐はコンバーターの付いていない安い方の軍服ばかり着用するのだ。


 通常、その温度調節コンバーターの機能を切ることなどない、常時働いているものである。


 リリィのメイド服にはついていないが、リリィはもともと体力がたっぷりあり、環境変化にも強く、汗だくになろうが少々寒かろうが全然平気なので、今回もしメイド服で降陸してきていたとしても、おそらく「言われてみると暑いですね!」程度だろう。

 幼少からサウナで鍛えられていたのも、ひょっとするとあるのかもしれない。


 ところで温度調節コンバーターは当然ながら外が暑い場合には服の内側の温度を下げる。そして下げた分の熱量は外側に放出することになる。そう急激に動作するものではないが、少なくとも真夏の気候でも涼しい顔をしていられる程度には動作する。そして内側の湿度が上がればある程度だが調節もする。

 ということは、皆の周囲の温度が上がるわけである。そういうわけで中佐が皆から離れようとするのも当然の流れである。


 「ちょっと、あまり近寄らないでよ。暑いでしょ!」

 「そんな、ひどいですよ中佐ぁ。」

 「リリィ、だからもうちょっと離れてってば。」

 「ううぅ…」

 となる。


 上着を脱ぎたいが、倉庫の用事が終わるまではと思い我慢することにした中佐は、倉庫までの少しの距離をステラ中尉・リリィ少尉・テリー・トムの5名で、少しだけ皆から離れて歩いたのだった。

 キャシーら他の数名は見送りに出て来ただけで、倉庫には行かない。

 中佐らを見送るキャシーたち。

 遠くで何かトリが鳴いている声がした。



   *  *  *



 アルマローズ司令から受け取った名簿に従って、倉庫近くで調査員リーダーの個人端末に連絡をする。やや緊張した声で男性が出て、通用口へ誘導してもらい中に入った。


 通用口の扉を開けて出て来た男性は軍服ではなく、活動的で身軽な服装だった。

 彼は中佐ら4名をさっと見回して中佐のところで視線を止め、軽く頷いてから、「どうぞお入りください。」と促した。

 あまり驚いていない様子を見ると、予めアルマローズ司令からアルミナ中佐の容姿について聞いていたのだろう。

 予備知識なしでアルミナ中佐と会った者は例外なく驚くものなのだ。彼女にはもう慣れ飽きたことだが。


 「改めまして、第147辺境警備隊調査班長のホッパー・カンネル少尉です。

  アルマローズ司令からくれぐれもよろしくと言付かっております。」

 「アルミナ・アユよ。こちらがヴィクス・メンレン・ステラ中尉、

  ハマーノン・リリィ少尉、ハガ・テルーマン准尉、それから

  ウィルソン・トーマス軍曹よ。よろしくね。」

 「よろしくお願いします。」

 「こちらこそよろしくお願いします。」


 扉を入ってすぐのスペースでホッパー少尉がいきなり自己紹介をしたものだから、落ち着かない紹介場面になってしまった。

 奇妙な雰囲気のまま挨拶が済み、それだけで誰も話すわけでもないので妙な間があいたが、中佐が手で先を示すとホッパー少尉は軽く頷いて歩き始めた。


 ――何なの?、このコメディのような雰囲気。

   こういうのはもっとまじめにやるものじゃないの?


 中佐が言えた事ではないと思うが、確かにおかしな雰囲気になってしまった。暑いのを我慢して今から堅苦しい士官を演じなくてはならないのだから気分を切り替えなくてはならない。


 通路を通って広めのスペースのある倉庫の一部分に通されると、疲れと緊張が混じったような雰囲気で軍装のひとたちが整列していた。彼らが地上基地を追い出された63名だろう。


 倉庫の割にはある程度の遮音がされているのか、あまり音が響かない。

 誘導されるまま、整列する彼らの前に並ぶ。


 「アルミナ中佐に、敬礼!」


 ばばっ!、と言う擬音の相応しい、そんな敬礼だった。実際音も出た。

 中佐らも返礼した。


 「皆、楽にして聞いてほしい。

  諸君らには2種類の任務を与えることになる。

  1つ目は、諸君らから数名、私と共にラスタラ地上基地に付いてきて

  もらう。」


 一瞬だけざわっとしたがすぐに静かになった。その様子を見て微笑んで

 頷く中佐。


 「2つ目は、残りの者を数名ずつのユニットに分け、こちらの、」

 と、ステラ中尉らを手で示し、

 「ヴィクス中尉、ハガ准尉の指示に従い、幾つかの倉庫施設と

  研究所施設のある工場施設を制圧してもらいたい。」


 そしてひと呼吸の間をあけ、

 「諸君らのことは名簿でしか知らないが、

  諸君らがここに来るまで相当の苦労があったと聞いている。

  そして基地を出る際に17名が亡くなったと聞いた。

  この場を借りて彼らの冥福を祈ろうと思う。」


 そう言ってしばらく中佐は黙祷もくとうした。

 彼らもそれに倣ったようだ。「うっ…」とか「くっ…」と声を漏らす者もいた。

 しばらく黙祷した後、中佐が話しはじめた。


 「さて、ではまず私に随伴する者らを決めたいと思う。立候補者は居るか?」

 「アルミナ中佐!」


 と前列で挙手をした者が居た。

 「亡くなったのは小官らの上司と同僚であります。ぜひお供させて下さい!」

 「「小官もであります!」」

 「中佐のお気遣いに感謝します!、小官もお供させてください!」

 「「お供させてください!」」


 次々と声が上がり挙手の手が伸びた。

 勢いに少々戸惑いつつ、両手で押さえるような手振りをしながら、

 「待ってくれ、そう一度に言われても決めかねる。

  最初に発言したそちらの軍曹、君が5名を選出したまえ。

  残ったものは5名ずつのユニットを組むように。

  ただし3名は調査班5名と共にここに待機すること。

  言わば留守番と連絡役だな。よろしいか?」

 「「はい!」」


 彼らは整列を解き、編成をし始めたようだ。それを見ながら、

 「ではヴィクス中尉、ハガ准尉、あとを頼む。」

 「「了解しました。」」


 63名全員が戦闘訓練を受けた兵士というわけではない。もちろんそれは中佐らもわかっている。

 形式は制圧作戦であるので一応銃器は携行してもらうことになるが、あくまで万が一に備えての事であるし、何も銃撃戦のあるような制圧作戦ではないのだ。どちらかというと単純な肉体労働ばかりである。

 そのことをまだ説明していないので63名の中には不安そうな面持ちをしている者もいたが、後でステラとテリーが説明するだろう。



 そして中佐は調査班リーダーのホッパー少尉を手招きしてひそひそと何かを話していたが、ステラのほうに行き、

 「今日は彼らと夕食を摂るようにしてね。何でもいいから話して。」

 「はい、わかりました。中佐はどうされるんです?」

 「あたしは一旦カンイチくんに戻るわよ。」

 「えっ?」

 「だって暑いんだもの。もう限界。上着脱ぎたいわ。あのひとたち

  よくこんな気温で上着きたままで平気ね。暑くないのかな。」

 「…中佐…、」

 「何か扇ぐものが欲しいわ、あと何か冷たいものが飲みたいかも。」

 「…わかりました。あまりおひとりでうろちょろしないで下さいね。」

 「分かってるわよ。」

 「知らない人についてっちゃダメですからね。」

 「あたしを何だと思ってるのよ…全く。とにかく頼むわね。

  一旦戻ってまた来るわ。」

 「はい、お気をつけて…」


 ステラは中佐のこういう所にはもう諦めたのか、溜息をつきつつも従ってくれたようだ。中佐はホッパー少尉と共に、来たときに通った廊下へと歩いて行った。


 「大丈夫でしょうか…」

 「中佐なら大丈夫ですよ、ヴィクス中尉。」

 「そうですね、ホッパー少尉もついて行くようですし…」

 「いえ、中佐ならお一人で何があっても切り抜けられます。」

 「中佐を信頼されてるんですね、テリーさんは。」

 「ああ、はい。そうです。」


 テリーは中佐の装備のことを言っているのだが、いまいちステラには伝わって居ないようだった。ここでそのことを説明するのもはばかられるので、まあいいかとテリーは適当に頷き返事をしたのだ。


 編成が済むとユニットごとに整列しなおした者たち。それを見てステラは少し説明をし、テリーが補足をしたりしてから、それぞれのユニットリーダーを集めてその場で車座のようになり、作戦についての詳しい説明に入ったのだった。



   *  *  *



 一方、ホッパー少尉を伴ってカンイチくんに戻った中佐は、私服に着替えてから、どうしてもついて行くと言って聞かなかったキャシーと一緒にカンイチくんから出てきた。

 キャシーも中佐に借りた私服を着ている。キャシーは中佐と背格好が似ていて、キャシーのほうが少し背が高い。似たような服装なので、並んでいると姉妹のようにも見えたかもしれない。

 だがそういうことは言われず、普通にそれぞれ紹介を済ませてから歩き始めた。


 ホッパー少尉はカンイチくんを見ても表情が変わらなかったが、あとで聞いたら結構驚いていたらしい。


 そして一応地図データはあるのだがホッパー少尉の案内で、近くに停めていた箱型の地上車――買い出し用に中古を買ったらしい――を彼が運転し、生活用品店へと向かった。

 ほどなく、結構広い敷地に広い駐車場のある生活用品量販店に到着した。

 店の入り口付近で駐車場の一部まで使って何かイベントのようなものを催しているようだ。


 『アスパラマンフェア』と書いてある。


 「へー、アスパラマン人気あるのねー」

 「そうらしいですね、子供連れの人がいっぱい居ますね。」

 「あー、ロックがしてた腕時計の。」

 「そうそう、あれよ。」

 「ロック?」

 「うちのメンバーにそういうのが居るのよ。」

 「大人から子供まで幅広い人気があるんですね。」

 「あたしも何か買ってくるわ。」

 「えっ?、中佐?」


 言うが早いか小走りで行ってさっさと何か買って来たようだ。

 呆れる2人を尻目に、

 「アスパラマンソード買って来たわ。さ、行きましょ。

  中で保冷箱と72名分の飲み物買うんだから。」

 「えっ?」

 「ん?」

 「それなら何人か連れて来ればよかったのでは?」

 「大丈夫よ。台車だって借りれるでしょ?、車まで運べればいいのだから。」

 「はあ…」

 「とにかく行くわよ。」

 「あ、はい」



   *  *  *



 「台車、借りたほうがいいんじゃない?」

 「い、いえ、これぐらい、大丈夫です。」

 「無理しなくてもあたしが2つ持つわよ?」

 「そんな、若い娘さんにこんな重いものを持たせるわけには…」


 74名分の大きめの飲料ボトル。これだけでも50kgはある。さらに保冷箱だってそこそこの重さがある。

 余分に買っているし、それが幾つかの保冷箱に分けて入れられている。地上車をあまり近くに停めなかったので、やはりかなり辛そうだ。


 中佐はキャシーと2人で持っていた一番大きな保冷箱を地面に置き、ホッパー少佐に近づいた。

 「やっぱりそっちの1つ寄越しなさい。こっちのに乗せて持つわ。」

 「い、いえ、大丈夫です…」

 「いくらなんでも5つじゃバランスが悪いでしょ、4つにして2つずつ

  両肩で持ちなさい。ほら。」

 「あ、わ、わかりました、一旦置きます。」


 そしてキャシーと目配せして1つと言わず3つをひょいひょいと取り上げ、

 「ホッパーさんは2つ持ってって。こっちは任せて。」

 「そ、そんな、無理ですよ2人でそんなに!」

 「大丈夫よ。見てなさい。」


 中佐は大型保冷箱の上に3つの保冷箱を並べ、ストラップ同士を縛って軽く固定してから、個人端末で何か操作をし、腕をぽんぽんと叩く動作をしてからキャシーと頷き合った。

 2人がかがんで大型保冷箱の取っ手をそれぞれ持った。

 軽々と立ち上がり、すたすたと歩いて行くではないか。


 もともとあまり物事に動じない性格のホッパー少尉だが、さすがにこれには目を丸くして唖然とした。


 「何してるの?、地上車のキーはホッパーさんが持ってるんでしょ?」

 「あ、はい。」


 少し振り向いてそう言った中佐の声で我に返ったホッパー少尉は、慌てて保冷箱2つのストラップを両肩にかけて小走りで追いかけた。

 そして地上車に積みこんでから、手ぬぐいで汗を軽くぬぐった彼。


 「いやぁ、驚きました。見かけによらず力持ち、あ、失礼、

  年頃の娘さんに言うことじゃありませんよね、ははは。」


 中佐とキャシーはいつの間に買ったのか、アスパラマンの絵が描かれたウチワでぱたぱたと仰ぎながら、

 「年頃の娘さんにはいろいろと秘密があるものなのよ。」

 と事もなげに返事した。



   *  *  *



 倉庫に戻ると、残っていた者たちは作戦説明が終わっていたようで、三々五々適度にばらけて談笑していた。

 戻ってきた中佐ら3人とその荷物を見て、数人が駆け寄ってきた。

 彼らが手伝って冷えた飲み物を分配し、皆それぞれが「いただきます」などと言ってのどをうるおす。


 何せこの倉庫の設備はかなり古いものばかりなので、隣接している宿泊設備には空調もあったにはあったが形式も古く、なんとか修理して動かしたり諦めて買ってきて取りつけたりと苦労したらしい。

 食品保管室は設備が腐食などによって使えず、家庭用冷蔵庫をこれも買ってきて設置したが68名分として使うにはあまりにも小さく、数をそろえるにもお金が足りないという悲惨な状態だったらしい。差し当たって腐るようなものだけに使うだけでそれも最低限にとどめるしかないため、飲み物などを冷やす余裕などないのだ。


 これらの事情をホッパー少尉から聞いた中佐が、冷たい飲み物と幾つかの保冷箱を用立てることにしたのも自然な流れだろう。空いた箱にはあとで倉庫に買い置きされている飲料を入れて使えばいい。



 中佐は空いた保冷箱を閉じて壁際に置いて上に座り、アスパラマンうちわでぱたぱたと仰ぎながら、どこから取り出したのやらストローで皆と同じ飲料を「ちゅー」と飲んで寛いでいた。

 キャシーも同じように真似をして隣に座った。


 「この服、どこで買ったんですか?」

 「アイトーカセンター街よ。」

 「結構いいデザインですよね、あたしも今度買おうっかな。」

 「気にいったならその服、あげるわよ。よく似合ってるし。」

 「ほんとですか!、やったー、ありがとうございます。」


 そこに5名ほどが飲料を片手に近づいてきた。

 中佐が私服なので微妙に戸惑っている様子だ。


 「あのぅ、アルミナ中佐?」

 「はーい。」

 「小官らが基地にお供することになりましたのでご挨拶に伺いました。」

 「そう。よろしくね。」

 「話し合いに行くと説明されましたが、こんな少人数で大丈夫でしょうか?」

 「大人数で行ったほうが危険でしょ?」

 「そうかもしれませんが…」

 「歩いて行くわけじゃないのだから、心配しなくても大丈夫よ。」

 「と言いますと?」

 「艦載機で基地まで行くの。だから周囲に展開してるのは無視できるわ。」

 「はぁ…」

 「あたしは基地を奪還するために来たのではないのよ。」

 「えっ?!」

 「彼らを説得して、基地の一部を使わせて運営してもらおうと思ってるの。」

 「では我々の基地はどうなるんでしょう?」

 「どうもならないわ。縮小して運営するだけよ。

  だって襲ってくる敵も居ないのに地上基地に何百人も必要ないでしょ?」

 「それはそうですが…」

 「警備するだけなら民間委託で充分よ。あれこれ民間委託することで

  基地の運営が縮小できるなら、経費だって少なくて済むでしょ?

  それだけ地元の人たちの負担も減るのだからいいことじゃない?」

 「なるほど、小官にはよくわかりませんが、それが軍の方針という

  ことであれば従います。」

 「悪いようにはしないわよ。あ、そうそう、」

 「はい。」

 「基地を占領している人たちにはいろいろと思う所もあるかもしれない

  けれども、話し合いはあたしがするから、黙って並んでいてくれる

  だけでいいのよ。」

 「はい。わかりました。」

 「他の人たちもいい?」

 「「はい。」」

 「もし、何かあっても逆らったりせず大人しく捕まること。いいわね?」

 「…。」

 「いいわね!?」

 「は、はい!」

 「よろしい。大丈夫、ちゃんと助けるから。誰も死なせないわ。」

 「了解です。ありがとうございます。」

 「しかし暑いわねー、」

 「は?」

 「これでまだ初夏なの?」

 「ここは海が近いので、この時間はこんなものですよ。」

 「なるほど、道理でなんだか肌がべたべたするわ。」

 「これからもっと暑くなるんですよ。でも泳ぐと気持ちいいですよ。」

 「そんなに長居はできないわ。残念だけれど。」

 「そうですか…、あ、飲み物ごちそうさまでした。それと、」

 「うん。ん?」

 「亡くなった者らへのお気遣い、本当にありがとうございます。」

 「ああ、あれのこと?」


 中佐は配り終えて余った中から17本を、保冷箱を端に寄せてその上に並べ、その手前に砂を入れた器を置き線香を1本供え、手を合わせていたのだ。

 それを見ていた者らは順に、同様に線香を立てて行った。


 「ここでの作法と違ってるかもしれないけれども、今のあたしには

  それぐらいのことしかできないから。」

 「最初に黙祷して頂いたこともそうですが、あんな風にまでして頂いて

  我ら地上軍一同、できるかぎりアルミナ中佐のお力になろうと思って

  おります。」

 「制圧組もそうだけれど、あまり気負わず気楽にやってちょうだい。

  危険な任務を与えたつもりはないのだから。」

 「そうなんですか?」

 「一時的な部下であっても、あたしは部下を死なせるつもりなんてないのよ。」

 「皆にもそう伝えます。ありがとうございます…」

 「でもちゃんと言うことは守ってね。もう一度言うけれども、

  何かあっても反抗せず大人しく捕まること。いい?」

 「はい。」

 「いのちだいじに、ですよね中佐。」

 「そう、キャシーの言う通りよ。守ってね。」

 「はい!」


 そうしてまたぱたぱたとアスパラマンうちわで扇ぎ、「ちゅー」と飲み物を飲む中佐だった。



   *  *  *



 夜半過ぎ、各ユニットが倉庫から出動した。

 といっても全て艦載機2機に一旦ぞろぞろと乗り込んでだ。

 カンイチくんには中佐に随伴する5名+5ユニット、テリーらの乗ってきた艦載機には6ユニットと分乗する。それぞれ部屋はいくつかあるし、2機あれば60名ぐらいは余裕なのだ。

 重装備をするわけでもないし、モニターゴーグルをつけて軽銃器を携行する程度なので身軽なものだ。


 テリーから説明されたときには、軽装備すぎると思われたのか不安そうだったらしいが、

 「無力化してからの制圧ですから銃など無くてもいいくらいなんですよ」

 と説明されて、不承不承納得はしたらしい。


 そして5箇所の倉庫施設の近くに2ユニットずつを降ろし、合図して一斉に、だが静かに内部に侵入した合計10ユニットは、中で倒れている倉庫施設の警備員らを倉庫部分からせっせと運び出し始めた。

 彼らは警備員らがなぜ倒れているのか分からなかったが、無力化してからというのはこういうことなのかと納得したようで、黙々として着々と警備員らの武器を取り外して1部屋に集めていったのだった。


 それぞれの倉庫から完了の合図がでると、上空に待機していたデンとスミスの乗った艦載輸送艦が、倉庫内部の物品を残らず転送回収し始めた。

 回収目的は違法ナノマシン薬物通称『ポーション』だが、倉庫に格納されているものをいちいち選んでいられないので、全部回収してしまうのだ。選んで転送すると、その上に乗っている物が転送直後に落下したりして騒音がでたりするし、それをゆっくり降ろす制御などしていると時間もかかるし手間もかかるからだ。


 回収作業が終わると、10ユニットの皆を順番に回収してまわる。


 中佐と随行員5名はカンイチくんの仮眠室で眠っている。

 中佐は起きていようとしたのだが、皆が「ダメです眠っていて下さい」と強硬に推したためしぶしぶ仮眠室に引っ込んでいる。


 そして回収が終わり、ほんのり空が明るくなり始めた頃、2機は目的の研究所施設のある工場施設の近くに到着、6ユニットとステラ中尉・リリィ少尉・トムを降ろし、テリーは上空に待機、カンイチくんは施設の反対側で5ユニットを降ろしてその場で待機した。



 リリィ少尉はトムと共に、予め調べておいた逃走経路となる地下道の出口付近を見張る。森林の中にひっそりと、ぽつんとある小屋が見える。リリィが場所を確保して数百mの距離から麻酔銃を構える。

 いつもはああだが銃を持ったリリィは普段からは想像もつかないほどてきぱきとメリハリのある動きをする。これにはかたわらのトムも少し驚いたようだった。訓練中のリリィを見たことがあれば驚かないのだが、トムは見たことがなかったのだ。


 ステラ中尉は1ユニットに随伴し、他のユニットをモニターゴーグルで確認しながら配置につく。

 配置についた合図を受けた艦載機と上空についてきていた艦載輸送艦あわせて3機が連動協調して、研究所を含めた工場敷地内の人員を無力化した。

 無力化を確認したテリーからステラ中尉に合図を送る。


 そして突入制圧開始である。


 この研究所と工場施設は通いの人員がいないことは調査で分かっている。

 通ってくるのは生産物を運ぶ者らだけだ。それも毎日ではなく、数日ごとのようだ。なのでとりあえずここだけきれいにしてしまえば、新しく作られることはないという判断だ。


 研究所に居た人員は睡眠中だろうが何だろうが艦載輸送艦に収容された。当然だが違法薬物を作っていたのだからこんな連中は野放しにはしない。拘禁してカーディナルへと送る予定だ。

 工場のほうも管理室らしき所に居た者や、大きめの部屋が割り当てられているような者は回収、拘禁し、それ以外は適度に集めて放置する。

 研究所や工場の資料なども回収する。これは後に処分するためだ。

 そしてサンプルや動力部の一部、製造途中のものなどのタンク、これらが問題だが施設が爆発したりしないようにバルブを閉じたり圧力を逃がしたりしてからごっそりその部分だけを隔離回収する。危険なものであれば第六惑星パロランか恒星アスパラギンにでも捨ててくることになるし、安全なら分解炉でリサイクルだ。

 そのあたりは処理場の技術者たちが判断するだろう。


 途中、時間になったのでカンイチくんは飛び立ち、基地へと向かった。



   *  *  *



 朝からラスタラ地上基地は騒がしかった。

 何せ黒くて丸い物体がふわふわと飛んできて、基地の司令室のある建物からほど近い距離に着陸し、司令室の通信に割り込んできたのだから。

 その物体に発砲した者も何人かいたようだが、効果がないので弾の無駄だと攻撃をやめ、今は囲む程度にしている。


 通信の内容はこうだ。

 『こちらはカーディナル宇宙軍所属 アルミナ中佐という者です。

  地上基地の今後のことを話し合いたいので、代表者と場所を

  用意して下さい。こちらは代表者1名と随伴者5名が銃器を持たずに

  伺いたいと思います。速やかにご返答下さい。返答があるまで

  ここに待機致します。当方は平和的解決を望んでいます。

  くりかえします……』


 「なんだこりゃぁ…、乗り込んできて平和的解決ったぁ恐れ入るぜ。」

 「だが、6人で会議室まで来るってこったろ?、武器持たずによ。」

 「ダラズさんは何て?」

 「お前らで対処しろってさ。」

 「こんだけの人数がいるところにたった6名で来るってんだ、

  それに免じて話ぐらい聞いてやってもいいんじゃねーか?」

 「そうだな。軍にしちゃあ丁寧な通信だし、おい、返信だ。」

 「何て返事します?」

 「そうだな、迎えをやるから出てこい、話ぐらい聞いてやる、ってな。」

 「バカ、もう少し丁寧に言えねーのか?」

 「だからこれを丁寧にして返信しろってんだよ。」

 「わかりました。」



   *  *  *



 通信を受けたキューラス・ナニー(通称:キュー)が艦長席の中佐に言う。

 「中佐、返事がきましたよ。」(キュ)

 「思ったより早かったわね。もっと遅いかと思ってたわ。」(中佐)

 「充分遅いですよー?」(キャ)

 「統制がとれていない組織なんだもの。それで何て?」(中佐)

 「えーっと、

   『迎えの者を寄越すので出てきて下さい。

    話を聞いて差し上げます。』

  ですって、なんですかこれ。あはは」(キュ)

 「翻訳でもしたのかしら?、ここって言語同じはずよね?」(中佐)

 「はい。あ、数人ほど来ましたよ?、あれがお迎えじゃないですか?」(キュ)

 「しょうがないわね、じゃ、行きましょうか。」(中佐)

 「「はい!」」(随伴員たち)



   *  *  *



 下部ハッチを開き、中佐と随伴員5名がカンイチくんから出た。

 迎えにきたらしい4名が、なぜか銀色や透明の盾を持って囲んでいる者らの位置から何やら叫び、中佐はとことこと歩いてそれに近寄った。随伴員の5名は顔を見合わせてそれについて行く。


 周囲が映っているモニタを見ながら、カンイチくんの操縦室に残ったキャシーたちが話していた。


 「やっぱりあれがお迎えだったみたいね。」(キャ)

 「大丈夫かなぁ、中佐…」(キュ)

 「心配です…」(スティ)

 『そない心配せんでも、中佐のこっちゃ、大丈夫でっせ。』

 「そうは言っても…」(スティ)

 「カンイチくんは心配じゃないの?」(キュ)

 『わては中佐の位置やら周囲の状況をモニタしてまっさかいなー、

  こっからでも中佐をお守りできますねん。そやから安心しとくなはれ。』

 「へー…あれっ?」(キュ)

 「ん?」(スティ)

 「中佐の腰のところに何か短い剣のようなものが…」(キュ)

 「あら、ほんとね、あんなの持ってたっけ?」(スティ)

 「あれはアスパラマンソード。」(リュ)

 「そんなの持って行ったの?、なんでまた…」(キュ)

 「さぁ、中佐は何かお考えがあるのかもしれない。」(リュ)

 「玩具でしょ?、そんなの海賊だらけのところに持ってっても…」(スティ)

 「武器に…?、そんなまさかぁ…」(キュ)

 「えーっと、こうして…と、こうかな?」(キャ)


 キャシーが操縦席で操作すると、建物内部の様子が表示された。

 「わー、さすがキャシー主任」(キュ)

 「音声は拾えないのかな」(スティ)

 『あかんて、そこまでやってもうたら中佐にバレまっせ?』

 「わ、やりかけてたわ、バレちゃったかな?」(キャ)

 『ぎりぎりセーフみたいでんな。』

 「ほ…」(キャ)


 とりあえずはこうして見守っていようと、誰が言うわけでもなく同じ気持ちなのか、黙ってカンイチくんの操縦室でモニタを見ながら、心配そうに見守る面々だった。



   *  *  *



 「んじゃ話を聞こうじゃねーか。」


 横柄な態度でそう言ったのは、軍服を着崩してにたにたと笑みを浮かべて座っている連中の、中央に座っている者だった。

 対する中佐は向かい側で席は用意されていたが、立ったままで答えた。


 「地上軍というのはね、あくまで外敵から市民を守るためのものなの。

  外敵が居ないなら地上軍は必要ないわ。そうでしょう?」

 「そうだな。んじゃ俺達にここを使わせてくれるってのか?」


 周囲から笑いが起こった。


 「あなたたちがちゃんとここを運営するというのなら、委託してもいいと

  考えてるの。でもね、非合法組織にそんな運営は任せられないのよ。」

 「言ってくれるが今までこの星系を守ってきたのは俺達なんだぜ?」

 「そうね。巣があったのを知ってて手出しできなかった程度の

  『守ってきた』だったわね。」

 「おい!、バカにしてんのか?」

 「あのね、巣には敵性種《HS》がうじゃうじゃ居たわよ?、

  それも巣が4つもあったわ。全部きれいに片付けて来たけれど、

  あと数年ももたなかったわよ?、この星系。わかってたんじゃないの?」


 知っていた者も知らなかった者もいたようだ。それぞれ顔色が異なっていた。


 「ふぅん、知ってたひとも何名かいるようね。

  いい?、あたしたちが来なかったらこの星系は破滅してたのよ?

  これまで守ってきたのは認めるわ。でももう持たなかったのよ。

  知らなかった人はこのあとで知ってた人に聞けばいいわ。

  あなたと、あなたと、あなたは知ってたわね、そこのあなたも。」


 手で示された者は思わず目を逸らし顔をそむけた。

 これで知らなかった者らはあとでその者らに尋ねるだろう。


 「非合法組織でやってるのがダメだって言ってるのよ。

  やるなら堂々と合法組織をつくってやりなさいよ。」

 「そ、それがだな、」


 別のものが軽く手を上げて言う。


 「植民地として移住してきた頃から条文に残っていた法があるんだ、

  だから民間軍事組織が作れないんだ。」

 「頭硬いわね、軍事組織じゃなくて自警団ならいいんでしょ?、

  市でやってる港湾警備隊が合法なら、陸上警備隊も合法でしょうに。

  警備会社つくってそれで、地上軍の代わりに警備してやるからお金

  寄越しなさいって市に交渉するなら手を貸すわ。」

 「そ、それでこの基地が俺達のものになるのか?」

 「そんなすぐにこの基地があなたたちのものになるわけないでしょ、

  欲しいなら土地と設備を軍から買いなさいよ。

  陸上警備隊という警備会社を設立なさい。

  そしたら合法組織になれるのだから宇宙軍としても取引しやすいし、

  民間委託という形にすれば宇宙軍からもお金が出るのよ?」

 「「おお…」」

 「あなたたちこのままだと資金が底をついて食べて行けなくなるって事、

  分かってるの?」

 「いやそこは企業のほうから資金をだな、」

 「おい!」

 「あ、言っちゃダメなんだっけか?」

 「あのね、スネア系企業ならもう終わりなの知ってるの?」

 「「!!」」


 ざわっという音がした。椅子もがたっと音を立てた。


 「それは本当か!」

 「ええ。だって宇宙軍として見逃せない悪事を働いていたなら、

  それは宙域であれ地上であれ、ここは独立星系国家じゃないのだから、

  カーディナル宇宙軍が取り締まるのは当然でしょ?

  証拠物件はもう全部押さえたわ。企業でぬくぬく悪いことしてた連中は

  1人たりとも見逃さないわ。上層部全員しょっぴくもの。」

 「なんだって…!」

 「だから非合法組織のまま海賊スネア残党、なんて状態では

  だれも資金援助なんてしないのよ。このままではジリ貧なの。

  だからこうして話し合いという形で提案をしにきたのよ。」

 「お、俺達は捕まえないのか…?」

 「あなたたちは宙域の混乱でたまたま地上基地に集まっただけでしょ?

  他に行くところもなかった、とも言えるし、全員を捕まえたりは

  しないわよ。」

 「全員を、って、誰かは捕まるってことかよ…」

 「だ、ダラズが反抗したやつは見せしめに殺せって言ったんだ!」

 「ちょ、ちょっと落ち着きなさい、何か勘違いしているみたいだけれど、

  基地のごたごたで反抗したから殺した、これは双方に問題のあることで

  それをあたしが罰するとか捕まえるとかは無いわよ。

  かわいそうだけれど不幸な事故だと言えるの。

  こちらの5名には思う所あるかもしれないけれど、彼我の戦力差と

  状況を見誤ったのだから士官なら仕方ないでしょう。

  死んだのは不幸だったけれど、だから事故だと言ってるのよ。」

 「…じゃ、復讐とかそういうのは…」

 「ないわ、だから落ち着いて。まだ話には続きがあるの。」

 「あ、ああ、わかった、聞こう。」


 中佐は皆が落ち着いたのを見て続きを話し始めた。


 「陸上警備隊という警備会社を設立なさい。という話の続きね。

  民間委託という形で契約すれば宇宙軍からお金が出るって話は

  したわよね?」

 「ああ、そこは理解した。」

 「他にも市の警察組織で手が足りない時にだって仕事になるでしょ。

  あとは自分たちで考えてイベント会社でも作って警備すれば、

  マッチポンプ型で仕事ができるでしょ?、イベント内容次第では

  儲かるわよ?」

 「おお…」

 「4つも市があってあれこれ警察や自警団や警備組織があるなら、

  それこそ技を競う大会でも催せばいいじゃないの。

  お金だって集まるし、スポンサーもつく。技も競えるし

  遣り甲斐だってできるでしょ、あとはどれだけ足使って、

  頭さげて企画を通すかはあなた方次第よ。」

 「な、なるほど…」

 「宇宙港離発着場は第一辺境防衛基地隣接宇宙港と同じように民間で

  運営すればいいわ。使用料だってとれるし。敵性種《HS》の危険が

  無くなったのだから、これから地上と安全な宙域とで行き来が

  活発化すれば十分儲けになるでしょ?」

 「ふむふむ」

 「ね?、ちょっと考えるだけでも合法組織にして幾つか会社を設立、

  そしてそれらを回すだけで充分やっていけるのがわかるでしょ?

  あなたたちは人数いるのだから、何でもできるのよ?

  非合法組織でくすぶってるなんてもったいないとは思わない?」

 「な、なぁ、具体的にはそういうのどうすればいいんだ?

  俺達素人なんだ、そのへんわかんねぇんだよ。」

 「乗り気になってきたみたいね?」

 「ああ、なぁみんな。これが詐欺じゃねぇなら美味ぇ話じゃねぇか?」

 「「おう」」

 「「そうだな。」」

 「「やってみてぇ」」

 「やってみるのもいいかもしれん。」

 「詐欺だなんて失礼ね。あたしを何だと思ってるの?、

  カーディナル宇宙軍の中佐なのよ?、詐欺なんてしないわよ。」

 「それは失礼した、中佐どの。」

 「ふふっ」

 「「はははは」」


 笑いが起こったのが落ち着いてから、中佐が言う。


 「あなたたちだってさっき『この星系を守ってきた』って言うぐらい

  なのだもの、悪事を働いて人に疎まれて生きるより、人のために

  なって感謝されて生きるほうがいいに決まってるわよね。」

 「そりゃもちろんそうだ。」

 「なら、この提案、受けてくれるわね?」

 「だが、さっきも言ったように俺達は素人なんだ。具体的には

  どうすりゃいいんだ?、金ならねぇぞ?」

 「なんなら会社設立や経営の専門家紹介するけれど?」

 「本当か、用意がいいな、おい、ははは」

 「そこまで面倒見ないなら提案なんて絵に描いた餅でしょ?」

 「ちげぇねぇ。そんで金がねぇのはどうすれば?」

 「さっきから言ってるでしょ、合法組織になったのなら取引が

  できるんだってこと。そして会社組織になるのなら、出資者だって

  つくんだってこと。最初は出資してあげるわよ。それぐらい。」

 「!、マジか。」

 「そうしないとあなたたち食べていけないでしょ?

  もちろん借金なんだからちゃんと返してもらうわよ。」

 「それでいい、なぁみんな!」

 「「おう」」

 「一応言っておくけれど地上軍の装備はそのまま引き継いで使って

  いいわ、でも軍服は最初だけで、そのうち制服つくってね。

  あと、航空戦力については4つの市に分配するわ。

  そのほうがみんなが幸せになるでしょ?、災害時の救助とか。」

 「な、なるほど、わかった。」

 「区別できるようにちゃんと色は塗り替える事。雑でもいいから。」

 「ああ。」

 「じゃ、そちらでどの会社で働きたいか、人員を整理しておいてね。

  なんせ1万人ほどいるのだから、整理するにも時間がかかるでしょ?

  すぐ始めてもらってもいいわ。明日にでも会社関係の専門家たちを

  連れてくるから、その人たちに任せて大丈夫よ。

  経営などの勉強をするひとたちも付いてくるけれども、

  もし経営などの勉強がしたいなら、一緒に勉強すればいいわ。」

 「ああ、わかった。よろしく頼む。」

 「じゃ、あたしは行くわね。ちゃんと頑張ってね。」

 「あんた、アルミナ中佐ってったっけか、」

 「なぁに?」

 「あんた、見かけはそんなだが、すげぇ人だな。

  中佐ってだけのことはあるぜ。」

 「褒められたのかしら?」

 「ああ、褒めてんだよ。」

 「そう。ありがとう。じゃ、行くわね。」


 そう言うと入ってきた扉から出て行った。

 随伴員の5名も無言のままぞろぞろとついて行った。

 あとには興奮ぎみで少し上気した者や、「名簿つくらなきゃな」と呟く者、そして中佐の出て行った扉を呆然と眺めている者がいた。


 古い壁掛け時計の針がカコっと動いた音がした。



-------------------------------------------------


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ